03.05 「そうだな。先ずは脱いでもらおうか」
高天原祭2日目。
「ねえ、得利稼ー。今日は休憩させて貰えないかなあ。他のクラスも見に行きたいし、それに、腕が痛くてマッサージできそうに無いんだよね」
登校早々、何故かこのメイド指圧を取り仕切っている得利稼支配人にそう懇願してみたんだけど。
「ダメダメ。ダメに決まってるでしょー。姫ちゃん目当てで女の子が集まってきてるの解ってないの?」
「でもさー、もう腕がぁ」
「仕方ないなー、得利稼が揉みほぐしてあげようか?」
わさわさと動かす手つきがやらしい。ちょっと身の危険を感じちゃうよ……
「えっ、遠慮しとくよ。あれっ、気の所為だったのかな。痛みが無くなったかも?」
「うんうん、じゃあ、今日も頑張ってねー。そしたら得利稼にもおこぼれが回ってくるから♪」
「おこぼれってさぁ……」
はぁ、今日も一日女の子にご奉仕かぁ。男子が対象じゃないだけましなんだけど、元男子も混じってると思うと微妙なんだよなー。
「やったー、姫神さんだぁ」
「いいなー、あたい、もう1回並ぼうかな」
頼むから止めてよ。
誰が指圧するかは順番次第なんだけど、何故か僕にされたい人が多いみたいなんだよねぇ。流石じいちゃん、と言いたいところだけど、もう腕が限界だよ。そもそも、“うんち姫”なんじゃなかったっけ、僕。臭い移っても知らないよ?
「ちょっと、何処触ってんのよっ」
やっぱり得利稼は不評みたいだ。手つきがやらしいんだよね。触る必要のないとこまで触っちゃってるし。
「えー、ここも気持ちいい筈なんですけどー」
「姫神さんならともかく、あんたに触られても気持ち悪いだけなのよっ」
あー、はいはい。僕は頼まれてもそんな所触らないから。
「おかえりなさいませぇ、お嬢様ぁ」
昨日からもう何回目だろう。もう疲れたよー。テンションだだ下がりだよー。
「(実行委員の者なのですが、一緒に来ていただけないでしょうか)」
お嬢様から耳元でそう囁かれた。
「(実行委員?)」
なんとなくだけど、僕も声を抑えて訊き返す。
「(はい。準備がありますので。できれば他の方々には気付かれたくありません)」
「(うん。行く、行く。ここから逃げられるなら何処にだって行っちゃうよ)」
「(では、わたくし、今から意識を失いますので保健室まで運んでいただけますか? 出来ればお姫様抱っこを希望します)」
え〜、腕がもつかなぁ……って、あっ。
「ねえ、ちょっと、大丈夫?」
「どうしたの? 姫ちゃん」
「なんか気絶させちゃったみたいなんだよね。心配だから保健室まで連れて行くよ」
とまあ、白々しくお姫様抱っこってのをしてみようとしたんだけど、ちょっと重いかも……
仕方がないので背負っていく事にする。念の為、彼女の名誉のために言っておくけど、僕が非力なだけだからね。ついでに、腕も疲れてたからね。確かに背中に押し付けられているものの存在感は規格外だけど、規格外なのはそこだけみたいだし。
兎に角、指圧待ちの女の子たちをかき分けてメイド指圧を逃げ出すのだ。
「ちょっと、姫ちゃーん。指圧はどうするのよー」
「ごめん、こっちは得利稼に任せるよ」
「こーらー、逃げるなー」
流石に人一人を背負ったまま走るなんてことは出来なくて、何故かぞろぞろ着いてくる女の子達を従えて保健室に辿り着いたのだった。
「うっ、何だこれは。ほらほら、関係ないやつは入室禁止だ。とっとと散れっ」
優しい保健の先生のイメージとはかけ離れたミニスカ白衣のおねえさんの一喝でギャラリーは退散していく。
「君が姫神かぁ。確かに私好みの可愛い顔だ」
「こ、好み?」
「まあ、男じゃなけりゃ興味も半減だ。心配しなくてもどうこうしやしないよ。まあ、中に入りな」
「えっ、ええ?」
「早くしなっ」
「うわぁ」
保健室に入ると、何故か施錠するミニスカおねえさん。
「あの、ちょっと……何で?」
「お前もいい加減気絶したふりは止めろ。他の奴らに呪い殺されても知らないぞ」
「はーい。夢のようなひと時でしたわ。役得役得っと」
僕の背から降りる女の子。保健室には他に3人の女の子が居て、僕が来るのを待っていたみたいだ。
「えっと、何を?」
「そうだな。先ずは脱いでもらおうか」
「はぁ?」
「おい、お前ら、手伝ってやれ」
「「「「はーい」」」」
「ちょっと、いやだって。止めてー」
僕が下着姿にされるのに5秒とかからなかった。水無も一瞬だったけど、4人もいると比べ物にならないな。




