02.02 「透は私のあ、姉ですから」
代表挨拶も無事終わり、少し余裕が持てるようになったと思う。今なら透に話しかけられても普通に会話できそうな気がするかな。ずっと張り詰めてたんだろうか。
ただ、透は今、クラスメイトに囲まれている。その中には女の子も居て、何故か透の様子が気になってしまう。
「注目されていますね、彼女。やっぱり貴方も姫神さんみたいな女の子が好みですの?」
そう話しかけてきたのは左隣の火神 水無さん。
「透は私のあ、姉なので」
「そうでしたか。怖い顔で凝視されていたものですから、男の子に囲まれるいるのが気に入らないのかと思いまして」
「凝視なんて……」
していたのだろうか。透が何を考えているのか分からないけど、私にはどうでも良い事なんだけど……
「二人はあまり似ていないようだね」
右隣から武神 刃瑠香さんが声を掛けてくる。男子の制服を着ているけど、名前から想像するに元々は女の子だったんだろうな。でも、そのまま刃瑠香って名乗ってるのか。私なんてこの姿で凜愛姫なんてのは耐えられなくて伊織に変えちゃったんだけど。
「血の繋がりはないから」
「つまりは、義理の姉弟が同じ屋根の下で……」
確かに一緒に暮らしてるけど……
「家では殆ど話してないかな」
「そうなんだ」
ふと漏れてしまった声に武神さんが反応する。何だかちょっと嬉しそう?
「良かったですわね、刃瑠香さん」
「そういう水無もなんじゃないかな?」
ん? 何? 2人で勝手に納得してる?
まあ、2人は附属中学からの入学組だから、気心も知れているのだろう。
「しかし、凄い人気だね、姫神さん」
「刃瑠香さんも急いだほうがいいんじゃなくって?」
なんだ、そういう事か。武神さんは透の事が気になってるのか。
本当は男の子なんだよ、透って。でも、これは言ったらダメなんだ。対象者の人権を守る為、だったかな。本人の許可なく過去の性別を暴露すると罰せられるんだ。たとえ身内でも。
「ぼくには色々と事情があるからね。それより、同じ姫神だとややこしい、君のことは伊織さんと呼ばせてもらってもいいかな」
「うん。それは構わないけど」
事情って、その名前だと公表してるみたいなものなんだけど……
今の高1の事情は複雑だ。50%が性徴期性反転症候群を発症したお陰で、ここに居る男子のおよそ半分は元々女の子だし、逆に、女の子だって半分は元々男子だったって事になる。でも、それは見た目の話であって、もともと心と体の性が一致していなかった人だって居るわけで、その人たちは奇病のお陰でいい感じに一致したことになるんだ。
透があんなに楽しそうなのはそういう事なのかもしれないな。元々女の子っぽかったんだし。
「ありがとう。ぼくのことは武神と呼んで欲しい。名前は、その……あまり気に入っていないので」
「私は水無でいいですわ」
「うん、よろしくね、武神さん、水無さん」
こんな体に成ってしまって生きていく気力を失ってたけど、こうして友達が出来てみるとそこまで悪くは無いのかも。透とも仲良く出来たのかも知れないけど、今更かな……。透も友達できそうだしね。
「得利稼。大金 得利稼だよ。よろしくね」
「僕は正清 操。成績上位者同士、仲良く出来たらいいかな」
正清さんの言うように、最前列はこの五人。成績順に座席も決まってるから、武神さんが2位、水無さんが3位、大金さん、正清さんが4位、5位と続くことになる。まあ、入試の結果なんだけどね。でも、成績上位者同士仲良くって、ちょっと自意識過剰なんじゃ……
◇◇◇
帰りも両親と一緒。当然、透も。
「良かったよ、伊織」
「ありがとう、お義父さん」
最初は伊織ちゃんって呼ばれたんだけど、この姿で“ちゃん”はちょっとね。だから、そのまま伊織って呼んでもらってる。お母さんは相変わらず凜愛姫って呼ぶから、人前では話しかけないでって言ってあるんだけど。
透は……、どうでもいいか。何か嬉しそうにしてるからムカついてくる。
「透は友達出来たのか?」
「うん。こんなに一杯」
ざっと20人ぐらいだったかな。私と水無さんと武神さんは交換してないから、ほぼクラスの全員と交換したんだ。あの透とは思えないな。
家に帰ってからも何だか楽しそう。透を見てるとやっぱりイライラして来る。仲良く出来たのかも、なんて思ったけど、無理かな、やっぱり。
「お風呂行ってくる」
透の居ないところ、透の声が聞こえないところに行かないと、ますます透のこと嫌いになりそう。こんな筈じゃなかったのにな。