表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妹のいる生活  作者: むい
338/757

第三百三十三話 ふぃーかー


「しっかし……。坊主も凄ェもんを考えたもんだなァ……?」


『完成品』の前で、ムキムキのサンタクロースが腕を組んでいる。


 何かを作る場合、俺はしょっちゅうガドの手を借りているが、このドワーフは今回作ったものに、何か思うところがあるらしい。


 で、何を作ったのかというと、愛しい妹様のためのアイテムだ。


 うちの天使はアクティブで、従って身体を動かすことも大好きだ。

 なので、外で遊べるものを作ってあげようと思った。


 ところが俺の鍛冶士としての腕前は、まだまだなまくらだ。


 そこでガドに手伝いを頼んでみたところ、部品の作成から完成まで、殆ど全部をやって貰ってしまったのだった。


「ごめんね、ガド。毎度毎度、組み立てまでやって貰って」


「あの嬢ちゃんが使うんだから、仕方ねぇだろうが。半人前が中途半端なもんを作って怪我でもされたら、こちらとしても寝覚めが悪ィぜ」


 云いながら、老いたドワーフは袋から何かを取り出した。


「それから、こいつも必須だろう?」


 ガドが渡してくれたのは、革と布で作られた帽子――ようは子供用のヘルメットだった。


 ちゃんとデザインとカラーリングが『女の子用』になっているのが微笑ましい。

 それとも、その辺もドワーフ故のこだわりなのか。


 頭部の保護は俺も考えており、商会で代用品を購入しようかと思っていたので、これはありがたい話だ。


 そんな話をしたのが、昨日のこと。


 そして今日。


 妹様の前に、伝説のドワーフ様が作ってくれた二種の乗り物が出現した。


「ふ、ふおぉぉおおぉぉぉぉおおおおぉぉぉ~~~~っ!」


 マイエンジェルの大きなおめめがキラキラしている。

 サイズから、一目で『自分専用』と分かったのだろう。


「にーた! にーた、これ……!?」


「うん。フィーのだよ。考えたのは俺だけど、作ってくれたのはガドだから、ちゃんとお礼を云うんだぞ?」


「――ッ!」


 大きく息を呑み、しっかりと頷くマイシスター。


 ドワーフの先生の所へ走り、ぺこりんと頭を下げるフィー。


「作ってくれて、ありがとーございます! ふぃー、おヒゲ触らせて欲しい!」


「ヒゲ触るの、関係ねェだろうがよ……」


 それでも屈んで触らせてあげるのね。


「ふへへ! ふわふわ……っ! ダイコンよりも柔らかい!」


「どうして比較対象が根菜類なんだよ……!?」


 ガドが困惑している。


 真っ白なヒゲを堪能したフィーは、俺の前まで走ってきて、片手で袖を掴み、もう片手で乗り物を指さした。


「にーた! あれ、なぁに!? ふぃー、あれが何なのか教えて欲しい!」


「うん。こっちはね、三輪車と云うんだよ」


「さんりんしゃ……! あれ、さんりんしゃ云う……!? あれ、イスが付いてる!」


「そうだよ。座ってごらん。それから、乗る前には必ず、この帽子を被るんだ」


 フィーの頭に帽子を被せる。

 妹様は、喜び勇んで三輪車へと乗り込んだ。


 ガドに作って貰った二種の乗り物のうちのひとつが、この三輪車だ。


 自転車だと補助輪付きでもチェーンがいるからね。

 作成もメンテも大変だ。


 でも三輪車なら、前輪にそのままペダルが付いているから、作成難易度は低い。


 当初はガドに丸投げするのではなく、自分で作ろうと思っていたので、より簡単で、よりシンプルなものをとなった。

 結果はそれでも技術が追いつかず、独力作業は諦めたわけだが。


「よし、フィー。そこに足をのせて、動かしてごらん?」


「う、うん……! こう!?」


 妹様がペダルを漕ぐと、三輪車は動き出す。


「ふおおおぉぉぉぉ! 動いた! にーた、これ動いた!」


 マイエンジェルが感動で打ち震えている。


 傍にいる母さんも興味津々だが、サイズ的に無理だからね? 

 搭乗する機会はないよ?


 三輪車に乗ったマイシスターは、すいすいと進んでいく。

 どうやら、乗り心地は良好らしい。


「にーた! これ楽しい! ふぃー、さんりんしゃ気に入った! こんなの思い付くなんて、ふぃーのにーたは天才っ!」


「方向も変えられるから、やってごらん?」


「みゅっ? こう?」


 ハンドルと一緒に、身体も傾いている。

 これが自転車なら転倒するだろうが、三輪車なら大丈夫だ。


「曲がった! ふぃー、曲がった! これ凄い! どこへでも行ける!」


 満面の笑顔で乗りこなす妹様。


 うん。

 運転は大丈夫そうだな。


 余程に嬉しかったのか、何度もこちらを振り返ってくる。

 危ないから、前を向いて運転して欲しいんだがなァ……。


「矢張り車輪の工夫だな……」


 ガドの興味は、そちらに頷いている。


 最初に鍛冶の師匠が云った言葉、『凄ェもんを考えた』と云うのは、三輪車の車輪に施した工夫なのである。


 それは何かというと、タイヤの装備だ。


 車輪そのものを、弾性のある材質でくるんでいる。

 ガドはそれに注目しているのだ。


(本当はゴムが良かったんだけどね……)


 この世界――そして地球世界の中世でも、車輪は剥き出しで、タイヤは無かった。


 理由は、ゴムがそこまで優れた材質だとは理解されていなかったからだ。


 これは仕方がないことでもある。


 ゴムはそのままでは弾性はあるが、安定した素材とはならない。

 気温に柔らかさが左右され、油にも弱く、容易く溶けてしまうのだ。

 結果、妹様が使うようなボールにして遊ぶくらいしかない。


 この世界でも、現在はそういう扱いだ。


 では何故、現在の地球世界でゴム製品が多いのかというと、それは十九世紀に入って、加硫と云う技術が発見されたからだ。


 ゴムを加工する際に、過酸化物や硫黄を混ぜると弾性限界が大きく向上し、安定性や耐油性も向上する。


 これによってゴムの多くの使い方が模索され、その中のひとつとして、タイヤが誕生したと云う次第。


 この辺は、鉄と似ているのかもしれない。


 鉄もかつては、硬いが脆いので悪金と呼ばれた。


 だが炭素を混ぜることで鋼鉄となることが発見されると、青銅器を駆逐して金属の代表格に成り上がっている。


 流石にこの世界のどこにもない『ゴムの作り方』をいきなり俺が使うわけにもいかないので、今回のタイヤにはゴムを採用していない。


 使ったのは、魔獣の皮だ。


 ヤンティーネに頼んで弾力性のある丈夫な皮を都合して貰い、取り敢えずのタイヤに加工したというわけだ。


「坊主。車輪をくるんで振動と車体への負担を減らすなんて、よく思い付いたな?」


「セロへの行き帰りで馬車に乗ったからね。地面に触れている車輪という大元が揺れなければ、快適になるかなと思っただけだよ」


 と、誤魔化しておく。

 ゴムの強化はそのうち、したり顔で『新発見』するとしようかな。


「いや、これは大変、素晴らしい技術です。当商会に持ち込めば、特許を取れると思いますが? いえ、三輪車そのものが、まず裕福層には売れるかと」


 タイヤの素材を持ってきてくれたティーネは、そんなことを云う。


 フィーの快適なお楽しみライフの為の発明だったが、確かにタイヤや三輪車は売れるかもしれないなと考えた。


 俺はまず妹様ありきなので、『それ以外』には、どうしても目が向かないことがある。

 それではチャンスを逃したり、思わぬ失敗をするかもしれないから、注意せねばならないね。


「にいいいいいたああああああああああああああああ!」


 フィーはご機嫌で手を振っている。


 大丈夫だとは思うが、片手運転を見るのは心臓に悪い。


「うぅううぅうぅぅぅ~~~~っ! アルちゃああああああん! お母さんも、アレに乗ってみたいわー……!」


「母さんが三輪車に乗るのは無理だろ……」


「えええええ!? でも乗りたい! 乗りたいわー……!」


 揺さぶられても、無理な物は無理だ。

 フィーの為の車は、フィーに合わせたサイズなのだから。


「じゃあ、あっち! もうひとつの方! あれなら、お母さんも遊べるでしょう?」


「そりゃ、そうだけどさぁ……」


 娘を差し置いて、母を乗せても良いものだろうか?


「フィー、ちょっと来てくれるか?」


「はーい! ふぃー、行くの!」


 前を走っていた妹様は、華麗にUターン。

 そして俺の前でキチッと停車する。


 速度を出すことを想定していないのでブレーキは付いていないが、それでもちゃんと止まっているあたり、さらりと魔術を使っているのかもしれない。


「ふへへ……! にぃさま、なんですかぁ?」


 降車したマイエンジェルは、ギュッと抱きついてきた。


「フィーには三輪車に乗って貰ったけど、もうひとつのほう。アレに母さんが乗ってみたいそうだけど?」


「めっ! にーたが、ふぃーのために作ってくれたもの! ふぃーが一番最初!」


 一応、『二番目』なら乗っても良いと云うことかな? 

 母さんだと、マイシスターの独占欲も、多少は抑制されるようだ。


「うぅ……。じゃあフィーちゃんの後で、お母さんにも貸して?」


「わかったの! フィーが遊んでいないときは、貸してあげるの!」


 妹様は喜び勇んで、もうひとつの乗り物へと駆けていく。


「にーた、にーた! これ! これ、なんて云う!? 遊び方を、ふぃーに教えて欲しい!」


「ああ、うん。それはね、キックスケーターって云うんだよ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ