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妹のいる生活  作者: むい
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特別編・妹様、大感謝祭


 本日、9月10日は、一年前に第一話を投稿した、一周年記念日です。


 フィーに何か、報いてやりたい。


 ある日ふと、そう思った。


 マイエンジェルは、いつも頑張っている。


 たとえば勉強。

 自分で勉強をしたいと云い出してから、毎日欠かさず勉強している。


 勉強中は「遊びに行きたい」などと我が儘を云わずに、一生懸命、ちゃんと集中する。

 積み木やボールで遊んだ後は、率先して自分でお片付けもする。


 偉い。

 とても偉い。


「んしょ……。ん~しょ……」


 フィーは今も机に向かって、書き取りを頑張っている。


 ――あ、目があった。


「ふへへ~~……」


 とろけるような笑顔を俺に向け、こっちへ走ってくる。


「にーた、だっこ……!」

「ほら、フィー。ぎゅーっ」

「ぎゅーっ!」


 たっぷりと抱きしめ、サラサラの銀髪をなでなで。

 もちもちほっぺを俺に擦り付けると、机に戻り、ちゃんと勉強を再開。

 なんて健気なんだ!


「もー。フィーちゃんは五分おきにアルちゃんにだっこして貰いに行くから、中々進まないわー……」


 母さんが訳の分からないことを云っている。

 フィーは頑張っているのに。


 俺は、このいたいけな天使に、ご褒美をあげたいと思った。


「……久々に、開催するか」


 俺はポツリと呟く。


「妹様感謝デーを」


 カラン、と、えんぴつの転がる音が響いた。


 真顔になったフィーが、フルフルと震えている。


「にーた……! ふぃー、今、凄いこときいた……!」


「フィーちゃん、勉強中よ!」


「ふぃー、それどころじゃない……!」


 ヨロヨロと立ち上がり、俺の前へとやって来る。


「にーた、今、なんて云った……!?」


「いや、それは――」


「ふぃーを一日中、可愛がってくれるって云った……!」


 脳内フィルターで、俺の発言が修正されている……!?


 ま、いいか。


「ふ、ふふふ……。聞かれちまったからにゃァ、しょうがない……」


 すっくりと俺は立ち上がる。


「やるしかないな、妹様感謝デーを……!」


「お、おおおおおおおぉぉぉぉぉ~~~~っ!」


 フィーが、ガクガクと震えだした。


 俺たちは、母さんに叱られた。


※※※


「と云う訳で、第三回・妹様感謝デーを開催致します!」


「ふぉ、ふおぉおぉおぉおぉ~~~~っ!」


 フィーは、まるで体育座りのように縮こまり、


「やったあああああああああああああああああああああああああああ!」


 弾けるように、大ジャンプ。


「今日はふぃーが、にーたを独り占め……っ!」


 機嫌が良いのか、おしりをフリフリ。


「魅惑のにーたが、ふぃーだけのもの……!」


 嬉しそうに、おしりをフリフリ。


 ほっぺたを指でつついてみる。

 生クリームみたいに柔らかいほっぺに、指がうずまる。


「きゅふん! ふぃー、にーたにほっぺ触られるの、好き……!」


 やん、やん!


 妹様が悶える。


「やややん、ややん! やんやや~~~~ん!」


 両手をほっぺに押し当てて、クネクネしている。


 デレデレ顔のまま、俺の目の前でダンスを始めてしまった。


 うん。

 マイエンジェルのダンスは、見ていると、こっちも元気になってくるな。


「ふ、ふへ……っ! ふひゅひゅ……!」


 うん。

 よだれが垂れてるぞー?

 仕方ないので、だっこして拭いてやると、ほっぺにキスされてしまった。


「にーたも! にーたも、ふぃーに、ちゅってして?」


「ほい。ちゅっ」


「めーっ! もっと! もっとふぃーに、キスして? ふぃー、足りない! もっと欲しい!」


「お、おう。こうか……?」


 キツツキのように、キスの雨を降らせると、妹様の顔が、溶けたバターのようにとろけていく。


「ふ、ふへぇ……ッ! ふへへへへへぇ……ッ! ふぃー、幸せ! 幸せすぎて、おかしくなる! 最高……! 感謝デー、毎日欲しい! でも毎日だと、ふぃー、倒れちゃう……! どうしよう!? ふぃー、困ってる……!」


 俺も困るわ。


 妹様と抱き合ったまま、床をゴロゴロ。


 途中、母さんが混ざりたそうにしていたが、マイエンジェルは、無慈悲に追い返した。

 マイマザーは、泣きながら屋根裏部屋へと駆けて行った。


「みゅみゅーっ! ふぃーとにーただけの空間! 良い……! 他、何も要らない! 入ってこられないように、全部閉じちゃいたい……!」


 おいおいおいおい。物騒なのは、勘弁してくれよ?


「にーた、にーた! 今日、ふぃーの日! 特別な日! だからふぃー、にーたにお願いある!」


「うん? どんなことだ?」


「ふぃー、久しぶりに、にーたの魂に触りたい!」


 お、おう……。

 また即答しがたいお願いを……。


 エイベル曰く、魂って簡単に壊せちゃうみたいだからな。

 テンションの上がっている妹様だと、危険なんじゃなかろうか?


 でも一方で思う。


 フィーは普段、俺の魂を触らせて欲しいとは云わない。

 我慢してくれているのだ。


 本当は、だっこやキスのように、毎日おねだりしたいと云うことを俺は知っている。

 だから、無碍には出来ない。


「ちょ、ちょっとだけだぞ……?」


「――ッ! う、うん……! ふへへ……っ! にーた、ありがとー! 大好き!」


 マイシスターのハグが、力強いものになっていく。本当に触りたかったんだな。


 やがて、『内面』を触られる、あの独特な感覚が伝わってくる。


(大氷原で触らせたときは、確か泣いちゃったんだよな……)


 今回はどうか?


 考えるまでもなく、結果は目の前に。


 フィーの宝石のような瞳から、ぽろぽろと大粒の涙がこぼれだした。


「ふ、ふへへ……!」


 フィーは泣いている。

 泣きながら、笑っていた。


「にーた、やっぱり、ふぃーのこと、凄く大事に想ってくれてる……! ふぃー、嬉しい……!」


「いつもお前が大事だって、俺は云っているだろう?」


「ふぃー、にーた好き……! 大好き……っ!」


 ほっぺに、熱烈なキス。


 それはいつもよりも、きっと『魂』が籠もったものだ。


(ああ、うん。やっぱり俺は、この娘の笑顔が好きなんだなァ……)


 泣き笑いのフィーは、とっても可愛く、愛おしかった。

 たとえ鼻水が垂れているとしても、だ。


「はい。フィー。ちーん」

「ちーん! ふへへ! にーた、ありがとー!」


 無邪気に抱きついてくるマイシスター。


 頭を撫でてやると、俺の袖を引っ張った。


「ふぃー、にーたとやりたいこと、いっぱいある! お絵かき! 積み木に、粘土! かくれんぼもしたいし、ダンスも! しりとりもしたいし、指相撲もしたい! ブランコも、ハンモックでお昼寝も! どうしよう、にーた、時間足りない!」


「ははは。順番にやっていこう。今日はまだ、始まったばかりなんだからさ」


「めーっ! 足りない! ふぃー、にーたにだっこして貰うだけでも、何時間でも夢中! 気付くと今日、終わっちゃう!」


「この欲張りさんめー」


「ふぃー、悪くない! ふぃーをゆーわくする、にーたが悪いの!」


 責任と、もちもちほっぺを押しつけられてしまった……。


「よろしい。ならば、その願い、この兄が叶えて進ぜよう……!」

「みゅっ……ッ!? そんなみょーさくが!?」


 またおかしな言葉遣いを……。


「うむ。フィーよ。一日では時が足らぬと云うのなら……」


「ゆーのなら……!?」


「感謝デーではなく、大感謝祭にすれば良いのだ! つまり、開催日の延長だ!」


「――――ッ!?」


 腕の中の天使様に、巨大な雷が落ちる。


 ワナワナと震える身体。

 大きな瞳は焦点を失い、ガクガクと揺れている。


「じんるいに、そんなぜーたくが許される……!?」


 マイシスターよ。

 いつの間に、人類全体の幸福許容量へと、話がスケールアップしたんだ?


 まあでも、感謝デーは本当に久々の開催だしね。

 たまには良いだろう。


「フィー」


「ん、んゆ……?」


「いっぱい、可愛がってやるからな?」


「きゅふうううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううん!」


 腕の中の妹様は、気を失ってしまった。


 さあ、奇跡のカーニバル、開幕だ!



 感謝祭の話は、別に続きません。

 これでおしまいです。

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