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妹のいる生活  作者: むい
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第四百二十六話 魔道具技師アルト・クレーンプット


「どうぞ、アルトくん。こちらが認定証となります」


 神聖歴1206年の八月。


 毎度おなじみの魔術師・トルディさんが、俺に書類を渡してくれる。


 それは初段位合格の証であり、そして魔道具技師として活動することを認められた証でもあるのだ。


「僅か七歳で初段取得なんて、我が国開闢以来のことですよ」


「あはは。最年少は他にいるんだから、開闢以来はないでしょう?」


「第四王女殿下ですね。確かに、彼女はまだ六歳。本来は彼女にこそ相応しい言葉ではあるんでしょうが、あの方は正真正銘の天才。しかも環境に恵まれ、師は天下の賢才と呼ばれる大魔術師ですから。そこへいくとアルトくんは学問環境の整っていない平民ですからね。これは奇跡だと思います。私も平民なので、書物ひとつ手に入れるのも難儀しましたから、その苦労は理解出来るつもりです」


 いや……。師に恵まれてるのは俺の方だし、中身は子どもじゃないしで、やっぱり凄いのは村娘ちゃんの方なんだと思うけどな……。


 まあ、それはそれとして、これで俺も魔石という『動力』を活かした魔道具が作れるわけだ。

 これは大きい。色々と出来る。


「これは興味本位で訊くので答える義務はありませんが、アルトくんは、何かもう作るものを決めているのですか?」


「はい。一応は」


「凄いですね。もう定まっているとは」


 別に凄くはない。

 何故なら、完全完璧、完膚無きまでに私用の発明品だから。


 定まっていることを褒められるなら、それも矢張り村娘ちゃんであるべきだろう。

 俺には、あの娘のような純粋さはない。

 四肢の欠損したお母さんの為に、今も頑張っているんだろうからね、彼女は。


(村娘ちゃんと云えば、両侯爵からの呼び出しがそのうちあるんだよなァ……)


 イヤだなァ……。

 行きたくないなァ……。


 これも今日、トルディさんに聞いたのだが、俺の出頭は近習候補を集める都合上、もう少し先になるみたい。

 通信設備の発達していない世界だから、遠方の貴族に連絡を取るのも一苦労で、その影響で遅れているのだとか。


 トルディさんは、期待に満ちた瞳で云う。


「アルトくんは天才ですから、将来は魔道具技師として名を馳せるかもしれませんね?」


 名は要らないかな。実利だけが欲しいんだけど。


 一応、魔道具技師も別名を使えるらしい。

 尤もこちらは国にも登録するので、『上』からすれば『実は誰なのか』が丸わかりらしいのだが。

 それでも本名を使うよりは秘匿性が高いので、使わない手はないのだが。


「今現在王都で新進気鋭の発明家として名を馳せているのは、エッセン、バイエルン、プリマの三者ですが、魔道具技師アルト・クレーンプットの名も、そこに加わるかもしれませんね? 将来アルトくんが発明界の四天王のひとり、と呼ばれる未来もあり得るのではないかと私は考えております」


 全部同じ人じゃないですかーっ、やだーっ!


 四天王(総勢一名)とか、色々と酷いな。


 ただ、俺の名義は他にも増える予定なのよね。

 スポーツドリンクとバックギャモンは一部の知人には俺の発明品だと知られてはいるが、『それ以外』には知られたくないので、こちらも偽名を使っている。


 相変わらず、なまくらだらけの鍛冶のほうも、販売が出来る水準に到達するなら、当然、別の名義を出すだろう。


 あと、妹様ね。

 フィーの陶芸が売り物になるなら、別名を使って貰おうと思っている。

 あの娘の才能は、あまり他所には知られない方が良いと俺は考えており、母さんやエイベルもそれに賛同してくれている。


 ともあれ、魔道具技師アルト・クレーンプットと云うのは、幻の名前になるだろう。


 魔道具の第一弾は前述の如く既に決まっており、今日のこの許可が下りたことで、すぐに完成となる予定ではあるのだが。


「では、アルトくん。これからも色々と苦労はあると思いますが、頑張って下さい」


「ありがとうございます。トルディさんには、今まで色々とお世話になりました」


「いいえ、こちらこそ。……それに、これは第六感を持たない私の単なるカンですが、アルトくんとは、この先も縁がある気がしています。ですので、こう云っておきます。これからもよろしくお願いしますね、と」


 心優しい綺麗なお姉さんは、そう云って微笑んだ。


※※※


 と云う訳で、魔道具の第一弾が完成した。


 基礎モデルは既に出来ており、後は動力をセットするだけ。


 今回も実際の制作はガドに頼んでおり、そして一番のキモとなる『薬品』は、エイベルに作って貰った。


 ただし、その薬品の表向きの開発者は『プリマ』だ。

 高祖様の名を出す訳にはいかないので、必然的にこうなってしまう。


 エイベルの手柄を横取りするようで心苦しいが、『ショルシーナ商会との共同開発』と云う名目でエルフ族に利益は還元させて貰うので、それが将来、お世話になった人々に返って行って貰うことを祈るばかり。


 一応、俺自身も、制作には手は出している。

 それは、光の魔石だ。

 これの光量調節と光方に指向性を持たせる為に、ちょいと『干渉』させて貰った。


 これは俺だけのオリジナルなので、他所がこの魔石を手に入れることは出来ないだろう。

 もちろん表向きは、『エルフ族が持つ変わった魔石』という触れ込みにする。


 ――そして、俺たちは離れの庭にいる。


 一番最初なので、これ(・・)の使用は『家族全員で』と希望させて貰ったのだ。


 俺がフィーを抱きかかえて中心に立ち、母さんとエイベルが傍に寄り添っている。


「では、起動させますよ?」


 魔道具のスイッチを入れてくれるのはヤンティーネだ。

 彼女にも、色々とお世話になっているよねぇ。


 他、ここには商会のトップたる会長様と、副会長のヘンリエッテさんまでいる。

 両巨頭が不在で、本部は大丈夫なんだろうか?


「大抵のことはフェネルに任せておけるので、大丈夫ですよ。あの娘で無理なのは、ミィスの制御くらいですから、ご安心を」


 と、エイベルをギラついた目で見ながら商会長が云う。

 ……今回の発明品に一番食いついてきたのって、この人だからね。

 本来は副会長様とフェネルさんが来る予定だったのに。


 そして商会の№2様に目をやると、彼女は柔らかい笑顔で、俺に問いかけてくる。


「……アルくん。フェネルと約束している『スペシャル』って何ですかー?」


 なんだか、奇妙な圧力を感じる……。


 スペシャルって、アレだよね? 『だっこスペシャル』。

 セロでいつの間にやら約束させられたアレ。

 まだ実行されてないが、フェネルさんは『予約』を勝ち取ったことで終始ニコニコ顔だったが……。


「ヘンリエッテ。アルト様とフェネルの仲の良さなど、この際どうでも良いことです。大事なのは、これ! この素晴らしい発明品なのですよ!?」


 最早、商会長様は魔道具一号に夢中だ。

 ……あ、帰りにマグカップを持って帰って下さいね? ちゃんと準備しておきましたので。


「では、魔道具を起動しますよ?」


 こっちがグダグダだったからか、ティーネがもう一度確認してくる。何か悪いね。


「フィー。俺にしっかり掴まって、あの箱の方を見ておくれよ?」


「んゅ……。ふぃー、箱よりも、にーたのお顔が見たい……」


「うん。すぐ済むから、ちょっとだけね」


「みゅぅぅ……。にーたがそう云うなら、仕方ないの……」


「終わったら撫でてあげるから、笑顔でな?」


「――っ! なでなで!? にーた、ふぃーをなでなでしてくれる!? 見るっ! ふぃー、笑顔! 笑顔で箱見るっ!」


 うん。作り笑いじゃないな、これ。


 俺が苦笑し、フィーが輝くばかりの笑みを浮かべた瞬間、ティーネがボタンを押した。


 動力が起動し、箱から光が放たれた。


「ほい。フィー。お疲れ様」


「終わった!? なら、にーた! なでなで! ふぃー、すぐに、なでなでして欲しい!」


「はいはい。ほら、これで良いか? なでなで~」


「きゃん! ふぃー、にーたのなでなで好き! にーたが好きっ!」


 うーん。もちもちほっぺが柔らかい。


 ややあって、ティーネが出来上がった『それ』を持ってきてくれる。

 皆が『それ』を覗き込んだ。


「ふおぉぉぉおおおおおぉぉぉぉ~~っ!? にーた、ふぃーたち! ふぃーたちがいる!?」


「あぁああああぁぁ……っ! エイベル様っ、なんとお美しい……っ!」


 そこにあるもの。


 写っているもの。


 それは紛れもなく、クレーンプット家の姿。


 俺が作ったのは、つまり――カメラだったのだ。


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― 新着の感想 ―
[良い点] カメラか! これは間違い無く「産業革命」に匹敵する発明になるね。 軍・民問わず、記録用(諜報用としても)として異次元の需要は確定しているし、この特許だけでも主人公一家が一生楽に生活出来るだ…
[一言] そのうちムーンレイン七賢人(総勢一名)とか九偉人(総勢一名)と言われるんですね、わかります。
[一言] スゲェカメラとかレベル高すぎ!もう神じゃん
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