03.16 「ねえ、知ってた?」
何も決められないまま8月8日、つまりは凜愛姫の誕生日がやってきてしまった。せめてご馳走ぐらいは気合い入れて作ろうかな。
「ねえ、透。映画に行かない?」
「えっ、うん、じゃあちょっと待っててね」
外はお出かけ日和、なんかじゃなくて、相変わらずの猛暑日なんだけど、凜愛姫の誕生日だしね。
「みなとみらいね」
ってことは料理する時間はなくなっちゃうってことか。あれ持っていこうかな。何も無いよりはいいよね。
◇◇◇
「何観よっか」
「観たいのが有ったんじゃないの?」
「透と出かけたかっただけだもん」
「みなとみらいに?」
「そう。みなとみらいの思い出を私が上書きするの」
思い出って……、みなとみらいに来たのは武神さんとだけなんだけど……
「ついでに中華街と元町もねっ」
「えーっと、それは――」
「で、何観る?」
「じゃあ、この恐竜出てくるのは?」
話しちゃったんだね、武神さん。まあいいけどさ。
「へー、こういうのが好きなんだ」
「まあ、男の子ですから?」
「男の娘ね」
「ん? 違う字じゃないよね、今の。ねえ」
「どうかな」
映画の後は中華街で饅頭を買い、食べながら元町へと向かう。
武神さん、何処まで話したんだろう。なんか、同じコースなんだけど。
結局、そのまま例のジュエリーショップに。
「いらっしゃいま……」
そんな、また来たの? って顔しなくても。まだ3回めですよ?
「「どうも」」
「今日は二人一緒みたいで安心しましたわ」
それって一緒じゃない時に来たって言ってるようなもので……、まあ、どうせ武神さんが話しちゃってるんだろうからいいけどさ。
「それで、今日は何をお探しですか? 婚約指輪?」
「「婚約っ」」
「冗談ですよ」
「もう、ちょっと覗いただけですから」
「何か欲しい物あるの?」
「別に? 本当に覗いただけだから。行こっか」
欲しい物があるならちょうど良かったんだけどな。
「ねえ、この先に港の見える丘公園があるんだよね」
「うん」
「行ってみようか」
「凜愛姫が行きたいなら」
丘って付くだけあって、小高い丘の上にある公園で、展望台からはこれまた名前の通り横浜港が見える。ベイブリッジもね。
凜愛姫は花火の上がる中渡してくれたんだっけ。まだ夜景って時間じゃないけど、待ってたら帰りが遅くなっちゃうし、場所的にはありかな。
「あのね、凜愛姫」
「なに?」
中身のことも武神さんさんから聞いちゃってのかなあ。流石にそこまでは話さないでいてくれてるかなあ。
「別に真似したわけじゃなくて、本当に偶々なんだけどさ……」
「ん?」
「はい、これ」
どう頑張ったってこれしか無いもん。凜愛姫にあげたいもん。
「ねえ、知ってた? これって……、永遠に変わらない愛を約束するって意味も込められてるんだよ?」
「ふえっ」
「つまりは、そういう事?」
「そういう……」
ちょ、ちょっと、心臓くん、落ち着こうよ。苦しいってば。凜愛姫も知ってた。知ってて僕にこれを……
「凜愛姫……も?」
「んん?」
「だって、そういう事だよね……これも」
「えーっと……それは……」
顔が熱い。凜愛姫の顔も真っ赤だ。そのまま暫く見つめ合うことしか出来なかったよ。
「「帰ろっか」」
帰りの電車もドキドキしっぱなしだった。




