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第二十四話『二人の共謀』

 北淀露樹ほくでんつゆきはこの世で一番いけ好かない男からの連絡を受けたが、そのあまりの内容に同僚を何人も引き連れて廃墟ビルへ到着した。

 ビル近くの住人たちは、パトカーが何台もサイレンを鳴らしてやってくるものだから何事かと野次馬するが、そちらは他の警官に任せ露樹は急いでビルの入口に近づく。

 廃墟ビルの入口には、南寺静馬みなみじしずま、彼に背負われている北淀美依ほくでんみより、そして入口近くで座り込んで泣いている伊藤がいた。

 露樹は急ぎ足で南寺静馬に近づく。


「美依は!」

 予想していた第一声に、南寺静馬は笑いそうになるのをぐっと堪える。

「気絶しているだけです。怪我もないです」

 南寺静馬がそう言うと、露樹はその場に膝を着き「良かった……」と呟く。

 大事な妹の無事を確認して安心したのだろう。

 露樹はすぐに立ち上がると、「それで被疑者はどうした?」と問う。

 南寺静馬がそれに対して答えようとすると、それよりも早く「北淀さん!」と別の警官が露樹を呼ぶ。

 露樹はすぐさまそちらへ向かうと、廃墟ビルの敷地で仰向きに倒れおている男を見た。高いところから落ちたのか、頭部からの出血が酷く既に息絶えていた。

 北淀美依を背負ったまま露樹を追いかけてきた南寺静馬は「救急車は呼んだんですが……」と呟く。

 南寺静馬の言葉に、周囲にいた警官の視線が南寺静馬に集まった。当然露樹も南寺静馬を見る。


「連絡来たときに言ってたけど、被疑者が何処へ逃げたか見てないんだな?」

「はい、美依さんは倒れていたし、先に来ていた浅井くんは犯人と揉み合いになって突き落とされて……気が動転してしまって」

 南寺静馬が申し訳なさそうに呟くと、露樹は「どうしてまず警察に通報しないんだ!」と怒鳴る。

「美依が不審な男に連れて行かれるのを見た時点で通報すべきだったはずだ! それを自分たちだけで追いかけるなんて!」

「すみません……」

 南寺静馬は肩を落として謝罪する。

 露樹は、この涼しげな顔を見ているとまだ色々言ってやりたい衝動に襲われるが、「北淀さん、救急車が来ました」と報告を受け渋々言葉を飲み込む。

 露樹は「聴取するからお前らは署に行け」と南寺静馬に告げると、彼が背負っていた妹をゆっくりと抱えて救急車の方へ向かう。

 漸く北淀兄妹から解放され、南寺静馬は廃墟ビルの入口へ戻る。

 伊藤はまだ座り込んで泣いていた。

 警官たちは二人を余所に廃墟ビル内とその周辺を捜索する。

 婦女暴行殺人犯が死んだとも知らずに。


「南寺さん、やっぱり僕」


 そう切り出そうとした伊藤に、南寺静馬は身をかがめ伊藤の耳元で「もう『反省』は終わりなのか?」と問いかける。

 その声に、伊藤はぎくりと肩を震わせる。


「浅井に殺された二人の被害者に対して罪悪感があるなら、お前はこのまま黙っているべきだ。お前が浅井を止めることができていたら、彼女たちは死ななかった。そう言ったのはお前だろ? お前は警察に自首し、罪を償って許しを得られるかもしれないけれど、お前は許されたいのか? ずっと自分のしてきたことを悔やみ続けるべきじゃあないのか?」

 南寺静馬がそう言うと、伊藤は口を噤んだ。

 この筋書きは南寺静馬と伊藤で決めた。

 帰宅途中の浅井と伊藤が、不審な男に連れて行かれる北淀美依を発見し、廃墟ビルまで後を追いかけた。途中で職場の先輩である南寺静馬に連絡を取り合流。何とか北淀美依を助けようとするが、浅井は犯人と揉み合いになり窓から突き落とされる。その騒ぎのドサクサで、犯人は逃亡。そういうことが、この場で起こったことにする。

 浅井が殺人犯だと知られれば、会社にも迷惑がかかると伊藤を説き伏せた。

 伊藤は、心が折れてしまうだろうか。

 そう南寺静馬は考えたが、浅井の『異常』を知って誰にも相談せずに悩んできたのだ。きっと強迫観念で、このまま悩み苦しむだろう、それはもう死ぬまで。

 問題はいつ死ぬか。

 でも、彼が幼馴染を殺して、このまま生き長らえるとは到底思えなかった。だからきっと……。

 南寺静馬は空を仰ぐと、さっきまで出ていた月が雲に覆われていくのを見ながら、今日は何時に帰れるだろうかと溜息をついた。

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