03.14 「ぼくは遠慮しておこうかな」
「ねえねえ、もうすぐ夏休みだよねー。プール行こうよ、皆んなで。楽しみだなー、姫ちゃんのハイレグビキニっ」
そんなの着ないけどね……
「でっ、いつにする?」
既に行く事は決定していて、あとは日取りを決めるだけとなっているみたいな得利稼。
「そうですね、皆んなで行くのも楽しそうですわね」
「うんうん、水無ちゃんのマイクロビキニも楽しみだねー」
水無だってそんなの着ないだろうけど……
着るのかな……
「ぼくは遠慮しておこうかな」
「あら、武神さんが行かないなら私も遠慮しておこうかしら」
「私も止めておこうかな。お母さん、この所体調悪いみたいだし、女の子二人とってのはちょっとね」
「ってことは姫ちゃんと二人きりかー。いいねいいねー。いつにする? 姫ちゃん」
得利稼と二人なんて嫌な予感しかしないよ。
「僕もちょっと……」
「えー、なになに、得利稼と二人じゃ嫌なの?」
「いや、そういうわけじゃ」
まあ、そういうわけなんだけどさ。
「うーん、伊織が言った通りで、義母さん食欲無いみたいでさ。食事の用意とか色々と……、ねえ、伊織」
「お母さんは普通に会社行くみたいだし、プールってそんなにずーっと行ってるわけじゃないから大丈夫なんじゃないかな」
「あー、そうかもねー」
もう、凜愛姫ったら。
「じゃあ、平気ってことで」
何て断ろう……。期末試験は大分先だし……
「ね?」
ごめん、可愛くないからそれ止めて、得利稼。
「あっ、そうだ、仕事があったんだ。いやー、ちょうど8月末納期の仕事受けちゃっててさあ。うん、仕事だ、仕事」
「それ、もう終わったって言ってなかった?」
「えっ? そう? 他の案件が入ったような……」
もう、何なの凜愛姫。そんなにプールに行かせたいの?
「姫ちゃん……」
「えーっと、僕の勘違いかな。行こうか、プール……」
「やったーっ!」
はぁ。気が重い。
◇◇◇
そして、当然のことながら学校用の水着しか持っていない僕は、プールの前に得利稼と水着を買いに行くことになってしまうわけなんだ。ちなみに、学校用といってもスク水とかじゃなくて、膝まである競泳用の水着ね。やっぱ、股間がきわどいのはちょっと無理かな。
「姫ちゃん、これなんかどう?」
「それもう、お尻丸出しにしかみえないけど?」
「えー、似合うと思うけどなあ。試しに着けてみたら?」
さっきから只のエロオヤジなんだけど、得利稼。
「しかし、どれもこれも面積が小さいなぁ。百歩譲ってこれなんだけど、こんなんで収まるのかな」
手にしたのはボクサーパンツみたいな水着なんだけど、それでも小さい気がする。まあ、はみ出すようなモノは失ってしまってるんだけどね。
「ボーイレッグかあ。折角だからもっとエロいのにしようよ」
「やだよ。得利稼が買えばいいじゃん」
「勿論、そのつもりだよ?」
そうなんだ……、なんかボディービルダー(男)的な姿を想像しちゃうんだけど……
得利稼に何だかんだ言われながらも、そのボーイレッグとかいうのを買うことにした。ついでにパレオ付き。これなら隠せるかな。父さんが会社の保養所の抽選当てたみたいだし、1着持っててもいいのかも。
◇◇◇
そして、得利稼とプールに行く筈だった7月のある日。
「ごめん、姫ちゃん。熱出しちゃってさ。今日無理みたい」
「そうか。熱なら仕方ないね。じゃあ、お大事にね」
「何か嬉しそうだね、姫ちゃん」
「そんな事ないよ?」
幸運にも、得利稼の発熱によってプールは中止となったのだった。
ちなみに、保養所はというと、7月だというのに台風が直撃したため、海には近づくこともできなかった。建物から一歩も外に出ることができず、おいしい料理を堪能して帰ってきただけとなったのだった。折角買った水着は出番なしなのである。




