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妹のいる生活  作者: むい
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第三百五十八話 泥がくる(その二十三)


 支えているアレッタの身体に魔力を流す。


 エイベルの薬がどういうものか、これで分かるはずだ。


「これは……!」


 流してみて、すぐに気付いた。

 エイベルの薬の効果と、その意味を。


(寄生種か、これ……!)


 エイベルの薬の効果――。


 それは肉体に同化するはずの寄生種の位置を、魔力を色づけることによって識別させる仕組みであった。


 うちの先生は既に、肉に極めて近い存在となった寄生種をあぶりだすことには成功していたようだ。


 確かにここまで分かっていれば、踏み込んだ治療が出来るようになるまで、あと一歩なのだろう。

 エイベルが特効薬の完成まで「あとちょっと」と発言していたのは、明確に根拠あることだったわけだ。


 そして、アルト・クレーンプットと云う人間の意義も、ここにある。


 微細すぎて針でも突くのが難しいような寄生種の極小のコアを、俺ならば破壊できるということだ。


 通常ならば、寄生種の位置は根源に干渉しても分からない。

 持ち主の肉体と魔力に隠れて、見極めが出来ないからだ。


 しかし今は、エイベルの薬によってハッキリと識別が出来る。


 これなら寄生種を削除することも可能だ。

 そしてそれは、俺でなければ出来ないことだ。


「ん……っ! な、何……!?」


 俺が魔力を流したせいで、アレッタが身じろぎしている。

 微細な量でも、気にはなるようだ。

 だが、今はそんなことを考えている場合ではない。


(これがアレッタに巣くう寄生種か……!)


 見えるぞ、私にも敵が見える! 

 彼女の体内には、確かに『色づけ』された寄生種が、しっかりと確認出来ている。


 結構な量がいるが、住み着いたばかりなのだろう。まだ固着しているとは云い難い。

 これなら、『はじめての駆除』の練習としては、良いサンプルになるかもしれない。


「あ、あんた、もしかしてあたしに魔力を流しているの!?」


 青白い顔のままでこちらを睨み付けてくる医術者に、俺は頷き返した。


「アレッタサン、自分、これかラ、寄生種、駆除しマス……」


「はぁっ!? あんたが? 一体、何をどうやって? と云うか、さっきそっちのエルフがあたしに飲ませた薬は何なのよ!?」


 上手く説明する自信がないし、そもそもサウルーン語がサッパリなので、彼女の詰問は華麗にスルー。


 魔力に干渉し、駆除を開始する。


 的はちいさいが、明確に識別できるので、コアの破壊は簡単だ。

 魔力を伝って核に触れたら、それを壊すだけだからね。


「よっ……!」


 梱包材のプチプチを潰す感覚で、極小のコアを砕いて行く。

 ……梱包材も開発したら、需要があるのかしら? 

 主な輸送手段が馬車なら、結構揺れるだろうし。


「え……っ!?」


 そして目を見開いて驚くお医者様。

 きっと実感で体調の変化に気付いたのだろうな。


「ふう……」


 識別が楽とはいえ、力と神経を使うので、駆除作業はそれなりに疲れる。

 エイベルが体力を温存しておけと云う訳だ。


「……アル、お疲れ様」


「凄い薬だね。効果覿面だったよ」


「……ん。けれど、大変なのはこれから」


 それはつまり、みっつの村の住人たちを治しに行くということだな。


「ちょっと待ちなさいよ! 他所の言葉で話してないで、どうしてあたしの身体の調子が良くなったのかを説明しなさいよ!」


「……ん。私とアルの師弟コンビは無敵」


「あんた、それで説明しているつもり?」


 アレッタの顔には、青筋が浮かんでいる。

 うちの先生、別にふざけてないんですよ、それ。


 仕方がないので、エイベルの薬の効果を俺が増幅したとでも云っておく。

 根源魔力への干渉は、あまり人に話さない方が良いだろうしね。


「じゃ、じゃあ、あたしは治ったの……?」


 信じられないという表情。しかし、顔色は明らかに良い。


 彼女の場合、内臓の損傷が殆ど無かったから、寄生種を取り除けば一気に復調したのだろうな。


「それにしても薬の効果を増幅する……? そんな能力、聞いたことが無いんだけど?」


 嘘の説明が稚拙だったせいで、アレッタに訝しがられてしまった……。


 でもまあ、これで押し切るしかないね。


 エイベルの薬と俺の力、現状では治療にどちらも欠くことは出来ないのは事実なのだし。


 アレッタは俺の説明を完全に信じたわけではなかったが、エイベルの薬に治療効果があるとは認めたようだ。


「あんたらの説明は胡散臭いけど、確かに身体は良くなったみたいね……。あんたたちは、あたしの知らない遺失した技術も持っているみたいだから、ある程度は信じないわけにはいかないわよね……」


 それにしても、とエルフの医術者はエイベルを見る。


「村人たちも治しに行くつもりだなんて、あんたも医術者の端くれなのね。感心したわ」


「……病の原因は根絶可能なうちに根を絶っておかないと、より強力な変異種に進化する可能性がある。早急に手を打つのは当然」


「……前言を撤回するわ。あんたは医術者と云うよりも、研究者タイプなのかしらね。それとも、ただ単に他人の命に興味がないだけ?」


「……貴方の感想や評価に干渉するつもりはない。それよりもアレッタ、貴方にはやって貰いたいことがある」


「あたしに? 何よ……?」


 ジト目でマイティーチャーを見るアレッタ。

 治療された手前、話だけでも聞いてはくれるらしい。


「……治療薬を使う名目として、この薬は貴方が開発したことにして欲しい」


「はァッ!? あたしに他人の手柄を横取りしろって云うの!? ふざけないで! お断りよ!」


「……貴方の感想や評価に干渉するつもりはないといったはず。憤慨するのは自由。好きなだけすればいい。けれど、治療の為には貴方の名がいる」


「くっ……! ぬけぬけと……!」


 頭から湯気が出そうな程に、アレッタが怒っている。


 しかし、エイベルが無意味な提案をするとは思えない。


 説明だけでも聞いて欲しいと頼んでみると、怒気を押し殺した顔で、


「云うだけ云ってみなさいよ……」


 と、低い声で呟いた。


 うん。

 これは対応を誤ると激発するパターンだな。


 しかしエイベルは柳に風と、抑揚なく淡々と敷衍する。


「……貴方は村に来て以来、病人の治療に奔走していた。それは、みっつの村の住人の全てが知るところ。つまり、貴方には『信頼』がある。調査を優先して殆ど村民との交流のなかった私では、薬をきちんと飲んで貰えるかが不明瞭」


 確かに、信頼というバックボーンがある医者の薬の方が、皆の抵抗は少ないだろう。


 エイベルの場合、まず彼女も医療の心得があるという説明から始めねばならない。

 そして実績によって一定以上の評価を得て、漸く信憑性が持たれることだろう。


 それでは時間が掛かりすぎる。


「…………」


 アレッタは未だ怒りの納まらぬ様子ではあったが、爆発する素振りは見せなかった。

 自身の持つ『名声』が必要なことが分かったからだろう。


 ややあって、彼女はぽつりと呟いた。


「条件があるわ」


「……何?」


「あたしにも、あんたの持つ薬の知識と技術を教えなさい。それなら、今回は飲んであげる」


「……私ではなく、他の者で知識と技術を保有するエルフを紹介すると云う話で良いのなら、それは構わない」


「そう。それで良いわ。商談成立ね」


 不機嫌そうなエルフは、やっと笑った。


 それは条件を引き出せたからではなく、覚悟を決めて、治療者を演じようと心が定まったからなんだろうな。


 ……長い夜が、終わろうとしていた。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 『私ではなく、他の者で知識と技術を保有するエルフを紹介する』 見える! 超大物を紹介され狼狽する彼女の姿が! [一言] 見えるぞ、私にも敵が見える!  これがよく分かりませんでした。
[一言] 紹介されてた後に恥ずかしさで自殺してしまうかもしれん
[良い点] これ話題のロキュスさんに紹介がてら薬学を広めてないことのお仕置きコースですねw
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