04.07 閑話:「こんなくだらない事に時間取られたくないの」
「こちらの金額で示談ということで、いかがでしょうか」
何処で調べたのか、透の事件の加害者の代理人を名乗る男が訪ねてきた。
提示されたのは100万。透は記憶まで失ったと言うのに……
「ふざけるな。息……女がこんな目に遭わされて、こんな金で無かった事にしろと言うのか」
「ですから、こうして罰金の上限額の2倍を――」
「罰金だと?」
「ええ、迷惑防止条例違反の」
「迷惑防止条例違反……」
「衣服の上から、という事でしたので」
「四人がかりで無理矢理連れ込んで殴る蹴るの暴行まで加えてるのにか」
「無理矢理、というのはどうなのでしょう。合意が有ったかどうかは確認が取れない状態だと認識しておりますが」
「貴様……」
透の記憶が無いのをいい事に……
「兎に角、示談金の相場は10万から100万とされている中、この金額を提示させていただいているわけですが、ご納得いただけないというなら3倍でいかがでしょうか。これなら強制わいせつの相場である10万から300万と照らし合わせても遜色ない額かと」
「金が欲しくて言ってるんじゃ――」
「まあまあ、父さん。落ち着いて」
「透」
「くれるっていうんだから貰っとけばいいじゃない。証拠になりそうな物も無いんだし、私の記憶が無い以上難しいんじゃないのかなあ、有罪にするの。その辺りを見越してこんな提案してきてるんでしょ? おじさん」
「流石は学年次席といったところでしょうか。こちらとしても長引くと色々と不都合がございまして。まあ、それはお互い様でしょうが」
「そうそう。弁護士費用とか大丈夫なの? 父さん」
「そんなもん、何とかなるだろうが」
いや、ローンもあるからな……
「で、幾らまで出せるの? 十六夜 グループって結構手広くやってるわよね〜」
「これはこれは、そうですね、500万まででしたらこの場で即決する権限を頂戴しておりますが」
「じゃあ、600万ね。あと、あいつらの顔は二度と見たくないんだけどさあ」
「それについては既に葦原学園への転校手続きが完了しておりますので、ご心配なく」
「そう。じゃあ決まりね。父さん、後の手続きとかはよろしくね。500万までとか言いながら600万でいいみたいだからさ」
「透、何を――」
「中間試験が近いんだよ。だから、こんなくだらない事に時間取られたくないの。お願い、父さん」
「……」
透の言う通り、ろくな証拠も無い上に被害者である透の記憶も無いから裁判したって勝てるかどうかも判らない。だが、これで納得しろだなんて……無理だ。
「あなた」
「春華さん……」
「私も透ちゃんにこれ以上嫌な思いをさせたく無いわ」
透に嫌な思いを……か……
「まあ、そういう事よ、父さん。折角忘れてるんだから、態々思い出したくはないかな」
「……解った。示談に応じよう」




