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妹のいる生活  作者: むい
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第四十二話 すぴすぴしすたー


 フィーリア・クレーンプットの夜は早い……。


 何せ、日がな一日、はしゃぎ続けているからだ。

 ちいさなちいさな妹様は、持てる体力の全てを使って、一生懸命に俺に甘えてくる。

 だからしょっちゅうエネルギー切れを起こすし、昼寝をして回復を図っても疲労の方が大きいらしく、夜になるとすぐに眠ってしまう。


「すぴすぴ……」


 フィーの寝顔は可愛い。とても可愛い。超可愛い。

 整った外見をしているのに、恐ろしくゆるんだ顔をして眠る。大半の場合、涎もセットになっているのはご愛敬。

 この辺は我が母・リュシカに似たのだろう。呆れる程にそっくりだ。


「ふふふ。幸せそうな寝顔ねー……」


 その母さんが嬉しそうに愛娘の寝姿を見つめている。

 このお人は自分が娘とそっくりな寝顔であることを知らないのだろうか……。   

 

「……にーた、にーたぁ……。えへへへへ……」


「フィーちゃん、とっても幸せそう。きっとアルちゃんの夢を見ているのね」


 愛妹は眠っている時も、俺の名前を呼ぶことが多い。

 寝ぼけて目をさました時も、


「にーたぁ……おうまさんごっこのつづき……」


 とか云って、しがみついてくることも、ままある。

 とっても可愛いので、ついつい頭を撫でたくなるが、それで目をさましてしまったら大変だ。

 妹様の睡眠時間を妨げるわけにはいかない。


「んゅ~~。にーたぁ……」


 ふへへへ、と笑うマイエンジェル。

 夢の中でも幸せなのは良いことだ。悪夢を見ていたら、可哀想だからな。


 と云う訳で、今回は妹様の睡眠の話。


 この世界はどうだか知らないが、地球世界での大人の睡眠時間は七~八時間くらいが目安とされる。

 まあ、そんなにしっかりと寝ていない人だって多かろう。

 俺もそうだった。

 ナポレオンなんかは三時間しか睡眠時間がなかったと云われているが、実際は戦争中以外はちゃんと寝ていたらしい。が、俺たちブラック企業戦士は毎日が戦時中だからなァ……。

 たっぷり眠れるって、幸せなことなんだよな……。


 で、幼児の睡眠時間。

 これは大体十時間以上必要で、十四時間眠る場合もある。


 一日の半分以上だ。俺も昔、そうだった。

 当家の妹様も、よく眠る。


 俺とじゃれ合っている最中も、ねむねむモードになることは珍しくない。

 フィーは俺といる時は興奮状態な場合が多く、なるたけ起きていようとするらしいが、三大欲求の一角には勝てない。

 特にだっこをしてあげていると、安心するのか、いつの間にか、かくんと寝てしまう。


「にーた! にーたすきッ! だいすきッ! すきッ! すきッ!」


 そんな風に俺にまとわりついていたのに。


「にゅ~~~ん……」


 気がつくと、もう寝ている。


※※※


 マイシスターは一人で眠ることが出来ない。

 俺か母さんにしがみついていないと、寂しくて目覚めてしまう。


 一度母さんとグルになって、寝ている妹様の抱きつき対象を枕にすり替えたことがあった。

 いや、別に親子揃って巫山戯ているわけじゃないのよ?

 枕でも大丈夫なら、ぬいぐるみあたりを与えれば、いずれ一人で寝る事が出来るかもしれないと考えたからだ。


 結果は。


「うええええええええええええええええええええええええええええええええん! にーたあああああああああああああああああ! にいいいいいいいいいいいいいたあああああああああああああああああ!」


 ごらんの通り、大失敗だった。


 どうやら人肌かそうでないかが、眠っていてもわかるらしい。

 と云うか、母さんの名前は泣き叫ぶ対象に入らないのね。母上がしがみつく対象でも満足して眠るのに。


「めー! にーた、ふぃーからはなれてねるの、めーなの!」


 マイエンジェルに禁止されたので、以降、替え玉作戦は試みていない。


※※※


 母さんのベッドはかなり大きい。

 粗末な調度品の多い西の離れの中では、一番立派な家具かもしれない。

 俺たち親子は、そのベッドで川の字になって眠る。

 フィーが常に俺を求めるように、母さんも寂しくなると、親友を同じベッドに引っ張り込んで眠ることになる。

 寝転ぶ順番は、母さん、フィー、俺、エイベル。

 何故だか知らないが、大体においてこれで固定だ。

 エイベルが母さんから離れているのは、抱きつかれるのを警戒しているのかもしれない。

 ちなみに俺は寝る時は横を向いて寝る派だが、妹様はエイベルのほうを向いて寝ることを許してくれない。


「にーた、ふぃーのほうをみてねなきゃ、めー! ふぃー、にーたのあたまみてねるの、やー!」


 誰かに抱きついて眠る仕様上、マイエンジェルも横向きで眠る派だ。

 俺に密着し、俺の顔を見ながら眠れることが嬉しいらしく、ベッドに入る時はいつも笑顔。


「えへへ……。えへへへへへ……。にーた、ちかい。にーたのおかお、ふぃーすき!」

「俺もフィーの顔が好きだ。フィーの笑顔が好きだ」

「きゅふううううううううううううううん! にーた、ふぃーすき! ふぃーうれしいッ! しあわせッ!」


「こぉーら! 夜は大声を出しちゃダメよ?」


 そんなことを云いながら、俺たち兄妹を抱え込むマイマザー。


「で? で? アルちゃん、お母さんの顔は?」

「え? あぁ……。フィーに似てますね……」

「もー……! そこは母さんも可愛いよ、でしょ?」


 何を張り合っているのやら。

 息子に承認欲求を満たして貰って、どうしようというのか。


 しかし、母上様の催促は続く。


「さ、さ、アルちゃん! 云って? 云って? お母さんを褒めてあげて?」

「はい。この中で三番目にお美しいです、お母様」

「むーっ!」


 俺が舐め腐った態度を取ったからか、母さんが激怒モードにチェンジされた。

 でもさー……。比較対象がフィーとエイベルだよ? 仕方ないじゃん。


「酷いことを云うアルちゃんは、おしおき!」


 手をわきわきし始める母上様。

 これは不味いな。くすぐりだけは、本当にダメだ……。


「た、助けてくれ、フィー……!」


 妹に縋り付くなんて情けない兄貴だって?

 そうさ! 俺はそういう男だ!

 クズ兄貴と笑わば笑え!

 しかし妹様を見ると、


「すぴすぴ……」


 満足そうに、幸せそうに眠っていた。


(あああ、可愛い寝顔だなー……!)


「じゃ、アルちゃん。覚悟はい~い?」


 俺は愛妹の寝姿を堪能したまま、くすぐり地獄の刑に処されたのであった。


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