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妹のいる生活  作者: むい
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第二百八十話 瞬きの夜に、キミと(その三十)


「むむん……! アル、あれは……!」


 ぽわ子ちゃんが、驚愕の声をあげた。


 彼女とフィーは、夜空を見上げている。

 あの日にエイベルがやったように、夜空に光でビジョンを作ったのだ。


 映し出すのは、星。

 星を模した、無数の形。


 魔術による立体映像と云えば、より伝わりやすいだろうか?


 俺は偽りの星々を天空に配置する。

 無秩序ではない。

 さも意味ありげに、図形や文様のように。


「むん……! 幻精歴の七輝(ななき)……!」


 激しく反応したのは、星読みの血を継ぐ娘さんだった。


 それは既に失われた、有名な星座のひとつ。

 幻精歴に見えたと云われる、特徴的な七つ星。


 星の力が最も強かった時代にのみ輝いた星々を、ここに顕現させてみた。

 そっちの方が、箔が付くだろうと。


「これは、アル、が……?」


 メジェド様が、俺を掴んでくる。

 この娘が驚くのは珍しい。

 星に関することだからかもしれない。


「アル、星辰術士さん……?」


 違います。

 あれは星のイミテーションです。

 そもそも星辰術の真骨頂は、別にあるし。

 まあ、余計なことを云うつもりはないけれども。


「にーた! お星様! ふぃー、にーたの影絵好き!」


 この娘はこの娘で、事実の一端を理解している言葉を簡単に発するな。

 ある意味、俺のやっていることはお見通しなんだろう。


(さて……。下はどうなっているかな……?)


 視力強化で、巨大ミートくんの方を見つめる。


 そこでは、フェネルさんが奮戦してくれていた。

 荒れ狂い、破壊を続ける『肉塊』の連撃を、頑張って凌いでくれていた。


 彼女は地形や魔術を巧みに使う。

 広範囲からの攻撃も、だから何とかではあるが躱し続けている。


 呪文は効かなくとも、使い方次第で足止めが出来る。

 彼女はそれを実戦している。

 回避のために周囲の建物を躊躇無く盾がわりにしているのは、緊急避難と解釈すべきであろう。


(すぐにでも古式をブッ放したいが、まずは足止めしなければ難しそうだ……)


 巨体にかかわらず、『球体』はよく動く。

 あまり無駄弾を使いたくないので、コストが掛かっても、身動きを封じる事を優先すべきだろう。


(『映像』は、何にしようか……)


 別に何でも良かったのだが、ふとぽわ子ちゃんを見て思い付いた。


「動くよ。ふたりとも、しっかり俺に掴まっていてくれ」


「ふぃー、にーたに、だっこされてるのが在るべき姿! にーたを離す、ありえない!」


「むふん……! 離さないとか、掴まってとか、アルは案外、スキンシップ好き……?」


 ふたりには、安全上の理由だということが分からないのだろうか。

 まあ、くっついてくる力は強いようだから、良しとしよう。


「行くぞ」


 足下にクラゲを展開。

 垂直に上昇。


 上空へとやって来た俺は、自分の周囲に偽りの星を無数に輝かせ、それを集めて『絵』に変えていく。


 さながらアスキーアートでイラストを描くように。

 夜空に、一匹の動物を描き出す。


「お、おおおぉぉぉぉ……!」


 ぽわ子ちゃんがワナワナと震えている。


 そりゃあそうだろう。

 これ、彼女の大好きな海鳥だもの。


 オオウミガラス。

 俺の元いた世界では既に絶滅した、チドリ目・ウミスズメ科に分類される海鳥だ。


「アル……! アル……ッ! これ……! これ……っ!」


 大きい方のメジェド様の声は完全に震えている。


 一方、ちいさいほうは、


「ふおおおぉぉぉ~~~~っ! にーた凄い! 流石はふぃーのにぃさま! 素敵です! ちゅっ!」


 こっちもこっちで、大はしゃぎしていた。


「さて。従魔士様よ。俺の氷魔術をチンケと云ってくれたが、こいつはどうかな?」


 星のオオウミガラスがクチバシを広げる。

 その中央に、フィーから借りた魔力を集める。


「行け……ッ!」


 発射されるのは、巨大な氷槍。


 五級試験の時に戦った褐色イケメンの風の槍よろしく、ドリル状に回転させて撃ち込んだ。

 突進力と貫通力を高めて、『腕』に迎撃されないように。


 果たして氷槍は、それをはたき落とそうとした三本の腕を貫いて腐肉を貫通し、地面に突き刺さった。


「そこだ、根付け」


 樹氷を拡散させる要領で根のように氷を伸ばし、ミートくんを地面に縫い付ける。

 生半可な攻撃では吸収されてしまうだろうが、それでも時間は稼げるはずだ。


 二射、三射と氷槍を撃ち込む。

 腕なんぞ、いくら暴れても構わない。

 本体がそこにあると云うことが大事なのだ。


「みゅ……。みゅみゅ~~……」


 さっきまでテンションの高かったはずの妹様が眠そうだ。

 これ以上は、負担をかけたくない。

 すぐにでも、勝負を決する必要がある。


(使うぞ、咆震砲を)


 星のアスキーアートを拡散させる。

 オオウミガラスが消えて行くと、ぽわ子ちゃんが、「あぁ……っ」と残念そうな声を漏らした。


 再び夜空に星を集め、イラストを描き上げる。


 それはビームを放つに相応しい姿。

 現在進行形で俺の傍にいる、真っ白なかぶり物。


 つまり。


「メジェド様……っ!」


 フィーとぽわ子ちゃんの言葉が被った。


 地上を見る。

 フェネルさんはこちらの意図を察しているらしく、既に移動を開始していた。


 うん。

 あの距離ならば、大丈夫だろう。


 魔力を込める。

 妹様からの供給が不安定になっている。きっと、とても眠いのだろう。

 でも、ごめん。もう少しだけ、頑張ってくれ。


 メジェド様の目が輝いていく。


 ジャンボミートくんの動きは封じたままだが、メンノの姿は見えない。

 どこかに潜んでいるのだろうか? 


 粗野なしゃべり方をしても、状況判断が的確な男だ。

 居場所は把握しておきたかったのだが。


「とにかく今は、あいつを仕留める! ――咆震砲ッ!」


 天空に描かれた巨大メジェド様から、古式魔術が発射された。

 傍目には、完全に目からビームを放っているようにしか見えないだろう。


 そして、轟音と巨大な光。


 呆けていることは出来ない。

 地上に放った魔力の衝撃を、命中後は上空へと導かなければいけないのだ。

 そのことに集中しなければ。


 天へと登る光の柱の中で、ジャンボミートくんが溶けて行くのが見えた。


 フィーの魔力を込めた古式魔術でも即時の消滅を免れているあたり、真っ当な方法では倒せない相手だったのだと思い知る。

 超火力の魔術持ちでない限り、きっと勝つことは出来ない存在だろう。


「んゅ……。ふぃーのにーた……。格好良い……」


 腕の中の妹様は、それだけ云うと、ガックリと力が抜けてしまった。

 どうやら、ついに眠ってしまったようだ。


「ありがとう、フィー」


 そっと撫でてやる。

 ずいぶんと無理をさせてしまった。

 独力では戦えない不甲斐なさに、奥歯を噛み締めた。


 同時に、ズシンと身体が重くなる。


 それまでフィーに賄って貰っていた、空に描く光。

 足下を支える粘水。

 そして、古式の制御に使っている魔力の負担が、いっぺんに自分にやってきたのだ。


「……っ、く……!」


 思わず、呻き声を上げてしまう。


 今夜俺が使った多くの魔術は、決して自腹の魔力では払いきれない量だったのだと再認識する。

 今この瞬間でも、脂汗が流れてくる程だ。


 だからだろう。


 反応が、一瞬遅れた。


 溶けて消え落ちる『肉塊』が――いや、隠れ潜んでいたメンノが、反撃の隙を狙っていたことに、気付くことが出来なかったのだ。


 それは、一本の腕。


 最後の力を振り絞ったのだろう。

 他のものよりも明らかに太い腕がこちらに向いていたのだ。


 本体も他の腕も溶け落ちてなお。

 ただ一撃の機会を狙い、実現させたのだと知った。


 そして、カノンが撃ち出される。

 速射であることも、悪い方向へ働いた。


(マズいッ! 粘水をッ……!)


 反応が遅れたこと。

 カノンが巨大であったこと。

 展開した魔壁が、貧弱な自前の魔力であったこと。


 そのどれもが、瑕疵と呼ぶべきものであった。


 せめて、腕の中のふたりだけは守らねばならない。

 持てる魔力を全開にして、ふたりを包み込む。


 瞬間、魔力の塊が到達した。


 激しい衝撃の中で、俺は天から墜落した。


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