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妹のいる生活  作者: むい
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第四百九十話 小山の頂


「とまれーっ」


「これいじょう先へは、すすませないわー!」


 仮面の通路を突破し、間もなく山頂と云う開けた坂道へと差し掛かると、わらわらと、ちいさなメジェド様たちが出て来た。


 それはまるで、鶴翼の陣のように、こちらを半包囲している。


「みゅぅぅ……っ! にーた、メジェド様たち、泥を持ってる!」


 マイエンジェルの指摘通り、コロボックルたちは、手に泥の玉を持ち、いつでも投擲出来るような体勢をとっている。


 しかもご丁寧に、彼らの足下にはバケツに入れられ、山と積まれた団子の在庫までもが用意されている始末。


 これでは一個、二個を躱しても、いずれ泥まみれにされてしまうことだろう。


「ここから先は、メジェド様のせいいきだーっ! 古いせいりょくのてさきは、かえれーっ!」


「そうだ、かえれ、かえれーっ!」


 士気が高い。

 これが何度も先代キシュクードの主を敗走させてきた精鋭たちの姿か。


「あ、あうぅぅぅ……っ!」


 水色ちゃんが、完全に気後れしてしまっている。

 流石にこの娘の目の前で、『仲間になるフリをして油断させる』ことは出来ないだろうな。泣いてしまうかもしれないし。


 なので、旗幟を鮮明にしておくことにしようか。


「大丈夫だよ、マイムちゃん。キシュクードの主はキミが一番の適任者だし、メジェド様の像も、ちゃんと取り戻してあげるから」


「う、うぅ……、おにぃさん……っ」


 果たして、水色ちゃんは少しだけ活力を取り戻し、プチメジェド様たちは怒りを顕わにした。


「メジェド様のすばらしさのわからない、おろかものめーっ!」


「どろだらけになって、泣いてかえるがいいのーっ!」


 ササッと泥団子を構える白き神たち。


 魔術を封じられ、包囲までされた今の俺たちには、何の打つ手もない。


 このままでは先代キシュクードの主のように、水色ハウスまで敗走する以外の未来が見えないが。


(仕方がない。魔術によらず、武力によらず、元・現代人らしく、知力によって道を切り開くとしようか)


 背負ったリュックから取り出したるは、先程の残りものの、クッキーでございます。


「メジェド様たちよ! もしも泥団子を投げれば、クッキーがどろんこになって、食べられなくなってしまうぞ!?」


「――ッ!?」


 ザワッ、と、皆が引いた。

 メジェド様たちだけでなく、うちの家族たちも。


「おいしいお菓子をひとじちにするなんて、おにちくしょうのしわざだーっ」


「じゃあくっ! じゃあくのごんげがいるーっ!」


「もうアルちゃん! 食べ物を粗末にしたらダメよ!?」


「あぶ……っ!」


「にーた、クッキー、ふぃーも食べたい! ふぃー、甘いの好き! にーたが大好きっ!」


 ひとりだけ方向性が違う子がおりますな。

 というか、お姫様は先程、召し上がりましたよね?


 何にせよ、俺と家族とクッキーが泥にまみれない為には、この『卑劣作戦』を押し通すより他にない。


「さ、さあっ! どうするんだ、メジェド様たち!?」


 自分でも、ちょっと声が上擦っているのがわかる。


 コロボックルたちは、互いに顔を見合わせている。


「どうしよう、どうしよう? クッキーが汚れたら困るよ!?」


「ペコペコに相談? そうだん?」


「うぬぬぬぬ! みなのもの! とにかく、ひきあげじゃあ!」


 メジェド様たちは、一目散に山頂へと逃げていく。


 水色ちゃんは、そんな様子を見て驚いている。


「ふえぇ、お兄さん、凄いですぅ! お母様ですら、ここは突破できないのに……!」


 まあ、『優しさ』の差だろうな……。

 普通に考えたら、俺よりも聖霊様のほうが遙かに強いんだろうからね。俺のような、卑劣な作戦は使わないのだろうし。


「何にせよ、もう一息だね」


 きっとこの先で、最終決戦があるに違いない。


※※※


 数々の凶悪なる試練を突破し、とうとう山頂へと到達した。


 そこには、メジェド様たちが勢揃いしている。


 近くには大きめの池――泉があり、そこからは水精たちも顔を覗かせていた。


 更に近くには、『頑張って作りました』と云わんばかりの、田舎なんかでお地蔵さんが入っていそうなちいさな祠が設置されており、その中に、うちの妹様が作り上げた『メジェド像』が祀られている。


(倒れそうな木は――多少は離れているんだな。良かった)


 水色ちゃんが警告した不安要素を抱えると思しき木は何本か見てとれるが、そのいずれもが少し離れており、借りに今この瞬間に倒れても、誰も怪我をしないだろうと思われた。その点は、少し安心だ。


「――! ――!」


「うん?」


 俺の頭上にあるクッカが、ちょいちょいと木の先を指す。


 そこには、さっきまでうちの家族たちが可愛がっていたウサギたちが見えた。


 向こうもこちらを、リラックスした様子で見つめている。遊んでいると思われたのかな?


(まあ、再び愛でるのは、こっちの決着が付いてからだな……)


 メジェド様たちは、再び泥団子を構えている。

 その目には、並々ならぬ決意がある――ような気がする。


 今度は、『クッキー作戦』も通用しなさそうな雰囲気だ。

 まあ、ここで引けば、彼らも『神の像』を失うのだから、当然と云えば当然なのだが。


(ひとりだけ高い位置にいるのは、首魁のペコペコかな?)


 彼女の足下だけ、他のメジェド様よりもたくさんの泥団子が配置されている。それだけ、意気込みが凄いのだろう。


 一方、メジェド様スーツを脱いだまま、こちらを熱っぽく見つめているコロボックルもいる。

 俺にだっこをねだっていた、ルクルクだ。

 声には出さないで、口パクだけで、「だっこして」と呟いているが、そのへんもウサギと同様、ケリが付いてからの話だろうな。


「とうとう来たわね! このバチ当たりども!」


 ビシッと指さしてくる、ファンクラブのリーダー様。

 ついでに泉から顔を出している水精たちも、真似してビシッとやってくる。


「人に指さす、それ、めーなの! ふぃー、おかーさんに怒られる!」


 マイマザーより躾を受けているマイエンジェルが、ぷりぷりと怒っている。


 しかしペコペコは妹様の発言を無視して、こちらに凄んでくる。


「偉大なるメジェド様の軍門に大人しく下れば良し! さもなくば、泥で口の中がジャリジャリになるわよ!」


「ふぃー、口に砂入ったら、すぐ、うがいする! それ、おかーさんに云われてる! にーたに砂場で遊んで貰う時、いつもうがいする!」


「ふふん! ここには、うがい出来るような水場はないわ! 白き神の忠実なるシモベの守る泉があるだけよ。そして貴方たちには、この泉を使う権利はない。つまり、ずっとジャリジャリよ!」


 水なら魔術で……って思ったが、立て札で禁止されてるんだったな……。

 まあ、水筒の残りがあるから、ゆすぐくらいは出来そうだけれども。


 ペコペコは、ジロリと水色ちゃんを見おろした。


「マイム様! 貴方はキシュクードの主でありながら、一度としてメジェド様には勝てなかった。このへんで大人しく、ぜんじょー……? されては如何ですか!? さもないと、マイム様も、ジャリジャリですよ!?」


「ふぇぇ……っ!? 泥をぶつけられるのは、困りますぅ……!」


「ならば大人しく、メジェド様の軍門に下りなさいっ!」


「そうだー! くだれ、くだれー!」


「メジェド様のほうが、マイム様よりも格好良いしー!」


 囃し立てられ、俯いてしまう水色ちゃん。


 気の弱い子だし、まさか屈してしまうのでは――?


 そう思った矢先、キシュクードの聖霊様は、しっかりと顔を上げた。


「――この島は、私のご先祖様たちが、ずっとずっと昔の、神代より守り抜いてきた土地なのです! 私には、それを受け継いだ義務があります! こ、この島のことだけは、何があっても、絶対に譲れません……っ!」


 おっと、ハッキリと云い切ったな。

 この娘なりに、色々な覚悟を抱いて島主をしているらしい。


 もとより彼女を負けさせるつもりもないが、ここまでやる気を出しているのだから、俺も全力でサポートしてあげるとしようか。


「いい度胸ですね、マイム様! でもすぐにジャリジャリになって、泣きながら降参することになりますけどね! ――者ども、かかれ! 今こそメジェド様に対する忠誠を島中に示すときよ!」


 かくして、キシュクード島騒動、最後の戦いが始まった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 口の中がジャリジャリすると気持ち悪いですよね。 口を洗っても良い気分ではありませんし。 更新お疲れ様です。応援してます。
[一言] なんかほほえましい 子供が喜びそうな話に
[一言] ついにラストステージ
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