第三百三話 三級試験(前編)
さて、三級試験だ。
今回はフィーが泣くのを我慢して見送ってくれたので、是が非でも合格せねばならない。
魔力量検査は問題なし。
筆記も、ちゃんと勉強をしていたので大丈夫なはずだ。
(何かあるのは、いっつも実技なんだよなァ……)
会場へと移動しようとすると、声を掛けられた。
「お久しぶりですね、アルトくん」
「ありゃ、トルディさん?」
俺に声を掛けてきたのは、王国魔術師のトルディ・クロンメリン女史。
いつもながら、苦労性っぽい雰囲気の美少女だ。
確かまだ、十代後半の年齢のはずだよな?
「お久しぶりです、トルディさん」
「はい。お久しぶりです。アルトくんは、これから、実技会場へ移動ですよね?」
そりゃそうだ。試験だもん。
俺は、そいつを受けに来たのだよ。
「実は、今回私は、アルトくんの案内役を仰せつかったのですよ」
「案内、ですか……?」
試験会場には何度も来ているので、場所が分からないと云うことはない。
つまり、『何か』があるのだろう。
「えーと……。説明して頂いても?」
「もちろんです。歩きながらにしましょうか」
移動先は、いつもの場所で良いらしい。
ならば、何で案内を?
「今回のアルトくんの試験場所も、以前と同様に、端の武舞台になります」
「ああ、あの、周囲からは見えにくい場所ですね」
「はい、その通りです。実は今回は見学者がいるので、アルトくんと云うよりも、そちらに対する配慮になります」
見学者……?
何だ、そりゃ?
「当然のことだと思いますよ?」
トルディさんは、苦笑している。
「アルトくんは、天才です」
違います。
偽物です。
「わずか六歳にして、異常とも云える魔力量を持ち――」
少ないです。
やれることに制限多くて困ってます。
「しかも毎回、満点合格です」
それは勉強したからだけど。
「第四王女殿下と云う巨大な月光の存在で目立ちにくいですが、この国の子供の中では、間違いなくトップクラスの逸材です。一等星です」
正確には、子供じゃないからなァ……。
「そんな子供が三級試験までストレート合格しているので、一部の魔術関係者から注目を集めているんですよ。……中には、何かインチキなんじゃないかと考える人もいるみたいなんですがね」
はい、否定しません。
インチキだと思います。
「それで見学ですか……」
「はい。と云っても、一切口出しはしないと云う約束ですし、見学者たちの存在は、試験の結果にも影響しません。そもそも、試験官じゃないですからね」
ただ、会場に行って妙な人たちがいると俺が驚いてしまうから、こうして先に告げておくのだと、トルディさんは云った。
「……それで、どんな人たちが来てるんですか?」
「ああ、その辺は気にしないで下さい。そもそも先方も口出し禁止ですので、本当にオブジェか何かだと思って下さい。リュースは今回もいますけどね」
あの眼鏡っ娘か。
五級実技の時の審判役の、文学少女っぽい子。
あの時の褐色イケメンは、無闇やたらと強かったが、何だったんだろうね、アレは。
「トルディさん」
「はい?」
「実技試験の担当者って、強さにムラがあったりしますか?」
「あー……。カシュアさんのことですね……」
国家魔術師は、少し申し訳なさそうな顔をする。
「あれは、アルトくんの力量を見るために外注で実力者を引っ張ってきたら予想以上に白熱してしまったと、リュースが申し訳なさそうに云っていましたよ」
本当かよ?
流血沙汰になっても、試合止めなかったぞ、あの眼鏡っ娘。
凄く冷静に戦闘を見ていたし。
「あのー……。今日の実技で、またああ云うおっかないのと戦わされるのは、御免こうむりたいんですけどね?」
「だ、大丈夫ですよ。今日の試験官は、見学者も来るとあって、ベテランの方ですから。勝つにせよ負けるにせよ、安心して戦えるはずですよ?」
「だと良いんですけどねぇ……」
悪い意味での特別扱いは、ホントにイヤよ?
※※※
「うお……」
リングサイドには、予想以上に人がいた。
いても精々、2~3人だと思っていたのだが。
魔術師っぽい老人、神経質そうな中年、美人のお姉様、何故か騎士みたいな鎧姿の人、他にもいっぱい……。
何か、皆がそれなりの立場っぽく見えるんだけど……。
(こんなとこで試合すんのかよー……)
そんなことを考えていると、武舞台に上がってきた対戦相手と思しき試験官も、
「うえ~……。こんな空気の中でやるのかよー……」
みたいな顔をしていた。
そこに親近感が湧いたが、一番安心したのは、その見た目だ。
(ちゃんとプロテクターを着ている……!)
他の実技試験の担当者たちも着ている、『ここに当ててね鎧』。
あれだよ、あれ。
ちゃんとした対戦相手。
こっちも安心して攻撃出来るし、相手もまともな試験官だろう。
トルディさんが云っていた通り、真っ当な相手であるようだ。
疑ってごめんなさい。
(まあ考えてみれば、見学者がいるんだ。デンジャーな試合にするわけがない)
一気に心が軽くなった。
衆目監視の中でやるのはイヤだけど、『普通の実技試験』と云うだけでリラックスできる。
「え~と、ルールを説明するね?」
俺とは違い、緊張したままの試験官は、毎度おなじみの実技説明を行う。
ひょっとしたらお偉いさんたちに、自分の勤務態度も見られていると思っているのかもしれない。
こればかりは、宮仕えが抱える永遠の悩みだろう。どうにもならないね。
基本的なルールは変わらない。
ようは相手の攻撃を喰らわず、こっちがぶつけ続ければ良いのだろう。
緊張しているせいかちょっと噛んでいたけど、説明は丁寧だったし、最後に「頑張ってな?」と声を掛けてくれたことも嬉しい。
今回は完全に『当たり』を引いたみたいだ。
しかし――。
(うぅ……ッ、試合開始前になった途端、招かれざる客たちの視線が変わったな……)
しっかり見るぞと云う意志を、ひしひしと感じる。
見なくて良いのに。
「それでは、始め!」
トルディさんの声で、試合が開始される。
景気付けに水弾を一発。
「おお、無詠唱だ……!」
「信じられん、あんな子供が……!」
「うちに欲しいな……!」
舞台の外がうるさい。
が、気にしている場合ではない。
緊張していたはずの対戦者は、試合が始まると『戦士の顔』になっていた。
いきなり発射させた俺の水弾も、簡単に回避している。
(良い動きだ。躱した後も、きちんとこちらを正面に捉えて、隙がない)
今回はギャラリーが多いので、『天球儀』や『曲がる水弾』は使わない。
真っ当に行く。
(なんてな!)
真っ当に行くとは云ったが、卑劣な手を使わないとは云ってない。
と云う訳で、大きめの水弾を空中に投げる。
落下してきた水の塊を相手は躱すが、それこそが俺の狙いよ。
(褐色イケメンの時と同じ。『よく滑る水たまり』を味わうがいい!)
戦闘範囲が限られていて、よく動く相手には、恰好の嫌がらせだろう。
水たまりに追い込むように、俺は水弾を撃つ。
「ぬあぁっ!?」
効果覿面。
俺の攻撃を躱した相手は、水たまりに足を踏み入れた途端に、思い切り体勢を崩した。
……が。
「おぉっ! アクロバティック!」
思わず呟いてしまった。
そのままコケるんじゃなくて、瞬時に手を付いて、そのまま跳躍。
距離を取った。
このレベルの対戦相手になると、『滑る水たまり』くらいでは止まってくれないらしい。
そして、ざわめくギャラリーたち。
「子供のくせに、随分と狡猾な戦い方だな……」
「あれは、水の派生の、氷魔術も使っているのだろう。凄いことだぞ? 戦い方はアレだが」
「躊躇無くあんな手を……。手段を選ばないタイプの魔術師が師匠なのか?」
やりにくいなァ……。




