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妹のいる生活  作者: むい
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第三百九十二話 セロでの夕食会


「アルー! 来たかーっ!」


 一年ぶりにハトコズと再会した。


 白い歯を見せて、にししと笑うブレフのわんぱく振りは相変わらずのようだ。

 けれども、目に見える変化もある訳で。


「ブレフ、お前、背が伸びたなァ」


「おうよ! よく食って、よく寝てるからな!」


 元気いっぱいにヘッドロックを繰り出してくるハトコ兄。


 こいつ大人になったら、結構な長身になるんじゃないだろうか。


 一方で当家の妹様は、よく食べ、よく眠り、よく動く割りには、あまり身長が伸びていない。


 こちらは成人しても、ちんまいままなんじゃないかという疑惑が出ている。


「あ、アルトさん、こ、こんにちは……。お久しぶりです……」


 控え目に頭を下げてくれるのは、ハトコ妹のシスティちゃん。


 声はちいさいが、はにかんだように笑ってくれているので、以前よりも距離が縮んでいるとは思いたい。


(やっぱり左手に、包帯は巻いたままなのか……)


 この娘の性格を考えると、そこにズケズケと踏み込むのはやめておいた方が良いのだろうな。


 一方ブレフは、俺にだっこされているままのフィーを見て笑う。


「おう、フィー。お前は相変わらず、アルにべったりか」


「にーたから離れる理由ない! だっこして貰う、それ当然のこと! ふぃー、にーたに、こうして貰っているときが一番幸せ! ふぃー、にーた好き!」


 ひしっと腕に力を込める妹様。

 からかうようなブレフの問いは、マイエンジェルには『愚問』として処理されたようだ。


 そして、再会はもうひとり。


「うちのブレフ程じゃないけど、貴方たちも背が伸びたわね。と云うか、このくらいの伸び方でいいのよねぇ」


 ブレフとシスティちゃんのママン、セロの託児所勤務のレベッカさんだ。


 彼女は祖父母やマイマザーとも挨拶をしている。

 そして、ドロテアさんの首元に目ざとく反応した。


「あら、ドロテアさん! その首飾り……!」


「ふふふ。気付いた? 気付いちゃった? 良いでしょう? 良~でしょ~?」


 よそ行きの格好をしたグランマの胸部上方に輝くのは、落命を恐れて必死につくりだしたネックレスだ。


 料理する人だから指輪や腕輪は論外。

 髪留めとどちらにしようか迷ったが、装飾用チェーンの練習も兼ねてネックレスを選択した。


「素敵ねー! 控え目なのに、ちっとも地味じゃない。シンメトリーなデザインも秀逸だわ。何より、この輝き……! どんな細工をしたら、こんな美しい色合いになるのかしら……!?」


 レベッカさんは、爺さんを見る。


「シャークおじさん、これ、もの凄く高かったんじゃないの? 素人目にも、良品って分かるんだけど? 王都から取り寄せたか、ドワーフの職人にでも注文したの?」


「俺がやったもんじゃねぇよ……」


 気まずそうな顔から察するに、あまりプレゼントはあげてないんだろうか?

 心なしか、ドロテアさんの視線も冷たい。


「おじさんじゃないんだ? じゃあ、どこで手に入れたものなのかしら?」


「うっふふふ……! その辺も含めて、食べながら話しましょうか」


 と云うことで、祖父オススメの飯屋に向かうこととなった。


※※※


「ここが――」


「今日のお食事場所?」


 俺と母さんが驚きの声をあげる。


「おうよ! まだ開店したばかりだがな、ごらんの通り、連日の大盛況。俺もお前たちが来るのを見越して、予約を入れたんだぜ?」


 得意げに店を指し示す祖父の先に見える看板には、


『ウナギ飯』


 確かにそう書かれている。


 なお、その看板にはちいさな字で、


「当店で扱っているのは沼ドジョウです」


 の、但し書きもあるのだが。


「うぉおおお~~~~っ! 沼ドジョウ! 俺、食べるの楽しみにしてたんだよなぁ!」


 わんぱく少年が両目をキラキラさせている。

 そうか、セロでもウナギは大人気なのか。


「もの凄く美味しいって評判だものね。私も楽しみだわ」


 と、レベッカさん。


 システィちゃんも口には出さないが、心なしか紫色のおめめが輝いているように見える。


「ご馳走なら、私が作ってあげるのに……」


 ドロテアさんは、まだそんな未練がましいことを云っていた。


※※※


「ご、ご馳走よ! これはとんでもないご馳走よぉ~~!」


 ドロテアさんは、うな丼を口に含んで、一瞬で白旗を揚げた。

 セロの誇る料理名人も、ウナギの魔力には敵わなかったようだ。


「うほォッ! これはうめェッ!」


「こら、ブレフ! 食べながら喋るな! ……でも、ホント美味しいわね、これ」


「お、美味しい……ッ! 美味しいです、とっても……ッ!」


 レベッカさんとシスティちゃんも、舌鼓を打っている。うな丼は大好評のようだ。


 グランドファーザーはその様子を見て、豪快に高笑い。


「がっはっは! そうだろう、そうだろう! 俺も初めて食べたときは、あまりの美味さにビビッたもんよ! これがあの下魚の沼ドジョウかってな! お前たちに喜んで貰えれば、俺も連れてきた甲斐があるってもんだぜ!」


 我が物顔っすね、グランパ。


 ギルド執行職員は、次いでうちの家族を見た。


「どうだ、リュシカぁ! 美味いだろう!?」


「ええ、とっても! うふふふふー……!」


 母さんは俺の方を見てニヤニヤしている。


 フィーも大好物のうな丼を食べることに夢中だ。

 あ、いや。

 それでも、合間合間に俺を見て、にへ~っと微笑んでいるのだが。


 料理大好きのドロテアさんは、しっかりと咀嚼をしながら分析を開始する。


「これを作り出した人は、本当に凄いわね。普通、こういう食べ物は、段階を踏んで洗練されて行くものよ? たとえば、最初は沼ドジョウをふっくらと焼き上げるだけ。次に親和性のあるソースを発見し、それからご飯と併せて食べることを思い付く。山椒で風味を乗せて味を単調にしない工夫は、それからかしら。なのにこのレシピを開発した人間は、その全てをいっぺんにやってのけているわ。一体、どんな天才が、これ程のものを作ったのかしら……?」


 俺の場合はカンニングっすからなァ……。

 文字通り、成果の美味しいところだけを、つまみ食いしただけなんですよね。


「こいつを作ったのは、バイエルンとか云う、今売り出し中の料理研究家だな」


「おう、知ってるぜシャークさん! それって、こないだ食べさせて貰った、あのクソ美味い干し肉を考えた奴だろーっ!?」


「ブレフ! 食事中に下品な言葉を使うんじゃない!」


 レベッカさんが、友人の頭をはたいた。


「痛ェなぁ、もう……! でもさぁ、母ちゃん。あの干し肉は、ホントに美味いんだって! 今まで『干し肉が好物』なんて云ってる奴はひとりもいなかったのに、アレが売り出されてから、冒険者の皆が買いあさってるって!」


 狙い通り、タレに漬け込んだ干し肉は冒険者の皆さんにも好評のようだ。


 しかし、さっきまで笑っていた祖父は真顔になる。


「まあ、良いことばかりじゃねぇけどな……」


「と云うと?」


「ギルドでも保存食は売りに出しているが、元の干し肉がサッパリ売れねぇ……。あの干し肉に、皆が飼い慣らされちまってる。一応、うちのギルドにもエルフの商会から例の干し肉を卸して貰ってはいるんだが、言葉を換えれば干し肉そのものをショルシーナ商会に握られちまったってことだからな……。在庫不良の問題もあるし、流通の問題もあるしで、ギルド側の人間としては、笑ってはいられねぇんだわ」


 確かにひとつの商会に干し肉という命綱を握られるのは問題だろうな。


 ショルシーナ商会が極めてまともなお店だと俺は知ってはいるが、これがたとえばメルローズみたいなところだったら大ごとだろうし、万が一エルフ族と人間族が不仲になった場合も色々と困ることが出てくるだろうしねぇ。


「まあ、ギルドの人間としては困ることもあるが、美味い干し肉で所属冒険者たちが助かっているのも事実だ。それにセロのいち住民としてみれば、沼ドジョウの一大生産地であるこの街が、大きく潤っているのも事実だしな。あのハズレ扱いだった下魚が、今やセロでの地産地消とするか、王都への売り出し品にするかで大もめになるくらいだしなぁ……。ひとりの天才の出現ってのは、それが料理のようなジャンルでさえ、大きく生活の在り方をかえちまうもんだと、しみじみ思い知ったぜ」


 たかが食べ物と云っても、影響がバカにならないようだ。

 俺はあまり深く考えずに売り込んでいるからなァ……。なんだか申し訳ないぞ。


「何でも良いじゃない。美味しければ」


 ハトコズのママンは、そんな風に笑っている。

 こういう麁枝大葉な反応は、いかにもブレフのかーちゃんって感じではあるが。


「ねね、それよりもドロテアさん! その素敵な首飾り、そろそろどこで手に入れたのか教えて下さいよ?」


「うふふ、そうねぇ。会ったこともない料理研究家の話題ではなく、私たちのよく知る人物のお話をしましょうか」


 グランマはそんなことを云っているが、首飾りもウナギも、出所は一緒なんですけどね?


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― 新着の感想 ―
[良い点] いつも妹がかわいい [気になる点] 宝飾職人名義も作るのかな [一言] フィーとエイベルにもアクセサリー送ってあげないと嫉妬されちゃう!
[良い点] >成人しても、ちんまいまま 成人後も兄に抱っこされるには、ちんまいままでいなくてはいけないと、細胞レベルで理解しているのですね。さすがは筋金入りの妹。
[一言] 事情知ってると「ああ、うん」って感じだわなあ
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