表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
59/89

05.03 「決めた。私がなんとかする」

 胸には柔らかな膨らみがあるのが解る。

 足の間には……、うん、大丈夫。異物はないっ!

 恐る恐る鏡を覗き込む。


 「戻ってるっ、私、元に戻ってるっ!」


 鏡に映るのは発病前の私だ。ちょっと痩せてるけど間違いない。嬉しくて思わず声が漏れる。


 「凜愛姫(りあら)……、上手くいったんだね」

 「(とおる)、来てたのね。入っていいよ」

 「いいの?」

 「うん」


 ゆっくりとドアが開き、遠慮気味に(とおる)が入ってくる。


 「……………………天使だ……」

 「(とおる)?」


 外で待っててくれたんだ。にしても、天使だなんて。


 「元に戻ったんだね」

 「うん、私、元に戻れた。戻れたんだよ、(とおる)

 「うん、やったよ、凜愛姫(りあら)。あの時の凜愛姫(りあら)だ」


 暫くの間2人で抱き合って泣いた。私、本当に戻れたんだ。女の子に戻れたんだ。


 結局、精密検査を受けたりと家に帰れたのは2日後だったんだけど、(とおる)は毎日面会に来てくれたし退院の日も迎えに来てくれていた。


 退院すると、というか、帰りのタクシーの中からずっとなんだけど、今まで以上に(とおる)がくっついてくる。

 流石にトイレも一緒になんて言わなかったけど、お風呂は一緒にはいろうって。お風呂はまだちょっとね。


 それに、精密検査の結果、ちょっと気になることもあるし……


    ◇◇◇


 数日後、(とおる)が入院する日がやって来た。次は(とおる)の番だ。

 神様、今まで信じたことも無かったけど、どうか(とおる)を元に戻して下さい。


 「大穴牟(おおなむち)先生をお願いしますっ!」

 「ええっと、大分嫌われてしまっているようだね。今回は記録の要請を――」

 「大穴牟(おおなむち)先生じゃないなら、治療しなくても構わないっ」

 「(とおる)、嫌だよ、そんなの」

 「でもさぁ、こんな変態に体中調べられると思うと……」

 「まあ、そうなるわよね」

 「大穴牟(おおなむち)先生」

 「須久奈(すくな)君、いいわよ、彼も私が担当するわ」


 (とおる)の強い希望により、大穴牟(おおなむち)先生が担当してくれることに。えっと、何だろう、(とおる)の勝ち誇ったみたいな表情は。須久奈(すくな)先生もなんだかとっても悔しそうなんだけど。


 ともあれ、私のときと同じ様に投薬が行われる。でも……


 「あれっ? 発熱するんじゃ……」

 「うん。私の時は40度近い発熱が続いたって聞いたけど」

 「だよね。個人差、なのかな……。まさか、あのエロ医者、腹癒せに薬をすり替えたとか」

 「流石にそれは無いんじゃない?」


 結局、3日経っても5日経っても変化は現れず、ドクターから残酷な宣告が行われることになる。


 「残念ですが、ご子息には効果が無いようですね」

 「そんなっ、どうするんだ、(とおる)

 「僕に言われてもどうしようも無いんだけど……、採取しとけば良かったね、凜愛姫(りあら)

 「もう、こんな時に馬鹿なこと言わないの」


 何考えてるのよ、(とおる)ったら。


 「そういえば確認してなかったんだけどさ。僕が女の子のままでも恋人で居てくれる?」

 「……意外と余裕があるのね、(とおる)

 「まあね。病状からして想定はしてたからね」


 やっぱり、脳まで侵食されちゃってるのかな。

 ずっと私と……、その……、したがってたし……


 「凜愛姫(りあら)、顔赤いよ?」

 「えっ、何でも無い……。決めた。私がなんとかする。新薬を開発して(とおる)を元に戻してあげるね」


 うん、絶対(とおる)を元に戻すっ。(とおる)は今のままでもいいみたいだけど、私は(とおる)をもとに戻して……、

 (とおる)を戻してちゃんと……


 「凜愛姫(りあら)、熱ある? 大丈夫?」

 「だ、大丈夫。ちょっと暑くなってきただけ」

 「期待してるわよ、凜愛姫(りあら)、主席だもんねっ。このまま孫の顔が見られないなんて嫌よ」


 孫って、母さんまでそんな……


 「そう言えば、ディズニーどうしようか。キャンパス何とか?」

 「もうチケット買っちゃったしね。それに、いきなり学校でってより先に知らせたいかな、二人には」

 「武神(たけがみ)さんも元に戻ってたりしてね」

 「(とおる)もそう思ってたんだ」

 「だって、刃瑠香(はるか)だよ?」


    ◇◇◇


 夢の国へと向かう当日早朝。


 「(とおる)さん、そちらの女性はひょっとして」

 「伊織(いおり)改め凜愛姫(りあら)。僕の義妹(いもうと)で、恋人の凜愛姫(りあら)ちゃんですっ!」

 「女の子だったと……」

 「黙っててごめんね。その……、これからも友達で居てくれるかなあ」

 「勿論ですわ。想定済みの事ですもの」


 想定済み、だったんだ。


 「ところで(とおる)さん、女の子同士で問題ないのかしら?」

 「うん。だって僕は元々男だからねー。今回は薬が効かなかったけど」

 「男だった……」


 うわ、武神(たけがみ)さん、(とおる)の事好きだったもんね。ショック受けてるかも……


 「そうですか。覚えていますか? (とおる)さん。一緒にお風呂に入ったときのこと」


 (とおる)に詰め寄る水無(みな)さん。男だったなんて言っちゃったらそうなるよね。


 「えっと……はい。ごめんなさい……」

 「先に謝られてしまうと告白しづらいのですが……」

 「「告白?」」

 「言ったはずですよ? 貴方が元に戻るまで待つと。でもカミングアウトしてしまったのですから、もうその必要もありませんわね。私、(とおる)さんの事が好きです」

 「へ? 確か伊織(いおり)が気になってるって……」

 「はい。ライバルとして、ですけど」


 ライバルって、水無(みな)さんは本当に(とおる)が好きなの?


 「水無(みな)、知ってたのかい? (とおる)さんの事も」

 「勿論ですわ。情報を制するものが全てを制す、といいますもの」

 「じゃあ知ってて(とおる)と一緒にお風呂に……」

 「それは、単純に興味がありましたので、何処まで変化しているのかと。あとはそうですね、ライバルに差を付けるため、ですかね。どうでしたか? 私の体」

 「……」


 (とおる)に腕を絡ませ、胸を押し付ける水無(みな)さん。何処まで変化……、差を付けるって……


 「(とおる)水無(みな)さんと何したの?」

 「えーっと、何したんだっけな。記憶が……」

 「もう、都合が悪いことは全部記憶の所為にするんだからあ」


 ほんと、何処までしたのよ、水無(みな)さんと……


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ