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妹のいる生活  作者: むい
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第三百二十五話 怪しい祖父と可愛い孫娘


 十二月に、うな丼のお披露目会を開催すると、イーちゃん文通で知らされた。


 知らせを聞いたときは、成功してくれればいいなと云う感想を抱くのみだったが、あの胡散臭いエルフ――ミィスが我が家を尋ねてきて、


「貴方も試食会を覗いてみませんか?」


 などと提案してきたときは、流石に面食らった。


 確かにうな丼を作ったのは俺だけれども、大事な試食会に係わる話が出るとは、全く考えていなかったのだ。


 お偉いさんがやって来る場所に出られるとは思わないし、正直、あまり係わりたくないからねぇ。


 そう口にすると、ミィスは掌を向けて首を振った。


「ああ、誤解しないでくださいね? 私が提案したのは『出席』ではなく、『覗いてみませんか』ですので」


「うん? それって、どこかから様子を窺うってことですか?」


「そんな感じですね。会場ではなく、厨房の隅っちょにでもいて貰って、気が向いたら、こう……コソコソと」


 壁から伺うかの様な仕草を取るちびエルフ。

 文字通り、本当に『様子を覗く』と云うことなのか。


 それなら偉い人らに会うこともないし、構わないと云えなくもないのだが――。


「でも無理です。外出許可が出ないので」


「はっはっは。許可ですと?」


 何をバカな。

 そう云わんばかりの態度を取るプチエルフ。


「勝手に出れば良いんですよぉ。私だって、『勤務中に呑みに行きたい』と主張したところで、あの(おに)畜生に却下されるのは目に見えていますからねぇ。なら、自分で行動し、自由をつかみ取るしかないでしょう」


 これ、冗談で云ってるんだよな? 

 本気で云っているなら、破綻者ってレベルじゃねーぞ?


「大体、キミの場合は外に出るなんて楽勝じゃないですか。ちょちょいと高祖様にお願いすれば良いのですから。使用人達に放置プレイされているのは、こういう時は便利ですよね。ちょっとの間なら姿をくらましていても、気付かれにくいでしょう?」


「いや、大した理由じゃないのに、エイベルに面倒を掛けるのは――」


「スト~~ップ!」


 ちんまいが綺麗な人差し指がシャシャシャーっと伸びてきて、俺の唇を押さえた。


「キミは聡いんだか愚かなんだが、よく分からない子ですね。あのですね? キミは高祖様や妹さんの為に何かをしてあげることを、面倒だと考えますか?」


「そんなことは、絶対にない」


 唇を押さえられたままなので、フガフガとそう伝える。


「なら、それは高祖様も同じなはずです。適度に頼って貰いたいと思うのは、仲良しさんなら当然のことですよ。もちろんキミが、『一方的に助けて貰うのは当たり前』とか勘違いしているあんぽんたんなら、顔面パンチも辞しませんが」


 と云うかですね、ミィスは何かを企むような顔をする。


「高祖様だって、キミにもっと頼って欲しいと思っているはずですよ。ええ。どうせ頼めばイチコロなんですから、頼まない手はないですよねぇ?」


 うん。確信したわ。

 何か良からぬ事を考えているんだな? 

 それが読み取れた。


「あー……。つまり、俺が試食会とやらに行くと、そちらに利益が?」


「チッ……! 気付きやがりましたか」


 情けは人のためならずを地で行く性格らしい。

 いや、生けるおためごかしと云うべきか?


「高祖様がいらっしゃれば、あの鬼眼鏡を押しつけておけますからね。その間に、私は羽を伸ばせるってすんぽーですよ。後はまあ――」


 ふざけた表情なのに、真っ直ぐな瞳が俺を射た。


「もしも『出会ったら』面白そうな気がしましたので?」


「は?」


「いえいえ。こちらの話です。何にせよ、いらしてみて損はないですよ? 沼ドジョウが、おかわりし放題ですから単純に得しますし。ええ」


※※※


 結局、怪しいエルフの誘いに乗ってしまった……。


 本日のクレーンプット家は、商会から提供された『ちょっと良い服』でおめかししている。


 一応、お忍びなのだが、万が一に貴族なんかに出会ったり見かけられたときに、『お仲間ですよ』と誤認して貰う為だ。

 粗末な服だと、「何故、平民がここにいる?」ということになる可能性があるし。


 しかし、良い服が着られた恩恵は、確かにあった。

 それも、目の前に。


「おぉ~……! フィー、可愛いぞ?」


「ふへへぇ! にーたに褒められた! ふぃー、嬉しい! ふぃー、幸せ! ふぃー、にーた好き!」


 白系のフリフリを着込んだ妹様は、まさに天使といった容貌だ。

 銀色の髪と相まって、『白』で統一されているのも素晴らしい。


「フィーちゃんは真っ白の服か、逆に真っ黒の服が似合うと思うのよねぇ。――それよりアルちゃん? どうしてお母さんのことは、褒めてくれないのかしら?」


「いや、別にそういうつもりじゃ……」


 ただ、モノには順序があるだけで。


 実際、まだ十代に見える母さんは、貴族の令嬢が着るような服がよく似合っている。

 日傘とか持ってたら絵になるんじゃないかと思うけど、恥ずかしいので口に出さない。


「むむーっ! アルちゃん、少しはお母さんのことも褒めてよぅ!」


 拗ねてしまった……。


 母さんを宥めるのに、エイベルの力を借りたいところだが、魅惑の耳を持つマイティーチャーは、赤いフレームの眼鏡さんに拉致されてしまったのだ。


「……ん?」


 現在俺たちがいるところは、試食会場の裏口側。

 貴族やら何やらのお偉いさんたちは当然、表側から入る。


 だから。


 だから、こちらへやって来る、やんごとない身分っぽい服装をした二人組が目に止まったのだ。


(何だ、あのふたり。老人と幼女……?)


 祖父と孫娘――なんだろうけど、なんだかあまり似てないな?


 いや、似てない身内なんて世の中にいくらでもいるから気にしても仕方がないんだが。


 こちらへ歩いて来たふたりは、俺たちの前で足を止めた。


「あー……。すまんが、ちと尋ねたい。『試食会』があるのは、この建物で良いのかの?」


 周囲の建物を見ながら、老人が質す。


 ここは先々月にオークションのあった多目的ホールのひとつ。

 当然、他の会場は別の理由で使われている。『偉い人が出入りしているから、ここだろう』は通じないのだ。


「試食会ですか? えっと、そうみたいですよ?」


 俺は他人事のように答える。


 なんたって我が家は、正式な参加者じゃないからね。

 このふたりは正統なお客さんだろうから、こう答えておくのが無難だろう。


「そうか、矢張りここで良かったのじゃな。馬車ではないから、迷ってしまったわい」


 まあ、馬車なら会場に直行してくれるだろうからな。

 こういう云い方をするということは、徒歩で来たのだろうな。


(馬車無しってことは、どっかに泊まってる遠方からのお客さんとかかな?)


 有力者か、その知り合いなら、試食会に呼ばれてもおかしくはないのだろう。


 そんなふうに考えていると、裏口から俺を誘った張本人たる、ちびっこエルフが出て来た。


「おや? おやおやおやぁ……?」


 俺とふたり組を見比べている。


「珍しい取り合わせですね。まさか、お知り合いだったりしませんよね?」


 言葉から察するに、ミィスはこの爺さんと幼女の知り合いなのかな?


 答えを聞くまでもなく、老人がミニマムサイズのエルフに詰め寄った。


「こりゃ、ミィス。どのホールで開催されるかくらい、ちゃんと説明せんか!」


「えぇ? 青い屋根の建物って、ちゃんと云ったじゃないですか」


「目が付いとらんのか、お前さんは!? 青い屋根など、他にもあるではないか!」


「青い屋根の建物? 他にないですよ。あっちは水色で、そっちは薄い紺色ですもん。で、向こうが瑠璃色ですね」


 からかっているのか、素でこの対応なのか。

 どちらにせよ、酷いな……。迷うわけだ……。


「お前さんが阿呆な説明をするから、こちらの方たちに尋ねていたところだったのじゃよ」


「ふぅん。じゃあ、やっぱり知り合いじゃないんですね。つまらない」


 一体、何を期待しているのか、このエルフ様は。

 いや、どうせロクでもないことなんだろうけれども。


「まあ、良いでしょう。アルトくん。せっかくなので、この爺さんと幼女ちゃんを紹介しておきますね?」


 勿体ぶった動作で、二人に掌を向ける。


「こっちの爺さんは、エツゴの織物問屋の隠居で、ミチェーモンと云います。こっちの幼女ちゃんは、その孫娘のクララちゃん」


 次にハイエルフは、俺たちに掌を向ける。


「んで、ご隠居様。こちらは名も無き貧民で、クレーンプット家の皆さんです」


 雑な紹介だなァ……。

 いや、ジックリ語られても困るけども。


 改めてふたりを見る。


 老人の方は真っ白な毛髪と長く立派なヒゲのせいで、あまり礼服が似合っていない。


 魔術師の着るローブか、神官の纏う法衣の方が似合うんじゃないかと思う。

 あと、仙人のコスプレね。


 そして幼女ちゃんの方は――。


 おおっ。

 もの凄い美少女。

 いや、美幼女と云うべきだな。


「…………っ」


 ありゃ。


 奥手なのか人見知りなのか、視線を向けると、サッと老人の陰に隠れてしまったぞ?


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