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妹のいる生活  作者: むい
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第六百六十二話 シャーク爺さんVS軍服ちゃん


「ぐ……っ! 現れやがったか、小僧……っ」


「フッ。貴族家令嬢をつかまえて、小僧呼ばわりとわね……」


 朝も()よからやって来た軍服ちゃんと、セロ・クレーンプット家の筋肉主が謎の火花を散らしている。


 一瞬、何故――と思ったが、このふたり、今回はうちの家族をどちらがセロ湖へ連れて行くかで敵対しているんだったな。

 というかフレイよ。

 自分のことを『令嬢』と云い切るのはやめなさい。


 彼――彼女と呼ぶべきか?――は、爺さんから視線を離し、我が家の家族に優美に礼をした。


「一別以来ですね、皆さん。再会のご挨拶として、ささやかながら、我がバウマン子爵家果樹園の、果物をお持ち致しました」


 フレイの言葉に、ドロテアさんを含むクレーンプット家女性陣が歓声を上げる。

 皆、甘いの大好きだからな。


 彼女の勝ち誇った顔と、爺さんの苦虫を噛み潰したような顔から察するに、これは先制の買収工作なんだろうか? 


 だとしたら、上手くいっているというべきだろう。

 皆が一斉に、欲にまみれた笑顔になっているし。


(おお、王都でも珍重されるバウマン子爵家印のメロンがよっつもあるじゃないか! しかもフィーには、大好物の桃まで渡している……! ここに持ってきた分だけで、日本円換算で二十万以上の総額になるんじゃないか、このフルーツ群……)


 ここまで手を打つとは、フレイ・メッレ・エル・バウマン、おそるべし……!


「にーた! 桃! ふぃー、桃好きっ! にーたが好きっ! 桃、とっても可愛い! ふぃー、ピンク色好き! それ、ブタさんの色!」


 マイエンジェルが笑顔で突撃してきて、俺に桃を突きつけてくる。

 はいはい、食べさせて欲しいのね?


「ふへへ~……っ。にぃさま、ありがとーございますっ! ぱくっ!」


 例によって例のごとく、俺の指ごと口に含む妹様よ。


 お日様スマイルでもむもむと口を動かしていた天使様は、やがて何かを思い出したかのようにブタさんリュックの所まで走って行き、ゴソゴソと何かを取り出して、子爵家令息の所へと駆けていく。


「フレイちゃん、フレイちゃん! 桃のおれーに、ふぃーの宝物を見せてあげるっ!」


「ほう? 我が心の友の妹君(まいくん)宝物(ほうもつ)か。何だろうね? 変わった形の石や、良い感じに曲がった枝とかかな?」


「それ、うちの花壇にある! 花壇のお世話、今頃ミアちゃんがやってくれている!」


「ミア……? それはあの、バブスの同類のメイドのことかな……?」


 写真館でのトラウマがあるのか、軍服ちゃんは優美に笑いつつも、顔色は青ざめている。


「これ! 最近増えた、ふぃーの宝物っ!」


「うん……? これは、木彫りのアヒルか……?」


 どういうものなのか、という視線を、フィーではなく俺に向けてくる友人様よ。

 この声楽隊員にも、状況の説明を妹様に求めるのは無益という観念が構築されているらしい。


 だが、元気いっぱいに答えたのは、我らが天使様であった。


「それ、にーたが作ってくれたアヒルさん! そのアヒルさん、お風呂に浮かべると、とっても楽しい気持ちになる! それだけで、お風呂、もっともっと嬉しくなるの! こんなの思いつくふぃーのにーた、とっても凄い! ふぃー、にーた大好きっ!」


 そう。

 俺が作ったのは、地球世界でのキッズ玩具の定番、アヒルさんである。

 元は木工の練習で作ったものなのだが、これが思いの外、マイエンジェルのお気に召したようである。


『水に浮くが加工が難しい木材を取り扱ってみろ』とガドに渡されて、それならばと作ったものが、これだ。

 これには、防水と腐食耐性のある塗料の取り扱いの練習も兼ねている。


 こうして出来たアヒルさんであるが、実はそのとき、俺はしょうもないミスを犯した。


 アヒルさんを、一体しか作らなかったのである。


 結果として、どうなったか?


 フィーとマリモちゃんがアヒルさんを巡って、つかみ合いの姉妹ゲンカをはじめてしまい、結局ふたりとも大泣きしてしまったのであった。

 もちろん俺は大慌てで追加分を作って、なんとか機嫌を直して貰った。


(まあ、母さんとエイベルまで要求してくるとは、流石に思わなかったが……)


 何にせよ、今ではお風呂タイムに、複数のアヒルさんが浮かぶようになったのであった。


「アルト。キミは彫刻の技術まで持っているのか。まさに万能の天才だな?」


 全然違いますが。


「それにしても――。ふむ。水に浮かぶ、か……」


 フレイはニヤリと笑う。

 美形によく似合う、小悪魔チックで妖艶な笑みだった。


「どうですかね、皆さん。セロ湖には我がバウマン子爵家の所持する湖船があるのですが、それで遊覧するというのは?」


「お船ーっ!? お船に乗れるのっ!? にーた! ふぃー、お船に乗ってみたい……っ!」


 妹様の青いおめめが輝いた。

 キシュクードに行くときの船も、この子は大興奮で乗っているからな。


(水色ちゃんやエニネーヴェにも、そのうち会いに行かないとな……。その前に、タルゴヴィツァに急かされている風妖精のチェチェのご機嫌伺いにも行かないと)


 遠方の友人を訪ねるのは大変だが、義理は欠きたくないし、俺自身も彼女らに会いたいしね。


 船に乗れる――。


 その言葉に、お祭り好きな我が家の面々が食い付いた。

 特に母さんなんかは、自分が楽しみたいのと、我が子たちを楽しませたいというふたつの理由で、テンションが爆上がりだ。


 しかし、そこに待ったを掛ける男がひとり……。


「ま、待て……っ! 船に乗りたいなら、俺がボートを漕いでやる……! 俺の操船能力はちょっとしたもんだぞ!? この自慢の筋肉で、そこらの船をぶっちぎる速度で漕いで漕いで、漕ぎまくってやるぞぉぉッ!?」


 じぃじ、必死のポージング。

 急速に盛り上がる筋肉に呼応するように、ビシャリと衣服が弾け飛んだ。


「貴方……ッ! また服を破いてッ!」


「やーっ! お胸、ピクピクしてるぅっ! ふぃー、筋肉やーっ!」


「きゃーっ、お父さん格好良いっ! 素敵よーーーーっ!」


「あぶ……っ」


 反応は様々だが、概ね不評のようだ。


 そして祖父の淀んだ視線は、唯一反応を示していない男孫のほうへと向かってきてしまったようだ。


「なあ、アルぅ……」


 ビリビリに破けたボロ布を纏った筋肉ムキムキのオッサンが、右腕にまとわり付いてくる。


「お前は、おじいちゃんと遊びたいよなぁぁ……? 家族の絆って、何よりも大切だよなぁぁ……?」


 ふしゅー、ふしゅーと吐息が荒い。本当に暑ッ苦しいなッ? そりゃフィーのトラウマになるわけだよ!


「ねぇ、アルト様ァ……?」


 一方、軍服ちゃんのほう。

 彼女はしなやかな動きと媚びッ媚びの声色で、そっと俺の左腕にしがみついいて、耳元に息を吹きかけた。


「アルト様はァ……むっさぁ~い筋肉ダルマよりもぉ、わたくしの水着のほうを、見たいですよねぇ……?」


 左右から男にしがみつかれて、俺は一体、何をやっているんだろう……?


 あと俺を説得したところで、家庭内ヒエラルキーの最底辺に位置する俺では、一切の決定権に寄与しないことを、この人たちはわかっているのだろうか……?


「めーーーーっ! にーたに抱きつく、それ、ふぃーだけなのーーーーっ!」


 そして妹様、大激怒。

 もちもちほっぺをぷくぷくと膨らまして、正面から俺に抱きついて所有権を主張する。


「あ、羨ましいっ! アルちゃぁんっ、お母さんも! お母さんもだっこするぅっ!」


「にー! あきゅっ!」


 こんもりと出来上がっていく肉団子。今年は俺がミートくんだァ……っ。


「貴方たち……」


 ドロテアさんの視線の冷たいこと冷たいこと。

 常識人に、クレーンプット家の家風はツラかろう。

 いや、この御方も一族ですけどね?


 そこに、ドタドタと乱入してくる者がいる。


「おーっす、アルぅ、来たぜぇーーーーっ! って、何やってんだー? 新しい遊びかー?」


 御前試合以来のハトコ様、ご登場。

 肉団子の隙間から、十手で俺をツンツンとつついて来やがる。


「あ、アルトさん、皆さん、お、おはよう、ございま、す……?」


 システィちゃんは、戸惑いながらも朝の挨拶を優先させている。

 礼儀正しい良い子ですね。先生、花丸をあげちゃいましょう。


「んで、アルー? 何でこんな状況になってるんだー?」


「……いや、セロ湖へ行く話をしていたら、自然とこうなってな……?」


「そうはならんだろー」


 ごもっともです。


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― 新着の感想 ―
[一言] アヒルを奪い合うマリモとフィーの可愛らしさ、おじいちゃんの必死さが楽しかったです。
[一言] つかみ合いの姉妹ケンカで引き分けになるのか。 性格的な結果かな? 喧嘩するほど仲がいいってヤツだ。
[一言] 私は日本語が話せないので翻訳者を使っています。日本語で書く必要があるので、単語によっては意味が変わる場合があります。 しかし、私はこの作品が大好きだと言いたかったのです。とてもよく書かれてい…
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