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妹のいる生活  作者: むい
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第三百八十話 ボードで遊ぼう!(中編)


「ひぐ……っ! ぐす……っ! ふぇええええええん! にいいたああああああ! にいいいいいいたあああああああああああああああ!」


 と云う訳で、ものの見事に孫娘ちゃん敗北を喫した妹様が、泣きながら俺に抱きついている。


 普段のフィーはゲームに入れ込むのではなく、ゲームを楽しむタイプなので、勝負に負けても笑っていることが多いのだが、今回ばかりは違ったようだ。


 それはひとつにはプリンを食べたかったからであり、一度も勝てなかったことでもあり、そして何より、俺に良いところを見せられなかったことが理由だったみたい。


(うーむ……。クララちゃん、強し!)


 目の前の幼女様は申し訳なさそうに、かつ、おっかなビックリしながらも、その打ち筋は狡猾にして強力。とても五目並べを今日知ったとは思えない技量だった。

 一ゲーム毎に、ずんずんと上達していったのも見た。


 連戦連敗の憂き目にあったクレーンプット家の長女様は、それでこうして俺の胸に顔をうずめていると云う訳だ。


「にーたぁ……。にいいいたあああ。ふ、ふへ……っ! ふへへへへへぇ……っ!」


 でもまあ、抱きしめて撫でてやると、すぐに顔がにやけ始めるのだが。


「にーた、ふぃー、負けた! だから慰めて欲しいの!」


「今、撫でていると思うんだが……」


「めー! キスも! ふぃー、にーたのキスが一番元気出る!」


「はいはい……」


 既に充分元気だと思うが、それは云うまい。


 キスとなでなででフィーがご機嫌になったので、俺は母さんに強制的に甘やかされている孫娘ちゃんに話しかける。


「クララさん、凄いですね。頭の回転が速いんだ?」


「……っ」


 ああ、ビクッとされてしまったぞ。

 まだ真っ正面から話しかけるのは難しいかな?


「大丈夫よー? クララちゃん。アルちゃんはとっても素敵な男の子だから、きっと仲良くなれるわー」


 孫娘ちゃんの目を見ながら、頭を撫でつつ微笑みかける母さん。


 マイマザーに対しては、俺よりも警戒心を抱いていないようだ。

 ずっとだっこされてて、単純に慣れたのかな?


「……ぅ。ぁ、ぅぅ……」


「ふふふー。ゆっくりで良いのよ? クララちゃんのペースで良いからね?」


 ニッコリと笑って撫で続けるマイマザー。なんとも手慣れ得た感じだね。

 託児所に勤務するハトコズのママンであるレベッカさんが、「彼女、うちに欲しいわ」と云っていたのを思いだした。


 クララちゃんは俺の方を見ながら、


「……ごめんな、さい……」


 と呟く。


 俺を拒絶しているのではなく、怖がったことを申し訳なく思っている感じかな?


 大丈夫だよ、と云ってあげたいところだけど、声を出すとまた身が竦むかもしれない。

 なので、俺は笑顔で頷くだけに留めた。


「ほぉう。良き家族じゃのう」


 ミチェーモンさんが頷きながらテーブルに着く。


「どれ。わしも少し遊ばせては貰えんか?」


 これはアレだね。

 ゲームがしたいんじゃなくて、孫娘ちゃんにワンクッションあげたんだろうな。

 なら、俺も乗っておこう。


「五目並べをされますか? それとも、他のものを?」


「そうさな。五目並べも楽しそうじゃが、他のゲームがあるなら、それを見せて貰おうかの」


「良いですよ。じゃあ、囲碁にしましょう」


 盤があり、黒白の石があるなら、本来はこちらだろう。


 俺がルールを説明すると、織物問屋のご隠居様は、いとも簡単に頷いた。

 お孫さん同様、地頭が良いのかもしれない。


「ほぉう。これはこれで面白いの。石の取り合いだけでなく、陣地の取り合いにもなっている訳か。よく考えてあるのぅ。これを『お前さんが』考案した訳か」


「え、ええ、そうですよ? じゃあ、始めましょうか」


 柔らかいのに、射るような目つきだ。

 カスペル老人のように、僅かな情報で真実に到達できるタイプの人間だとしたら、俺としてもちょっと怖い。


 一方、孫娘ちゃんは先程までの怯えはどこへやら。

 真剣に俺とご隠居様の試合を観戦している。

 この娘、ただ頭が良いのではなく、ボードゲームに適性があるのかな?


「ふぅむ……。この碁と云うのは楽しいな。しかし、使用するマス目を制限しておかんと、ひと勝負に時間が掛かるな」


「ええ。逆に云えば、ゆっくりと酒を傾け、雑談に興じながら楽しめる遊びにもなりますね」


「成程。発想の転換じゃな。それにしても、酒、のぅ……?」


 う……っ。

 ちょっと言葉の選択をマズったか?


「まあ、ええわ。勝負が長引きそうなんで、これは無効試合でも良いかの?」


「ええ。それは構いませんが――」


「代わりに、クララと遊んでやってくれい。マス目を絞れば、試合時間もちょうどいい塩梅になるじゃろう」


 うん。

 やっぱり今の対戦は孫娘ちゃんに時間を与える為であり、メインで遊ばせてあげる為の仕込みでもあったようだ。


「……お優しいですね?」


「とんでもない。わしゃ、ただのエゴイストよ。大切な者には篤く。それを傷付ける者には手ひどく。典型的な『人間』じゃろう?」


 その辺は俺も全く同じつもりなので、寧ろシンパシーを感じるが。


 ともあれ、クララちゃんと囲碁をすることになった。


 と云っても、別に俺に勝つ気はない。

 五目並べ同様、楽しんで貰えればそれでいい。


「……ょ、ょろ……く、ぉねがぃ……ます……」


「うん。よろしくね?」


 まだ怖がられているっぽいけど、挨拶してくれただけマシだろう。


「にぃさま! 頑張って下さい! ちゅっ」


 そしてマイエンジェルは、純粋に俺を応援してくれている。

 前述の通り勝つ気がないから、ちょっと申し訳ないぞ。


「じゃあ、やろう」


 クララちゃんとの囲碁は、指導対局のような形になった。


 あまりあからさまにするつもりもなかったが、五目並べの時同様、母さんが随時合いの手を入れてくれたのでやりやすかった。

 空気を読んでくれたマイマザーには感謝だな。


「…………」


「ん?」


 ふと見ると、織物問屋の娘さんがこちらを見ている。


「…………っ」


 しかし、すぐに視線を逸らされてしまう。


 対局の途中から、こうしてチラチラと孫娘ちゃんの視線を感じるようになった。

 ゲームではなく、俺に気になるところでもあったのかな?


 けれども前述の如く、視線を合わせようとすると、すぐに俯かれてしまう。


(無理に追及する気もないけど、『鼻毛が出てました』とかだと赤っ恥だな……)


 鏡代わりに、マイシスターを見るが――。


「にーたのお顔、素敵……。ふぃー、見惚れちゃう……!」


 あまり参考にはならなさそうだ。


 一方母さんは、孫娘ちゃんとぽしょぽしょ耳打ちして会話しあっている。


 たぶん、内容ではなく会話そのものを聞かれるのを恥ずかしがる性格と考えてのことなんだろうが、マイマザーもマイマザーで俺を見て微笑むから、気になって仕方がないぞ。


(あ。母さん、俺の視線に気付いたな)


 こちらの心の動きを察したからか母さんは、むふふと笑う。


「クララちゃんね、アルちゃんとは、生まれた歳も生まれた月も一緒なんですって」


「へぇぇ。神聖歴1199年の六月なのか」


 ほぼ同年代だろうと思ってはいたが、完全に同年代だったんだねぇ。


 他の1199年生まれと云えば、ハトコのブレフに護民官の子供のイケメンちゃんに、それから村娘ちゃんだな。


 軍服ちゃんも近そうだが、生まれた年代は知らないや。


「なのにアルちゃんが、ずっと大人びて見えるって」


「そ、そうかな……? そんなことはないと思うけど……。俺、まだまだお子様だしぃ……?」


「でもクララちゃんの云う通り、アルちゃん、確かにお母さんよりも年上に思えるときがあるのよねぇ……?」


「HAHAHA……! ナイスジョーク!」


 今の俺、ちゃんと笑えているだろうか? 苦笑いになってないかな?


 しかし、何故に孫娘ちゃんは、俺が大人びていると思ったのか?


「それは当然よぅ。だってアルちゃん。せっかくのゲームを子供らしく遊んでいないもの」


「…………」


 まあ確かに、今日の俺は子供らしく振る舞っていなかったな。

 今日以外は――考えないようにしよう。


 そして盤上では、ちょうど俺が敗北を喫したところだ。


 こちらの意図を察しているマイマザーは、ほーらねとでも云わんばかりに微笑んでいる。


「……ぁ、ぁの……」


 そして俺を怖がっていたはずの孫娘ちゃんは、こちらを見ながら口を開いた。


「……ぁ、ぁりがとぅ、ござぃ……ました……」


「良かったわねアルちゃん。クララちゃんには、伝わっていたみたいよ?」


「…………」


 まあ、聡い子みたいだしね。


 しかし膝の上に陣取る当家の聡い子は、ワナワナと震えていた。


「そんな……! ふぃーのにーたが敗れるなんて……! ふぃーの応援、足りなかった……!? もっといっぱい、キスすべきだった……!?」


 形式論でだけ考えるなら、俺はフィーの期待に応えられなかったと云うことになるのかな?

 だとすれば、それはそれで申し訳なく思うが。


「ごめんな、フィー」


 ちゅっとキスをすると、マイエンジェルは闘志をたぎらせた瞳をあげた。


「にーたの仇、ふぃーが討つ! 勝って今度こそ、にーたにキスして貰う!」


 キスは今したはずでは……。


「そっち!」


 マイシスターは、使っていなかったもうひとつの盤を、ビシッと指さした。


「そっちのゲーム、ふぃー得意! それでふぃー、その子をやっつけるの! にーたに褒めて貰うの!」


 自分の得意なゲームで未経験者に挑み掛かるとは……! 


 いや。

 これは卑劣などではない。


 やる気が横溢しているだけなのだ。


 クララちゃんはビックリしながらこちらを見た。


 俺は無言でごめんねのポーズを取る。


 すると、くすりと苦笑いしながら頷いてくれる。

 どうでも良いけど、笑顔可愛いッスね。


「にーた! ふぃーに力を!」


 闘志充分なのは分かったが、ルールの説明が先だぞう?


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― 新着の感想 ―
[良い点] この様なファンタジー物語で新しいゲームやスポーツを作ってある作品がありますが、作者さんは大変なのでしょうかね。ハリポタに限らず魔法ありきのスポーツがあっても面白くなりそうです。
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