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妹のいる生活  作者: むい
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第三十八話 好きな遊びと嫌いな遊び


「えへへへへへ~……。にーた、にーたああああ!」


 俺にとって癒しの時間であり、重要な日課のひとつが、フィーと遊ぶことである。

 学校にも行かない身の上でありながら、私生活はそれなりに忙しい。


 体力トレーニング。魔術の訓練。試験勉強。鍛冶の習得。ダンスの練習。etc……。

 そのどれもが、日々継続するからこそ上達し、鈍らないでいられる類のものだ。

 なので、一日も欠かすことはない。


 それらの勉強は楽しいし、俺自身の為にもなる。けれど、毎日やっていると気疲れするのも事実だ。

 そんな俺の心を癒してくれているのが、フィーと過ごすひとときなのだ。


「にーたあああ、まって、まってー!」


 両手をこちらに伸ばしながら、マイシスターが笑顔で駆けてくる。

 鬼ごっこ――いや、追いかけっこと云う方が正しいか。

 これは、フィーお気に入りの遊びのひとつである。


 当たり前の話だが、俺は全力で逃げたりはしない。

 そんなことをすれば、愛しい愛しい妹が泣いてしまう。

 マイエンジェルに捕まるか捕まらないか、ギリギリのところで躱してのける。或いは囚われてあげる。

 すると、妹様はとても喜ぶ。


「にーた、つかまえた!」

「はっはっは。捕まってしまったか~」


「ふぃーのかち! ごほーび!」

「よしよし。何が良い?」

「きす! ふぃー、にーたに、きすしてもらいたい!」


 うーむ……。

 最近の妹様は何かにつけてキスをねだるようになってしまった。


 いや、フィーの心情は分かっている。

 この娘にとって、キスはだっこやなでなでと一緒だ。

 常に俺にして欲しいものなのだろう。


 けれども特別な時しかしないものだと俺が云ったから、その範囲でねだっているのだ。

 だからフィーはちっとも悪くない。だが、キスとはしょっちゅうするものでもない。

 それをどうやって教えてあげるべきか……。


「にぃさま……。だめ、ですか……?」


 むむーっ! 

 マイエンジェルにションボリとされると、俺は逆らえなくなってしまう。

 これが『フリ』なら断るところだが、本当の本気の全力で不安そうにしているので、ノーと云うことが出来ない。


「きょ……今日だけの、特別だぞ……?」

「やったああああ! にぃさまあああああああああああ!」


 強烈なハグをくらってしまった。

 今日は仕方ない……。今日だけは仕方がないんだ……。


「アルちゃん、最近、毎日フィーちゃんとキスしてるわよねー。お母さんにもして欲しいわー……」


 ん?

 あれ? 毎日?


(そう云えば、そんな気もする……!)


 なんてことだ! 俺は知らぬうちに、来る日も来る日も愛妹とキスをしていたなんて!

 これではダメだ。キスに関しては気軽さを覚えさせてはいけない。


 何とか我慢して貰おう。――明日からは。

 うん。今日はするよ。

 もう、言質は与えちゃったんだからな。約束を破る酷い兄だと思われるわけにはいかない。


「フィー、今日はキスしてあげるけど、明日からは我慢するんだぞー……?」

「にぃさま、ふぃーは、にぃさまが、めーっていうなら、がまんします……」


 なんて健気な……!


「フィー! お前は良い娘だ! 俺の誇りだッ……!」

「にぃさまーー!」


 強く抱き合う俺たち兄妹。

 そんな我々に、母さんが言葉を投げかけた。


「えっと、それって、アルちゃんが許可する限り、毎日キスするってことなんじゃないの……?」


 んんん?

 何ですと?

 そんなバカなことが?


(俺は自分からフィーにキスしてやると云うことはない――はずだ。問題は、おねだりされた場合……)


 拒絶することが、俺に出来るだろうか……?


「にぃさま……。きょうのぶんのきす、してください……」

「え……? あ、はい」


 ちゅ。


「はにゃああああああああああああああああああああああああああああああああん!」


 相変わらずリアクションが凄いな、うちの妹様は。

 なでなでや、だっこの時よりも過剰な喜び方だ。


「にーた! にーた! つぎ、べつのあそび!」


 興奮しすぎて口調が戻っている。

 キスの『おかわり』をねだらないのは素直さ故か。

 それとも次の遊びでまた、おねだりする材料を探すつもりか。


 フィーの好きな遊びは、鬼ごっこやお馬さんごっこなど、俺とふれあえる遊びか、お絵かきや歌を歌うなど、俺と一緒に出来る遊びだ。

 ちなみに、ふれあいもできて一緒に遊べるダンスはマイシスター一番のお気に入りである。


 逆に嫌いな遊びもある。

 それは、かくれんぼだ。

 云うまでもなく、俺と離ればなれになってしまうからだ。


「ふぇっ……! うええええええええええええええええええん! にーた、にーたあああああああ! どこおおおおおおおおおおおお?」


 初めてかくれんぼをやった日、フィーはすぐに泣きだしてしまった。迂闊と云えば迂闊な話である。

 俺が見えなくなれば、この娘が動揺してしまうなんて、簡単に想像できたはずじゃないかと恥じ入るばかり。

 当然のように、それ以来、かくれんぼは封印されている。


 だが、俺はこうも思うのだ。

 これはフィーの為の訓練になるんじゃなかろうか、と。

 俺の姿が見えなくても平気な時間を少しずつ増やす。その切っ掛けになるのではないか?


 ただ、そのためには問題がひとつ。

 どうやってマイエンジェルに、かくれんぼをさせるのか?

 俺はこう閃いた。

 そうだ、キスで釣ろう!


(ううむ……。何かで釣ると云う行為はアレな気がするが、この際、仕方がない)


 心に咎めるものがあるが、覚悟を決める。


「フィーよ」

「なぁに、にーた? ふぃー、にーたすき!」


「うむ。俺を好きでいてくれてありがとう。ところで、次の遊びなんだが……かくれんぼは、どうだろう?」

「――ふぇっ?」


 かくれんぼ。

 その単語を聞いただけで、妹様の表情が曇る。

 大きな青い瞳には、既に涙が溜まり始めている。


「にーた……。ふぃーをおいて、どっかいく……?」

「ち、違うんだ、フィー。お兄ちゃんは、もっとフィーと色々なことをして遊びたいだけなんだよ」

「う、ぅぅ……。でも、でも……。ふぃー、にーたとはなれるの、いやだよおおおおおおおおおおお!」


 猛烈なタックルからの絞め技が繰り出される。

 伝わってくる、絶対に離さないという強い意志。

 愛妹は案の定、泣きだしてしまったようだ。

 だが、俺も退くわけにも行かない。

 これはマイシスターのためなのだ!


「大丈夫だよ。もの凄く限定された場所でやるから。たとえば、この部屋だと――」


 フィーに抱きつかれたまま、カーテンにくるまる。


「ほら! こういう隠れ方なら、安心だろう?」


 なんたって足が丸出しだからね。これで見つけられなかったら、そっちの方が驚きだろう。

 うん。これもう、かくれんぼじゃないね。完全に接待だ。


「フィー。俺を見つけられたら、ご褒美をあげるよ?」

「……ほ、ほんとう?」


「ああ、本当だ」

「きす、でも?」


「キスでもなんでも」

「な、なら、ふぃー、がんばる!」


 強い決意を瞳に灯らせて、カーテンの中から飛び出していく妹様。


「にーたさがす! ふぃー、ごほうびもらう! にーたにきすしてもらう! すきッ!」


 俺がどこにいるか分かっているだろうから、探すも何もあったもんじゃないだろうに。


 さあ、それじゃあ、出来レース(かくれんぼ)を始めようか。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 話自体は面白いと思います。 [気になる点] 毎日の出来事がただただ書かれてる感がして面白いがクドく感じるのでこのまま読み進めてもこの感じのまま進むのだろうとゲンナリする。 [一言] これを…
[一言] 流石に飽きた
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