04.02 「|彼女は助けを請わなかったのか?」
「今、声がしなかった?」
「私には聞こえなかったけど」
「私もよ?」
「ほら、また」
水無さんと顔を見合わせる。やっぱり何も聞こえないけど……
「気の所為かな。悲鳴が聞こえた気がしたんだけど」
「悲鳴というのは気になりますが、防犯カメラもついているみたいですし、大丈夫じゃないかしら?」
「確かにそうだね。変なこと言って済まない」
トイレに行くと言い残し、透は部屋を出て行った。あれから4曲ぐらい歌ってると思うんだけど、まだ戻ってきていない。
「遅いね、透さん」
「あら、いろいろと詮索するのは宜しく無くてよ」
「あっ、うん」
もしかして、大っきい方?
でも、透って外じゃできないって言ってたけどな。お腹の調子悪かったらそうもいかないんだろうけど、今日はそんな様子は無かったような。
さらに2曲歌ったけど、透は戻ってこなかった。
ドカッ
隣の部屋だ。何か、いや誰かが壁にぶつかったんだろう。直前に女の子の悲鳴が聞こえた。あの声は……
「透の声……」
「行こうっ」
武神さんが勢いよく部屋を出ていく。
「待って」
慌てて後を追った私と水無さんが目にしたのは、肘が曲がってはいけない方向に曲がった男の人。この制服は、うちの生徒……
「十六夜 の取り巻きのようですわね」
そんな、それじゃ透は……
「何だテメエはっ!」
「貴様ら……」
一瞬のことだったと思う。
中に入ると、4人の男子生徒が倒れていた。鼻が潰れたのか、ダラダラと鼻血を流しながら武神さんに怯える男。血混じりの涎を垂れ流しながら、武神さんと目を合わすまいとする男。ソファーに倒れ込み、力の入らなくなった膝先をぶらりとさせている男。そして、只腰を抜かしているだけに見える男、十六夜 葉月だ。
「透っ!」
透に駆け寄る。気を失ってるみたいだった。
「伊織、水無、透さんを頼む」
「頼む、ほんの出来心だったんだ。あんたが強いのはわかったから、もういいんじゃないかな。反省してるよ、ほら、この通り」
透に上着を掛けてくれた武神さんが十六夜 に向き直る。
「やめろ、こっちに来るな。助けてくれ」
「彼女は助けを請わなかったのか?」
「知らない、そいつが口を塞いでたんだ。女を投げ飛ばしたんもそいつだ。僕は何もしてない」
膝先をぶらりとさせている男を指差す十六夜 。
「彼女に何をした。どう裁くかはそれ次第だ」
「何もしてない。本当だ。信じて欲しい」
透は胸元がはだけていた。そんな状態で何もしてないって……、嘘に決まってる。
「ぐあーーーーーー、何をっ」
やはり、一瞬だった。何をしたのか判らなかったけど、左手首を押さえてのたうち回る十六夜 。いい気味だ。私もこの人達を許せない。でも、このまま武神さんを止めなくていんだろうか……
「その手で何をした。正直に言わなければ次は右手首だ」
「わかった、言う、言うから止めて――」
「何をした」
「胸を触っただけだ。他には何もしてない。おい、やめろっ、話が違う……やめ、うがあああああーーーー」
十六夜 の右肘から先が力を失い、ぶらぶらと不自然に揺れていた。
「武神さん、あなた……」
「済まない、水無。少しやりすぎてしまった。警察を呼んで欲しい」
水無さんが呼ぶまでもなく、店の人が警察を呼んでいた。連行される武神さん。もちろん私達も。
私は……何もできなかった。
透は……意識を失ったまま救急車の乗せられていった。




