04.06 「私とは只の友達ってところかな?」
フェイク動画が功を奏したのか、偶々見つけた事件現場の証拠動画が功を奏したのか、武神さんの謹慎処分は早々に解かれ、十六夜 たちは退学処分になることが決定した。
ちなみに、証拠動画ってのは、私のスマホで録画してたのをそのままサーバに転送してたやつ。録画と同時にサーバに転送するようにしてたみたいで、スマホは壊されちゃってたけど、ちゃんと証拠として残ってたの。偉いよね、私。映像としては殆ど写ってなかったんだけど、音声はしっかり記録されてたからね。
「武神さん、今日から学校来るんだったよね、水無」
「そうですわね。ただ、手続きがあるとかで教室に顔を出すのは2限からになるようですわ」
彼女は火神 水無。記憶を無くす前もそう呼んでいたみたいなので、水無って呼んでる。そう、彼女に関する記憶も無くなっていた。ということは、私にとって重要な人ってことなんだろう。
「久しぶりだよな、火神の奴。元気にしてたかなあ」
彼は大金 裕人。得利稼改め裕人だ。フェイク動画のために頭を丸めてくれた裕人だ。うん、覚えてる。ベタベタと触られたことも。ということは……
「何だよ、姫ちゃん」
「いや、別に」
そして、いよいよ対面の時。
「おはよう、透さん、伊織さん、水無も」
「おはよう、武神さん。透、武神さんよ」
「おっはよ〜」
ふーん、これが私を助けてくれたヒーローくんか。伊織に聞いてた通りのイケメンね。
「それで、私とはどういう関係だったの? 五人も相手に臆すること無く助けに来てくれたんでしょ。恋人だったり?」
「いや、恋人は……」
ヒーローくんの視線の先に居るのは……伊織? 男の子同士で?
「はぁ。じゃあ、私とは只の友達ってところかな?」
「只のではなく、大切な、だけどね」
「そっかぁ」
助けに来てくれるぐたいだから、ちょっと期待してたんだけど、そういうことなら仕方がないか。
でも勿体無いなあ。伊織だってイケメンなのにね。血が繋がってるのが残念なぐらいに。いや、仕方なくないじゃん。伊織がそういう道に誘い込まれないように守ってあげなくちゃ。
「透さんをこんな目に合わせてしまうなんて、ボディーガード失格かな」
「ボディーガード?」
「ごめん、覚えてないんだったね」
「私が依頼してたってことかな?」
「まあ、そんなところなんだけど。ウザ男に付き纏われてるからってね」
ふーん、そうなんだ。
「で、依頼の報酬は?」
「そういうのは無いよ。大切な友達だからね」
酷いな、私。こんなイケメンを無報酬でこき使うとか……、伊織との関係をネタに揺すってたりとかしてないよね……
「うーん、じゃあ、一緒に試験勉強とかしちゃう? 中間試験も近いことだし」
「それは水無と約束してるから、ねえ、水無」
「あら、そうだったかしら?」
「水無……」
「冗談よ。試験勉強はいつも二人でしていますの。今回もその方が集中できそうですわね、武神さん」
「そういえば、試験前は伊織と勉強してるんだったっけ。皆んなで自習室に行ったりとかはしないんだ。何で?」
「色々と事情があってね」
事情ね。まあ、一緒に勉強した程度じゃ返せないし、そもそも彼も成績上位なのよね。
◇◇◇
「ふ〜ん、いつもこうしてたんだ、私達」
「そう、だけど」
「こんな風に肩が触れ合っちゃったり?」
「……」
また赤くなってる。可愛いなあ伊織。
「不意に膝と膝がくっついて、お姉ちゃんの生足にドキドキしちゃったり?」
「もう、透、真面目にやってよ」
「だってえ、伊織が可愛いんだもん。伊織の所為だよ」
「勉強する気が無いなら一人でするから、透も自分で――」
「ごめ〜ん。真面目にやるから。行かないで、伊織」
と、割と楽しく勉強したにもかかわらず、中間試験の結果は伊織が1位で私が2位。入学時の成績だと、私は22位だったみたいだから全部伊織のお陰なんだろうな。
そして試験明けの恒例イベント、新たに1組のメンバーとなる二人が紹介された。
ただ、今回はちょっと特殊みたいで、2組からの繰り上がりは一人だけ、もう一人は他校からの転校生なんだとか。
「轟 静……です。葦原学園から転校してきました」
今にも消えてしまいそうな声でたったそれだけ言って自分の席へと向かう。物音一つ立てずにね。美形で色白で黒髪……、なんか幽霊みたいだな。女の子みたいに見えるけど、男子なんだよね、制服的には。




