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妹のいる生活  作者: むい
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第八十七話 心臓との攻防


 寄生心臓にどう対処するか?


 俺は剥がしての排除ではなく、攻撃をしてみることに決めた。

 要領は邪精の核を壊すことと変わらない。


 魔石経由で心臓に干渉し、破壊を試みるのだ。

 なまじ魔石に繋がっているから、俺からも干渉が出来ると云うわけだ。


「……アル、ダメッ!」


 俺の考えを悟ったらしいエイベルが、声をあげて制止した。俺は急停止する。


「どうしたのさ、エイベル」

「……心臓には、決して触らないで。でないと、アルも飲み込まれる」

「は……?」


 それって、俺も一部にされてしまうってことか?


(危ねェッ!)


 冗談じゃあないぞ、そんなこと。

 しかし、この心臓、そんなことまで出来るのか。


 考えてみれば、何かに干渉して乗っ取ると云うのは、俺の根源魔力へのアクセスと似たものだ。

 ならば、あちらも同じようなことが出来ると考えなければいけなかった。

 不用意すぎたな、エイベルに感謝だ。


(こういう迂闊さは、気のゆるみのせいだな。或いは、実戦経験の無さ故か)


 俺は魔石と繋がっているが、そのパスはフィーの魔力を使ってもいる。

 つまり、最悪の場合、大事な大事な妹様にも被害が出たかもしれないのだ。

 そんなことになれば、悔やんでも悔やみきれない。

 気を付けねばならない。


(方向転換――発想を変えるんだ)


 触れずに攻撃をすれば良い。つまり、魔術だ。

 魔術を放つんだ。


 俺は今まで、自分自身からしか魔術を放ったことはなかった。

 しかし今度は、フィーのパスを通して、魔石から撃ってみる。

 本当にそんなことが出来るのかは分からない。たった今、思い付いたものだからだ。

 だが、触れずに退けるなら、これしかないだろう。


 放つのは、氷だ。

 この魔石は元々が氷の魔石。

 それに――。


 魔石にパスを作ったように、フィーの魔力で簡易的な砲台を作成する。

 そして、そこから発射だ。


「~~~~!」


 そいつは無声の悲鳴をあげた。

 氷柱が飛んでくると云うのは、完全に予想外だったはずだ。


 氷は加工がしやすい。

 火や風よりも、ずっと。

 つまり、縫い付け、押さえつける形になる。


「そのまま離れてろ!」


 心臓から伸びる触手を、その都度縫い付けてやる。

 その為の、氷だ。


「……いけない。それでは足りない」


 エイベルが懐から、嬰児の真核を取り出した。

 蜥人の魔術師が所持していたものだ。


 即座に、掌サイズのちいさな炎のゴーレムが生み出される。

 グウェルが作っていたものよりも、随分と可愛らしいデザインだった。

 どうやらうちの先生には、ゴーレムマスターの素養もあるようだ。


 ゴーレムはすぐに、ある一点に視線を定める。

 それは、グウェルがゴーレムで掘ったと思しき、穴の跡だ。


 すでに氷で塞がれているが、そこだけわずかに色が違う。

 塞いだばかりなのだろう。

 ゴーレムはその道筋を辿るように、氷を溶かして地下へ進み始めた。


「エイベル、一体何を……?」

「……ん。その心臓は――」


 恩師が何事かを云い掛けた瞬間、壁からは再び、複数の腕が伸びてきた。

 先程まで押さえていたものよりも数こそ少ないが、より大きく、力強そうであった。


 十本足らずの腕は、俺とエイベルめがけて突進する。

 エルフの先生はそれを押さえてのけるが、これでは他のことに手が回らないだろう。

 唯一の救いは、ゴーレムは自動で動くと云うことだろうか?

 エイベルの手が塞がっていても、掘り進んでいるのが分かる。

 シェレグは何か別のものでも警戒しているのか、俺たちを庇うように立ったままで、動かない。


「うっ……!」


 同時に、異変を感じた。

 心臓を縫い付けていた氷が、溶け出していくのがわかった。


(そうか。こいつ、熱気の元だったもんな。そりゃ氷じゃ対応される。エイベルに駄目出しされる訳だ)


 なら、岩の魔術ならどうか?

 土魔術の派生系は、岩石魔術。

 確たる固形物として作り出すためか、他の派生魔術よりも魔力を食うが、出資もとは他人の財布だ。


 氷のそれと同様に、心臓に向けて撃ってみる。

 岩の槍は、次々と突き刺さった。

 これならいけそうだ。


 魔石の魔力が元なので、俺への負担は大きくない。

 だからどんどん発射して、このまま刺し殺してやろう。


 そう思ったが、なんとこの心臓、もの凄い勢いで再生していく。

 どうやら、単なる攻撃では、倒しきるのが難しいらしい。


(心臓そのものにアクセスできれば、簡単に破壊できるものを……)


 舌打ちしたい気持ちになった。

 そのうち心臓は俺の攻撃に適応し始める。

 再生力と柔軟さを活かし、まるでアメーバみたいに形を変えて、岩のくびきから逃れてしまうのだ。


 なんだよこれ、もう心臓を名乗って良い物じゃないだろう。

 そいつは再び魔石にへばりつき、俺の『砲台』を破壊し始めた。


(知性か? それとも本能か。対応が的確で早いな)


 これでは射出機の再構築から始めねばならない。

 いや、再設置したところで、倒しきれなければ、いたちごっこが続くだけだ。


 困っていると、腕の中の妹様が、俺の服をちょいちょいと引っ張る。


「にーた、にーた。ちかのへんなの、やっつけるの?」

「フィー、まさか、見えるのか?」


 マイエンジェルは、ふるふると首を振った。


「みえないけど、ふぃー、わかるよ? にーたのまりょくと、へんなののたましい」


 あー……。そうか。

 妹様は感覚的に魔力が分かるんだったな。

 それに、魂命術を覚えてからは、魂の位置も。


「フィー、心臓だけを、攻撃出来たりするか?」

「ここからだと、ふぃー、とどかない」


 射程距離があるのか?

 それとも、ホールの生物化や魔力の氷で出来た地面が問題なのか?

 いずれにせよ、直接どうにかするのは無理らしい。


「でもふぃー、へんなのの、こあのいち、わかるよ? にーたにおしえたげる」


 コア!

 そうか、心臓のコアか!


 普通の生き物は心臓自体がコアだが、あれはホムンクルスの一種。

 一般生物と違って、構成体そのものの中心部が存在するはずだ。

 だから再生もするし、あれ単体で生物のように振る舞えるわけだ。


 乗っ取りの危険さえなければ心臓そのものにアクセスした時点でそれに気付き、一気に破壊できたが、それが出来なかったせいで、随分と回り道をしたものだ。

 しかし、コアが壊せるなら、簡単にカタが付くぞ。


 問題は――。


「フィー、どうやって俺にコアの位置を教えてくれるんだ?」


 あいつは地下深くで動いている。それも、案外俊敏だ。

 座標を指定されても、次の瞬間には動いていました、では意味がない。


 するとマイシスターは、とろけそうな笑顔で、俺を抱きしめなおした。


「ふぃー、にーたのたましいとくっつく。ふぃーのかんかく、にーたにつながる!」


 我が家の長女様は、そんなことまで出来るのか。

 いや、訓練や学習なんかはしていないはずだから、これも感覚で出来ると確信しているだけだろう。

 だが、フィーなら。


 俺はこの娘の案に乗ることに決めた。


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