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妹のいる生活  作者: むい
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第二百四十九話 お昼寝タイム!


「にーた、にーた! ふぃーと一緒に、お昼寝する!」


 前半戦を終え、セロ・クレーンプット家に戻ってきた俺たち。

 存分に遊び、存分に食べ、存分に笑った妹様は、後半戦に備えて、たっぷりと眠るつもりのようだ。


 今回に関しては、「寝てしまうのって、もったいない」と云う感想は抱いていない様子。

 ワクワクしすぎて眠れないと云うこともないようだ。マイエンジェル、睡眠、大好きだし。


「にーた! 早く! ふぃー、にーたと一緒に寝たい!」


 ジャンピング抱きつきをしてきた妹様は、甘えるように頬を擦り付けてくる。


「分かった、分かった。分かったから、少し落ち着こう。な?」

「寝れば、すぐ、次のお祭り! ふぃー、お祭り好きっ! 楽しみっ!」


 ああ、そう云う動機なのね。


 頭を撫でてやると、マイシスターは、上機嫌で眼を細めた。


「ブレフも、システィも、ちゃんと寝ておくのよ?」


 一方、グランドマザーは、キッチンから、そんなことを云う。

 この人は眠らず、爺さんへの差し入れを作ったり、掃除その他の家事をするらしい。


「お母さん、偉いわねー。尊敬しちゃう」


「何云ってるのよ、リュシカ。貴方も手伝うのよ!」


「えぇーっ!? でも私、眠いし! アルちゃんやフィーちゃんを、寝かしつけてあげないといけないし!」


 うちの母さん、子供みたいにはしゃいでいたからな。

 そりゃ、眠かろう。


「あ、あの……。ドロテアさん。お手伝いなら、私がしますので……」


 おずおずと。

 しかし、明確に手を挙げるシスティちゃん。

 相変わらずの良い子だ……。


 本当なら、俺も名乗り出るべきなんだろうけど、フィーにお昼寝させてあげたいから、手伝いを申し出るわけには行かない。

 すまない、システィちゃん。すみません、ドロテアさん。


 一方、祖母は、きっぱりと首を振る。


「ダメよ! 子供は、寝るのも仕事の内なんだから! ほら、リュシカ、こんなちいさな子供以下のメンタリティなんて、恥ずかしくないの?」


「う、うぅ……っ。わ、わかったよぅ……!」


 自分ひとりなら、たぶん食い下がったであろう母さんは、身内の美幼女の健気さに屈したようだった。ガックリと肩を落とす。


「システィ、貴方も、寝ておかないとダメよ? でないと、レベッカに云い付けますからね!」

「う、は、はい……」


 その脅し文句、効くんだな……。

 システィちゃんが、怯えているように見えるぞ?


「かーちゃんの事を出されたんなら、寝なきゃなんねーなー。俺はもっと遊びたかったんだがなー!」


 兄貴の方は、そんなことを云っている。

 本気の発言なのか、堂々と昼寝をするための口実なのか、俺にはイマイチ分からない。


「にーた! ふぃー、ハンモックがいい! ハンモックで寝たい!」


 それは無理かなー……。

 あれは、西の離れにしかないし。


 と云うか、皆、発言や行動が、てんでバラバラだな。ちゃんぽんになっているぞ。


 しかし、フィーの発言に、ブレフが食いついてきた。


「何だよ、アル。ハンモックって」


「うちにある、寝具の一種だよ。フィーのお気に入り」


「ふぃー、ハンモック好き! にーたが考えてくれた! ふぃーのにーた凄い! 毎日が快適な、お昼寝ライフ!」


 俺に抱きついたまま、ふんす! とドヤ顔で息を吐き出すマイエンジェル。

 それに便乗するように、母さんが俺たちを抱え込む。


「寝心地良いのよー、ハンモックって! あと、純粋に楽しいわ! 流石は私のアルちゃんねー!」


「ふーん……。んで? アル、そのハンモックってどんなやつだよ? 教えてくれよ」


「それは良いけど、ここに無いし、意味がないと思うぞ?」


 口頭で雑に説明をする。

 一応、形状は伝わったようだ。


「何だよ、それ! 面白そうじゃねーか!」


 絶対に興味を示すと思ったよ。

 そりゃ、子供にとっては、夢のアイテムだろうしね、ハンモック。


「…………!」


 いつの間にか、側に来ていたシスティちゃんも、無言で瞳を輝かせて、コクコクと頷いている。

 どうやら、ハンモックが気になるらしい。


 ここまで期待されると、何とか再現してあげたくなるが、そもそも材料がないからなァ……。


「シーツなら、いくつか余っているから、適当に使って構わないわよ? ロープも冒険者が使う用の丈夫なものが、この家にはあるし」


 ドロテアさん、マジかよ……。

 これ、もう作らなきゃ収まりが付かないやつじゃん。


 俺は観念して、この家で再現してみることにした。


「そんなわけで、出来ました」


「ふおぉぉぉぉ~~~~っ! ハンモック! にーた凄い! ふぃー、嬉しい!」


 妹様が、ぴょんぴょこと飛び跳ねて喜んでいる。


 俺が作ったハンモックは、本当にザッとしたものだ。


 まずシーツは、丈夫さを優先。

 西の離れで使っているような、サラサラのそれではない。


 金具も取り付けられないので、丈夫なロープでしっかりと縛り付けた。

 前世で覚えたロープワークが、こんな所で役立つとは……。


 くくる先は、柱や梁。セロ・クレーンプット家はそれなりに立派なので、梁や柱も、しっかりしている。

 ハンモックをぶら下げても、ビクともしないだろう。


(良いのかなァ……。これで……)


 結果、居間には複数のハンモックが出現した。

 しっかりと結べて、しかもほどきやすいのがロープワークのキモだから、片付けるのは楽なんだが、どうにも見栄えが良くない気がするぞ。


「これがハンモックですか……!」


 システィちゃんの声が震えている。

 やっぱり、興味があったようだ。


 一方、最初に食いついてきた兄貴の方は、別のことに気を引かれていた。


「アル! あのロープの結び方は、何だ!? シャークさんに教わったのか!?」


 どうやら、ロープワークが気になる様子。


 冒険者志望だからかな? 

 まあ、結びの技術なんて、何も知らない人から見れば、魔法――この世界じゃ魔術か――みたいなものだしな。


「いや……。独学で、ちょっとね」


「独学で!? 凄ェな、お前……! な、なあ、俺にも、それ、教えてくれよ……!」


「別に構わないけど、今は昼寝の時間だから、起きてからな?」


「ええーーっ!? ちょっとだけ! ちょっとだけで良いからさぁ……!」


 なんだか、ずっとうるさそうなので、基礎中の基礎の、もやい結びだけ、教えてやることにした。

 これなら、数分で覚えられるだろう。


「こ、これ凄ェッ……! これ凄ェよ! 簡単に結べて丈夫なのに、容易くほどけるぞ!?」


「まあ、そういう結び方だからね」


 冒険者のいる世界だし、船もあるだろうから、こっちでも絶対にロープワークは存在すると思うんだが、ブレフは知らないのか、習っていないのか。兎に角、興奮しきりである。


 余ったロープで、せっせ、せっせと反復練習している。

 まあ、これで暫くは大人しいだろう。


 その間に、台所から踏み台を借りてくる。


「はい、システィちゃん」


 ハンモックは低く吊したつもりだけど、初めてなら、台があった方が良いだろう。


「あ、ありがとう、ございます、アルトさん……」


 ハンモックの上へとエスコート。お昼のお祭りでも、極力、彼女に気を遣ったつもりだ。

 ……尤も、システィちゃんに構うと、その倍はマイエンジェルのご機嫌取りをしないといけなかったから、結構大変だったのだが。


「わあ……っ! わあぁ……っ!」


 釣り床に登ったシスティちゃんは、実に楽しそうに感動の声をあげた。


 初めてだと、やっぱ楽しいよね、ハンモック。

 こういう反応は年相応で、見ていて微笑ましい。


「た、楽しい……っ! 楽しいです……!」


 おおっ。

 満面の笑顔だ。可愛らしいじゃないか。

 やっぱり子供は、笑顔でいるべきだよな。


「にーた、にーた! ふぃーたちも、早くお昼寝する!」


 両腕を広げ、言外にだっこをせがむ妹様。

 言葉通り、早くお休みしたいのか、それとも俺を引き離して独占したいのか。

 まあ、どちらであっても、取るべき行動に変わりはないが。


「ほら、フィー。ぎゅーっ!」

「ぎゅーっ!」


 フィーを抱えてハンモックに向かう。

 途中、母さんが文字通り、指を咥えて羨ましそうにしていた。


「ドロテアさん、すいません。これだと、居間の掃除が出来ないですよね?」


「私が使わせたんだから、そんなことは気にしなくて良いの! さあ、寝ちゃいなさい!」


 変なところで律儀な子よねぇ、と祖母は呟いて、カーテンを閉じてくれた。

 この辺は、日本人的感覚が残っているが故だろうかね?


「にーた! ハンモックの感覚違う! でも、これはこれで楽しい……っ!」


「そうか。でも、今はお昼寝しようか?」


「する! ふぃー、お昼寝得意! 起きたら、またお祭り……! ふへへ……っ! 今日は、とっても楽しい日!」


 髪を撫で、キスをしてやる。

 しばらくすると妹様は、すぐに可愛らしい寝息を立て始めた。

 やっぱり疲れてたんだろうな。


(目がさめたら、本祭りか。楽しいお祭りになると良いな……)


 ささやかな願いを込め、俺も目を閉じた。


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― 新着の感想 ―
[良い点] フィーさんの言葉遣いもだぶ流暢で長く話せるようになってきましたね。 肉体操作面でも少しずつ成長していることをかんじます。
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