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妹のいる生活  作者: むい
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第三百十三話 セリに行こう(その二)


 俺たちが見学するオークションは、『アンティークと工芸品』部門の予定になっている。


 それは、俺の作ったボトルシップが売りに出される場所だからだ。


 しかし一口にアンティークと工芸品と云っても、案外、その取り扱う範囲は広い。


 たとえばヘンリエッテさんが云ったように、そこには魔力の籠もった箱なんかも出てくる予定だが、これは本来、魔道具のオークションでの取り扱いでもおかしくはない。


 その辺は出品者の感覚によるところが大であるようだ。

 たぶん、元の持ち主は、『箱』と云うことを強調したいのだろうと思われる。


「アルくんは、完全完璧に見学と云うことで良いんですよね?」


「そのつもりですけど……。何故に念押しのような物云いを?」


 俺が質すと、ヘンリエッテさんはクスクスと笑った。


「いえいえ。ああいう所に参加されますと、皆さんどうしても『買わなきゃ』、『買いたい』と云う気持ちに突き動かされるようなんですよね。特に王都のオークションは、珍品や唯一品が出品されることも少なくないですからね」


 それは確かに、そうなのだろう。


 日本人に限らず、人は『限定』と云う言葉に弱い。

 ましてや、こういう場所のオークションなんて買い逃すと、二度と手に入らないどころか、二度とお目にかかれないものもあるだろうしな。


 そういう空気や環境が、購買意欲を刺激するのだろう。そりゃ、値がつり上がるわけだよな。


 まあ、でも――。


「仮に俺が欲しがったとしても、どうせ手の出る金額じゃないでしょうから」


「大半はそうですね。でも、案外、手頃な品も出て来ますよ?」


「えっ? そうなんですか?」


 副会長様の云う所だと、こうだ。


 出品全てが高額品だと、皆の息がつまってくるのだと云う。

 勢い、空気も堅くなる。ぴりぴりもする。


 そんな雰囲気を緩和するために、お手頃価格の良品やネタアイテムなんかも、敢えて出してくるのだと。


 他には、たとえば有名な職人の弟子のお披露目に使うケースもあって、『宣伝』が難しいこの世界では、それが有力な売り込み材料になったりするのだとか。


 買う方も期待の新人が将来大成すれば、先見の明を周囲に誇れるわけだ。

 場合によっては、パトロンになることもあるのだと云う。


「あと、これは完全に『裏側の事情』になりますが、価値のあるものばかりだと、警備が大変になりますので、それらの品を囮にするんですよ」


 盗まれたり奪われたりすることも考えて、『安物』の入った箱を、巧妙に設置するらしい。

 ダミーによって本物のお宝を、そうやって守るのだと。

 そりゃ、外に出せる情報じゃないわな。


「色んな事情があるんですねぇ」


「はい。そうなんです。なので、アルくんが買えるお値段の品も、出てくるかもしれませんよ?」


「購買欲を煽るのは、やめてくださいよ。我慢しづらくなるじゃないですか」


「ふふふふ……。それは失礼致しました。ですが、私が云いたかったのは、こういうことです。――もしも本当に欲しいものが出た場合は、声を掛けてください。アルくんに代わって、私が競り落としますので」


 ありがたい申し出と云うべきか。

 それとも甘美な罠と云うべきか。


 いずれにせよ財布の紐は、固くあるに、しくはないだろう。


「アルくんと私は同族なんですから、遠慮はしなくて良いのですからね?」


 そのネタ、引っ張らないでくださいよぅ。


「ふ、ふおおおぉおぉぉぉぉおおぉ~~~~っ!」


 そんなことを話していると、腕の中のマイシスターが、大きなおめめを輝かせて、俺の服を引っ張った。


「にーた! 格好良い! 凄く恰好良い人がいる! ふぃー、ああいうセンス好き!」


 妹様が何を発見されたのかは存じませんが、この娘のセンスでここまではしゃぐと云うことは、きっと奇抜な何か(・・)なのだろう。


 急かされるように視線を誘導された俺は、


「ブフォッ!?」


 と、吹き出してしまった。


(何じゃ、ありゃァ!?)


 そこにいたのは、怪人? 


 2メートルくらいある長身の、礼服を着込んだ男の姿ではあるのだが――。


 高そうな衣服は、はちきれんばかりの筋肉によってパツパツになっており、ボディペインティングに近い形相となっている。

 使われている色も、赤やら紫やらピンクやら、何と云うか、異常にケバケバしい。


 何より目を惹くのは、その顔だろう。

『雄度、100%!』みたいな顔の作りをしているくせに、ゴテゴテとお化粧をしている。

 ドギツイ色の口紅。

 殴られた跡みたいに真っ青なアイシャドー。

 まつげはこれでもかというくらいに自己主張をしており、とにかく、全体的に濃い。


 一度でも見れば、忘却することは困難だろう。

 頼んでもいないのに、夢の中にまでお邪魔してくるかもしれない程だ。


(何かの呪いか罰ゲームか!?)


 呆気に取られていると、その大男は、スキップでもするかのような軽快な足取りで、こちらへとやって来た。

 いや、やって来てしまった。


「あらぁん、ヘンリエッテちゃんじゃないのよう! どうしたの、こんな所でぇ?」


 うわぁ。声も太ましい……!


(と云うか、ヘンリエッテさんの知り合いなのか?)


 はしゃぐフィーと愕然とする俺とは違い、副会長様は、いつも通りの柔らかい笑顔で、現れたバケモノに応じている。


「こんにちは、チェストミールさん。お久しぶりですね」


 この怪物の名は、チェストミールと云うらしい。

 しかし男は、ぶっとい指をチチチと揺らす。


「アタシのことは、フランソワと呼んでって云ったでしょ! んもう、人の名前を覚えるのが得意な、ヘンリエッテちゃんらしくもないんだから!」


「それは失礼致しました、フランソワさん。改めて、お久しぶりですね?」


 フランソワ……。


 世にいる他のフランソワさんへの、深刻な迷惑行為ではなかろうか?


「ふおおぉぉぉ~~~~っ! 格好良い! ふぃー、この人に握手して貰いたい!」


 そして大喜びの妹様よ。

 真っ当に育てていたつもりなのに、どうしてこうなった?


「あらぁん、可愛い子ねぇ? でも褒めてくれるのは嬉しいんだけどォ、乙女には、『格好良い』より、『綺麗』とか『可愛い』って言葉の方が、嬉しいものなのよん?」


 そんなことを云いながら、フィーと握手している。

 正確には、バケモノのぶっとい指を、マイエンジェルのちいさなおててが握っているだけなんだけれども。


 そして怪人は、俺の事をロックオン。


「やだぁぁぁん。この子、クシアタのプータイ!」


 そんな、ザギンでシースーみたいな云い回しを……。


 と云うか、まさかこの巨漢。俺に興味を持ったのか!?


(うぅっ、鳥肌が。これは、ミアの眼光に似ている……!?)


 チェストミール――いや、フランソワは、俺を見て、「うふん」と片目を閉じた。

 吐くかと思った。


「めーっ! にーたに色目使うなら、ふぃーの敵なのーっ!」


 そして態度を一変させる妹様。


 凄いね、キミ。

 敵意一色の瞳だよ。


「あらん。こんなにちいさくても、女の子なのね? そしてそれは正しいことだわ。乙女というのは、恋に生き、愛に死ぬ生き物なのだから……!」


 こいつ、こええよ。


 縋るようにヘンリエッテさんを見ると、柔らかく頷くだけだった。


(どういう事なの? こんなのでも、危険はないとでも云うつもりなのか?)


 そう云えば、護衛役のヤンティーネも、特に武器は構えていないな。

 若干、引き気味な顔はしているけれども。


「はじめまして、フランソワさん。私は、この子たちのママで、リュシカと云います。フランソワさんは、背が高いんですねー?」


 そして普通に挨拶をするマイマザー。

 流石はフィーの母親だ。メンタル面が、ちょっとおかしい。


 ……俺が地球からの転生者じゃなかったら、母上様や妹君のように、このセンスを『良し』としたのだろうか?


「あらん、美人さん! 同性だけど、なんだか妬けちゃうわん。アタシはフランソワ。今は(・・)冒険者をしているわ?」


 冒険者かよ……。

 いや、そりゃこの筋肉は戦闘向きだろうけどさ。


「あら、冒険者! 私のお父さんも、冒険者ギルド所属なのよー! じゃあフランソワさんは、ここの警備か誰かの護衛を?」


「護衛はまあ、半分ってところかしら? アンティークのオークションでね、ずっと狙ってたぬいぐるみの出品があるのよ。アタシは、それを買いに来たの!」


 ぬいぐるみ……。

 その厚化粧で抱きしめたら、一日で汚れ果てるんじゃないですかね? 

 と云うか、握りつぶしちゃうんじゃないでしょうか?


 マイペースな母さんは、キョロキョロと周囲を見渡している。


「それで、フランソワさんの護衛対象は、どこに?」


「実は、はぐれちゃったのよ。アタシがちょ~っと、良い男に見惚れていたらね、いつの間にか、いなくなっちゃったの! でもしょうがないわよね。オンナって、そういう生き物だから……」


 それで良いのか、冒険者。


「でもねん? 行く先はアンティークのオークション会場だから、すぐに合流できるわよ。向こうも、そう思っているんじゃないかしらん?」


 場所が分かっているなら、さっさと合流してやれよ……。三流冒険者なんだろうか?


 俺の視線を理解したらしい。

 大男は、再び俺にウインクを飛ばして来やがった。


「別の護衛たちが優秀だから、アタシがちょっと外していても、大丈夫なのよん。久しぶりにヘンリエッテちゃんを見かけたんだから、挨拶はしなきゃでしょ? そォ・れェ・にィ、こぉ~~んなに可愛い男の子も、発見しちゃったし!」


 あああ、おぞましい! 

 俺をロックオンすな!


 話題だ! 

 話題を転じるのだ!


「そ、その護衛対象も、オークションで買いたいものがあるんですかね?」

「ええ。狙いがあるって云っていたわ!」


 フランソワは、ヘンリエッテさんを見る。


「もしや、当商会の出品物ですか?」


「ええ。貴方たちが囲ってる、今、王都でも大注目の発明家、シャール・エッセン! そのエッセンのつくった、『瓶詰めの船』! それを絶対、落札するんだって!」


 おいおい。

 ボトルシップが目当てかよ。


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