表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妹のいる生活  作者: むい
536/757

第五百二十八話 改めての面会


 静寂な気配の中で、目をさました。


 見上げれば、そこには穏やかな森のような気配を持った、大切な家族の顔がある。


「――おはよう、エイベル」


「……ん。おはよう、アル」


 どうやら俺は、お師匠様に膝枕されているようだった。


 隣を見れば、フィーは母さんに抱かれて眠っており、マリモちゃんは、フェネルさんがだっこしている。

 クレーンプット家お子様軍団は、それぞれが年長者に包まれているという構図だ。


「――起きましたね?」


 フードを被ったエルフが、俺を見おろしている。


 エイベルだけでなく、リュティエルも里へと来ていたらしい。


「ああ、どうも……」


 とでも返しておくより他にない。


『天秤』の高祖はジト目をして、


「なんです、それは」


 と云った。


 彼女は、続けて云う。


「話はフィルカーシャたちから聞きました。同胞の命を救って貰えたようですね?」


「それは、フィーがです。俺がしたのは、まあ、お手伝いですね」


「どちらも同じことですよ。貴方たちが何をしたかは、理解出来ているつもりですから。――改めてお礼を云わせて貰います。ありがとうございました」


「いや、それは良いんですが――」


 何で怪しげな木彫りのメダルを、差し出してくるんだ?


「ご褒美メダルです。貴方はもう、知っていますよね?」


 そりゃ、うちに二枚あるし……。


「貴方たち兄妹は、これを受け取る資格があります。それぞれに進呈しましょう」


 資格とか云われても……。

 まあ、積み木大好きなフィーは喜ぶかな……?


 身を起こして受け取ろうとするが、別の力によって阻まれてしまった。


「……だめ。アルは、まだ寝てる」


 ぽふっと、お師匠様の膝の上に戻される我が後頭部よ。


 疲れているのは事実だし、もう少しだけ休ませて貰うとしましょうか。


 俺はもう一度、瞳を閉じた。


※※※


 フィーが目をさまし、マリモちゃんのお昼寝も終わったので、改めて、赤ちゃんを見せて貰う事になった。


 今度は強引に突破したりしない。ちゃんとノックをする。


「どうぞお入り下さい」


 扉を叩くと、落ち着いた声がした。


 これはお母さんのものだろう。

 先程までとは違って、随分と穏やかだ。


「失礼しま~す……」


 改めて、中へと入る。


 内部にはお母さんと赤ちゃん。

 フィルカーシャ嬢に、メイドさんとお医者さんがひとりずつ。


 たぶん、交替で赤ん坊の面倒を見るのだろうな。


 まだ首のすわっていない赤ちゃんは、白い布に包まれてフカフカのベッドに寝かされている。


「きゃぁ~~っ!」


 俺たちが入るなり、赤ちゃんは歓声をあげた。


 まだろくに視力もないだろうに、人が入って来たのが分かるのだろうか?


「ふふふー。あの娘、アルちゃんが来て、喜んでるみたい!」


「まさか」


 母さんの言葉に、思わず笑ってしまった。


 うちの妹様じゃあるまいし、赤ちゃんのうちから、家族以外に懐くなんて――。


「魔力、でしょうね。目は見えなくとも、それを憶えて、感知したのでは?」


 リュティエルがそんなことを云う。


 魔力感知って、かなりレアな能力だったはずでは?


「……エルフ族では、五感に乏しい赤子の時代だからこそ、それが余計に発達している場合がある。尤も、大半の子は、長ずるにつれて感知能力を失ってしまうけれども」


 赤ちゃんエルフに、そんな隠された力があったとは。


 ではこの娘は本当に、『俺』に気付いているのか?


(しかし、何で『俺』だけ? 一緒に救命作業をしていたフィーは……?)


 俺にしがみついているフィーは、こちらの視線に気付くと、嬉しそうに「ふへへ」と笑った。


「高祖様。そしてクレーンプット家の皆様。改めて、わたくし自慢の妹を見てあげて下さい!」


 フィルカーシャ嬢も、満面の笑顔だ。

 と云うか、デレッデレだ。


 彼女に催促されるままに、赤ん坊を覗き込む。


 エルフの赤ちゃんを見るのは、今日が初めてだ。


 先程も思ったが、耳はとんがってはいても、大人程には伸びていないのね。

 育つにつれて、段々と伸びていくのかな?


「わぁ~~……っ! か、可愛いです~~っ!」


 大の子ども好きのフェネルさんが、とろけたような顔をする。


「この娘、絶対に将来は美人さんですよね!? ね!?」


「それは、もちろんです!」


 もの凄い姉バカぶりだ。

 妹を褒められて、心底嬉しそうだ。


「特にっ! この娘のっ、この耳っ! 育てばハイエルフ有数の美しい耳の持ち主になると思いますっ!」


 フィル嬢、力説しすぎだろう……。


 お母さんはそんな娘の様子に笑いながらも、ちょっと困ったふうな顔をする。


「ですが、人の世に出すのは、少し不安ですね……。ヒト族の中には、『耳マニア』なるエルフの耳に執着する変質者もいると聞きました」


「…………」


 ふう、ん……。

 初耳だァ……。


 何故だか視線を感じるが、これは気のせいだろうなァ……。


 フードのエルフは、お母さんエルフの前に立つ。


 彼女は微笑を浮かべながら、こう云った。


「シアックは素晴らしい里です。既に何人もの子どもがいる。そして、今日この日も。――よくぞ新たな命を誕生させました。ふたり目を産めるエルフと云うのは、中々おりませんからね。ですので、これを進呈します」


 スッと、木彫りの丸いヤツを渡す高祖様。


 貴方、それを何枚所持しているんですかね?


 一方、お母さんエルフは驚きの声をあげた。


「あぁ……っ! こ、これは高祖様お手製の『ご褒美メダル』……っ! まさかこれ程のものを賜る栄誉にあずかれるとは……っ!」


「お母様、す、凄いです……っ!」


 フィル嬢をはじめ、メイドさんも歓声を上げる。

 お医者さんは――もの凄く羨ましそうな顔だ。


 ……ごめん。

 俺にはイマイチ、重要性がわからないのだが。


「……贈るなら、果物のほうがいいのでは」


 俺のすぐ後ろで、別の高祖様が呟いていた。


※※※


「改めて、あなた方ご兄妹には、お礼を申し上げます。――娘の命を救っていただき、ありがとうございました」


「本当に、感謝の言葉もございません」


 落ち着きを取り戻したお母さんとフィル嬢が、同時に頭を下げてきた。


 感謝の言葉は既に貰っているから、これ以上は不要なのだが、フィーが鼻の穴をピクピクさせて嬉しそうだから、もうちょっとだけ貰っても良いのかもしれない。


 と云うか、俺も乗っておこう。


「偉いぞ、フィー」


「ふ、ふへへ……っ! いのち、だいじ! それ、にーたがいつも云っていること!」


 一応は、謙遜のつもりなのだろうか? 

 顔がデレデレだから、あまりそうは見えないが。


「だー……」


 赤ちゃんがこちらに手を伸ばしてくる。

 構って、構ってと云わんばかりだ。


 手を差し出してみると、非力ながら、一本の指を、キュッと握って来た。


「やっぱりアルちゃん、懐かれているわねぇ……」


「う~ん……。不思議だ……。何でだろう……?」


 俺が首を傾げていると、エイベルが首を振って、「そうでもない」と、仰っておられる。


 どういうことかと訊いてみると、こう云われた。


「……フィーの時と同じく、この赤子に、アルの気持ちが伝わったのだと思う。懸命に自分だけを見て、助けようとしてくれたことを、心で理解している」


「え? でも、それならフィーだって――」


 食い下がる俺を手で制し、エイベルはマイエンジェルに問いかける。


「……フィー。貴方は、頑張って『何を』助けた?」


「『命』! ふぃー、頑張って、命を助けた!」


 命! 


 つまりフィーは、この娘個人ではなく、もっと大元の、『生命』そのものを救ったつもりだったのか!?


「……これが答え。同じ目的で同じことをやっても、『どちらを向いていたか』の差が出ているのだと思う」


「…………」


 いやはや、何とも……。

 確かにうちの子は、『命を大切に出来る子』に育ってはくれたけどさァ。


「ふへへ……。赤ちゃん、かわいい……」


「だー」


 フィーの差し出した白い指を、赤ちゃんは笑顔で握りかえした。


 これはこれで、仲良しさん……なのかな?


 良しとするより、他にない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 「シアックは素晴らしい里です。既に何人もの子どもがいる。そして、今日この日も。――よくぞ新たな命を誕生させました。ふたり目を産めるエルフと云うのは、中々おりませんからね。ですので、これ…
[気になる点] 「ですが、人の世に出すのは、少し不安ですね……。 ヒト族の中には、『耳マニア』なるエルフの耳に執着する変質者もいると聞きました」 箱入り娘だろうハイエルフのお姫さまに変質者についての…
[良い点] フィーが命を学ぶ話が続いていてよかったです。相変わらずフィーの可愛さが!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ