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妹のいる生活  作者: むい
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第三百二十九話 二級試験(前編)


 謁見ついたてから離れた。


 ここ最近は村娘ちゃんとは慌ただしく別れることが多かったけれど、今回は彼女が見送ってくれた。


 柔らかく、品のある笑顔で、「頑張って下さいませ」と、手を振ってくれたのだ。


 こういう何気ない反応を貰えるだけでも、頑張ろうと思えるのが不思議だ。


 良い子だよね、村娘ちゃん。

 自分には無関係だろうに、俺の事を気遣ってくれて。


「むむーっ! にーた、ふぃーが一生懸命、目を塞いでいたのに、ふつーにむらむすめちゃんと話してた……!」


 こちらはこちらで、お冠のようだ。

 試験の間は寂しい思いをさせてしまうから、それまでにたっぷり甘やかして、気力を回復して貰わねば。


「フォームチェンジ!」


 肩車を解除し、マイエンジェルを腕の中へ。


「ふへへ、だっこ! ふぃー、だっこが一番好き! ここがふぃーのいるべき場所!」


 腕の中から俺を見て、にへーっと笑う妹様。

 肩車では、この娘の顔は見えないからね。


 フィーを徹底的に甘やかし、夢見心地になっている隙に会場へと向かう。


 魔力量検査と筆記は特に問題なし。


 そして問題の実技試験に向かおうとすると、声を掛けられた。


「おう。アルト・クレーンプット。久しぶりだな?」

「……?」


 見知らぬ人だ……と思ったが、どこかで見た覚えがある。

 当の本人も「久しぶり」って云っているし。


(えーと……。俺の狭い行動範囲で考えると、試験の関係者か……?)


 流石に商会関係者ではないだろう。


「あ!」


 思い出した。


 六級試験の時のパリングが得意だった人だ。


 六級試験って、1205年の一月の受験で、ちょうど一年前だし、一回しか会っていない相手だから、思い出すのに時間が掛かったぞ。


「思い出してくれたようだな。六級試験の時の実技試験官だったロッサムだ。お前には、『トルディの上司』と云えば話が早いか?」


 ああそう云えば、今回はトルディさんはいないのね。


「まあ、アレだ。今回の実技は――いや、今回『も』か? ちょっと特殊でな? 俺が監督官兼、記録官として、お前さんに同行させて貰う」


 例のヴィリーくんがらみかな? 


 流石に『事前に村娘ちゃんに聞いてました』と云う訳にもいかないから、知らん顔をしておく方がいいだろう。


「特殊というのは?」


「あー……。なんだ。気の毒だとは思うが、お前さんの今回の実技担当は、貴族家のドラ息子でな?」


 おや。アッサリと事実を口にしたな。


「奴に問題を起こされると、俺たち運営側も困るわけよ。で、俺がお守り役を仰せつかったというわけだ」


「いや、『気の毒』とか使われる相手を出されても困るんですが」


「だとは思うが、俺たち平民は貴族の決定には逆らえん。程度の違いこそあれ、貴族の横車に苦労させられるなんて、平民に生まれれば誰でも通る道だからな。お前さんの場合、それが今回だったと諦めてくれ」


 流石は中世っぽい世界。酷い話だ。


 まあ、『上』に逆らえないのは、現代日本でも同じだったけどね。


「えっと、何かあったら、ロッサムさんがフォローしてくれると云うことで良いんですよね?」


「おう。トルディにも、そこは念を押されている。『会場内での』フォローは、ちゃんとするぜ?」


 ん? 

 会場内での? 


 まるで『外』のことは知らんと云われているようだが……?


 俺がジト目で見ると、ロッサムさんは目を泳がせて説明した。


「ぶっちゃけ、貴族というのはプライドの塊みたいな連中が多いからな。変に恨みを買うと、ずっと祟るかもしれん……。流石にその場合までは、フォローが出来ん……」


 ヴィリーくん、性格悪そうだったからなァ……。

 仮に圧勝できる場合でも、花を持たせてやるほうが安全なんだろうか?


「強いんですか、その人?」


「実力はあるだろう。が、問題は性格でな? ちょっとひん曲がってる」


「えぇー……」


「まあ、なるようにしかならんさ」


 そんなことを話ながら、実技試験会場に向かった。


※※※


(またここかよ……。完全に俺の定位置じゃないか!)


 案内された先の武舞台は、いつも通りの端っこ。

 他所からは見えにくい場所だ。


 前回との違いは、ゾロゾロいた見物客がいないことだろうか。


 そして目の前には、ふたりの男がいる。


 片方はヴィリーくん。

 確かに祭りで斬られ屋に絡んでいたチンピラで間違いないようだ。


 そしてもうひとりは、ヴィリーくんを生意気そうにして、ちいさくしたような感じの、十二歳くらいの少年。


 普通に考えれば、弟か何かだろう。

 俺を見て、ふふんと鼻を鳴らしている。


「遅いぞ平民ども! 兄上と私を待たせるとは生意気にも程があるぞ!」


 プチヴィリーが居丈高に云いきった。


 瞬間、さっきまで俺に対して申し訳なさそうにしていたロッサムさんの表情が引き締まる。


「貴方様がどこのどなたかは知りませんがね、ここへは、試験官と受験者しか入れないはずだ。見学申請はおありですか? ないなら、つまみ出させて貰いますが?」


「なっ! 無礼な! 平民如きが、このヴォプに意見するというのか!」


 プチヴィリーくんの名前は、ヴォプと云うようだ。

 ヴィリーくんを『兄』と呼んでいる以上、矢張り弟なのだろうな。


 ロッサムさんは云う。


「これは『平民の意見』ではなく、『国の決まり』です。不満があるなら、王国相手に申し立てをして下さい。んじゃあ、申請許可も出てないみたいなんで、つまみ出しますよ」


 ズンズンと生意気少年に向かっていくロッサム氏。


『貴族相手ではどうしようもない』とか云っていたのに、案外、屁とも思ってないのではなかろうか。


 そこにヴィリーくんが手で制した。


「まあ待て監督官。我が弟は中々に優秀でな? これも英才教育の一環として、ヘイフテ家が私の補佐役として派遣したのだよ。試験官が補佐役を置くのであれば、これは問題なかろう?」


「ええ、問題はありませんよ。許可が出ているのであればね。任命書を拝見しても?」


後で(・・)届けさせよう」


 つまり、今は(・・)持ってないってことじゃないか。


 しかし、ロッサムさんは、ちいさく舌打ちをした。

 たぶん、貴族なら事後申請でも通ると云うことなんだろうな。


「ふん。分かったか! 平民が!」


 生意気少年が、ロッサムさんを蹴飛ばした。


 イヤだなァ……。

 これを相手に試験をするのかよ。


「そっちの子供が、この私が試験してやる者だな?」


 ヴィリーくんが、俺を見る。


 余計な波風を立てる気はないので、ちいさく一礼した。


「ん? この子供、どこかで見たような……? いや、気のせいだな。平民の子供など、知るわけがない」


 俺は祭りの時にイケメンちゃんの横にいたからな。

 多少なりとも、記憶の隅に引っかかっていたようだ。


 尤も、すぐに気のせいと結論付けたようだが。


 そしてプチヴィリーの注意も、俺に向く。


「ふん。このガキが、恐れ多くも兄上の試験を受けるだと? おい、貴様。天才とか呼ばれていい気になっているらしいが、どうせインチキなのだろう? 今のうちに白状する方が身のためだぞ?」


 胸ぐらを掴もうとでもしたのだろう。


 生意気少年の腕が伸びてくる。

 しかしそれを、ロッサムさんが掴んで止めた。


「ぐっ! 痛たたた! き、貴様、何をする!? 薄汚い平民風情が!」


「『何をする』は、こちらのセリフですよ。正当な理由なく受験者に手を出すことは禁止されています。それに彼をインチキ呼ばわりすることは、我ら試験官全員を侮辱する言葉だ。補佐役だろうがなんだろうが、その二点を守っていただけないのなら、やっぱりつまみ出しますが?」


「こ、こんなことをして、タダで済むと思っているのか……!?」


それも(・・・)こちらのセリフです。試験会場で無体を働くのなら、王国魔導機関・『表院』全部を敵に回すと思って頂く。では、出口へご案内」


 ロッサムさんはヴォプ少年を、まるでモノのように引き摺って行く。


 肝の据わった人だよねぇ。

 貴族相手に、こんな風に出られるんだから。


「待て」


 そこに、ヴィリーくんが再び止めに入る。


「弟の非礼は詫びよう。しかし、実際にその少年に手を触れたわけではあるまい? 一度くらいは、見逃して貰いたい」


「……良いですよ。次はありませんがね」


 ポイとヴォプ少年の手を離す。


 プチヴィリーくんは歯ぎしりをした後、ロッサムさんに再び蹴りを入れて、兄の傍へと駆け戻った。


「この屈辱は覚えておくぞ、愚民ども!」


 ロッサムさんだけでなく、俺まで睨み付けられてしまった。

 何でだよ。


「さて……。では時間も惜しいし、始めるとしようか。受験者の子供よ。舞台に上がると良い。私を退屈させるなよ?」


 ヴィリーくんは、スタスタとリングに上がる。


 それは良いんだが、何で剣を持って上がるんだよ。


 まさかそいつを振るってくるつもりじゃあるまいな?


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