05.01 「やっぱダメ。男同士は有り得ない」
期末試験も終わり、春休みを迎えた。
義母さんは育休を取ってるんだけど、今日は姫花の定期検診で病院に行っている。つまり、久しぶりに凜愛姫と二人きりで過ごせる日という事だ。
「もう、透、朝からずっとくっついてくるけど、それじゃ何もできないよ」
「じゃ〜あ〜、くっついてても出来ることしちゃおうか〜」
「ちょっと、膝に上に、ええっ」
「あのときの〜、つ、づ、き?」
「続きって、ダメだよそんなの。お母さんも節度をもってって……」
凜愛姫ったらこんなにドキドキしちゃってる。
「でも〜、この子はしたいって言ってるみたいだよ〜」
「これは、だって、透が」
「なんか〜、頭の中まで病状進んできちゃったみたい。凜愛姫と……」
「落ち着いて、透。ねっ?」
えへっ! 僕は落ち着いてるよ? だって、こうやって凜愛姫の反応を楽しんでるだけだもん。
記憶を失ってた時なら平気だったかもだけどね。元々男だって思い出しちゃったわけだし、やっぱり、あんなのが入ってくるのは怖いよ。
「もう凜愛姫しか見えない。凜愛姫の声しか聞こえないよ」
「透っ、そんなに擦り付けたら……」
とはいいつつ、これくらいは平気になって来ちゃってるんだけど。本当に脳まで侵食されちゃってるのかなあ。
うわあ、ちょっと気持ち良くなって来ちゃったかも……
「ううっ、わかったよ。でもキスだけね。キスだけならいいよ」
えっと……、ちょっとやりすぎたかな。自分で仕向けといてなんだけど、キスはちょっとな……
凜愛姫にくっつきたいし、イチャイチャしたい。でも、キスとかはまだ心の準備が……
どうしよう、ドキドキしてきちゃった。いいのかなあ、このまましちゃっても。
『最初に症状が確認されてからおよそ1年。遂に性徴期性反転症候群の治療薬が開発されました』
目を閉じて、いつでもどうぞって態勢の凜愛姫を見つめていると、つけっぱなしだったテレビからとんでもないニュースが流れてきた。
「遂に開発されたって!」
「透?」
「ねえ、聞いた? 凜愛姫」
「もう。その気にさせといて……」
あっ、うん、そうか。その気にさせちゃってたね……
『ただ、臨床試験の結果では、女性化した患者には80%程度に効果が認められたものの、男性化した患者では30%に留まるということで、今後の改良に期待が寄せられています』
「30%か……」
「でも透は80%だし、多分戻れるよ」
「僕だけ戻ってもね。男同士でとか、ちょっと想像したくないかな」
「私は気にしないけど? 元に戻った透に会いたいなー」
「……」
戻りたいか戻りたくないかと言われれば、戻りたいのは間違いない。ただし、それは凜愛姫が元に戻るのが前提かな。
「やっぱダメ。男同士は有り得ない」
「じゃあ、私だけ戻って透が戻らなかったらどうする気?」
「まあ、それはありかも」
凜愛姫が戻るんだったら僕も戻りたいけど、凜愛姫が戻らなかったら……、このまま女の子でもいいかな。男同士よりはましだよね。ううん、今よりも全然いいに決まってる。
そしたら、キスだって躊躇しないと思うよ。
「何それ」
「だって、凜愛姫のを冷凍保存しとけば子供は作れるでしょ?」
「ええっ? 子供?」
「うん。僕だけ戻っちゃったら子供は望めないんだよ?」
「それは……、そうだけど」
「大丈夫。採取は僕が手伝ってあげるから」
「ん? 採取? 採取って……」
「……」
自分で言ったのに顔が熱いかも。記憶を失ってる間に色々やらかしちゃってたんだよね、僕。それに、今僕は凜愛姫の膝の上に乗っかっちゃってるわけで……、向い合せな訳で……。
「と、とにかく、話を戻すけど、先に凜愛姫が治療を受けて、元に戻ったのを確認してから僕ね」
凜愛姫の膝から降りて、真剣そうな表情でそう告げる。
「一緒がいいんだけどな」
「確率を考えたらそれは避けるべきかな。さっきも言った通り、男同士は有り得ないっ!」
「透が嫌なら仕方ないけど」
とまあ、割とあっさりと治療を受ける順番が決まったのだった。
「緊急家族会議だっ」
この男が騒ぎ出さなければ。
帰宅するなり、「ニュースは見たか」って騒ぎ始め、「やっと男に戻せる」とか1人で感激し始めた。
「もう1回言うけど、僕が治療を受けるのは凜愛姫が元に戻ってからだからね」
「何言ってる。お前、症状が進行してるんだろ。一日でも早く治療を始めないと元に戻れないかも知れないだろうが」
「確かにそうだけど、それより重要なことが在るから無理」
「重要って、元に戻るより重要な事なんてあるのか?」
「男性化した人への効果は30%なんだよ? つまり、凜愛姫は戻らない可能性の方が高いってことなんだけど」
「だからって……、いや、済まん。御免な、凜愛姫ちゃん」
騒ぐ前に気づいて欲しかったけど、まあいいよ。
「透ちゃん……凜愛姫の事、そんなに……」
えっと、まあ、いろんな意味で。




