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妹のいる生活  作者: むい
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第三百六十三話 ててじゃ談義


「あう~~っ!」


 俺の事を呼びながら、ヒツジちゃんが突進してくる。


 フロリちゃんは、一直線にこちらだけを見ている。

 足下が全くおぼついてないが、そちらを考えている余裕がないのだろう。


 花のような笑顔で、元気に駆けてくる。


(昔のフィーがこうだったな……)


 と、御年四歳になられた妹様の過去を思い出す。


「きゅふ~~っ!」


 そして、俺にタックル。

 う~ん、嬉しそうな表情だ。


 マイマザーもシープマザーも、微笑ましいものを見るかのような雰囲気だ。


 ただひとり、すぐ隣で激怒されている天使様以外は。


「やっぱり、ヨリックに似ているからか、とても懐いているわねぇ……」


 だから、知らんわ、そんな人。


「あう! ふぉり、あう! きゅーきゃ! なーて?」


 おぉう、ゴリゴリと自慢のツノが当たるな!


 これはアレだね。

 ツノを撫でて欲しいと云うアピールだろう。


 フロリちゃんは自分のツノにかなりの思い入れがあるようだ。

 それがホルンとしての習性なのか、この子個人の感情なのかまでは分からないけれども。


(どちらにせよ、ただ撫でるだけでなく、褒めてあげる方が良いんだろうな……)


 と云う訳で、ツノを撫でながら、褒めておく。


「フロリちゃん、綺麗なツノだね?」


「あきゅっ!?」


 目をキラキラとさせて、勢いよく俺を見上げるヒツジちゃん。

 やはりツノを褒めるのは正解だったようだ。


「うん。とっても素敵なツノだよ」


「きゅふふ~~~~……っ!」


 ヒツジちゃんはテレテレになって頭を擦り付けてくる。


 しかし。


「めーっ!」


 フィーが泣きそうな顔でしがみついてきた。


 そうだった。

 マイシスターをないがしろにしてしまうと、寂しくて爆発してしまうのだ。


「ほら、フィー。おいで」


 既にしがみついているのに、「おいで」もないが、大事なのは、この娘をちゃんと構ってあげることだろうからな……。


「よしよし……」


「ぶー! にーた! ふぃー! ふぃーを構って欲しいの! 他の子褒める、めーなの!」


 ぷくっと頬を膨らませたまま、頬ずりしてくる妹様。

 怒ってるんだか甘えたいんだか、器用なことだねぇ。


 一方、足下では、ツノを褒められて気をよくしたヒツジちゃんが、もっと遊んでと俺をてしてししてくる。


「あう! あきゅっ! ふぉり、あーて?」


 要望に応えてあげたいが、現在、俺の両手はマイエンジェルのご機嫌取りで塞がっている。

 しかし、久方ぶりにあったこの娘に構ってあげたいのも事実。


(と云う訳で、久々の触手だ)


 対・ヒツジちゃん用決戦魔術の出番である。


「あきゅーっ! きゅーきゃっ!」


 うん。触手でも喜んでくれるな。


 フロリちゃんには、もうしばらくこれで我慢して貰おう。

 妹様の機嫌が直ったら、またツノを撫でてあげなくては。


 腕の中にフィー。

 足下にヒツジちゃん。


 この時点で既にキャパを越えている気がするが、更なる刺客が俺の背中にのし掛かる。


「むむん……。アル、私も構って……?」


「久しぶりだな、ミル」


 事情聴取の最重要人物。未来の救世主様。奇跡の御子こと、ぽわ子ちゃん様のご登場である。


「久しぶり? 寒ブリ? ごきかぶり? るーるるるー……。るるるーるー……」


 今更だが、本日はシェインデル家にお邪魔している。

 云わずとしれた、聞き取り調査の為だ。


 と云っても、フローチェさんは早々にぽわ子ちゃんから情報を引き出すことを諦め、『愛娘が喜んでくれれば、それでいいや』と云う態度を示したのだが。


「むん……。私、アルの背中がお気に入り……?」


 相変わらず云っていることがよく分からないが、俺の背中が好きなようだ。


「めーっ! にーたに触れる、それ、ふぃーだけなの!」


「フィール、久しぶり……?」


「ふぃーる違う! それ、前も云った! ふぃーは、ふぃーなの! にーたのいもーと!」


 うーむ……。

 重点的なでなでで機嫌が直りかけていたマイエンジェルが、再び激怒モードになってしまわれたか……。


 そこへタルビッキママンがやって来て、俺の頭の上にヒジをのっけた。


「うちの子は、ある意味で『父親の面影』みたいなものをキミに見てるのかもねー。託児所でも、お迎えでおんぶされてる子を羨ましそうに見ているし」


 父親の面影ねぇ……。


 そう云えば、アホカイネン家の父親がどうなっているのか、俺は知らないな。

 ヒツジちゃんの父親が行方不明なのは聞いたけれども。


(まあ、興味本位でズカズカと踏み込んで良い話題じゃないよね……)


 そんな風に思っていると。


「うちって、母子家庭だからさー」


 あっけらかんと。

 実にあっけらかんと、タルタルが家族構成を暴露した。


 デリケートな問題だと思っていないのか、はたまた何も考えてないだけか。


「タルビッキ様は、ご結婚されていたのですか?」


 シープマザーがその話題に乗っかる。


「ううん。しようとは思ったけどね。その前にあの人、死んじゃったのよねー。まあ、この娘は残ったんだけどねぇ」


 眼を細めながら、ぽわ子ちゃんを撫でるタルタル。

 軽い感じで語ってはいるけれど、その表情には、どこか深いものがあった。


「再婚はされないのですか?」


「あっはは……。これでも私、あの人のことまだ好きなのよね。と云うか、アホカイネン家の女は、代々一途なの。ロックオンしたら、ずっとよ、ずっと」


「むむん……!」


 俺の背中で御子様がうごめいている。


 しかし、そうか。


 変則的な形とは云え、クレーンプット家、アホカイネン家、そしてシェインデル家と、ここにいる一家は皆、父親がいないんだな。


(ステファヌス氏の姿とか、ホント全然見かけないからな……。アウフスタ夫人との『約束』を守って、離れに近づかないんだろうなァ……)


 母さんのほうを見る。


 そこには、どこか寂しそうに微笑むリュシカ・クレーンプットの姿があった。


 母さんの支えである親友の姿は今はない。

 エイベルはマリモちゃんと一緒に、商会の応接室でお留守番中なのだ。


「会えると良いわね、旦那さんと」


 タルビッキ女史がぽつりと呟いた言葉は、誰に対して云ったものなのか。

 何故だか無性に悲しくなった。


「にーた、どしたの? どっか痛い? ふぃーが、痛いの痛いのとんでけする?」


 怒りを一瞬で消し飛ばし、俺の心配をしてくれるマイシスター。


 そうだよな。

 フィーはこういう子だよな。


「ありがとな、フィー?」


「ふへへ……! ふぃー、にーたに、ありがとう云われた! ふぃー嬉しい! ふぃー、もっと大好きなにーたのお役に立つの!」


 まあ、もちもちほっぺを押しつけられるという結果は同じなんだけどもさ。


「あう! あーう! ふぉり、もっと、なーて? ふぉり、あう、きゅーきゃ!」


 そして固いツノが押しつけられる。

 こっちも構ってあげないとね。


「私はひっそり、背中を占拠……?」


 しっかり自己主張してますがな。


『幼女おしくらまんじゅう』の中央で、もみくちゃにされてしまったぞ。


 そんな俺を見てタルタルは、きししと笑う。


「将来は、良いパパになりなさいよ」


 パパねぇ……。

 俺に良い父親役が務まるかは甚だ疑問だが、それ以前に結婚できるかどうかが、まず怪しいがな……。


「にーた、にーた! パパって、おとーさん?」


「そうだよ。よく知ってるな」


「ふへへ……! ふぃーも日々、成長してる! おとーさん、うちいない!」


 堂々と云いきったな。

 そこに寂しさや未練の類は寸毫程もないようだ。


「フィーは会いたいと思うか、父親に」


「ふぃーが会いたいの、いつでもにーただけ! おとーさんに会って、それでどうする?」


 いや、どうすると云われても……。


(しかし、ステファヌス氏ねぇ……)


 もしも俺が彼に会ったとしても、『親子の会話』なんて出来るのかねぇ?


 今までだって、ろくすっぽ会わなかったんだ。

 これからもそうだろう。


 そんな風に考えていた時期が、俺にもありました。


 翌日。


 庭の花壇でフィーと植物の世話をしていると、足音を感じた。


 振り返ると、そこにはひとりの男が立っている。


 殆ど見たことのない顔。

 けれども、何度も見たことがあるような顔。


 アルト・クレーンプットによく似た男が、そこにいた。


 ステファヌス・トレーボロ・エル・ベイレフェルト。


 貴族の次男坊で、ベイレフェルト侯爵家への入り婿。俺とフィーの遺伝上の親。法的には、赤の他人。


 俺は初めて正式に、その人物と出会ったのだった。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 実の母親がいる場所で毎度「ヨリックがー」とか言ってしまうとか本当にどうなってるんでしょうね。あらゆる意味で失礼じゃないかな。
[一言] ステが一番ヘッポコか
[一言] プリンは鰻と違って一般には出回らずにエルフ族のハレの日に出る伝説のデザートに成ったんだね・・・。もう少しプリンで引っ張るかとおもってた。
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