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妹のいる生活  作者: むい
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第九十六話 隠者の独白(その四)


 隠匿する。

 韜晦する。

 不可視化する。


 それは別に、『私だけ』と云う制限はない。


 感じさせない。

 感知させない。

 悟らせない。


 それは別に、『私以外』でも構わない。


『見えない』というのは、強力なアドバンテージだ。


(雪精は、私の殺気が分かると云った)


 ならば、殺気がなければどうか?

 攻撃する主体である私ではなく、既に設置した罠になら、『私の意志』は残らない。


 構造は至ってシンプルだ。

 地面に、接触感知型の魔術式を書き込むだけ。

 踏めば、その時点で発動する、豪炎のトラップ。

 それを、無数に設置する。


 自らが手を下さずに殺す事こそ、暗殺の真骨頂。


 あの雪だるまが私に追撃を仕掛けた時。

 そして、溶け落ちる雪だるまを見て、エルフが駆けだした時。

 私の炎は、最大の効果を発揮することだろう。


 暗殺の基本は、『意識の外を狙う』こと。

 何事かに注意を逸らして、その間に成すことだ。


 さあ、雪精の騎士に、もう一度仕掛けよう。

 そして、私のトラップを堪能して貰うのだ。


 接触感知型と云っても、この術式は、私に対しては働かない。

 だから、足場に不審を抱くことすらないはずだ。

 私の見立てでは、あの雪だるまに第六感はない。

 躱すことは不可能だろう。


「…………?」


 しかし、先程からこちらに向けられる、この感覚は何だろうか?

 目をやると、銀髪の幼女がジッと私を見つめていた。

 ただ単にボーッと見ているような感じだ。

 庭に飛んできた鳥や蝶々でも眺めるかのような呑気さだった。


(何だ……? まさか私が、見えているのか?)


 移動する。

 視線がついてくる。


 跳躍する。

 目線が追いかけてくる。


 ――間違いない。

 信じがたいことだが、あの幼児は、私が見えている。


 何故?

 どうして?

 どうやって?


 私は逡巡する。

 雪の騎士を最優先で倒して退路の確保をしようと思っていたが、『目』たりえるあの幼児を、先に何とかすべきではないのか?


(殺すのか? 子供を……?)


 一瞬、胸が痛んだ。

 けれど、思い直す。


 こんな所に、本物の子供が来るはずがない。

 きっとあれも、精霊の一種。

 でなければ、私の隠匿を見破れるはずがない。


 そう思おう。

 そう考えるより他に、戦闘を続行する事は出来ない。


 私は標的を雪だるまから、別のものへと変更することに決めた。

 と云っても、雪だるまの周囲は既にトラップでいっぱいだ。

 引っかかってくれるなら、それはそれで構わない。


(まずは、あの魔壁を突破できるかどうか……)


 幼いふたりを守護する、あの壁。

 私の雷撃を受けて、傷ひとつ無い。

 どれだけ強大な魔力なら、そんな防壁が構築できるのか。


 いや、きっとあのエルフ単体の魔力ではない。

 おそらくは、あのロッド。

 あのロッドが、桁外れの逸品であるに違いない。


 道具のランクはみっつ。


 ひとつは、魔力すら籠もらぬ、ただのモノ。

 次が魔力を帯びたり魔石を動力とした、魔性武器や魔道具。

 ここまでは、あくまでも『人』に属する。


 そして、『人以上』の存在の作り出したもの――それが『天啓具』。


 畢竟すれば魔道具とは、天啓具に近づくための模倣品である。

 尤も、転位門の様に、人の手によるものでも奇跡と変わらない魔道具や、天啓具に匹敵、凌駕する技術もかつてはあったらしいから、一概に魔道具が天啓具の劣化品と決めつけるわけにはいかない。

 けれども、大体において天啓具は、人の作り出した武具・道具とは隔絶した存在であることは間違いない。


 あのロッドは、もしかしたら、それの可能性がある。

 エルフの聖域ならば、聖遺物と呼ばれるような天啓具の至宝があってもおかしくはない。


 あれは、そこから持ち出されたものの、ひとつなのではないだろうか。

 あのロッドが天啓具ならば、あのエルフの異常とも云える魔力量の説明が付く。


(いずれにせよ、エルフをおびき寄せて、暗殺すれば、防壁を消せるはず。騎士とエルフが消えれば、あとは幼児ふたり)


 童女の視線を元に、エルフの動きを誘導できないだろうか?

 誘い出すのだ。

 見えるというのならば、その見えることを利用する。


 そう思い定めた私の身体を、何かが触った。


「――ッ!」


 思わず身を竦ませてしまった。

 ホールの中には、他に誰もいないはずだ。

 それなのに、私は今、確かに誰かに触られた。


(まさか、私以外に不可視化しているものがいるとでもいうのか?)


 見渡しても、何も見えない。

 思わず距離を取るが、その瞬間、また触られた。


「位置の特定は済んだ。あとはスイッチを切るだけだ」

「――は?」


 その、瞬間だった。

 ちいさな少年が呟くと、私の行使している術式、その全てが消し飛んだ。


 隠匿の魔術も。

 設置型のトラップも。

 身体強化の魔術さえ。


「なっ……!? 嘘ッ……!?」


 感じるのは、確かな魔力の喪失。

 一切の無防備。

 魔術と云う名の剣と鎧が、一瞬にして消え去った。


(何だ、これは……ッ!? これさえも、ロッドの力か……!? それとも、あの精霊の少年が……!?)


 兎も角、再起動を――。

 私が術式を再び纏おうとした時、雪精は既に距離を詰めていて、氷の刃を喉元に突きつけていた。


「動くな、魔術師。動けば斬る」

「――ッ!」


 この警告は、ブラフではなく、本気だろう。

 少なくとも、手足を切断するくらいは、やるはずだ。


 しかし、即座にそれをしないのは、私から情報を引き出すつもりなのだと理解している。

 ならば、その間に、脱出できないものだろうか。


 相手の全貌はわからない。

 だが、このメンバーは危険だ。


 間違いなく、私たちの敵になる。

 皆にそれを、知らせなければならない。


 こんな所で、終わってはならない。

 大嫌いな人間と、そして同族に思い知らせるためにも。


「まずは顔を見せて貰おうか」


 雪精は剣を突きつけたまま、氷の魔術で腕を作って、私のフードを剥ぎ取った。

 戦闘態勢は、一切崩すつもりが無いらしい。

 油断と慢心をしない相手というものは、矢張り、やりにくい。


「ほう……」


 雪だるまは、ほんの少しだけ驚いた風な顔をした。

 私の種族が分かったからだろう。

 向こうの方では、幼い少年少女が、私の容姿に興味を示している。


「にーた、にーた、おめめみっつ! ふぃー、はじめてみた! ふぃー、にーたすき!」

「リュネループ、か……」


 そうだ。私はリュネループ族。


 魔術の扱いに長けた三大種のひとつであり、『第三の目』の価値から、能力的に劣るはずの人間に狩られる側の――哀れな少数民族だ。



 新年、あけましておめでとうございます。

 本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

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