悪
「ん……」
眠い眼を擦りながら布団を自分の体から剥がす。
何か長い夢を見ていた気がする。ファンタジー?
あれ、なんも思い出せない。まあ、夢なんてそんなもんだよな。
と、夢の事はさておいて、窓から今日の天気を確認した。
アスファルトに恨みでもあるのか、と言うほど強く打ち付ける雨。雷も強く鳴り響き、怒りを顕にしていた。
豪雨だな。
「学校か」
雨の日だとさらに憂鬱だ。
また今日も虐められるんだろう。でも行かなきゃ……。
学校休みにならないかな、なんて思いながら身支度を整える。
ため息を何度も吐いて……。
さて行くか。
傘をさして外へ出る。鍵を閉めて登校をした。
道が少しずつ川になって自分は傘なんて関係なしにずぶ濡れになっていく。
さらに車が俺を水浸しにしたくて仕方ないらしい。
何台も水遊びの度が過ぎたレベルで水を掛けてくる。
はあ……。辛……。
気が滅入る思いをしてやっと学校に着いたが殆ど登校してくるやつは居ない。
やっぱりミスったか?
でも本日休講の張り紙も出されていない。
取り敢えず教室へと向かう。
と、
げ……。
嫌な奴らだけが教室の机に座って屯していた。
「よお!久しぶりじゃねえか!道行くぅん?一週間も断りなしにどこ行ってたんだ?」
一週間休んだ?
「え?俺は一回も休ん……ぐっ!」
言葉を発する前に俺の鳩尾は刺激を受ける。
いってえ……。
「この間は勝手に帰っちゃうしよおー?」
勝手に帰った?何言ってんだ?俺は休んだことは……、無い、よな?
ってか、なんで学校来てんだ?行かなけりゃ……。
あれ?デジャヴか?前もこんな感覚に……。
「うっ……」
「おっとー、よろめくのはまだ早いよ!勝手に休んだ罰を与えないとなー!」
ギャハハハ!と笑う男たち。
「や、やめて!」
え?
そこに一人、女の子が勇気を振り絞って俺の前に立つ。
ポニーテールを揺らす華奢で白い肌の女の子だ。
目立つことの無い大人しそうな子だ。なんで……この子が。
「なんだあ?お前は……。いっつも影でこっちをちらちら見てきてよお?俺のこと好きなの?はははは!」
「ち、違うよ!貴方達がこの子をいじめてるから!」
「何?救いの神様?それともそいつのことが……。ギャハハハ!これは傑作だあ!良かったなあ。可愛い彼女が出来てよお?でもま、お前のものは俺が使えるし?この女をどれだけSEXしようが構わないってやつだろ?」
女の子はオドオドとしているがどこか覚悟を決めた様子で動じない。
「や、やめて!」
急に手を掴んでキスを迫る男に少し動揺を隠せないが、俺の前からどこうとはしない。
「ちゅー」
どんどん顔を迫らせる男に目を瞑って見ないようにする彼女。
「……っー!」
「何してんの?」
「あ?」
俺は口からぽっと言葉が出た。
そして、顔面を右拳で思い切り付く。
な、何やってんだ俺。
……いや。この子が困る必要はないんだよな。俺のせいで。俺はなんでこんなこと……。いや、俺だから。俺は困ってる人が見過ごせなくて……。幸せになって欲しくて。
……俺は、俺は。
自分の中で頭がぐるぐると回り続ける。
「なにしやがんだ!お前の分際で!弁えろ!」
「お前の分際?弁えろ?何様だ……」
「何様?お前を使役して玩具にしてやってるだろ?楽しいだろ!?俺の言う通りにすればいいんだよ!」
「なんで俺がお前の……」
「俺の方が強いからなあ……!お前みたいな雑魚は俺に扱われているだけでもありがたいと思え!」
「雑魚……?弱い?確かに俺は弱いな。立ち向かう勇気もなかった。でも今は。逆にじゃあさ……」
「あん?」
「俺が強ければお前を使えるんだな?」
「ギャハハハ!そんなことできるわけっ……」
思い出してくる。理不尽で学校を去ったこと。自分で決めた道だ。アイツらのために割く時間はなかった。
そして、違う世界へ飛んだこと。色々と観てきた。
本気で戦ってきた。
俺は一撃、拳を床に当てた。
刹那、床はすっぽりと抜け、俺と一緒に昇降口まで降りた。
「な、なな、なんだお前!」
「俺に使われるんだよな?」
「い、嫌だ!」
一瞬にして焦燥の顔に変わる。
「さっきの余裕はどうしたよ?」
「死にたくない!」
「殺すなんて誰にも言ってないだろ。ってか、人には散々死ねって言っておいて結局自分は助かりたいのな。いいご身分だな」
「や、やめてくれ。すみませんでした!謝るから!な?」
「……っ!ふざけんなよ!俺が何回謝った!最初の頃何度も何度も何もしてないのに!なんで!弱かったから?分かってるよ!でもなんで俺がそんなことされなきゃいけねえんだよ!てめえがやった罪を俺がやったらなんで許されると思ってんだよ!」
「ひいいっ!」
化け物でも見ているかのように怯える。
「お前は人の命を軽く思いすぎなんだよ。命は一人一つしかない。これから人を殺した、いじめた、っていう後悔と責任を持って成長しなきゃならない。それがお前にできるのか?生きたいと叫ぶお前は人に何したか分かってるのか?」
「……」
っくそ。
涙ぐむ男を見て一層に腹が立つ。
「人に死ねって言った重い意味を、辛い思いを自分が実感したんだったら二度とやるんじゃねえぞ」
「……はい」
全く……。まあ、思い出しただけ良しとしようか。
俺は三階へと跳躍する。
「お前らもやるか?」
散々げらげらと笑っていた男たちは尾をまいて逃げていった。
恥ずかしい奴らだな。
「大丈夫か?」
「え。う、うん。本当は助けるつもりが、助けられちゃった……」
「そんなことない。君のおかげで勇気を出せただけだよ」
「そんな……。……ありがとう」
「こちらこそ、ありがとな。……にしてもなんで助けよう、なんて思ったんだ?」
「見てて辛かったから……。みんなが笑ってる間、私の心はキュッと寿命が縮まったように苦しかった。見ていて何もしない自分。後悔しかなかった……。傍観者も人を傷つけているのと何も変わらない。だから、勇気を出したかった。誰かが苦しんでいる姿が私にとってとても苦しかったから」
「頑張ったんだな」
「結局、どうにも出来なかったけどね……」
「いや、もともと誰かに頼るなんて……。自分がしっかりしていれば、こんなことにはならなかった」
「ううん。私達も周りもみんな手助けしない。貴方という存在を消していた。皆で手を取り合っていればこんなことには……」
「……もともといじめっ子がいなけりゃ、って言うけどそれは無理なんだろうな」
「どうして?」
「そういう世界だからな。なんでいじめちゃいけない?って言われても分からんし」
「……人を傷つけて、良いわけが!」
「それは理由じゃないよ。ただの価値観だ」
「……じゃあどうしたらなくなるんだろう」
「俺達が大人になっていくしかないんだよ。いじめることが恥ずかしいって言う価値観にしていくこと。俺達が変わらないと、周りが変わって俺達が変われば悪は居ずらくなる。世の中の価値観が変わらないと。いじめっ子を更生するのは時間がかかり過ぎる。その子の事を全て知らなきゃ直せない。思考から、行動から、全てを。今まで生きてきた全てを知らないと。その人がどういう人でどういう考えを持ってるか知らないから。正論を振りかざしたって聞きゃしないさ。何も分かってないから。俺もそいつらも」
「……?」
「まあ、わかんなくてもいいよ。でも俺達が強くなれば何も起きない。皆と分かち合えば何も苦労はないよ。感情を閉ざすからみんなもどかしいんだろうな。あ、独り言だから気にしないで」
「……そう」
「とりあえずありがとう。助かったよ」
誰か一人が悪いなんてことはない。結局関わってるみんなどこかしら悪い。
一人を悪人にするから何も変わらないし成長しない。
なんてことを心の中に閉まっておこう。
「もう、行くの?」
「ああ。やらなきゃいけないことがあるからな……」
「また会える?」
「……どうだろ?」
「もし、会えたら!」
「ん?」
「次はちゃんと挨拶交わすよ!」
「なんだそれ」
ふっと笑ってしまった。
「じゃあな」
「うん!また!」
書くことないですね、また来週!
俺潔いい!




