表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妹のいる生活  作者: むい
439/757

第四百三十三話 クレーンプット家への来訪者(中編)


 と云う訳で、哀れクレーンプット兄妹は、エルフ族のお姫様に囚われてしまったのだった。


「ふふふふふふ……。ふかふかです……っ。それにしても、可愛い小ブタさんですね!」


 フィル嬢、大喜び。


 もがいても解放してくれないので、このまま会話を進めるしかない。


「エイベル。こちらの方たち、何でここに来たの?」


「……ん。目的があって」


 そりゃ何の目的もなく、人間族のお貴族様の屋敷には入ってこないでしょうよ。


 姉の態度を見かねたもうひとりの高祖様が、来訪理由を説明してくれる。


「一応、私たち三人に個別の理由はありますが、共通の目的は、『写真機』です」


 写真! 

 俺が愛くるしいフィーの姿を収める為に作り出したアレが目的なのか。


「なんでも件の記録装置は、エイベルの『知り合い』が開発したとか……」


 おや。

 エルフ族の頂点でも、個人情報は入手されておりませぬか。ショルシーナ商会、義理堅し。


 しかし、お師匠様と似た面影のある少女は、一瞬だけジト目を俺に向けた。ある程度の当たりは付いているらしい。


 彼女はそれから、うちの先生を見る。


「――家族の姿を残せるというのは、私にとっても重要ですから」


「……ん」


 交差する両高祖の瞳はとても深くて。


 このふたりには、ただの記録以上の意味がきっとあるのだろうと理解出来た。


「そう! 家族なのですよ!」


 俺とフィーを抱きしめているフィルカーシャ嬢が声をあげる。


「わたくしは、その為にもこちらに参ったのです!」


 どういうことだろうか? 

 フィル姫様も、家族の写真が欲しいと云うことなのだろうか?


「産まれるのです! 新しい命が! わたくしの弟か妹が、来年にも!」


「――!」


 セロのときにチラリと聞いた、フェネルさんが気にしてた『新たなエルフ族の誕生』って、もしかして、このハルモニア家の話だったのか?


 お姫様はテンションが上がっているのか、俺とフィーを縦横無尽に振り回す。


「赤ちゃんです! 赤ちゃんが産まれるのですっ!」


「にゅぁぁあぁ~~っ! に、にーたぁぁ、たすけてー!」


 妹様のおめめがグルグルになっている。いかん。早く救出してあげねば!


「フィルさん、ストぉ~ップ!」


「あぁっ、これは大変な失礼を……っ!」


 浮かれていたお姫様は、大慌てでその動きを停止する。


「ふぇぇぇ、にぃたぁあああぁぁ!」


「おお、よしよし。怖かったな、フィー」


 お姫様の腕から逃れ、マイエンジェルを抱きしめていると、フィルさんは深々と腰を折った。


「申し訳ありません。全ての子どもは手厚く保護されるべきであるにもかかわらず、おふたりをこのような目に遭わせてしまいまして……。汗顔の至りです……」


 フィルカーシャ嬢は、しおしおとちいさくなっていく。


 これから赤ん坊が産まれる身であるのに、幼い子どもを怖がらせてしまったことに、忸怩あったらしい。


「新たに産まれてくる下の子を、赤子のうちから記録に収めることが出来る……。そのことに心奪われ、はしゃぎすぎてしまいました。ああ、それにしても商会とその協力者は、なんと素晴らしい発明をされたのでしょうか。叶うならば、その発明者様と話をしてみたいものです……」


 フィル姫様は、余程にまだ見ぬ『下の子』が大切らしい。我を忘れてしまう程に。


 これ程までに待ち望まれているのだから、その子が無事に産まれて欲しいものだが……。


 祈るように手を組み天を見上げるお姫様と入れ替わるように、ケープのエルフが前に出た。


「……私がこの場へやって来たのは、『写真機』の構成素材を知ったからなのです」


 仮面を付けたちいさなエルフは、エイベルの前に跪いた。


「強き方。尊き方よ。どうかお教え下さい。『あの魔石』は、何なのです?」


 その『面』によって、表情は見えない。

 けれども、その『声』は、甘くとも重い。


(そうか。この娘は、俺の干渉した魔石に引き寄せられたのか)


 それにしても、この人は何者なのだろうか? 


 ティーネは当然、知っているのだろうが。


 俺は女騎士を見る。

 彼女はこちらの胸中を読み取ったらしく、説明をしてくれる。


「彼女の名はレコード。ハイエルフの『伝説』のひとりでございます」


 伝説? 

 それは語りぐさになる程の存在と云うことなのだろうか?


 後を引き取るように、『天秤』の高祖は云う。


「この娘は強いですよ。少なくとも私の知る限りでは、存命するエルフの中では、ヘンリエッテと双璧でしょう」


「へえ、『最強』のハイエルフなんですか」


「――――」


 何気なく呟いた俺の言葉に、エルフたちは黙り込んだ。

 三人のハイエルフも。

 この世にたった二名のアーチエルフすらも。


「あ、あれ? 違いました?」


「『頂点』たるハイエルフの方は――。い、いえ。何でもありません……」


 フィルカーシャは何かを呟こうとして、慌てて口をつぐんだ。


 それはきっと、俺が勝手に踏み込んではいけない事情なんだろう。


 俺の言葉など無かったかのように、仮面のハイエルフはエイベルを見つめた。


「偉大なる方よ。私は自分なりに魔術の研鑽を積んできたつもりです。ですが、このような魔石は、ついぞ見たことがありません。これは一体、どこで手に入れたものなのでしょうか? いえ、どこで発生した魔石なのでしょうか?」


「…………」


 エイベルは答えない。


 これは、俺を庇ってくれているのだろうな。


 仮面の魔術師は、俺の師の態度で、エイベルが語るつもりが無いことを悟ったらしい。

 一度頭を垂れ、それからもう一度、我が師を見上げる。


「尊き方よ。では、ひとつだけ。『写真機』に使われている光の石。あれは或いは魔石ではなく、『精霊石』の亜種なのでしょうか?」


「……『写真機』は貴重なもの。そして、有用なもの。けれども、量産できるもの。唯一無二ならば精霊石を用いることも考慮するけれど、そうでないものに、精霊石は使わない」


 淡々と喋るエイベルの言葉には、ある種の重みがあった。


 俺は『精霊石』と『精霊銀』が、どのようにして作られたのかを師より聞かされている。

 だからエイベルが、それらを疎略に扱うつもりが無いことも分かっている。


 ケープのエルフは、ちいさく俯いた。


「精霊石ではない……? では、この魔石は一体……? あのような『在り方』をする魔石は類がない……。自然のまま、あまりにも不自然で……」


 それはたぶん、独り言の類なのだろう。


 カメラ用の石は、俺が根源干渉したものだから、そりゃどこにも無いに決まってる。教えてあげる訳にはいかないけれども。


 話題を変える為に、俺は『天秤』の高祖様へと向き直る。


「リュティエルさんも、カメ――写真機が目的なんですか」


「ええ。半分は。この後、エイベルと一緒に写真を撮る予定ですから」


 美人姉妹の写真ですか。

 歴史的価値を抜きにしても、欲しがるものも多かろうな。


「じゃあ、目的の半分は、写真ではないんですね」


「そうです。私は、日雇い労働をしに来たのです」


「ひ、日雇い労働……?」


 天下のアーチエルフ様から、そのような単語が。


 一体、誰に雇われ、何をするというのか。


(いや、『何を』は兎も角、『誰に』は明白か――)


 エルフ族全てを統べるリュティエルに対して、そんな物云いが出来るのは、ひとりしかいないだろう。


「……エイベルが呼び寄せたのか」


「……ん。運転手として採用した」


 運転手。

 これまたエルフ族らしからぬ言葉を。


「……何を運転して貰うの?」


「……エアバイク。明日使うのは、アルも知っているはず」


 あー……大氷原。


 氷雪の園へ向かうのに、『定員オーバー』をどう解決するのかと思ったら、単純に乗り物と操縦者を増やすのか。

 と云うか、神代から生きるエルフ族の祖を、足として使うわけね。贅沢な……。


「それからもうひとつ」


 明日の日雇い労働者が口を開く。


「こちらに『アイスクリーム』なる銘菓があると聞きました。それはプリンに匹敵する、天上のご馳走であるとも」


 こちらの高祖様も、プリン大好きなのか……。


 確かに我が家の冷蔵庫には、プリンもアイスもあるけれども、『来客』があることは想定してないから、ぶっちゃけ余分な在庫は、あんまりないぞ? 

 今朝もフィーとエイベルが、今日のおやつのおかわり分に、先取りして手を付けていたし。


『天秤』の高祖様の言葉に、同時にピクンと身体を跳ねさせるお姫様と仮面のエルフ。


 何? 

 もしかして、キミらもプリン大好きなの?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 〉 後を引き取るように、『天秤』の高祖は云う。 〉「この娘は強いですよ。少なくとも私の知る限りでは、存命するハイエルフの中では、ヘンリエッテと双璧でしょう」 高祖はハイとノーマルと…
[一言] 美少女中高生な見た目のエルフがこれまた美形なクレーンプット兄妹を抱き締める姿はさぞかし絵になる、はず アルのくたびれた雰囲気が仕事してほのぼのではなくなるかも知れないけど 外見の細かい描写…
[一言] アル、エルフに攫われない? こんだけ変な客が多いんじゃ爺にバレない?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ