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本気の道行。善悪ってなんなんだよ。

気づけば……。

「なんだココ!」

「……一生一緒」

「いや、嬉しいけどここでは嫌だよ?」

「……牢獄……だ」

硬い黒い鉄格子が四方八方を塞いでおり、逃げ場など一切なかった。俺たち様に作られたものかもしれないな。

「うん」

なんでここ?

多分俺達は催眠ガスかなんかで眠らされてこの牢屋にいれられたのだろう。

愛のことも心配、いや……、あいつは大丈夫、か。

力を使って振りほどくだろうし、二度も同じ攻撃は効かなさそう。

「……捕まった?」

「そう考えるのが妥当かな。にしても納得いかないけどな」

「……人の話、無視」

「だったなー。知ってもらわないとどうにも出来ないし……」

と、ひとつ忘れていた。

「あの……、ここってどこですか?」

もう一人捕まってる人いたんだったな。

「ここは、見た通り。牢獄だよ。君たちは何か悪さをしたのかい?」

「いえ……、なんか、アーサーってやつに無理やり……」

「……やはりそうか。まあ、この牢に一緒にいれられるくらいだからな……」

「やはりって、あなたも濡れ衣……?」

「いや、ただのわがままだよ。偽アーサーのね」

「……偽アーサー?」

「そうさ。そうだな。話す前に自己紹介をしようか」

「あ、すみません。こちらからしずに……。私達が悪い奴だったらいけませんもんね」

「ははは。気にし過ぎだよ。あと僕には嘘は通じないよ。だから大丈夫。君達のことは信じているさ」

「え?そ、それはあなたの特徴ということですか!?」

「まあ、そうだね」

「……自己紹介」

「そうだった。俺の名前は平崎 道行です」

「……桜」

クイッと引っ張った俺の掌をぎゅっと掴みながら警戒心バリバリで挨拶をした。

「はは。大分警戒されてるみたいだ。僕の名前はリヨン。役目は審判兼アーサー側近。特技は虚偽の有無、ちょっとした身体強化だね」

「虚偽の有無、やっぱりそれが嘘を見破れた証拠ですか」

「そ!」

「でもなんで牢屋に?嘘を暴けるならこんなことには……」

「偽アーサーの役目はエンターテイナー、特技は百面相」

「……百面相?」

「いや、少し違うか。モノマネ、と言った方がいいか、コピーと言った方が良いか」

「……本人のなりすまし」

「それだ!」

「なるほど。自分をアーサーに見立ててるのか」

「ああ。それだけじゃなく、性格、役目、特技までもが彼の真骨頂さ」

「じゃあ」

「そう、それを見せつけられたら、俺がなんと言おうが俺のミスとして捉えられる他ないんだ」

「え、じゃあ、無敵じゃないですか?」

「いや、そうとも言いきれない。相手のなりすましは顔以外は特徴を捉えているだけだから本人の力の三割程度しか出せない」

「……なるほど」

「ただ、周囲には分からないだろう。アーサーは強すぎる。三割でも相当だ」

強すぎる故の障害か。

「アーサーより強いのはこの世界でアンノウンの他に指で数える程しかいないし。ま、そんなことよりもここを出ることが先決かな」

「そうですね」

「……役目」

「ああ、そっか。俺の役目は救援者です。まあ、言うて平凡なんで誰かのお手伝い程度と思ってもらえれば結構ですが」

「そうか」

「……特徴。桜も、聞いてない」

そういえば言ってない!

「また機会があったらな!」

「……わかった」

ごめんな、無い機会になると思う。

「で、この子は……」

「……ますたーの、剣」

「ほう、剣ね。名前が桜?」

「……うん。……ますたーが付けた最高……。あと……私達は……、一心同体……、一生一緒」

「ははは。愛されてるんだね。道行君は」

「いえ!そんな!めちゃめちゃ嬉しいです!」

「……ふふ」

「はは。恥ずかしがらずに本音もポロッとだしちゃうか。君みたいな子がこの世に増えてくれると嬉しいんだけどね。桜ちゃんも、マジのマジみたいだし。いい関係だね」

「……へへ」

誇らしそうに、照れている。嬉し恥ずかしと言うやつなのだろう。

「さて、脱出、の前に腰を負ってすまないが、もう一つだけ教えて欲しいんだ。君たちは一体なぜ捕まったのかな?」

「えっと……。僕は異世界から来たものなんですが」

この説明はどうもむず痒くて……、あまりだな。

「ふむ」

「で、アーサーの悪を討つ剣とやらで僕の頬を刃がかすりまして……」

「なるほど。悪役にされたというわけか。異世界の物に反応する剣でもあるから……」

「驚かないんですね」

「驚いてるさ。ただそんな時間が無いだけさ。嘘はついていないし……」

「……もう一つあると思うんですが」

「なんだい?」

「多分あのアーサーって奴は女が好きなんですよ」

「うん。そうだね。僕も側近は男が嫌だということで、牢屋だよ」

「滅茶苦茶だな……」

「だね。それで?」

「僕のこ、婚約者」

めちゃめちゃ恥ずかしー!

「うん」

「が、目をつけられて攫われていってしまったんです。多分、僕と二度と合わせないように、という考えもあるのでは……、と」

「よく分かるよ。少しおいたが過ぎてるね。本物の方も多分そろそろ帰る頃だし……、こちらから出来ることを出来るだけやろうか」

「……なにを?」

「君はここの街に戦の大会があることを知っているかい?」

「いえ、来たばかりですし、初耳です」

「そうか……、それに出場させてもらおうと思っていたのさ」

「え?何故に?」

「多分あのアーサーはその大会の一位を狙っている」

「一位になれば、何か、あるんですか?」

「そうだね。一言で言うと勘違いなんだけどね。ただ、一番強いものはそれ相応の力を持ってるだろう?」

「まあ、当然そうですね」

「その力を持ってるものはそれ相応の強敵との戦いを約束される」

「それも、当然と言えば当然……」

「そう……。そして、その強敵を倒せば遊んで暮らせるくらいの名誉が与えられるのさ」

「……それだけの役目をこなした、と」

「そう。人生遊べるほどの役目をこなした。ただそうするものはいないし、そんな強い相手はこの世で指で数える程しかいないだろう」

「でも、そんなことそいつも分かってるんじゃあ……」

「言っただろう?勘違いしてるのさ。ここで最強になれば強さを認められれば名誉を与えられるとね」

「……それが勘違い」

「でもなんで遊びを……」

「さあ?エンターテイナー故なのか……、自分の役目に自信がないのか……、楽をしたいからなのか……よく分からない。……さて、そろそろ、か」

「……何が?」

耳を傾ける桜と一緒に俺も耳をリヨンさんの方へ向けた。

「少し静かに、ね……。多分君たちが大会に出ることになるはずだから、用意はしといて……」

「え?なんで……」

ヒソヒソ声で話すリヨンさんに従って俺もひそひそ声になる。

……にしてもなんで?

「救援者の君に頼みだよ……」

「そう言われると、何も言えないけど……」

「はは。大丈夫。君たちが危ないことは無いから……」

未来でも読めてるのか?何か先を見ているようで、俺にはサッパリだ。

「おい!君たち!」

「え、あ、はい!」

急に先生に呼ばれた生徒みたいにビックリして立ち上がってしまった。

声をした方向をくるっと方向転換して見てみると、ああ、聞き覚えのある声だと思えば、アーサーだった。

ムカついた顔で上から見下してやらぁ。

「君たちに一度チャンスをやろう!」

チャンスて……、俺何もしてないのに。

「明日の大会に君たちをエントリーに加えた!」

……これは、リヨンさんの思惑通りか?

「そこで君達が勝てばあの子と、釈放を約束しよう!君達にもまだこの世で生きる価値のある人間という事だ!しかし勝てなかった場合は……、わかるな?朝に仮釈放、一時に大会だ。準備をしておけ……」

言いたいことを言うだけ言って去っていく。


「リヨンさん……、これ読んでいたのですか?」

「まあ、一応ね。彼の役目はエンターテイナーだ。人を盛り上げるために一役は買っているというわけさ」

「役目を一応果たす、と。というか、元々明日の大会はお遊びみたいなものなんですか?」

「まあ、そうだね。建前ではそう。裏では討伐ランクの決定だ」

「なるほど……」

よく出来てるんだ。

「君たちがここに来たのも少し予想はしていた。君が救援者だということ……」

……この人は何者だ?他の力を持っている?

少し警戒をしなきゃいけないのかもしれん。

桜も手を強く強く握って伝えているのだろう。

「ああ。そんな警戒しないで頂けると嬉しいんだけど……。まあ、無理だよね。とりあえず訳とかは、後に話すから」

こ、この人、心の中まで読めるんじゃあ……。

「心まではさすがに読めないよ」

読めてるっ!

「にしても俺達を出す理由って本当にエンターテイメントとしてですかね?」

「はは。そうだね。君達には多分他に嫉妬心とか、欲望とかが渦巻いているんじゃないかって思ってる。ギタギタにのして君が言う助けたい女の子を完全に手篭めにするために。僕の場合は強さを認めて欲しい。そんな感じだろうね」

なるほど、な……。全てがわがままなわけだ。

「明日まで待つしかありませんか」

「退屈だろうけど、それしかないね」

とりあえずは今日ここで寝て、明日の大会に出ると。

唐突だ……。なんで俺が……。なんて少し考えて、溜息をこぼした。





「……ますたー……むにゃむにゃ」

ん……。

なんか重みを感じると思えば……。

昨日はその後食事を与えてもらえず、腹を鳴らしながら寝てしまった。

今日起きたのは太陽が西から登ってすぐのこと。

お腹に乗り俺を抱き枕代わりにしている桜を見つめながら起床した。

「おーい。桜」

「……ますたー。よう」

「よ、よう」

何その軽い挨拶。寝ぼけてんのかな?

起こすのも悪い気がするし、桜を抱え格子を背に座った。

「おはよう」

「あ、おはようございます」

既に起きている、いや、寝てないのか、分からないが、リヨンさんはスッキリした笑顔で俺に挨拶をする。

「そろそろ出ようか?」

「え?」

「君達が寝てる間に一人の人が来てね。大会の会場へ歩いて勝手に行けってさ」

「あー。午前中から仮釈放って言ってたな」

「まあ、そんな感じかな。君も外の空気を吸いたいだろう?僕は先に行くけど……」

「あ、はい。桜が起きたらまた……」

「わかった。この牢獄を出てすぐの所にコロシアムがあるから、そこの正門で落ち合おう」

「はい。分かりました」

「!?伏せてっ!」

急に大声を出すリヨンさんにビックリしながら、桜を抱きしめ身を小さく丸め込ませた。

この状態からの伏せは無理ですね。

「っく!なんだこれ!」

急な突風で格子の上部が吹っ飛び、空がよく見えるようになった。

「ええ!」

「道行くーん!来たよ!私が来たよ!」

こ、この声……。

「愛……。捕まってたんじゃあ」

「え!一瞬で逃げたしたに決まってるよー!」

「決まってるんだ」

「うん!捕まって起きて、そこら辺の護衛ぶっ飛ばして……」

本当に恋する女か?こいつ。

「ま、愛って……。白銀のスレイヤー……」

「名前轟き過ぎだろ」

「えへ!」

「……ん。ますたー?」

「起きたか」

「……うん、何事?」

「や!桜ちゃん!」

「……や。愛」

「こ、婚約者って……」

「こ、こいつです」

「えええええ!」

リヨンさんが一番動揺した瞬間だろう。

「なんで捕まったの!?アーサーより強いのに!」

「え、まじ?」

「アーサー?私を連れ去ったやつだっけ?誰だっけそれー?」

なるほど、お前の方が強そうだな。

「催眠ガスみたいなやつに遅れをとったんだー。そういうあなたは?まさか敵?」

「ち。違うぞ。この人は牢屋に突っ込まれてた」

「悪人?」

「……違う。……アーサーの側近」

「敵じゃん!」

「ややこしい!」

少し説明をさせてもらった。

「なるほどー。あのアーサーって奴は偽物のアーサーで……、えっとー」

「馬鹿なの?」

三回目だよ?説明。

「まあ、また説明しときます」

「う、うん」

リヨンさんの動揺は消えない。

にしても、予想外って……、なにを予測してるんだ?

腰が引けたまま去っていくリヨンさんを見送った。

「私達も行こう?」

「そうだな」

「にしてもなんでこんな所に?」

かくかくしかじか四回目。

「なるほどねー。じゃあ、もう行こっか」

「……あ、確かにもうお前に会えたし様はないか」

「わ、私に会えたって!もうー!喜んだ!」

「あ、うん。ただ、救援者の役目を使ってくれと言われてな」

「うーん。それは引くわけにはいかないねー」

「そうなんだよ」

「で、それは?」

かくかくしかじか。

「ふーん。大会ねー。私を巡って!いいねー!そのシチュエーション!君が負けることは無いしー!張り切っていっちゃおう!」

くそ、ちょっと曲解しちゃった。自分がヒロイン気取りだこいつ。まあ、ヒロインなんだけど……。

「まあ、役目もあるしな。さ、この街ぶらぶらしようか」

「……ご飯」

「お腹すいたな。そっか。ご飯食べよう」

「賛成!」

街へと出てから、街路を歩いてこじんまりとした中華のお店にやってきた。

「そういえば、愛?」

「何ー?道行くんっ!」

「今日ある大会のことはよく知ってるのか?」

「え?」

「いや、アーサーと面識あるみたいだし、この大会でも戦ったこととかあるのかなってさ」

「あー。そういうこと!いーや、ないんだよねー。ただこの大会のことは知ってるよー。この街を寄った時に何度かねー」

「詳らかに教えてくれないか?」

「まあ、知ってることで良ければだけどー。まずはそんな大きい大会じゃないんだよ、これ。多分来る客はみんなアーサーって人目当てだった気がする。出場する人は八人とかだった気がする。軍を率いてたり、なんか討伐関係の役目を持ってる人のチーム代表とか、個人が出る大会なんだー」

「なるほどねー」

ただ気になるのが討伐対象が変わるって話だけど……。

もしかして滅茶苦茶強い奴らが来るんじゃあ……。

ああ、緊張してきた。オシッコ漏れそう。

「まあ、大丈夫だよ!結局はエンターテイメント!」

まあ、名目上はな……。

「……食べた」

ちょいちょいと袖を掴んでごちそうさまの合図をする桜。

「よし、腹ごしらえもしたし、どこかぶらつくか?」

「……アイス」

「まだ食うのかよ」

「でも時間もないよ?」

「え?今何時だ?」

あ、ていうか……、リヨンさん正門に置きっぱだ。

午前九時過ぎ。二時間くらい待たせてへぺろ。

「急いで向かうか……」

受付なんかもありそうだし。

そそくさと店を出てコロシアムへと向かった。



「さ、来たね!」

「すみません。お待たせしました」

「大丈夫。待ってないよ。膝が笑うくらいしか待ってないよ」

「……ほんとすみません」

「冗談。さあ、行こうか」

「受付ですか?」

「そんなとこだね」

コロシアムへと到着すると既に観客席にチラホラ人が見える。

中へと入ってすぐ脇に大会参加者受付→、と書いた看板が立っており、それに従って中へと入っていく。

迷路のように長い道を抜け退会受付は闘技場、砂のフィールドのすぐ手前に置いてあった。

「参加者ですか?」

と、ハットをつけたお姉さんが声をかけてきた。

「はい。二名。アーサーの招待だよ」

「ああ!リヨン様と、ホーチミン様、でよろしかったですか?」

ベトナムの人?

「ん?」

もっかい。

「ん?」

「あってるよ」

あってねえよ。国籍ちげえよ。

「偽アーサーは多分名前が分からなかったから……、従っといて」

「は、はあ……」

にしてもなんでホーチミン……。この世界で知れ渡ってるとかどんだけだよ、ホーチミン。

納得はいかないが、とりあえず従うしかない。

「……ホーチミン?」

「真に受けちゃダメだよ。桜ちゃん。彼は道行くん改めホーチミン……」

「改めんなや」

「……??」

困惑の桜。

「俺の名前は道行な」

「……知ってる」

なんだコイツ。

「すみません。お手数おかけしますが、こちらの用紙にお名前と生年月日を書いていただけますか?」

「ああ。おーけー」

従って俺も書く。

「今回は何人エントリー?」

「前回と変わらず八名です。トーナメント方式、くじ引きで対戦相手は決まります」

「おーけー。時間は?」

「あと三時間ほどですね。控え室で待つか、外へ出てもらっても構いませんよ」

「なるほどね。どーする?道行君?」

「どうしたい?二人とも?」

「……お出かけ」

「ぶらぶらだ!」

二人とも意見は一致。

「じゃあ、外出てきます」

「うん、気をつけてね」

「はい」

待ち時間が多いこった。




俺達は外へまた出て、女の子の俗に言う最高の服との出会いを待った。

俺なんて、しぃまむらぁ。で、あ、パーカーだ!ってなって、無地のやつしか買わんぞ?

あ、しぃまむらぁ。こっちの世界にあるのかな?ねえよな。

手を幾度となく引っ張られ引きちぎれそうになる。

痛いがそれだけ二人が喜んで楽しんでいるということ。まあ、その笑顔が見れるなら、と、我慢我慢。

「きゃー、これ可愛くなーい?」

女子かお前。…………女子か。

「……かわぃいい」

いるいるクネクネしてぶりっ子する女。やめて頂きたい。桜だから可愛いけど。

「ここも、無料なんだよな」

「そだねー。ほかの仕事は他の人が!」

「役目の等価交換だな」

「いい例えだ!」

その後何店舗も何着も買って俺の両腕は紙袋で装備が完成した。

肉が挟まって痛い。だが、幸せなら……!

「道行くん大丈夫ー?」

「大丈夫、大丈夫」

正直死ぬ。

にしても少し緊張するなぁ。人前で戦うなんて初めてだし……。

「大丈夫だよー。道行くんなら確実にねー」

心読める人間ばっかなのか?

「読んでないよー。みんな読めないしー」

全部わかってらっしゃる。怖い。

「……そろそろ」

「あー。もうそんな時間かー」

「じゃあ、行こっか!私は観客席から応援してるよー」

愛の身が安全だとは言えないけど、こいつならまあ、何とかなるだろ。

俺達はコロシアムへと足を運んで、控え室のベンチでバクバクの心臓に対して深呼吸を何度もする。

「……大丈夫?」

桜はそんな俺の手を握って心配をしてくれている。

「ああ……。こういうの苦手なだけだから大丈夫」

「……私が守る」

「ありがとうな」

「……任せて」

これはビクビクしてる場合じゃないかもな。

「お前新人かぁ?」

いい雰囲気を醸し出している所に一人の大型の男が声をかけてきた。

「そうだけど」

「はっはっはー!ふざけるのも大概にしろよ?お前みたいなひ弱な男が出ていい大会じゃねえんだよ!」

「まあ、一応役割なんでね」

「女とイチャコラしてる奴は帰ってせっくすでもしてろ……」

「そうしたいのは山々だけど、役目を放棄する訳にはいかないだろ?」

「痛い目見るぞ?」

「戦ってからわかる事だろ?」

「……っち。鬱陶しいな。今捻り潰してやろうかぁ?」

ふと、上から見下ろす大型の男は俺の顔面を右の手のひらだけで完全に覆う。

「……殺す」

「あん?」

「……怒ってる」

「!?」

大型の男は急にビクッと肩を震わせ、後ずさった。

「さくら?」

「……守るよ。……戦闘力も測れないの?」

「……っち。まあいい。また試合でな、絶対捻り潰す」

……そこまでされるのも嫌だなあ。楽しんでいきたいわ。

チラホラと控え室に人も集まってきて、俺合わせて現在六人が集合している。

俺の方を見てイライラとしている人が多く、俺の肩身が狭い。ぎゅっと手を握ってくれてる桜の心強さをひしひしと感じていた。

にしてもアーサーと、リヨンさんが遅いな。

来てないのはこの二人だった。

「やあ、遅くなった」

やっと来てくれた、救世主か。

「リヨンさん」

ってあれ?リヨンさんと会話してから一層皆様の目がギラギラとし始めた。

逆効果だったようで……。俺の緊張もまた一層強まった。

「そろそろ抽選の時間かな?」

「そうみたいですね」

街をフラフラしていてあっという間に時間が過ぎていた。

「さあ、皆の衆きたまえ!勝つのは私だが!」

「えー、皆様お待たせ致しました。抽選の方を致しましのでフィールド内に集まってください」

アーサーと女の人……、多分新しい側近だろう。随分な美女が登場した。

その言葉を聞いて皆が一斉に立ち上がりそちらへと戦いの目線を変えた。

よかった。と安堵している場合ではない。俺も行かなきゃ。

桜に手を取られフィールドへと到着した。

「さあ、お集まりの皆様!アーサー様が登場致しました!」

「うあっ!」

周りの群衆の歓声に呆気を取られて尻もちを着いてしまった。

アーサーの人気は相当だな。

そして抽選が始まった。

とはいえ、くじを引いて当てた番号に名前が書かれていくだけだ。

八番目最後に引いた、俺、ホーチミン。

「はっはっはー。運ねぇなぁ。ま、先に潰された方が後々恥をかかずに済むかもな!!」

対戦相手は、あの巨漢の男。名前は優と言うらしい。ありがちすぎて存在感が……。

俺達の対戦は二番目、初めからリヨンさんが戦うようだ。

にしてもその次の相手は、早くも……、アーサー。

3割で相当……。本物の実力が怖い。

などと思っている間に、一回戦が……、終わってる?

あった歓声もそこにはもう無い、それどころか一切の音が聞こえない。

立っているのはリヨンさん。何をした?何もわからなかった……。倒れている相手を置き去りに、控え室へと。

「やー、緊張したよー」

「な、何したんですか?」

「え?一発殴っただけだよ?アーサーの特訓に比べればねえ」

過去に厳しいことでもされたんだろうか。

「さ、次は君の番だろ?」

「あ、はい……」

「せいぜい逃げ回ることだなぁ!」

横からのヤジが本当に鬱陶しい。

俺は巨漢の男と同じペースでフィールドに出た。

歓声が上がる中、ザワザワと何か話してる声や笑い声が聞こえてくる。

十中八九俺を笑ってるんだろう。よし、少しやる気出た。周りの人間の当たり前って当たり前じゃないんだぜ?

「俺と桜でぶっ飛ばしてやろう」

「……うん。当然」

俺はヒソヒソと桜に耳打ちをした。

そして、剣モードに即きりかわる。

「はじめっ!」

その一言で始まる試合。

巨漢は背中に背負っている斧を取り出し地面に振りかざす。

「うおっ!」

地面は割れ、怖さを思い知らせてくる。

「……大丈夫。桜に、従って……」

「う、うん」

「……右に五歩、ダッシュで」

瞬発力のテストかな?

全速力で右へ五歩進み、相手の地割れを回避する。

相手は攻撃にすぐ切りかえ、俺の方向へと斧を飛ばした。

「うおっ」

と、何とか剣の桜に手を引っ張られて、地面にはいつ配り避ける。

相手の力が全然わからないけど、どこかの組織の代表だ。強いのは確か、この目で見た。

「……左へ全力」

その後も幾度となく桜の助言に助けられ、避けてきた。が。

「す、すまん……、はあ、はあ。体力が……もたん」

色んなことをサボってきた俺に急に体を動かせと言われても無理難題だ。しかも、この間も戦ってたし……。

「……じゃあ、一発で、仕留めよう」

「あ、ああ」

「……一番最初に、使った技、覚えてる?」

「……あの、一閃とかいう?」

「……そう。……あれは瞬く間に敵の方向へと斬撃を飛ばす技」

瞬間の光……、閃光。そんな感じでつけられた技なのかな?由来とかも知りたいけど……、そんなことより……かっけえ。恥ずいけどめちゃめちゃかっけえ。

「それを打つのか?」

「……うん。上段に構えて」

「お、お」

俺は言葉通り上段に剣を持ってきた。

「……力の全てを降り注いで降って……!」

「おっらぁぁあ!」

俺は声と共に剣を奮った。

「……一閃」

桜がそう言葉を発した刹那、剣先から眩い光が一瞬、一線引いて相手へと向かっていく。

「……あ、手加減」

「え?」

そういった言葉が俺に届く時には、一線は消え、相手は逆方向の壁に衝突して気絶していた。

「……やっちった」

「うん。凄い」

そのまま二回戦へと突破した。

わけだが……。

「疲れた……」

「……大丈夫?」

体力は無いし、あの技はなんか、モーションは長いし、避けられそう。やばい、勝てる気がしん。……でも負けたら、二人とも失うかもしれない。

俺は救援者だ。自分の守りたいものくらい守るのも、自分の救援だろう……。頑張ろう。この二人といる楽しさを続けていきたい。俺のモチベーションだし……、って、何言ってんだ俺……。でも、本当に世界が変わって、楽しく生きてんなぁ。

それを邪魔されるなら……、よし、全力で行くしかない。でも……、だいぶきつい。

「ああ。大丈夫だ。……俺が守るよ」

「……やだ。……かっこいい」

「だろ?」

「……別人みたい」

「おっと、それはどういう意味かな?」

「……冗談。私が好きな……、ますたーだ。次も行こう……!」

「……ああ」

言葉とは裏腹に怖い思いを背負いながら。





さて、出番か………。

あっという間に自分の番が回ってきた。

緊張で固まってほかの人の試合は全く頭に入ってこない。リヨンさんの試合も馬鹿みたいに早く終わってしまった、俺らだ。

誰もが俺に大丈夫というが、これ程自信が無いことは無い。

皆が何を俺に期待するんだろう。勝手に期待して残念?知らねえよ……。

緊張もあいまってか、頭の中が色々な感情でこんがらがる。

「……ますたー」

「わかってる」

「両者!はじめ!」

「さあ、貴様が相手か?はっ、一瞬だな!異世界の闇がっ!光で消し去ってやる!」

開始アーサーは光の速さで俺の懐へと、入り込んだ。

「……っ!」

何とか桜が間に入り、剣で相手が抜いた剣の威力を相殺する。いや……。

い、一撃でこの重み…。

後ろへと剣は弾かれ、胴体が丸裸だ。

くそっ!桁外れかよ!

アーサーは、体を回転させ、遠心力で剣の力を増幅、すぐ様俺への攻撃を仕掛けてくる。

「!」

「……間に合…」

「はっ!遅いなっ!」

全く見えない…。俺の体……、桜、アーサー、もう何が起きてるのかさっぱりだ。

アーサーは、回転していたと思えば、俺は後ろへ吹き飛ばされ、尻もちをついている、そこから上を見上げると、上から剣を振ってくる。

防戦一方、桜が防ぐだけ。

結局、勝てないんじゃないか?

「私の力を知っているか!?」

「知らねえよ……」

感情が爆発しそうだ。あー、イライラする……。なんで俺がこんなことしなきゃ……。二人は助かってるんだ……。

アーサーは剣を振り下ろしながらに言う。

「私の力は聖なる力。悪を倒すためなら百倍の力を出せるだろう。悪を全て清らかに……。悪を撃つためなら自然だって、誰だって私に力を貸すだろう」

くそ、チートかよ……。教祖様かよ。ムカつくな……。

どう勝てって言うんだ。桜が押されてるんだぞ?

「……ますたー、落ち着いて」

「桜?」

「……大丈夫。私がついてる、よ」

「お前は」

「……ん?」

「お前はなんで俺を信じるんだ?」

「……信じる?」

「俺が勝つんだって知ってるみたいで……、それが当たり前みたいで」

「……知ってる。私のますたー、だもん。守るって、言ってくれたもん……」

「だからって……」

「……身を犠牲にしてまで、私を助けてくれた……。言葉で私を助けてくれた……。そういうことをしてくれる人に、私が全てを、かけたいと思うのは、だめ?」

「だ、ダメじゃないけど……」

「……じゃあ、いい。私を守ってくれることを、知ってる。信じる、それは違う。ますたーは、そういう人。救援者……、みんなを助ける、だから……、私は、愛は、ますたーを支える……。ひとりじゃないよ……。一緒に居るから……、できる……」

知ってる…。俺がみんなを助けれる?

でも今見せられてるのは……、守られて何も出来ない自分……。

いや……、なにかしたっけ、俺。カッコつけて決めゼリフを言って、何もしてない……。こいつらを失うのは怖いはずなのに……、それ以上に悲しいことなんてないはずなのに……、この、偽物の、アーサーとか言うやつを……、俺は怖がってる。

……何を怖がってるんだ俺は。何もしてない。何をしようともしてない。俺は救援者だ。こいつらを守るって言ったろ?

なんで自分自身がこいつらを悲しませてんだよ……。馬鹿か俺は。これじゃ結局、群衆と一緒だ……。何もしないで何も出来ないのは当たり前だ。

全力出さなきゃ何も出来ない俺が、何もしないなんて存在価値ないよな……。

「道行くーん!」

ハッとした。自分の世界から目を覚ましたとでも言うのか。愛の声が聞こえる。

「それに勝って私を取り返して!私を助けて!!!!!!道行くんなら余裕だよっ!だって!そういう人じゃんか!」

そういう人、か……。

ゴチャゴチャゴチャゴチャ……、俺も面倒だったな。こんな可愛いふたりがいて……、こんなに愛されて、楽しませてくれてんのに、俺は何も知らずに失う?

俺はなんだ?救援者だ。

「俺が今……」

「あん?」

「本気出さなきゃいけない………」

「……ますたー」

「俺が救うっ!!」

「はっ、言葉ではなんとも言える!行動で示せっ!この悪党が!」

「悪党はどっちだ!」

スロー……モーション?

「な、に……?」

アーサーの剣先の突きが俺に向かってくるのがよく見える。俺は……、こんな簡単な攻撃も見えてなかったのか……?いや、見えるようになったのは……、俺の、特徴?

剣先を桜で振り払い、相手の喉仏に剣先を当てる。

「……ますたー。本気」

「ああ。今までゴメンな。これが俺の本気だよ」

「ほざくなっ!」

アーサーは五メーターほど跳躍で後退。

「はあああああっ!」

気合を貯めて光を俺に向けてはなった。

「桜」

「……うん」

「一閃ッ!」

俺と桜の言葉が重なり合う。力と共に。

その力は一線、光を打ち砕く。

「なっ!ふざけるのも大概にしろっ!お前は悪だっ!」

「哀れだな……。俺が何かしたか?お前に何かしたか?攻撃が当たって……、俺が悪?ふざけるのも大概にしろ。周りを見てみろよ?お前のそのふざけた理由が正義が人を悲しませる!何が正義だ!誰が悪だっ!結局は自分の価値観だろうがっ!自分に邪魔な存在なだけだろうがっ!」

「う、うるさい!」

「……ますたー」

「ん?」

「……新しい、技」

「使うのか?」

「……今なら、いける。……一撃」

「おっけ。あいつに教えてやろうか。強さで物事を測れるなら、俺はその土俵で戦ってやる。勝ったやつがお前の言う正義とやら、なら、俺が正義だ」

「ほざくなぁああああ!」

相手は瞬間移動をして、俺の懐へ入る。

「……二連」

そう、桜が呟く。

「……剣を振るって……!」

「うらぁっ!」

俺は思い切り横に剣を振るった。

「はっ!当たらないっ!」

しかし、読まれていたのだろうか。相手は難なくよけて、背後へと回る。

「……ますたーの、今の体なら……!」

急に桜は振るった逆方向へと振るい始める。

俺は瞬時にそれを理解し、逆方向へ力を上乗せする。

「……流石」

刹那に剣を二度振るう。

相手に行動を読まれたとて、二度目の斬撃が相手を撃つ。

「ぐああっ!」

これが二連……。

「……相手の予測に予測で対抗」

「逃げた場所にもう一発先回りってことか?」

「……そう。桜、一人じゃあ力が足りない、そして、体全部を、動かせないから」

なるほど。俺が力を、体を動かせないと力が乗らないからか。

桜がやってるのは俺の腕を振り回してるだけだ。一閃は、俺の上段から下段に降る力を利用して使ってる。要は俺の全身の力がいるわけだ。

今の俺なら桜に引っ張られても直ぐに対応してそっちの方へと体の向きを変えて打撃を与えられる。

「っと、まだ立ち上がるか……」

一度壁側まで吹っ飛ばされたアーサーだが、ヨレヨレのまま俺の方へと向かって攻撃を仕掛けてくる。

「まだやる気みたいだな。頼むぞ。桜」

「……当然」

相手はもうヨレヨレ。簡単に攻撃が読め……、あ、れ……?体がフラフラとしてる。まだ一分くらいしか本気出してないのに……。

俺はドサッとその場に倒れた。

「ますたー……!」

動揺は会場も一緒。盛り上がっていた雰囲気が一気にないものに。

「は、ははっ!結局は悪は滅されたのだ!私が正義だから!神は私に!」

「……く、そ……」

なんだこれ……。

「はっ!ペテン師が何を馬鹿なことを!」

「え?」

ぼやぼやとした視界の中、人間型の桜が俺を抱いているのが分かる。

それともう一つ……、アーサーが二人いることも確認できた。

ああ。本物が……。リヨンさん、ありがとう。

にしても、一分の本気は短すぎだろ……。体の関係とかもあるのかな。

……俺喋りすぎ?

わかった、気絶する。

それ以降、記憶がなくなっ………………なくした。

少しだけバトルを織り交ぜながら書きましたが、やっぱり難しいですし、情景が伝わるか不安ですねぇ。

でも、やっぱりかっこいいの想像しながら書くの楽しいですし、また増えるかもしれません( ˆᴗˆ )


また来週です!

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