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妹のいる生活  作者: むい
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第二百五十九話 瞬きの夜に、キミと(その九)


「よしよし、よく頑張ったな」


 爺さんが四人の身内を撫でている。

 撫でる方も撫でられる方もホッとした顔をしているから、相当に不安だったのだろうな。


「にーた、ふぃーも! ふぃーもにーたに、撫でて欲しい!」


 マイシスターが、撫でられる身内たちを見て、自分も撫でてとおねだりしてきた。

 もちろん、断るようなことはしない。


「フィー。手伝ってくれて、ありがとう。凄く助かったよ」


「ふ、ふへへ……! ふぃー、にーたに褒められた! ふぃー、もっとにーたに喜んで貰う! ふぃー、もっとにーたの役に立つ!」


 うん。

 嬉しそうな顔だ。

 この娘の基準は、こんな時でもブレないな。


 俺たちがそうしている間にも、爺さんの連れてきた冒険者たちが、周囲の魔物と戦ってくれている。


 数にもの凄い差があるのに、俺の魔壁を背にするなど囲まれないように工夫しながら、正確かつ確実に、敵を討ち取っている。

 個々人でもなかなかの使い手だと思うが、集団戦法にも長けているようだ。


(魔物が嫌がる匂い袋を投げて牽制して、その間に別方向の敵を倒しているのか)


 冒険者らしい戦い方だ。

 手慣れているし、熟練者ばかりなのだろうな。


 剣の達人は間合いを見切ると云うが、ベテランの冒険者の場合は、『間合いを作り出す』のだと聞いたことがある。

 それは今、目の前で繰り広げられているような戦い方なのだろう。


 倒した敵の死体すら、壁として上手く利用している。

 ごく自然に相手の行動を制限し、誘引し、常に有利に立ち回る。

 彼らは明らかに、寡兵での戦い方に慣れていた。


 武装は違えど、全員が同じ腕章を付けている。

 それは、ギルド執行部員である証だ。

 爺さんが所属し、ブレフが憧れるだけあって、あれは戦巧者の証なのだろうな。


 副隊長であるルーカスさんは、防衛のみならば可能であると見極めを付けたらしい。

 こちらへとやって来る。


「星読み様。ご無事で何よりです」

「こ、こここ、この状況って、まだ無事じゃないんじゃないの……!?」


 タルビッキ女史が、ぽわ子ちゃんをしっかりと抱きしめながら、地味に正鵠を射た発言をする。

 それはそうだろうな。

 冒険者たちと合流できただけで、何も解決していないし、何も分かっていない。


 ルーカスさんは苦笑し、それでも皆様を全力で護衛させて頂きますと答えた。


 次いで、俺を見る。


「この魔壁は、アルトくんが作ったのかな? 凄いね。皆を守り抜ける程のものなんて」

「……善処はしました。でも、『皆』ではないと思います」


 会場のあちらこちらに、死体が転がっている。

 逃げ遅れた人々のものだ。


 俺が優先すべき命は家族のものであって、天秤に掛けるようなことすら、する気がない。

 二者択一なら、迷うことなく家族を選ぶ。

 カルネアデスの板に群がる手を振り払うことに躊躇はしないが、だからと云って、惨劇を見たい訳ではない。命が助かるに越したことはないはずだ。


 俺の言葉に、ルーカスさんは頭を下げた。


「そうだね。俺の云い方が悪かった。でも、家族を守り抜いたのは立派だよ」

「それこそ、俺ひとりの力ではないです。フィーと、こちらの――」


 掌を広げてフェネルさんを指し示すと、両者が会釈をした。


「ギルド執行部副隊長、ルーカスと申します」

「フェネルです」


 動作は優美だが、彼女の言葉は簡潔を極めた。


「エルフの魔術師ですか。それなら、この災禍でも生き抜ける力があるでしょうね」

ハイエルフ(・・・・・)です。お間違えのないよう、お願い致します」


 フェネルさんが即時、修正を入れた。


 そう云えば初めて商会に行ったとき、ショルシーナ会長も、エルフではなくハイエルフだと主張していた記憶がある。

 よく分からないが、彼女等の中では譲れない部分なのだろう。


「これは失礼を。こちらは粗雑な冒険者ですので、誇り高いエルフ族の方々には不作法を働いてしまうでしょうが、どうかご容赦頂きたい」


 ルーカスさんの言葉に対し、フェネルさんの瞳は冷たい。

 もしかして、彼女も人間嫌いだったりするんだろうか? 

 高祖様からして、アレだからなァ……。


 だが、ルーカスさんは表面上は気にした様子がない。

 冒険者は心も強くないといけないと云う話だから、視線のひとつくらいでは動じないのだろう。


「アルトくん。分かる範囲で答えて欲しいんだけど、伯爵様がどうなったか、分かるかい?」

「伯爵様ですか。それなら――」


 俺が説明すると、ルーカスさんは神妙な顔で頷いた。


「そうか。もしかしたら、生きていらっしゃる可能性もあるか。たとえ亡くなっていても、急げばご遺体を回収できるかもしれんな……」


 生きているかもだって? 

 あの状況では、あまり期待できないと思うが。


「どちらであれ、すぐに確認に向かわねばならない。我々は、伯爵様の救出を名目として、隊を繰り出したんだからね」


 名目として、と云うことは、たぶん、本来の目的は、俺たちを捜すことだったんだろうな。


 こんな状況なら、ギルドは民衆を守らねばならない。

 私情での行動は許されないだろう。


 皆が確実に納得する理由があるとすれば、それは指導者を捜すこと。

 つまり、伯爵の救出だ。


「アルトくんたちと合流できた以上は、先に皆様を送り届けねばならないか……? いや、それだと伯爵様が生存していた場合、大変なことになるな。しかし、この状況で隊を分けるなど愚の骨頂だしな……」


 うむむと唸っている。


 一方、俺に撫でられているフィーは、こんな状況でも夢見心地だ。


「もっと! にーた、もっとふぃーのこと、なでなでして? ふぃー、にーたのなでなで好き!」


 本音を云えば、この子を休ませてあげたいから、どこか安全な場所に移動したい。


 だが、彼らも伯爵を捜すという大義名分を用いている。

 これで伯爵が完全に安否不明なら、取り敢えず生存者を保護したという態で引き返せるだろうが、僅かなりとも生存の目があるなら、見捨てることは出来ないだろう。


「どうぞ、あなた方は自らの目的に従い、この街の領主救出に向かって下さい。こちらの皆様方の護衛は、我々が受け持ちますので」


 そこに、フェネルさんが、そんな言葉を差し込んだ。

 ルーカスさんが、訝しげに問う。


「どういうことでしょうか? まさか、おひとりで、皆様を守るつもりなのですか?」

「いいえ。私は、『我々が』と申し上げました。『個人で』、とは云っておりません」


 その言葉に反応するかのように、ちいさな影が足下から飛び出し、フェネルさんに飛び付く。

 それは、セロの商会へと救援を頼みに行った、あのリスのような姿の従魔だった。


(戻って来たのか。と、云うことは……)


 瞬間、何匹かの魔獣たちが息絶えた。

 空間を埋めるように、複数の人影がやってくる。


「申し訳ありません、フェネル様! 思いの外モンスターたちの数が多く、到着が遅れました……!」

「私への謝罪は不要です。それよりも、こちらの方々を全力でお守りするように」


 現れたのは、武装したエルフだった。

 姿格好から察するに、警備部の者たちだろう。

 フェネルさんに頭を下げていると云うことは、呼び出した彼女の方が格上なのだろうな。


 エルフたちは、すぐさま俺たちを庇うように立ち位置を変えた。


「これならば、冒険者ギルド皆様方は、領主の救出へ向かえるでしょう。クレーンプット家の護衛は、我々にお任せ下さい」


 こう云いきられてしまうと、執行職の面々は伯爵の元へ向かわざるをえない。


 彼らは領主救出を題目に掲げて出動したのである。

 一方エルフたちは、初めから俺たちを守る為に来てくれたのだから。


「アル」


 爺さんがこちらにやって来て、肩を掴んだ。


「リュシカたちを頼む。本当なら、俺が本部まで連れて行ってやりてぇんだが……」


 祖父の表情は、まさに断腸の思いと云った有様で、その様子からも、どれだけ家族が大切なのかが、うかがわれる。


 任せてよ。


 心情的には、こう云いきりたいが、それは少し難しい。


 詰め所なり商会支部なりまでの護衛だけなら、ぶっちゃけ粘水の魔壁があれば、俺だけでも可能だと思う。

 けれど、別の問題が立ちふさがっている。


 それは、俺の傍にいる、星読みの血を引く、ひとりの少女だ。


 彼女めがけて魔獣たちが集まってきている状況を何とかしない限り、戦えない人たちが大勢避難している場所へ向かう訳には行かない。


(矢張り、フィーが感じた魔力の在処へ向かうべきなのではなかろうか?)


 無論、そんなところへ母さんたちを連れてはいけない。


 心配を掛けることになったとしても、単独行動をすべきなのだろうかと、俺は悩んだ。


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