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妹のいる生活  作者: むい
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第四百七十五話 万秋の森の特別区域


「ここが……」


「特別なお庭……?」


 俺と母さんが連続して呟く。


 今現在いる場所は、万秋の森の一部だが、先程までいた外縁部ではない。

 聖霊が直々に世話をしている森林地帯なのだと云う。


 駐在官によるたび重なる非礼のお詫びとして、こちらでもキノコ狩りをして良いと許可が下りた。

 ほどほどならば、キノコ以外の植物も持ち帰っても構わないとも。


 なので、家族皆で、こちらへとお邪魔したのだ。


 俺個人としては、フィーやミアにキノコを食べさせるのが目的だったし、聖霊クラスが大切に手入れしている植物なんて持って帰ってもトラブルのタネにしかならないから別段不要だと思ったのだが、エルフ族のふたりがおめめをキラキラさせているので、気が変わった。


 エイベルは大手を振って持って帰れるだろうが、ヘンリエッテさんは、あくまでも我が家の護衛だ。


 この場に案内してくれたペールも、『クレーンプット家の皆様』と云っていたので、彼女は採取を遠慮するだろう。


 ――が、『俺が採ったもの』を、彼女にプレゼントする事は出来るはずだ。


 ヘンリエッテさんが何かを欲しがるのは珍しいので、こういう機会に、是非とも日頃のお礼をしたい。


 雑談がてら、副会長様が興味を示すものを探っておくのも悪くはないだろう。


「エイベル、エイベル~! 見たことのないキノコがたくさんあるわよぅ!?」


「……ん。この森の固有種が、たくさんある……! 私の庭園にも無いものが、どっさり……!」


 親友ふたりが、そんなことを話している。

 やっぱり、もの凄く貴重な植物ばかりのようだ。


「にーた、にーた! ふぃーたち、またキノコ狩り出来る!?」


「うん。そうみたい。せっかくだし、色々と貰って帰ろうか」


「美味しいキノコなら、あたしが教えてあげる! と云うか、ホント貴重よ、ここ。聖域の住人でも、入れる人が限られる場所なんだから! かくいうあたしも、初めてだし!」


 キシュクード島は、マイムちゃんの自宅以外はオープンだったから、やっぱりその辺はお国柄が出るんだろうな。


「ふぃー、キノコ好きっ! いっぱい採って、いっぱい食べる!」


「あ、こら、待ちなさい! ここにも毒キノコがたくさんあるんだから~!」


 妹様が駆けだし、チェチェがそれを追いかけた。


 母さんとエイベルも、色々と採取するようだ。


 残っているのは、四人。


 俺と、俺にだっこされているマリモちゃん。

 ヘンリエッテさんと、その掌に乗っかっている花精のクッカだ。


「あにゃっ! あにゃにゃにゃにゃっ!」


 魔晶花を食べ終えた末妹様は、それだけでは飽きたらず、俺にてしてしと食欲をアピールしている。


 身振り手振りと表情から察すると、


「今の魔石は今の魔石で美味しかったけど、やっぱり普段のご飯が食べたい!」


 ではないかと思う。


 だが、マリモちゃんよ。

 いつもエネルギータンクになってくれているフィーやエイベルは、採取に夢中だ。


 そして俺のショボい魔力量では、お前様の『本気食い』の前では、ひとえに風の前の塵に同じ。


 ちょっと我慢して貰うしかないかなー……? 


 そう思っていると、


「アルくん。それならば、私の魔力を使いますか?」


 ヘンリエッテさんが、そんなことを云ってくる。


 今更云うまでもないが、この人は、俺の特性――魔力の根源にアクセスする――を、知っている。


 まあ、写真機に使う『特殊加工の魔石』なんかは、根源に干渉しないと作れないのだから、知られているのは当然なんだが。


 しかし一方で、俺はヘンリエッテさんの魔力にアクセスしたことがない。

 なので、ちょっと驚いてしまった。


「ヘンリエッテさん、良いんですか?」


「ええ、構いませんよ。私もアルくんからの行為の、『初体験』となりますし」


 また妙な云い回しを……。


 だがまあ、マリモちゃんは万年腹ぺこ純精霊なので、ありがたく使わせて貰おう。


「じゃあ、失礼します」


「はい、どうぞ? ……んっ」


 ヘンリエッテさんが、ピクンと身体を跳ねさせた。


 俺の干渉はそのままだと、ちょいと独特な感覚があるらしい。


 戦闘中ならば、相手に悟らせない為に徹底して『感触』を消すのだが、フィーやエイベルから魔力を融通して貰うときは使っていなかったので、うっかりしていた。


「あ、すいません。すぐに何とかしますので」


「い、いえ、構いませんよ? ちょっと、くすぐったかっただけです。気にせず、そのまま使って下さいね?」


 そう云われてもね……。

 一応、『感触』は消しておく。


 一瞬、残念そうな顔をされたように見えたのは、気のせいだろうか?


(それにしても、凄いな……)


 ヘンリエッテさんの魔力量の、大きいこと大きいこと。


 イメージするなら、森に囲まれた巨大な湖――いや、ここまで来ると、どでかいダムか何かかな? 


 静謐なのに、雄大。


 その魔力の質と量は、凄まじいの一言に尽きる。


 これがハイエルフ族最強と呼ばれる人の持つ力の一端なのね。


「あーきゃっ! きゅきゃーっ!」


 マリモちゃん、大喜び。


 遠慮会釈もなしに、どんどんと魔力を貪り食っている。


「――! ――!」


 一方、もの凄く羨ましそうに服を引っ張るお花ちゃん。


 ヘンリエッテさんが魔力を融通してくれるならば、こちらとしても与えるのは別に構わないのだが、さっき『俺の味』は、あまり覚えさせないほうが良いと云われたしな……。


「では、私の魔力をどうぞ?」


 ヘンリエッテさんが、自分の魔力をそのまま与えている。


 お花ちゃんは、たちまち笑顔。


 俺には『魔力の味』なんてわからないが、きっと副会長様のそれは、とっても美味しいのだろうな。


(ヘンリエッテさんの魔力の味が美味しかったら、それはそれで解決にならない気もするが……)


 解決せねばならない問題と云えば、もうひとつ。


 それは、お花ちゃんの居場所だ。

 この娘を、どうするのか。


 花精の領地に戻すのは論外。

 しかし、我が家に連れて帰るわけには行かない。


 花精という存在は、人間の街では、あまりにも目立ってしまう。


 噂にでもなろうものなら、あの狡賢いカスペル侯爵や、利に貪欲なメルローズ財団の気を引いてしまうかもしれない。


 そうなれば、今度はこちらの事情でこの娘を災厄の渦に巻き込むことになる。


 それは出来ない。

 それでは助けた意味がない。


 しかし、この森にも置いてはいけない。


 彼女はもともと万秋の森と親交の深い、花の精霊王の領地からやって来た。

 云い方は悪いが、『火種』を残していくわけにも行かないのだ。


 加えて、彼女をきちんと保護し、大事にしてくれる存在がいなければならない。


 つまりは、保護者代わりだ。


 贅沢を云うのならば、『友だち』も必要だろう。


 そして、これが一番大事だが、エサとなる上質な魔力のある場所でなければならない。


 そんな都合の良い環境を、果たして見つけられるだろうか?


 思案していると、無表情なのに機嫌良さげなエイベルが戻って来た。


 一見すると手ぶらだが、きっとめぼしいものは、あらかた『異次元箱』にしまい込んだのだろうな。


「……ヘンリエッテ。リュシカを見ていてあげて? あの娘はフィーと一緒で、いつも危うい」


「承知致しました。高祖様の、御心のままに」


 副会長様は、花精をこちらに預けてマイマザーのほうへと歩いて行く。


(うん……?)


 なんだろう? 

 エイベルが、俺の事をチラチラと見ているが……?


「……あ、アル……」


「何かな?」


「……えっと、その……」


 師は目を泳がせ、お花ちゃんを見る。


「……そ、そう。その子のこと」


 本当に? 


 なんか、話題逸らしで名前を出したんじゃないの? 


 まあこの際、それは云うまい。


「……その子の居場所は、聖湖の傍が良いと思う。今年中にまたあちらに行くのだから、そのときに連れて行ってあげれば良い」


「――!」


 思わず、膝を叩きそうになった。

 マリモちゃんをだっこしているから、出来ないけれども。


(しかし、そうか。キシュクード島か……!)


 あそこならば、どこよりも安全で、良質な魔力があり、いつも暖かで、友だちになってくれそうな者達もいる。


 何より、聖域の主である水色ちゃんは、超の付く良い子だ。


 これ以上ない移住先だろう。


 ただ、問題がふたつある。


「エイベル。キシュクードは、彼女を受け入れてくれるだろうか? いきなり連れて行くことになるけれども。それに、マイムちゃん家に行くまでの間はどうするのさ?」


「……前者は問題がない。キシュクードは環境をより良くする為に、精霊や妖精が常に活動をしている場所でもある。花精ならば、環境作りの為にも歓迎されるはず」


「成程。この娘は素直な良い子だから、コロボックルたちとも溶け込めそうだしね。――で、それまでの預かり場所は?」


「……タルゴヴィツァに頼む。あそこならば、一時的な魔力の供給と防衛拠点としては問題ないはず」


 あの魔女様か……。


 ぶっきらぼうだけど、子ども好きっぽいし、任せても大丈夫かな。


 しかもあの老魔術師は、ショルシーナ商会とも遣り取りをしている。

 何かあった場合も、連絡を付けやすいか。


(エイベル、色々と考えてくれてたんだな……)


 流石は我が師だ。

 誇らしいね。


 俺の粗末な頭では、「どこにしよう?」と迷い続けるばかりだったろうからな。


「タルゴヴィツァさんへの手土産はどうしようか?」


「……今、ここでリュシカやフィーが採っている」


 そうか。

 ここって、貴重な草花が採れるんだもんな。


 素晴らしい地産地消だ。


 ……ん? 

 ちょっと、たとえがおかしいか。


 土産と云えば、ここで採れる貴重なキノコは、我が家で食べることとする。


 先に採ったほうは超高品質ながら通常のキノコなので、季節に合うものを選んで、知り合いたちに送ることになった。


 セロの祖父母やハトコ様。バウマン子爵家。


 王都では星読みの親子と、ヒツジちゃんの家。


 王宮に送りつけるのは無理だから、お姫様ズには、申し訳ないが諦めて貰おう。


(そして俺の『友人』は、もうひとりいるが――)


 もう暫く会っていない、性別不詳の美貌の持ち主、イケメンちゃんこと、ノエル・コーレイン。

 あちらにも、届けるべきだろうか。


 俺はコーレイン家の所在は知らないが、親が護民官なら、商会に頼めば届けてくれるだろうが――。


(商会長もヘンリエッテさんも、あまりあの護民官とは会いたくなさそうな感じだったけど……)


 まあ、商会のトップが直々に配達するわけでもないだろうしね。


「……あ、アル……」


 そしてエイベルは、再び云い難そうに、俺に目を向ける。


(何だろう? 勝手に決闘を受けたのは俺なんだから、しおらしい態度はこちらこそが取るべきなんだが――)


 考えていると、うちの先生は、ぺこりんと腰を折った。


「……アル、ごめんなさい」


 えぇっ!? 

 何でエイベルが謝るのさ?


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