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傍には。  作者: matsuya
3/4

傲慢な王子

第二王子、弟視点です。



奪ったのに、離したのに、傍らにおいたのに。

彼の心はいつもあいつの傍にあった。



だから、俺は





「レオンが生まれてよかった。」

「兄と違って何と優秀なの。」

「レオン様こそが、王家の血の継ぐものよ!」



レオン=ヴァシーリェヴナ・グレーゲル。

グレーゲル王族の第二王子として、俺は生まれた。

俺は生まれた瞬間から、全ての人々から祝福されていた。

元々容量もよかったのか、大した努力もせずに大体の事がこなせた。

その度に、先ほどの言葉がかかる。自然と誰かと比べられていた。



グレーゲル王家の第一長子、エドワード・“エディ”・ウィルバー・グレーゲル。

父親の王に似た外見の俺とは違い、母親の王妃似の兄は外見から真逆の存在だった。

絹のような透ける、白金の髪。白い肌。大きな薄紫の瞳。一見、女性と見間違うほどだった。

そして俺の兄は、病弱だった。

それ故に、身体も小さく、いつも病床に臥せている日々。

いつも苦しそうに顔を歪めて、荒い呼吸をしている兄。

状態が落ち着いても、すぐにぶり返す始末。

原因不明の病に、世界各国から色んな医師や研究者、更に呪術師まで来たが一向に回復しない。

莫大な資金をかけても、一進一退が続く兄の病状。

始めは熱心にみていた両親の目は、日に日に落胆していった。

それとは反対に、日に日に成長しあっさりとこなしていく俺に、いつしか両親は兄分の期待を寄せていくのがわかった。

また使用人たちの兄に対する失望の声も聞こえるようになった。



俺はいつの間にか、兄を見下していた。



(俺は、こんなのとは違う)

(こんな風には、なりたくない)

(ただ先に生まれただけで、こんな奴に負けるはずない)

(俺は愛されて当然の存在、兄みたいに疎まれる存在ではない)

(こんな奴、王になれる訳がない)

(全てが俺の方が上で当然だ)



俺こそが、次期王に相応しい男。

全国民に羨望の眼差しを向けられる男。

全国民に祝福され、愛される男。



そんなある日。

俺はいつものように剣術練習を終えて、自室に戻る途中に、たまたま兄の部屋を通りかかると



「エドワード王子!やっと体調が戻ったばかりだというのに、何をなさってるんですか?!」



兄の部屋から侍女の焦る声が聞こえた。

少しだけ兄の部屋の扉が開いているので、久しぶりに兄の姿を見ようとちらと覗くと



侍女が寄り添い中、辛そうに机に向かう兄がいた。



「…ごめん、でももう少し頑張りたいんだ。」

「病み上がりですのに!またぶり返したら、大変でしょう?」

「せっかく、頑張れそうなんだ。少しでも頑張れるときに、頑張りたいんだ。」

「…お気持ちは察しますが、やはりお身体が…。何故そんなに?」

「…だって僕は…」


「だって僕は、次期に王になるから。」



その言葉を聞いた瞬間―――衝撃が走った。



何を言ってるんだ?この男は?

王になる?そんな身体で?

病弱で軟弱で、

5歳も下の俺にもう少しで、身長も抜かされそうになっているのに?

いつも寝てるだけの奴が、この俺に勝とうとしてるだと?

俺より、王に相応しいとでも?

俺より、愛される存在だとでも?

俺より、上だとでも?



ああ、腸が煮えくり返りそうとはこのことか。

下等な存在に、侮辱された。

何という、屈辱だろう。



身体中が燃えるような衝動。

反対に頭の中は、真っ暗な冷たい憎悪に満ちていく。



こいつは、俺より、下の存在。

分からせないと、いけない。



実力はこのままでいい。既に実力は俺の方が上回っているのだから。

そう思っていても、日々の鍛錬にますます力が入る。

それより、どうやったら兄の周りから、人がいなくなるのか。

どうしたら兄を絶望させられるのか。



――――まず兄が周りから失望させることが優先だ。

確実に王位継承が俺に回るようにしていくことが必然。

そして、兄の全てを順番に奪ってやる。



そう思った俺は、以前に増して公務をこなしていった。

積極的に城下へ視察に行き、国民にも顔を認知させる。

また他国への視察、交流にも積極的に顔出すことで、次期王が俺だと誘導を惜しまない。



そして、どんなに兄に状態が落ち着き、公務が出来そうだとしても

「兄さんを無理させて、状態が悪くなるのが心配だ。だったら、僕が代わりにやるよ。」

そう言って、兄の心配する弟のフリをして、兄の公務を常に妨害した。

あいつが一度だって、城下へ視察や他国との交流を許してやるか。

ずっと、部屋に閉じ込めてやる。



「兄さんは身体が弱いからね。僕が兄さんを守らなきゃ。」

「皆兄さんを助けてやってくれ。僕は大丈夫だ。」

「僕が、兄さん分までやるから。」

従者たちに目をかけて、常にそう言っておく。

そうすることで――――――



「第一王子はグレーゲル王族の殻潰し。」

「王族の、しかも第一長子なのに、何をしても平民の子より遅い。」

「本当に何も役に立たない王子。」

「平民たちの税でのうのうと生きてると思うと、腹立たしい。」



日に日にそんな声が、俺の耳まで届くようになった。

ああ、何て気持ちいい。

兄を傷つけるのは。気持ちがいい。

もっと、俺に屈服しろ。もっと、絶望しろ。

二度と俺に対立するな。愛されようとするな。



兄の病状は依然として一進一退が続き、たまに心配と称して兄の顔を見る。

兄とは違い、成長が著しい俺の姿を見るたびに、兄の顔色が変わっていく。

気づいているんだろう。王位継承は俺になることを。

全てが順調だ。そう思った。

そうしてリーヌス王から正式に俺に王位継承された。

これで奴から全て奪うことが出来た。

これで思い知るだろう。俺の全てに負けていることを。



「兄さん。貴方は王に相応しくない。」



この瞬間の兄の絶望した顔が忘れられない。

やはり、兄を傷つけるのは気持ちがいい。

その傷は深ければ、深いほどいい。

兄の中での俺が、どんどん大きくなる。

これでいい。これでわかっただろう。

絶望に打ちひしがれろ。俺に屈服しろ。

お前はただの役立たずの王子。殻潰しの王子。

お前は、一生俺が飼いならすモノ。




――――




なのに。なのに。なのに。

何故、お前はそんな顔をしてる?

何故、お前はそんなに幸せそうな顔している?

お前の周りは、第一王子にもかかわらず、たった数名の従者しかいないはずなのに。

お前の部屋はいつの間にか、王家でもっとも小さく、隅の方に追いやったというのに。



ある日、庭園で散歩している兄を、数年ぶりに見た。

兄は相変わらず、身体が小さく、線が細く、とても男には見えない。

しかし、以前に見たときとは違い、顔色は良く、傍らには見慣れない黒髪の騎士がいた。

そして、騎士に向けて幸せそうに笑った。



そう、兄が幸せそうに笑った。

今までに見たことがない顔だった。それはそうだ。だって今迄見てきた兄の顔は、いつも辛そうにしているか、全てを諦めたような自嘲した顔。

何故、こんな顔をしてるんだ。何故、俺の知らないところで、そんな幸せそうに笑う?



たったそれだけで、俺は屈辱を味わった、あの日を思い出した。

まだ、こいつは屈服してなかった。絶望してなかった。全てを奪ったはずなのに。

またあの感情が俺を支配する。腹立たしい。憎い。何故、何故、何故、何故。



すべて、奪ってやる。

兄を幸福にさせる者を全てを排除してやる。



「…兄の傍にいる騎士は誰だ?」



俺に仕えている従者に問いかける。従者は俺の吹き荒れた感情に気付くことなく、何でもないように答えた。



「ああ、フラン・ルードヴィクですね。有名な騎士です。最近、エドワード王子の騎士になりました。先祖帰りで黒髪黒目の容姿をしているそうですよ。」

「有名な騎士?」

「そうです。レオン王子も聞いたことないですか?黒髪の人形兵の噂を。貧民出身ですが優秀すぎて、王家直属を許された騎士です。かなりの変わり者で、エドワード王子の騎士を志願したそうですよ。」

「…兄の騎士になりたがったのか?」

「はい、あくまで噂ですが。ですが、フランが騎士になった後は、エドワード王子の状態も安定しているそうですよ。どこまでも優秀な騎士ですね。」

「………そうか。」



ああ、何て全てが腹立たしいんだ。

兄が幸せそうに笑っているのも。

あの騎士が俺ではなく、兄を選んだことも。

苦しい、憎い、許されない。



あいつから、あの騎士を奪ってやる。








奪ったのに、離したのに、傍らにおいたのに。

彼の心はいつもあいつの傍にあった。



だから、俺は



兄を殺すことにした。



「兄さん、国のために死んでくれない?」



これで全てを奪える。

そう、これで全てを。

こいつの存在さえ、消えれば。

騎士の心も奪える。



俺は確かに騎士の心を奪った。

しかしこのときは気づかなかった。



騎士の心を奪うどころが、壊してしまったことを。



兄が亡くなったとされた日、国中に、化け物のような咆哮が響いた―――――



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