表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/89

02.02 「透は私のあ、姉ですから」

 代表挨拶も無事終わり、少し余裕が持てるようになったと思う。今なら(とおる)に話しかけられても普通に会話できそうな気がするかな。ずっと張り詰めてたんだろうか。


 ただ、(とおる)は今、クラスメイトに囲まれている。その中には女の子も居て、何故か(とおる)の様子が気になってしまう。


 「注目されていますね、彼女。やっぱり貴方も姫神(ひめがみ)さんみたいな女の子が好みですの?」


 そう話しかけてきたのは左隣の火神(かがみ) 水無(みな)さん。


 「(とおる)は私のあ、姉なので」

 「そうでしたか。怖い顔で凝視されていたものですから、男の子に囲まれるいるのが気に入らないのかと思いまして」

 「凝視なんて……」


 していたのだろうか。(とおる)が何を考えているのか分からないけど、私にはどうでも良い事なんだけど……


 「二人はあまり似ていないようだね」


 右隣から武神(たけがみ) 刃瑠香(はるか)さんが声を掛けてくる。男子の制服を着ているけど、名前から想像するに元々は女の子だったんだろうな。でも、そのまま刃瑠香(はるか)って名乗ってるのか。私なんてこの姿で凜愛姫(りあら)なんてのは耐えられなくて伊織(いおり)に変えちゃったんだけど。


 「血の繋がりはないから」

 「つまりは、義理の姉弟が同じ屋根の下で……」


 確かに一緒に暮らしてるけど……


 「家では殆ど話してないかな」

 「そうなんだ」


 ふと漏れてしまった声に武神(たけがみ)さんが反応する。何だかちょっと嬉しそう?


 「良かったですわね、刃瑠香(はるか)さん」

 「そういう水無(みな)もなんじゃないかな?」


 ん? 何? 2人で勝手に納得してる?

 まあ、2人は附属中学からの入学組だから、気心も知れているのだろう。


 「しかし、凄い人気だね、姫神(ひめがみ)さん」

 「刃瑠香(はるか)さんも急いだほうがいいんじゃなくって?」


 なんだ、そういう事か。武神(たけがみ)さんは(とおる)の事が気になってるのか。

 本当は男の子なんだよ、(とおる)って。でも、これは言ったらダメなんだ。対象者の人権を守る為、だったかな。本人の許可なく過去の性別を暴露すると罰せられるんだ。たとえ身内でも。


 「ぼくには色々と事情があるからね。それより、同じ姫神(ひめがみ)だとややこしい、君のことは伊織(いおり)さんと呼ばせてもらってもいいかな」

 「うん。それは構わないけど」


 事情って、その名前だと公表してるみたいなものなんだけど……

 今の高1の事情は複雑だ。50%が性徴期性反転症候群を発症したお陰で、ここに居る男子のおよそ半分は元々女の子だし、逆に、女の子だって半分は元々男子だったって事になる。でも、それは見た目の話であって、もともと心と体の性が一致していなかった人だって居るわけで、その人たちは奇病のお陰でいい感じに一致したことになるんだ。

 (とおる)があんなに楽しそうなのはそういう事なのかもしれないな。元々女の子っぽかったんだし。


 「ありがとう。ぼくのことは武神(たけがみ)と呼んで欲しい。名前は、その……あまり気に入っていないので」

 「私は水無(みな)でいいですわ」

 「うん、よろしくね、武神(たけがみ)さん、水無(みな)さん」


 こんな体に成ってしまって生きていく気力を失ってたけど、こうして友達が出来てみるとそこまで悪くは無いのかも。(とおる)とも仲良く出来たのかも知れないけど、今更かな……。(とおる)も友達できそうだしね。


 「得利稼(えりか)大金(おおがね) 得利稼(えりか)だよ。よろしくね」

 「僕は正清(まさきよ) (みさお)。成績上位者同士、仲良く出来たらいいかな」


 正清(まさきよ)さんの言うように、最前列はこの五人。成績順に座席も決まってるから、武神(たけがみ)さんが2位、水無(みな)さんが3位、大金(おおがね)さん、正清(まさきよ)さんが4位、5位と続くことになる。まあ、入試の結果なんだけどね。でも、成績上位者同士仲良くって、ちょっと自意識過剰なんじゃ……


    ◇◇◇


 帰りも両親と一緒。当然、(とおる)も。


 「良かったよ、伊織(いおり)

 「ありがとう、お義父(とう)さん」


 最初は伊織(いおり)ちゃんって呼ばれたんだけど、この姿で“ちゃん”はちょっとね。だから、そのまま伊織(いおり)って呼んでもらってる。お母さんは相変わらず凜愛姫(りあら)って呼ぶから、人前では話しかけないでって言ってあるんだけど。

 (とおる)は……、どうでもいいか。何か嬉しそうにしてるからムカついてくる。


 「(とおる)は友達出来たのか?」

 「うん。こんなに一杯」


 ざっと20人ぐらいだったかな。私と水無(みな)さんと武神(たけがみ)さんは交換してないから、ほぼクラスの全員と交換したんだ。あの(とおる)とは思えないな。


 家に帰ってからも何だか楽しそう。(とおる)を見てるとやっぱりイライラして来る。仲良く出来たのかも、なんて思ったけど、無理かな、やっぱり。


 「お風呂行ってくる」


 (とおる)の居ないところ、(とおる)の声が聞こえないところに行かないと、ますます(とおる)のこと嫌いになりそう。こんな筈じゃなかったのにな。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ