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妹のいる生活  作者: むい
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第六百六十六話 面食いちゃんの理屈


 ズンズンとこちらへ歩いてくる三人組。


 あの人たち、どっかで見たことあるなー……っと、思っていたら――。


「あいつら、去年の連中だっ!」


 ブレフがそんなことを云いだした。


 はて? 去年……?


 俺が首を傾げていると、軍服ちゃんが端正な顔を美しく歪めて、俺に密着しながら耳打ちをする。


「奴らは、デネンの家の者たちだ」


 その言葉で、思い出した。

 去年のセロのお祭りで、『寄付金のお願い』をやってた連中だ。

 あの、屋台を壊そうとしてた奴らね。


 どっかで見たことあるなと思ったら、成程なー……。


 こちらへ向かってきた連中もこっちの陣容に気付いたのか、徐々に顔色をこわばらせる。

 視線の先は――軍服ちゃんと、シャーク爺さんかな?


 デネン子爵家の明確な敵対者であるバウマン子爵家の令息と、峻厳なことで知られるセロギルドの執行職がいるから、無体を働くことが出来ないとでも思っているのだろうか?


 男たちはそれでも、表面上は表情を取り繕って、面食いちゃんことミュゼを見つめた。


「み、見つけたぞ、エトホーフトのガキ」


「――おいおい。他所様の子どもをガキ呼ばわりするとは、失礼な連中だなァ?」


 爺さんが『ヌゥ』と進み出て、男たちを見おろす。

 筋肉の要塞のような体格に見つめられて、連中は立ちすくむ。


 三人組が一瞬で、巨大な影に覆われている。


 うん。

 確かにこれは怖いわ。

 うちの爺さんって身内の前だとデレデレな感じだけど、本来は迫力が凄いもんなァ。


「う……。しゃ、シャーク……っ」


 男のひとりが息を呑んだが、すぐに虚勢を張って怒鳴り返した。


「な、何だ手前ェ、お、俺たちに難癖を付けるつもりかっ!? お、俺たちゃ、まだ何もしてねェぞッ!?」


 ちょっと情けない凄み方だったけれども、爺さんは気にした様子がない。

 一方のブレフは「だっせぇー」とか声に出して笑って、システィちゃんに窘められている。


「難癖、難癖ねぇ……?」


 爺さんが小指で耳穴をほじりながら、デネンの手下を見おろす。


「難癖ってのは、アレか? お前らが普段からやっている、ゆすりたかりのことか?」


「――っ! こ、この野郎、一体全体、何の証拠があって、そんな云い掛かりを……っ!」


「あん? 証拠ォ? 逆に訊くがな、お前ら。貴族家の看板背負っているからって慢心して、方々で人目も憚らずに恫喝を続けていて、何で『証拠』が無いなんて思えるんだ? 俺がお前たちをふんじばらないのは、そういう『依頼』が来てないからってだけだ。冒険者ギルドは、役人じゃねェからな。――が、証拠とやらを、持っていないわけじゃない。追捕の依頼があった場合と、お前ェらが正式にセロの領主家から訴えられて証拠の提出を求められた場合は話が別になる。……後は、まぁ――」


 ギロリと、視線に力が入る。


「俺の身内に、手を出した場合だな? そんときゃァ、容赦なく潰すぞ?」


「――――ッ!」


 男たちは、完全に色を失っている。

 これは役者が違う感じだ。


 まあ、荒くれ者の冒険者を押さえつけるのが仕事の人だから、街のチンピラ程度でどうにか出来る相手じゃないんだろう。


「きゃーっ、お父さん、格好良いーっ!」


「お、おう、そうかぁ……? うへへ……っ」


 マイマザーに抱きつかれて、しだらないデレデレ顔になってしまうグランパ様よ。


 ちなみに、先程まで母さんが抱いていたマリモちゃんは、現在はフェネルさんの手中だ。

 こっちもこっちで、現状に目もくれずにゆるみきった顔をしている。

 今のノワールは日よけも兼ねて、ウサミミの付いた幼児用フードを被っているからね、仕方ないね。


 迫力が一気に霧散したからか、男たちは催眠術でも解けたかのように、気力を取り戻す。

 どうやら、うちの爺さんには触れない方向で話を進めるようだ。


 ――と思ったら、俺と目が合った。


 流石に(モブ)のことなんて憶えていないだろうとタカをくくっていたら――。


「あ、あぁぁ……っ!? こ、このガキは、あの悪魔じゃねぇかっ!」


 うん? 悪魔? 俺、何かやってたっけか?


「そ、そうだっ! このガキは、俺たちに向かってロッコルの実の果汁を飛ばしてきたヤツだッ!」


「あの汁を目に入れてくるとか、人間のやって良い所業じゃねェ!」


 あー……。

 あったね、そんなことも。

 でも、アレは非力な子どもの護身技だから……。


 ちなみに、今の俺はロッコルの実を持ち歩いてはいない。

 代わりに――。


「すぴすぴ……。ふへへ……にー……た……」


 絶賛よだれを垂らして睡眠中の妹様の腰には、『毒霧の素』がちゃぷんちゃぽんと詰まったひょうたんが提げられているのだが。


 あちらもこちらも酷い有様になったのを見かねたのか、俺の腕に抱きついたままの軍服ちゃんが、美麗な瞳で男たちを睨み付けた。


「それで結局、お前たちは何をしにここへ来たのだ?」


「あっ、そうだった……っ! ここのガキどもに、ペースを乱されたッ!」


 話が脱線していたのは、俺たちのせいということらしい。


 気を取り直し咳払いをした男のひとりが、面食いちゃんをビシッと指さした。


「ミュゼ・エトホーフト……ッ! 手前ェのせいで、俺たちは商売あがったりだッ! この始末、どうしてくれるゥッ!?」


「何だァ? 子ども相手に、難癖か?」


 爺さんがポキポキと指を鳴らした。

 男たちは慌てて首を振る。


「そ、そんなことはしていねぇッ! 見ろ、これを……ッ!」


 一味のひとりが、懐から紙を取り出す。

 覗き込んでみると、それはオーリーフィッシュの水揚げに関する契約書らしい。

 ……こんなもの、他人にホイホイと見せるなよ。


 覗き込んだメンバーのうちの二名、シャーク爺さんと面食いちゃんが、顔を見合わせる。


「……割と真っ当な契約内容だな」


「デネン子爵家にしては、珍しいと云うべきだ」


 このふたりは、貴族家の娘とギルド執行職という立場上、こういった契約書類にも明るいようだ。

 一方、まだ子どものブレフにはちんぷんかんぷんみたいだが、それ以上に興味がないみたい。

 こいつの性格だと、大きくなってもその辺が適当になりそうで怖い。ラインケージくんの将来は大丈夫なんでしょうかね?


 他、この手の書類に強そうな商会のハイエルフズは、一方が警戒のために槍を握ったまま近付こうとせず、もう一方は書類を見もしないで、ゆるんだ顔でマリモちゃんの寝姿を楽しんでいる。


「う、うふふふふ……! ノワール様の寝顔、本ッ当ぉ~に、可愛いですね……っ! ユーラカーシャ様のおねむ姿も可愛らしかったですし、赤ちゃんや幼児って、本当に最高です……。ああ、何で私は従魔士なんかになったのでしょう……? 『赤ちゃん士』になれば良かったと絶賛後悔中ですよ……ッ!」


 何よ、『赤ちゃん士』って。


 あとその言葉を聞いて、トトルがショックを受けているから、後で謝っておいたほうが良いと思いますよ?


 しかしフェネルさんの『通常運転』を気にしている者はこの場に俺ひとりしかいなかった。

 後は全員、当然のように彼女をスルーしている。


 爺さんが、チンピラに問うた。


「この契約書が、どうしたんだ?」


「ちゃんとした内容だろう?」


「まあ、な……。デネン子爵家もエトホーフト交易も、互いに利益が出る契約内容のようだが……?」


「そうだろ、そうだろう……! ――しかァしッ!」


 ビシッと、再び男は面食いちゃんを指さした。


「その契約に、このガキが待ったを掛けたんだ。契約しないほうが良いってなァッ! エトホーフトのボスは、このガキに甘い! そのせいで、破格の契約条件なのに、話がまとまらなかった……! だからこのガキに、それを取り消させようと思って、俺たちはやって来たんだ……ッ!」


 待ったを掛けた?

 何でだろう?

 実はこの契約内容、よく読むと罠があって、それを面食いちゃんが看破してのけたとか? 


 俺は不思議に思って、ミュゼを振り返った。

 彼女は大きく頷いた。


「確かに私は、この契約はしないほうが良いとお父さんに云った……」


 ふぅむ。

 やっぱり口出しをしたのは、事実であるらしい。

 ならば、何故……?


 次の瞬間、面食いちゃんは胸を反らして、自信満々に云い切った。


「だってこの人たち、揃いも揃ってブサイクなんだもの……! ブ男は、街の美観を損ねる……! 契約するに、値しない……ッ!」


 最悪だァーーーーっ!


 酷いッ、酷すぎるよ、面食いちゃんっ! 


 流石のフレイも、口をポカンと開けている。


 チンピラーズは、屈辱で身体を震わせながら俯いていた。


 まさかこの俺が、デネン子爵家に同情する日が来ようとはなァ……。


(それにしても、『街の美観を損ねる』とは酷い云いぐさだ)


 そういや前世でも、学生時代に「ハゲは街の美観を損ねる」とか云い切ってた知り合いがいたな。

 ……後年、彼は『街の美観を損ねる側』へと仲間入りしていた。

 もちろん俺は、そのことを指摘しなかった。

 いくら『セルフざまぁ』された相手とはいえ、そのくらいの情けは俺にだってあるのだ。


 軍服ちゃんが、ミュゼに向かって眉を顰めている。


「……流石に、酷すぎないか?」


「酷くない……。外見相応の仕打ちにすぎない……」


 ダメだこりゃァーーーーっ!


 流石のシャーク爺さんもドン引きである。

 フレイとグランパに一歩引かれた面食いちゃんは、ぽつねんと立ち尽くす。


 そんな彼女に、男たちのひとりが叫んだ。


「貴族家に連なる我らを侮辱するとは、許すことは出来ん……ッ! 小娘、取り消せェッ!」


「……イヤ! 私の言葉が間違ってると思うなら、そこの湖で自分の顔を見つめ直してきて……っ! 貴方たちは、セロの街を汚染しているという自覚を持つべきなの……っ!」


「手前ェ、ブン殴るぞぉッ!」


 グワッと拳を振り上げるポーズ。

 シャーク爺さんは面食いちゃんに向かって、「それは流石に謝れよ」と引き気味に苦言を呈されている。


 だが騒動の原因は、俺にピトッと寄り添った。


「格好良いおにーちゃん……。この私を、身も心も醜い悪漢たちから守って……?」


 何で俺が巻き込まれてるんですかねーーーーっ!?


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― 新着の感想 ―
[一言] 面食いちゃんが成長した時に、バブスと同じように潜在能力が目覚めるかもしれないので、楽しみです。
[一言] フィーの毒霧が火を吹く・・・?
[一言] 更新ありがとうございます。 ショックを受けるトトかわいいですw
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