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妹のいる生活  作者: むい
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第六百三十九話 写真館始末記


「んっふふふ……っ!」


 俺たちが身動きを取れなくなったことで、バブスは完全に勝ち誇っていた。

 そりゃまァ、こうなったら普通は『勝負あった』だ。


 ただ、これは魔術だからなァ……。


(うん。干渉することは、普通に出来そうか)


 凄いな、この限定魔術。ガッチガチじゃん。

 根源干渉できなかったら、外せなかったかもしれないぞ?


 そう考えている俺に、変質者は再び例のポーズを取った。


「ぬぅんっ! 美少年・不動金縛りの術ッ!」


「うげっ!?」


 か、重ね掛けッ!?

 今度は、口も動かなくなった。


 こんなことまで出来るのかよ。ヤバすぎだろ、こいつ。


 それでも根源干渉は出来るから、まだ何とかなるだろうが。


 俺が『重ね掛け』に驚いたことが分かったのだろう。

 バブスは口元を歪めて云う。


「こういうことも、出来るのよ?」


 クン、と指を上げると、年長の美女とフレイのふたりの口が、自由になったようだった。


 美女は云う。


「わ、私は既に『少年』という年齢ではないのに、魔術が利くのね……?」


「いいえ、二十代はまだ美少年よ! 私がそう判定したの! だから、利くの! 異論は許さないッ!」


 変質者が指を振ると、再び美女は喋れなくなったようだ。


 部位単位で行動を縛ることも自由自在。

 しかも縛り直しも思いのままなのか。

 普通に凄くね、こいつの『変態魔術』。


 軍服ちゃんも、自由になった口で云う。


「私は、美少女だッ! その私に、何故『美少年限定』の魔術が……ッ!」


 云い張りますね。

 けれども不動金縛りの使い手は、ニタリと笑った。


「違うわっ! 貴方は男の子よッ! すぐにそれを、思い知らせてあげるッ! 自分が無力なオスガキでしかないということを、魂にまで刻み込んであげるわ!」


 再び、指を振る。

 軍服ちゃんも、喋ることが出来なくなったようだ。


 一方でバブスは、美少女と美幼女の封印は解かないようだ。


「貴方たちふたりは、『歌唱魔術』の使い手だものね。口を自由には、してあげないわよ?」


 ヒゥロイトのトップスターとリープって子は、少し毛色が違うみたいだ。


 自らを脅かす者がいなくなったからだろう。

 変質者は、改めてクリス少年を気味の悪い視線で撫で回した。


「ンッフフフフフフ……! じゃあ、お待ちかねの『ご褒美タイム』よ……っ!」


 云いながら、バブスは彼女の戒めを解いた。


「無力な子が必死に抵抗したり、甘い叫び声をあげるのって、最高にそそるのよね……っ! 普段はお口以外の不動金縛りの術を掛けたままでするんだけど、貴方が非力なのは分かるから、このままゴー・トゥ・ヘヴンにしてあげるッ!」


 まるでどこかの怪盗三世のようなダイブを決め込む変質者。


 クリスは、両目いっぱいに涙をためて叫んでいた。


「い、いやあああああああああああああああっ! た、助けてええええええええええええええええええええええええええええっ!」


「ほいよォ」


「ぶべらッ!?」


 まだ空中にいた変質者に、蹴りを入れて吹き飛ばした。


 潰れた蛙のような姿勢で、女は勢いよく壁にぶつかった。


「大丈夫?」


 クリス少年に、笑いかける。

 涙に濡れたその顔は、何度見ても美少女にしか見えない。


「――――ッ!」


 手をさしのべると、彼女は俺に抱きついて、声をあげて泣き始めた。

 まあ、マジモンのトラウマだろうからね、無理もない。


 一方でバブスは、ヨロヨロと起き上がる。


「な、何故、私の美少年・不動金縛りの術を二度も受けて動けるの……っ!? 貴方の気配は、そこまで『残念』だったというの……ッ!?」


「失敬だなっ!」


 俺が行動できた理由が、『残念すぎたから』だと判定されているが、それを認めるのは癪だ。さりとて、根源干渉のことを広めるわけにはいかない。

 なので、こう云っておこうか。


「これは――想いの力だ……っ!」


「愛……っ!? 愛が貴方に、力を与えたというの……っ!?」


 バブスは、よろめく。

 俺の挙げた理由は、思いの外、この変質者に刺さったようだ。


 そしてフレイ。

 何で嬉しそうに目を輝かせるの。


「くぅ……っ! 美少年は、力ずくで愛でるものだと考えていたけど、美少年同士の絡みなら、愛好家としては、認めないわけには行かないわ……っ!」


 ちゃうねん。

 俺、そっちの人じゃないのよ?


「フ……っ! 愛の力に倒されるのなら、私も、本望……っ!」


 立ち上がり掛けたバブスは、ドスンと地に伏し、動かなくなった。

 満足そうなツラをしているのがとても気にくわないが、皆の救助には成功したようだ。


 術者が意識を失ったからだろう。

 軍服ちゃんたちも、自由を取り戻した。


「アルトっ!」


 フレイが駆け寄ってきて、俺に抱きついた。

 クリス少年にも抱きつかれたままなので、ちょっと息苦しい。


 クリスくんは、未だ涙に濡れた瞳で、腕の中から俺を見つめる。


「ぼくを……。ぼくを守るために、がんばってくれたの……?」


 うん? 

 まさか、想いの力うんぬんを、真に受けたわけじゃないよね……?

 しかし彼女の顔は、微妙に朱に染まっているようで……?


 そこに、軍服ちゃんが口を挟む。


「違うぞ、クリス。アルトは、私のために(・・・・・)、邪悪な魔術に打ち勝ってくれたのだ。勘違いはしないで欲しい」


「で、でも、ぼくが襲われたときに、この人は動いてくれたんだよ……? だ、だったら、やっぱり、ぼ、ぼくのことを……」


 完全に、頬を赤らめておりますな。


 でも、違うからね? 

 動けたのは、根源干渉で魔術を無効化しただけだから。

 ……そのへんの種明かしは、出来ないけどね。


 そこに、新たに参戦して来る人影が。

 それは、あの舌っ足らずな美幼女だ。


「貴方、凄いですね。やっぱり、あたしのパトロンになってくれませんかー?」


「リープっ! アルトに手出しは無用だと云ったはずだぞ!」


「だからー。それ、フレイちゃんの一方通行だって指摘したじゃん? ね? アルトさん……だっけ? あたしのものになりませんかー?」


「ダメだと云っているだろうッ!」


 しっちゃかめっちゃかになってしまった。

 年長の二名は、この光景をニヤニヤと見ているだけだし。


 結局、怒りに燃える妹様が怒鳴り込んでくるまで、バカ騒ぎは続いたのであった。


※※※


「ふ、ふほおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!? や、やっぱり、ヒゥロイトの方たちは、雰囲気がありますねえええええええええええええええええっ!」


 メイドの格好をした変質者が、おめめをハートマークにしている。


 ミアは結局この場に居座り、撮影の様子をフィーバー状態で眺めているのである。


 このメイドが、ドナドナされた変質者の『ご同類』と彼女らには分かったようだが、アレよりはマシと思えたのか、俺が頼み込んだら彼女らは、アッサリと見学を了承してくれた。


「まったく、アルトきゅん様々ですねー! 一枚でも写真が手に入ればと思っていましたが、予備を含めて色んな姿の写真を頂けるように、頼んでくれたんですからねー!」


 ミアの要望だった『ヒゥロイトの写真の入手』は、ふたつ返事で請け負って貰えた。

 それは、俺がバブスを退けたお礼なのだそうだ。

 変質者の襲撃は結果として、良い方向へと転がってくれたようだ。


「にーた! お洋服着るの、やっぱり楽しいっ! ふぃーも! ふぃーもあとで、にーたと一緒に、お写真撮りたい!」


 執事服やらドレスやらメイド服やら、色々な格好で色気溢れる写真を撮っていくヒゥロイトを見て、妹様が興奮されている。

 そのへんは、フェネルさんたちに頼んでみようかな?

 けれども、自信満々で撮影に挑むヒゥロイトの中に、クリスくんがいない。


(やっぱり、バブスのことがトラウマになって、写真どころじゃないのかな……?)


 或いは、もともと『女装』に乗り気じゃなかったから、嫌がっているだけなのかもしれないが。


 しかし、そう考えた直後――。


「あ、あの……」


 ちいさな声が、背後から聞こえた。


 振り返ると、そこには。


「クリス、くん……?」


「ぅ、は、はい……。ぼ、ぼく、です……」


 そこには、ドレスアップをした、美少女の姿が。


 衣服を整え、髪を結い、薄いお化粧まですると、本当に美少女にしか見えない。

 いや、もともと女の子にしか、見えなかったけどね?


「そっか。ヒゥロイトで、やっていく気になったんだね?」


「う、うん……。貴方の、おかげ、です……」


 真っ赤になって俯いてしまった。

 後ろではメイドの格好をした変質者が、誰ですか、この子はーーっ!? ノーチェックでしたよーーっ!? とか叫んでいるが、説明する必要はないだろう。


 クリスくん――いや、クリスちゃんか――は、云う。


「ぼ、ぼく、綺麗……ですか?」


「うん。とっても綺麗だよ」


「――――っ」


 彼女は、花のように微笑んだ。


 そして、今までの自信のなさはどこへやら。

 人が違ったような気品の色香を従えて、撮影に臨んでいった。


 フレイが傍までやって来て、俺の腕に取りすがる。


「アルトのおかげで、我がヒゥロイトにも、新たな役者が加わってくれたようだ。改めて、お礼を云わせて貰おうか」


 あー……、うん。

 まあ、ちょいと複雑だけど、そうなるのか。


「しかし、だ。良いかな、アルト。キミは、私のものだぞ? 決して、他のメンバーに、甘い顔などしないように!」


「めーっ! にーたは、ふぃーのなのーっ!」


 妹様、大激怒。


 かくしてヒゥロイトの撮影会は、大成功で終わりを告げたのであった。


※※※


 後日談。


「ふ、ふへへ……っ!」


 フィーのような声をあげながら、俺は一枚の写真を眺めている。


 それは、悪魔に魂を売り渡して得た、エイベルの写真。

 云わずと知れた、『おさんどんもーど』なのである。


 いやー、こんな写真を手に入れることが出来るとは、思いもよらなかったわ。


 割烹着姿の恩師の姿を、ニヤニヤと見つめる。


 うん。

 今の俺、きっと超キモい顔してるわ。

 でも、良いの。

 それだけ嬉しいんだから。


「――え?」


 と、思ったのも束の間。

 俺の手の中から、写真が消え失せていた。


 そこには、顔を真っ赤にして、それを取り上げたマイティーチャーの姿が。


「え、エイベル……っ!」


「……没収! これは、没収する……っ!」


 し、しまった! 

 写真に、気付かれてしまったあああああ!


「ま、待ってくれ、エイベル! それは、俺の労働の対価なんだ! 一方的に奪うのは、あまりにあまりじゃないかっ!?」


「……ぬ、盗み撮りは、いけないこと……! ――アル。……めっ!」


 返す言葉もございません。


 こうして俺は、世界一の宝を喪失した。


 短い付き合いだったなァと、ひとり涙を流したのだった。


 どうでもいい裏設定。

 バブスさんのオリジナルスペルは、性別不詳の二名の登場人物、イケメンちゃんとピュグマリオンにも、問題なく利く模様。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 何故そこで愛ッ!? [一言] ピュグマリオンに効くのは想定外 先にそっちを襲ってくれれば改心したかもしれないのに!
[一言] めっとかチートやん卑怯すぎる従うしかないやん
[気になる点] 没収されたヤツはどうなったのか? なんかすごい封印みたいなの? [一言] 「バケモンにはバケモンをぶつけんだよ」のノリで ミアが役に立つ展開があるかと期待したが そんなことはなかった。…
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