04.11 「ねえ、前にもこんな事あった?」
餅つきが終わったら、お節の準備だ。
餅が熱すぎて何の役にも立たなかったから、料理は頑張らないとね。伊織も手伝ってくれるみたいだし。そういえば、伊織が料理してるの見たこと無いなあ。
「じゃあ、伊達巻から作ろうか」
「うん。でもちょっと狭いね」
ここ家のキッチンは狭い。部屋はいっぱいあるくせに、何故かキッチンが狭い。こうやって伊織と2人で居ると、どうしても肩が触れ合ってしまう。ちょっとドキドキしちゃうんだけど。昨日スケートしてからかなあ。なんか意識しちゃってる。それに、何だかなつかしい気がするし……
うー、ダメだ。確かにイケメンだけど、姉弟なんだよ?
そして迎えた大晦日の夜。じいちゃんが何だか変なことを言い出した。
「そういえば、伊織の誕生日を知らなくてなあ。お祝い送ってやれんかったが」
「何言ってんの、じいちゃん。双子なんだから私と同じ……、あれ? 伊織っていつから一緒に暮らしてたっけ。ここで一緒に育って無いよね。じいちゃんに始めましてって言ってたし」
「えっと……、今更?」
「ん?」
驚いたことに、両親は再婚同士だった。私と伊織も其々の連れ子で、つまりは、私と伊織は血の繋がりがないということになる。
血の繋がりがないということに……
「大丈夫? 透」
「えっ、うん」
伊織は知ってたんだよね。記憶を無くしたのは私だけなんだし。
血の繋がりが無いって言われると余計ドキドキしちゃうんだけど、今更移動するのも何なので、そのまま伊織の隣に座ってるんだけど、うん、何かいいな、これ。
◇◇◇
「眠くなってきちゃったな」
「えっ、まだ寝ないと思ってたから電気毛布のスイッチ入れてないよ?」
じいちゃんちの冬は寒い。羽毛布団があろうがなかろうが、寒くて眠るどころじゃないのだ。
だって、コップの水が凍ってることもあるからね、朝起きたら。つまり、寝室が氷点下になるってこと。
「大丈夫。布団に入っちゃえば直ぐ慣れるよ」
逆に、布団に入った瞬間が最悪なんだけどなあ。一気に体温を持って行かれちゃうよ?
「まあ、布団に入ってみれば判るけど、スイッチ入れてきてあげるからもう少し待ったら?」
「そしたらこのままここで寝ちゃいそう」
「それはそれで凍死するかもよ?」
「じゃあ、お布団行く」
私も寝よっかな。1人で起きててもつまんないし。
両親は2人で“はなれ”に泊まってる。子供が高校生になってもイチャイチャしてるから不思議だったんだけど、今年再婚したばかりじゃ仕方ないか。じいちゃんたちも、そんな2人に気を使ったのか“はなれ”を充てがってあげたみたい。
お陰で私は伊織と2人きりなんだけどね。血の繋がらないイケメンくんと。
「ううっ、寒っ……」
「ほらね」
掘りごたつと石油ファンヒーターでガンガン暖められた居間を出た瞬間、吐く息が白くなる。
「トイレ、一緒に行く?」
「そうだね。真っ暗だし」
何故かお風呂と同様、トイレも別棟だったりする。そして、男子トイレと女子トイレに別れていたりもする。普段、じいちゃんとばあちゃんしか棲んで無いのにねってのは置いといて、別れているということは伊織と一緒に行っても大丈夫って事。まあ、音とか気にしなければなんだけど、一旦外に出ないといけないから、真っ暗で何か出そうだし、音なんか気にしてる場合じゃない。水流しながらしちゃえば気にならないだろうしね。
そうして、漸く布団に潜り込む。
「ううっ、透の言う通りだった。眠気が冷めちゃったかも」
「しょうがないなあ」
「ちょっと、透、何を……」
「こうやってくっついてれば少しは暖かいでしょ?」
「それは、そうだけど……、こんなことしてたら、その……」
伊織ったら照れちゃって。可愛いんだから。私も……ちょっと顔が火照ってるかもだけど……
「大丈夫よ。父さんと義母さんも一緒に寝てるんじゃないかな? 安定期に入ったんだしさあ。態々覗きに来てる場合じゃないと思うよ」
「……」
でも、なんか……
「ねえ、前にもこんな事あった?」
「う、うん」
そうなんだ。だからかな、懐かしい感じがしたの。
「それって、いつの事?」
「9月の、台風の夜に」
「怖がるお姉ちゃんを伊織が抱きしめててくれたのかあ」
「ううん、逆なんだけど」
「逆なんだ……」
「……うん」
「で、その後は?」
「その後は……」
「何があったの?」
「……秘密」
「教えてよ〜」
「自分で思い出して」
「もう……。でも、こうしてると暖かいね、伊織」
「うん」
暖かくて、懐かしくて、なんか安心できる。眠くなってきたかも……
「おやすみ、凜愛……姫」




