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妹のいる生活  作者: むい
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第三百二十二話 すぴすぴチャレンジ!


 妹様の誕生日。


 俺は当然、プレゼントを用意した。


 それはフィーの身長に近い、大きなぬいぐるみ。

 ただプレゼントするだけでなく、これを使っての、ある特訓を考えている。


 俺は背後を振り返る。


 そこには大量にあった食事を平らげ、リンゴとアップルパイと、お誕生日ケーキまでもを完食し、結果として倒れ伏したクレーンプット母娘の姿が。


「うぅ~……。苦しい。苦しいわ~……。どうしてなのー……?」


「みゅみゅー……。ふぃー……立ち上がれない……」


 淑女と呼ぶには程遠い姿だ。

 節度を持って食べ、食器洗いまで手伝ってくれたヤンティーネを見習って欲しいものである。


 そしてエイベルは涼しい顔でお茶をすすっているが、動こうとしない辺り、きっと満腹なんだろう。


 マリモちゃんはマリモちゃんで、「まだ食べられる! ご飯ちょうだい?」と俺の肩をつついてくるし。


「に、にーた……」


「どした? フィー」


「ふぃー、にーたに、お腹をさすって欲しいの……」


 ぺろんと白いお腹を見せてくるマイエンジェル。


 そんなになるまで食べるから……。


 俺はフィーを膝の上に乗せ、お腹をさすってあげた。


「んゅ……んゅゅ! 楽になってきた気がする! やっぱりにーたは、ふぃーにとって無くてはならないにーた……!」


 気がするだけだと思うぞー? 

 まあ、気分的に楽になるなら、確かにマシではあるのだろうが。


 その後もさすさすしていると、フィーはぎこちないながらも、俺に笑顔を向けてきた。


「にーた、今日はありがとー」

「ん?」

「ふぃー、美味しいものいっぱい食べられた! 幸せ! にーたにお祝いして貰えて嬉しい!」


 お腹から手を離し、サラサラの銀髪を撫でる。


「幸せなのも、嬉しいのも、俺の方かなー?」


「んゅ? にーた、どうしてそう思う?」


「そりゃ決まってるだろう」


 わしゃわしゃと、強めに撫でる。


「今日という日はさ、フィーが健康に育ってくれた記念日だからだよ。フィーが元気だと、俺も嬉しい。フィーが幸せなら、俺も幸せだ」


「……にーたぁ」


 マイエンジェルが、感極まったような顔をする。


「にーたああああああああああああああああああああああああああああああああ!」


 そしてダイブ。


 飛びかかって来る前に一瞬苦しそうな顔をしたが、精神力でねじ伏せたようだ。


「にーた! にーた! にいいいいいたあああああああああああああああ! ふぃー、にーた好き! 世界で一番好き! 大好きッ!」


「俺も好きー」


 しっかりと抱き合う。

「けぷっ」、って声がたまに聞こえるのだけが、ちょと不安だけれども。


「フィー。お腹は落ち着いたか?」


「みゅみゅ! だいぶ楽になった! 今なら、甘いのくらいなら食べられる!」


 懲りてねぇな?


 しかし、動けるくらいにはなったようだ。

 なら、プレゼントを渡すかな。


「フィー、ちょっと待っててね」


「にーた、どこ行く? ふぃーも行く!」


 背中に覆い被さってきた。

 つっぱねても泣くだけだろうし、仕方ない。このまま連れて行くか。


 別室には、ケーキと一緒に運ばれてきた、ぬいぐるみがあった。

 ティーネにこっそりと運んで貰ったものだから、妹様も知らないはずだ。


「――ッ!? にーた! 可愛いクマさん! クマさんある!?」


「そうだよー。クマさんだ」


 フィーを降ろし、ぬいぐるみを抱える。

 そしてそれを、マイエンジェルの眼前に突き出した。


「はい。これはフィーのものだよ? ハッピーバースデー」


「これ……。ふぃーの?」


「そうだよ。フィーのだ」


 震える腕で、フィーが受け取る。


「柔らかい! にーた、この子、とってもふわふわする! ふぃー、気に入った!」


 まあ、商会自慢の逸品らしいからな。


 ストアブランドとしてショルシーナ商会内部の裁縫工房で作っているので、オークション含め、他所に流すことはないが、高級工房にも負けませんとは、商会長様の談。

 実際、いい出来だと思う。

 ぬいぐるみを抱きしめるフィーの笑顔も、極上だ。


「ふへへ……! にーた、ありがとー!」

「うんうん」


 髪を撫でておく。しかし、真の狙いはここからだ!


 俺が考えていたこと。


 それは、フィーの睡眠トレーニングなのだ。


 この娘は、誰かにだっこして貰っていないと眠れない。

 すぐに起きてしまう。


 今は俺や母さんがいるからいいけれども、そのうち独り立ちする可能性もあるんだろうし、その時に眠れません、では困るだろう。


 なのでこのクマさんが、俺や母さんの代わりだ。

 まずはこの子を抱き枕にして貰おうと云う試みなのだ。


「にーた! この子、名前は!?」


「え? 名前? 名前は、まだないと思うなー……。フィーが付けてあげたらどうだ?」


「みゅっ!? ふぃーが?」


 クマさんをだっこしたまま、身体をフリフリ。

 考え込んでいるらしい。


「みゅー……。ハッシュ、ウラヌス、ストレイボウ、オルステッド……」


 ブツブツと候補を呟いている。


「ヨヨ、リノア、ミレイユ、アリシア……」


 男を想定しているのか、女を想定しているのか、どっちなんだよ……。


「決めた! ふぃー、この子の名前、決めたの!」


 カッと目を見開く妹様。

 そこには先程までの迷いは寸毫程もないらしい。


「拝聴しましょう、お嬢様? このクマは、なんと?」


「ダイコン! この子の名前、ダイコン云う!」


 人名ですらねぇッ!?


 そういえば、そうだった。

 うちの子、他所のお子様たちと比べても、ほんのちょっとだけセンスが独特だったんだ……。

 ほんのちょっとだけね?


(フィーが将来、誰かと結婚して子供が出来た時に、その子の生涯のトラウマにならない名前になってくれる事を祈るよ……)


 地球世界でも、『親の被害者』としか思えない名前の子もいたからなァ……。

 流石に『ダイコン』は見たことがないが。


「ふへへ……っ! これから貴方は、ダイコンなの! よろしくなの!」


 笑顔でハグしている。

 まあ、良いか。別に誰かが悲しむでもなし。


 そんなこんなで、就寝時刻となった。

 ベッドの上には、いつも通りの三人。プラス、ダイコン……。


「ふふふー……。フィーちゃん、クマちゃん買って貰えて、良かったわねぇ?」


「うんっ! ふぃーのにーた、とっても優しい……っ! ふぃー、にーた好き!」


 ぬいぐるみが気に入ったのか、フィーが抱きしめているのは俺たちではない。ダイコンである。

 密着だけは、しているんだけれども。


 そして、今日の俺は、夜更かしすると決めている。


 ひとつはフィーが眠れるかを確認するためであり、もうひとつは、リンゴやキノコを採ってきてくれたエイベルに、お礼を云いに行く為だ。


 さて、マイシスターは、眠れるのかな?


「んゅ、ゅ……」


 次第に、マイエンジェルの目がトロンとしてきた。


 フィーは流れるような動作でぬいぐるみを手放し、俺に抱きつく。

 そのまま、静かな寝息を立て始めた。


(ぬいぐるみをだっこしたまま寝なかったのは残念だが、想定の範囲内ではあるな……)


 俺はそっと身体を離し、ぬいぐるみを抱かせてみる。


 フィーは、起きなかった。

 幸せそうな笑顔のままで、ダイコンにくっついている。


「あら、フィーちゃん、ひとりで眠れているじゃない」


 傍に母兄が居る状況を『ひとりで眠る』と云って良いかは微妙だが、俺や母さんのだっこがなくても眠れているのは良いことだろう。


「アルちゃん。フィーちゃんはこのまま、私が見ていてあげるわよ?」


 小声で囁くマイマザー。

 俺が美耳エルフの所へ行くつもりなのを、見抜いていたらしい。


「敵わないなァ……」


「んっふふふ~……。これでも私は、アルちゃんのママだもん。私の分も、あの娘にお礼を云っておいてね?」


 ぱちりとウィンクされてしまった。


 俺は苦笑しながら頷いて、屋根裏部屋へと向かっていった。


 同志ダイコンよ、これからは、フィーのことを頼んだぞ?


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― 新着の感想 ―
[一言] 候補に上がった名前が軒並み不穏な名前で草。
[良い点] 皆んな可愛すぎる。 [一言] 326話まで読みました。この小説読んでると結婚して子供欲しくなる。
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