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妹のいる生活  作者: むい
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第二百八十七話 瞬きの夜に、キミと(その三十七)


「え~と、だな……」


 軍服ちゃんに事態の説明を求められた俺は、少し考えた末に、すっとぼけることにした。


 嘘をつくのは心苦しいが、エルフたちを巻き込んじゃうし、新たな混乱を呼んじゃうだろうしね。

 何より、エイベルが住みにくい環境になるのは、絶対にイヤだ。


「この街に混乱が起きた原因は知らないが――」


「知らないだって? こんな事をしでかすのは、メンノかデネンしかいないじゃないか」


 軍服ちゃんの指摘は尤もだ。

 と云うか、実際にメンノが犯人だったし。


 でも、今の俺は何も知らない態で振る舞うと決めている。

 慎重論を述べておく方が、無難だろう。


「いや、フレイ。こんな大規模な騒ぎを起こすのは、個人や一貴族では無理だろう。今、決めつけるのは早計だと思う」


「む……。それはそうだが……」


 不承不承といった感じで口ごもる軍服ちゃん。


 よし。

 このまま押し切ってしまおう。


「で、だ。かいつまんで説明すると、俺たちは、お祭りの最中に突如原因不明の魔物の大発生に巻き込まれたが、星の奇跡に助けられたんだ。つまり、今この街で逃げ惑っている人々と、基本的には同じ立場だね」


「へえ……」


 そう呟く軍服ちゃんの瞳は冷たい。

 微塵も信じてございませんと、顔にありありと書いてある。


「アル」

「な、何だ……?」


「あきゅ~~っ!」


 空気を読まずに、ヒツジちゃんが満面の笑みでしがみついてくる。

 フローチェさんが間近で俺の顔を凝視し続けているので、気まずくて仕方がない。


 が、シェインデル母娘をあしらうのは後回しだ。

 今は軍服ちゃんの追及をかわすことに専念しなければ。

 うん。

 ぽわ子ちゃんも、よじ登ってこなくて良いからね?


「アル。私はキミが、ごく普通の子供だったら、その言葉を疑わなかっただろう」


「う、うん……」


「また、出会ったのが『この場所』じゃなかったとしたら、或いはキミの言を信じたかも知れない」


「お、おう……」


「だが、キミは普通の子供ではないし、何故かピンポイントでここへ来た。何より君が触れた途端、今にも破裂でもしそうだった怪しげな魔道具が沈黙し、星空に光の文様が描かれている。これで、そんな与太話を信じろと云うのかい?」


 俺だって色々と無理があるよなー……とは思っているさ。

 だが、苦しくても押し切る。それ以外に、道は無いのです。


「か、変わった偶然もあるもんだね……」


「ふざけないでくれ」


 怒らせてしまった……。

 しかし、こちらの事情を知らなければ、確かに不真面目な態度に思えるかもしれない。


「私は、このセロの治安を守る側の人間だ。今後のためにも、精確な調査をしなければならない。明らかに不審としか思われない話を、聞き流すわけにはいかないんだ」


 道理ではある。

 けれども、こちらにも事情がある。


 さて、どうしようと考えていると、ぽんやりとした声が、割って入ってきた。


「るー……るるるー……。るるる~る~……?」


「む? キミは……」


 ぽわ子ちゃんと軍服ちゃんは顔自体は合わせているが、その後すぐに囮捜査に出かけたために、ろくろく挨拶をしていないはずだ。

 だが、ちゃんと覚えてはいるらしい。


 この辺は、お貴族様の必須スキルなんだろうか? 

 それともただ単に、フレイがしっかりしているだけか。


 目の前で、バレリーナのようにクルクル回っているぽわ子ちゃんに、フレイは眉をひそめる。


「キミは――アルの身内なのか? こんな時にまで、一緒にいるようだが?」


「むむむん……。それはいずれ? それはガサ入れ? 入れ歯入れ? 今は~……。アルママの友だち……?」


 軍服ちゃんは混乱した! 


 いや、そりゃ意味が分かるまいよ。

 困った風に俺を見てきたので、「お祭りの間、一緒に行動している友だちだ」と説明しておいた。


「それで、そのアルの友人が、一体、何で前に出て来たのだ? まさかキミが私に説明をするとでも云うのか?」


「云うのだ~……? 云う……? 云うとき……? 云うかも……? たぶん……?」


 軍服ちゃんの俺を見る目が縋るようなものに変わった。

 たぶん、意味不明すぎて困惑しているのだろう。


 だが軍服ちゃんよ。

 俺も彼女の行動が読めんのだ。

 諦めて付き合ってあげてくれ。


「……で。一体、キミは何を云いたいんだ?」


「むん……! 私のお母さん、立派……!」


 ぽわっとしたドヤ顔でサムズアップするぽわ子ちゃん。


 フレイの顔は、完全に引きつっている。


 タルビッキ女史が立派かどうかの考察は、この際、脇に置いておく。


「いや……。親を誇るなら、私の父も立派なのだが……」


「私のお母さん、星読み……?」


「え――!?」


 それは軍服ちゃんだけでなく、お付きの騎士たちやシープマザーの驚嘆だった。


 事情を知っているエルフズと、俺の指をご機嫌でにぎにぎしているヒツジちゃん以外、全員の驚きと云って良い。


 それはそうだろう。

 星読みは、わざわざ伯爵が王都から招いた星祭りの主賓だ。

 現在は、最重要の保護対象になるはずだから。


 騎士たちは「本当なのか……?」などと囁きあっているが、軍服ちゃんは、うちの爺さんがミルを保護したがっていた場面を見ていたはずだ。

 驚きながらも、頷いた。


「では、王都で『月神の奇跡』を起こしたと云われる『奇跡の御子』とは、キミのことなのか……!」


 いつの間にか、ぽわ子ちゃんにそんな称号が。

 まあ、もともと『救世主』と云われてはいたから、そこまで驚くことでもないのかもしれないが。


 ぽわ子ちゃんは「あれは虫さん」と呟きながら、俺を見た。

 そしてややあって、軍服ちゃんに頷いて見せた。


「そうか……! では、今夜の奇跡も、キミが……!?」


 フレイの口にした疑問を聞いて、俺はぽわ子ちゃんの意図と覚悟を知った。


 この娘は、俺を庇ってくれるつもりなのだ。

 自分が今夜の奇跡を、背負ってくれる気なのだと。


 それは、何と云う重荷であることか。

 わずか五歳の女の子が背負えるようなものではないはずだ。


「ミル……っ!」


 俺が開きかけた口を、ぽわ子ちゃんが手で制す。

 そして、軍服ちゃんに向き直る。


「むん……。私は何もしていない……? でも、皆が助かって欲しいと、お星様にお祈りだけはした……?」


「では、矢張り、この少女が……っ!」

「奇跡だ……! 御子様が、このセロでも、奇跡を起こされたぞ……!」


 騎士たちが大きくざわついている。


 この街に住み、長年星祭りを見てきた彼らにとって、『星の奇跡』とは近くて遠い憧れのはずだ。きっと色々な想いがあるに違いない。


 しかし、そこに口を挟む者がひとり。


「あの、少しよろしいですか?」


「あきゅっ!」


 フローチェさんだった。

 彼女は俺を見たまま、疑問を口にする。


 ついでにヒツジちゃんは、頭を撫でてと帽子を擦り付けてきたので、これは叶える。


「きゅーきゃ! きゃい~~っ!」


 うーん。

 機嫌が良さそうだ。


「えっと……。その少女が星読み様のご息女だというのは良いのですが……。たった今、この装置を止めてのけたのは、このヨリックによく似た少年ですよね?」


 ヨリックなんぞ知らんが、痛いところを突いてくる。


 確かにこの装置に関して、ぽわ子ちゃんは何もしていない。

 せめて念じるフリでもしていれば、話は違ったのだろうが。


「むん……。それは簡単……? アルは~……メジェド様の加護を受けた、星の騎士……? だから、造作もない……? お雑煮好き……?」


「えっ!?」


 思わず、声をあげてしまった。

 初耳なんだけど、そんな設定。


「星の騎士……!? 星騎士と云うことですか? そのような職分は、聞いたことが無いのですが?」

「そもそも、メジェド様って何だ?」


 降って湧いた設定に、騎士たちが戸惑っている。

 当然だが、俺も。


(てか、メジェド様って、『星の神』じゃなくて、魚類の一種だった記憶があるんだが……)


 いや、この世界でそんなことを知っている人はいないだろうけれども。


「なお、星の守護鳥は、オオウミガラス……。皆で保護しなければならない……。乱獲は、ダメ、絶対……!」


 後付けで凄いことを云っているな。

 そりゃオオウミガラスを天空に描いたのは、俺だけどもさぁ……。


「いくら何でも、このような話を、そのまま信じるわけには……」


 軍服ちゃんが、渋い顔をしている。


 そりゃあそうだろう。


 百歩譲って、救世主様が、『もう一度奇跡を起こした』までは良いとしても、星騎士だとかオオウミガラスだとか、設定が荒唐無稽にすぎる。


 しかしシープマザーは、驚いた顔で俺とぽわ子ちゃんを見つめている。


「星騎士は幻精歴を最後に、出現が途絶えているはずです。まさか、そんなことが……?」


 えぇっ!? 

 居たの? 星騎士とか云う奴が。


 俺が知っている星関連のジョブって、星読みと星辰術士だけで、そんな言葉は聞いたことが無いぞ。


(まさか、ぽわ子ちゃんも、それを知って――!?)


 慌てて隣りを見ると、星読みの少女は、ぽかんと口を開けていた。


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