表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妹のいる生活  作者: むい
460/757

第四百五十四話 ヒナたちの誘い


「ピィ、ピィ!」


「ピィ、ピィ……!」


「きゅぇぇ……!」


 我が家が姿を見せると、七羽のオオウミガラスたちは、一斉にこちらに寄ってきた。

 よちよちぺたぺたと、懸命にちいさな身体を揺らしている。


 来たと云っても、まだしきりを隔てて、こちらとあちらだ。

 触れ合うならば、きちんと専用のドアから、中へ入らなくてはならないが。


「わ、わぁ……っ! ヒナたちが、寄ってきますよ!? 全然人を怖がらないのですね……!?」


 クララちゃん、大興奮。


 彼女も基本的に、動物は人を怖がるものだと云う認識があるのだろうな。


 しかしこちらのオオウミガラスたちは、ひと味違う。


 何せ大元のアオオオウミガラスたちが警戒心薄いことに加えて、ここのヒナたちは産まれた瞬間から、当家の女性陣たちの愛情をたっぷりと注がれて生きてきたのだ。

 結果として、人を恐れず、大の甘えん坊になってしまった。


「現在は、うちの従魔士たちが世話係をやっておりますが、皆、ヒナたちの可愛さに心を奪われ、必要以上に甘やかしてしまっているようです。ダメだとは云っているのですが……」


 飼育員さんたちも、この子たちの甘えん坊具合を加速させているのか……。


「バラモス~! バラモスーっ! ふぃー、来たの!」


「きゅえぇ! きゅえぇっ!」


 白い子同士が再会を喜んでいる。


 フィーはすぐに笑顔を消して、俺の服を引っ張った。


「にーた、にぃたぁ……! ふぃー、バラモスと遊びたい! だっこしたい!」


「フェネルさん、うちの子がこう云っていますが……?」


 いくら勝手知ったるなんとやらとは云え、無断で踏み込むわけにも行くまい。

 顔見知りのお姉さんに、だからそう尋ねてみる。


 すぐ近くではクララちゃんも、フィーの言葉に無言のまま、激しく興味を抱いている様子。


 そりゃそうだろう。

 可愛いヒナをただ眺めるだけか、それとも触れ合えるかでは大きく違ってくるのだから。


 果たして、フェネルさんはクスクスと品よく笑っている。

 子どもたちの反応が微笑ましいと思ったのだろうな。


「はい、もちろん構いませんよ? と云いますか、そうしないとヒナたちも寂しがって収まりが付かないでしょうから。――第三王女殿下には、僭越ですが、私が接し方をお教え致しますね?」


「は、はい……っ! よ、よろしくお願いいたします……!」


 クララちゃん、嬉しそうだな。


 そんな『孫娘』の様子を見ているミチェーモンさんも、満足そうに眼を細めている。以前云っていた言葉通り、本当に彼女のことが大切みたいだ。


※※※


 そうして、ヒナたちとの交流が始まる。


 クレーンプット家にいたころは日がな一日遊んで貰っていたからか、オオウミガラスたちも待ちきれないと云った様子でフィーや母さんに突撃している。


「わぁ……っ! ふわふわです……っ!」


 孫娘ちゃんも、ヒナを撫でて幸せそうだ。

 ヒナのほうも、眼を細めて気持ちよさそうにしている。


「この子は――フーちゃんでしたっけ?」


「はい、その通りです。すぐに覚えてくれましたね」


 解せないのは、ヒナたちに出会って間もないはずのクララちゃんまで、オオウミガラスたちの識別が出来ていることだ。


 何で皆、わかるんだよぅ!? 

 これじゃ、俺だけがダメダメみたいじゃないか……!


「うぅむ……。流石に鳥の子の違いなんぞ、わからんぞ……」


 あ、良かった、同類がいた。

 そうだよな、普通はわからないよなァ……?


 女性陣にだっこして貰えないオオウミガラスのヒナたちが、ミチェーモンさんをつついている。

 背の高い老人はヒナたちを追い払うわけにもいかず、困り顔だ。


 そこへ、オオウミガラスを抱えたままの母さんが寄っていく。


「ミチェーモンさんって、クララちゃんの本当のお爺ちゃんじゃないのよね? じゃあ普段は、何をされてるんですか?」


 やめるんだ、母さん。

 さっき織物問屋のご隠居は、無職だって云ったじゃないか! 

 無職の人に、「今は何をされているんですか?」は禁句なんだぞ!?


「まあ、アレじゃ……。バクチで生活費を捻出しておるよ」


 割とろくでもない答えだった。

 無職のギャンブラーとか、人生の落伍者にしか思えんぞ。


 あぁ、いや……。

 賭博師としてそれだけで食って行けるなら、逆に凄いのか……?


 しかし、会話を聞いていたフェネルさんは苦笑し、孫娘ちゃんは困ったような顔をしている。

 何だろう? 

 この爺さん、実は無職じゃないのかな?


 ご隠居本人も彼女等の表情に気付いたらしい。

 オオウミガラスたちにつつかれながら、肩を竦めた。


「別に、わしに気を使わんでええぞ? 本名を出した以上、簡単に調べられることじゃからな」


 ミチェーモンさんがそう云うと、フェネルさんは彼に一礼し、それから俺たちのほうに向き直る。


「こちらのエフモント様は、予言者として知られる方なのです」


 予言者――。

 それが彼の真価なのか。


 しかし、ならば何故、無職などと。


「別に予言を生業にしているわけではないからな。たまたま、そういうことも出来ると云うだけで、予言者と云う看板を掲げたことはないからのぅ……」


 そういうご隠居様の口調と表情からは、あまり自身の能力を好いている感じがしなかった。


「でも未来を知れるなら、明日のお天気とかわかって便利よねぇ……」


 マイマザーの言葉に、老人は笑い出す。

 何かツボに入ったみたいだ。


「くはははは……! 成程、確かにその通りじゃな。しかし、変わった御仁よな。普通、予言能力の話を聞くと、もっと欲にまみれた言葉や視線を向けられるんじゃが……」


 笑い方が大きかったからか、オオウミガラスたちが、一斉に老人をつついた。


「痛っ! 痛た……っ! こりゃ海鳥ども、やめんかぁ!」


 爺さんの一喝は、効果がなかった。


 気のせいか今の発言のおかげで、ミチェーモンさんとクララちゃんの雰囲気が、より柔らかくなった気がする。         


(しかし、天気予報とは母さんらしい……)


 どこかピントがズレていて、でもきっと、本人は真面目で。


「そう云えば天気予報って、一応、この国の観星院も出してますよね」


 俺の発言も、ちょっと場にそぐわなかったか。


 天体と天候を観測するのが観星院の仕事であり、天文台及び各所に配置された職場が、観星亭と云う。


 大きな観星亭を有する大都市なんかだと、毎日決まった時間に、明日の天気が張り出される。


 もちろんそれは観測の結果であり、予報であり予測だから、ハズレることもある。


 けれども観星員が優秀な都市だと的中率が高いし、そうでなくとも蓄積された知識とデータがあればそれなりの結果は出るから、観星亭がある街と云うのは、便利と云うか、有利である。


 仕事によっては天候が極めて大事というのもあるし、天気に左右されるような職に就いている人だと、わざわざ観星亭のある都市に引っ越してきて住む人なんかもいるみたい。


 そして、観星院及び観星亭の最重要職務が、占星術――つまりは星占いである。


 星の動き、或いは瞬き。

 そう云った天体の運行と人間の運命を関連づけ、未来を読み取る為の魔導学にして魔術の範疇。

 それらを研究し、取り扱う。


 尤も、占いはどこまで行っても占いだ。


 占星術そのものは多くの人が信じ支持していても、必ずしも当たるものではないとも思われている。


 実際、観星亭でも占星術というものは、取り扱いが難しい――直截に云えば、どうにもならないものと云う位置づけであるようだ。


 しかし、例外もある。


 それこそが、『星読み』と呼ばれる破格の存在。


 この国にわずか三人。

 他国を含めても殆どいない、本物の未来視の持ち主たち。


 我が家とも親しい、あの親子。


(ぽわ子ちゃん、オオウミガラス大好きだったからな……。ここのことを教えてあげたら、大喜びしそうだな……)


 俺が観星院の話なんか出したからか、皆に思い当たるものがあったらしい。

 ご隠居様が眉をひそめた。


「観星院のぅ……。そう云えばこの国には、ちょっと関わり合いになりたくない星読みがおってなぁ……」


 うん、間違いなくアレ(・・)だろうね。


 ミチェーモンさんも、あのトンデモママンと面識あったのか。


 次いで、フェネルさんが俺の方を見る。


「申し訳ありません、アルト様。報告が遅れておりました」


「うん? 報告? 俺に? 何?」


「実は、ミルティア様のことなのですが――」


「ぽわ――ミルのこと?」


 またタイムリーな。

 何だろうね、一体?


「はい。どこから聞きつけたのか、我々商会員がオオウミガラスを保護していることを知られたようで、会わせて欲しいと先日、当商会のほうへとやって来られました……」


 あ、フェネルさん、凄く疲れた顔をしてるな。

 きっと、疲れることがあったのだろう。


「色々と悶着がありまして、その末に、後日この場に案内することになりまして……」


 押し切られたのか。


 フェネルさんの云うところ、オオウミガラスたちは商会が預かっていても、我が家の友だちであり家族でもあるので、勝手に会わせるのはどうかと思ったようだ。

 もちろんそこには、商売上の情報保護の観点もあるようだが。


 でもまあ、ミルならそこまで無茶はしないだろう。

 寧ろ、ごく普通に喜ぶのでは? 


 タルタルのほうは知らん。

 万が一にも暴走とかされると困るから、飼育員さんたちに頑張って貰うしかないが。


「まあ、あの……、案内頑張ってくださいね?」


 俺としては、そう云う以外に何も出来ない。


 しかしそう思った瞬間、背後から聞き覚えのある声が響き渡った。


「たのもーーーーーーーーっ!」


「……もー」


 誰か様と誰か様が、乗り込んでこられたみたいだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 可愛い子達がきた
[一言] 命名「孫娘ちゃん」 なるほど、いかにもな名前でしたね
[一言] 事前折衝して無いんかい
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ