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妹のいる生活  作者: むい
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第二百三十七話 ブレフのかーちゃん


 そんな訳で、託児所までやって来たのだ。


 メンバーは、ドロテアさんを除く、セロ・クレーンプット家にいた全員である。


 グランドマザーは、家事があるので来られないと無念そうに云っていた。

 俺たちが街にいる間は、料理に力を入れたいのだとも。


 祖母の料理は手間暇こさえているものが多い。

 料理って、凝ると数時間とか掛かるものもザラにあるからね。

 仕方ないね。


 事実、セロに来てから饗される料理の数々は、俺程度にも時間を掛けていると分かるものばかりだったしね。

 それだけ、娘や孫が大切なんだろう。

 ありがたいことだ。


 道中驚いたのは、ベテラン冒険者の皆さんだろうか。


 うちの爺さん、ギルドから戻ってくる時に、何人かの冒険者に同行を頼んだらしい。

 もちろん、アホカイネン親子の護衛のためだ。


 警護には、あえて目立つように立って防衛を周囲に知らせるタイプと、目立たないように陰に潜むタイプがあるが、彼らは後者だったようだ。


 たぶん、気を遣ってのことなのだろうな。

 或いは、爺さんに目を惹き付けて、確実に敵を処理するためか。


 俺も、だっこした妹様に、


「にーた、にーた。何か、ふぃーたち、囲まれてる。誰か付いてきてる!」


 と云われなかったら、気がつけなかったと思う。


 実に自然に街に溶け込むように、けれども、ちゃんと戦闘の考慮や要人の逃走経路も確保するような立ち位置でフォーメーションを組んでいるのだとか。

 その辺は、後で爺さんに聞いた話だが。


 託児所の建物前に付くと、フィーが俺の袖を引っ張った。


「ひとつだけ、ちょっと大きい魔力がある! でも、魂、まだ弱い!」


 魂が弱いと云うのはよく分からんが、預けられている幼児の中に、強い魔力持ちがいると云うことなのだろうか?

 まあ、魔導士の卵くらい、何人かいても不思議はないのだが。


「あら! リュシカも来てくれたの!?」


「レベッカちゃん、久しぶりねー」


 システィちゃんを大きくして、気が強そうにした感じの女性と、マイマザーが抱き合っている。


 聞くまでもないだろうが、一応、確認しておこうか。


「なあ、ブレフ。この人って、もしかして……」

「ああ。うちの母ちゃんな」


 少しげんなりした様子で頷く親友。

 託児所への来訪を『命令』と表現していたし、頭が上がらないのかもしれない。


 レベッカと呼ばれた女性は、自分の子供たちに目を走らせた後、こちらに向き直った。


「貴方達が、リュシカの子供ね? 揃って凄い天才って聞いているわよ?」


「アルト・クレーンプットです。ふたりとは、仲良くさせて貰っています。どうぞよろしくお願いします」


「ふぃーです! にーたが好きです!」


 天才とか云う分不相応な評価は、この際、スルーする。

 そのうちイヤでも馬脚を現して、『並』って評価に落ち着くだろうからね。


「あら。挨拶もしっかり出来るのね? ブレフにも、見習って貰いたいわ。改めまして、私はレベッカ。この子たちの、母親をやっています」


 ぐりぐりと云う感じで、少し強めに息子の頭を撫でている。目元が優しい。きっと我が子が大事なんだろうな。


「やめろよ~、母ちゃん……!」


 息子さんの方には、あまり伝わってなさそうな感じではあるが。


 レベッカさんは、母さんに云う。


「ここに来てくれたってことは、お手伝いをしてくれるってことで良いのよね? まあ、違っていたとしても、もう逃がさないけれども」


「ふふふー。もちろん手伝っちゃう! 私、子供大好きだし」


「なら、貴方は乳児の方を中心にお願いね? 得意でしょ? ブレフ、あんたはいつも通り、わんぱくたちのオモチャになってあげなさい。システィは、女の子たちね」


 テキパキと割り振っていくレベッカさん。

 会話から察するに、広い部屋に一緒くたにしているのではなく、ある程度は組みわけのようなことをしているのかな?


 と云うか、俺、初めてなのに、家族・知り合いから引き離されてお世話するのか?


「で、そちらの親子は、どなた? シャークおじさんの知り合いみたいだけど?」


 祖父に護衛されているアホカイネン親子をジイッと見つめるハトコズマザー。

 タルタルは、自信満々な笑顔で、一歩前へ歩み出る。


「むっふふふふ……! よくぞ訊いてくれました! この私こそが、この国の重要人物である、タルビッキ――」


「ああ、長い挨拶とか身分とか、どうでも良いから。手伝いに来てくれたのか、預けに来たのか。それだけを云ってちょうだい」


 バッサリだ。


 今度は、祖父が前に出た。


「レベッカ。このふたりはな、俺の護衛対象だ」


 ホントは違うんだが……。と呟く爺さん。

 成り行きで守っているだけで、本来は騎士団の仕事だろうしね。


「なので、アレだ。部屋の隅にでも、いさせてやってくれ」


「ふうん? まあ良いけど。何かあった場合は、おじさんの責任で良いのよね?」


「お、おう……」


 押しの強い人なんだな、爺さんが、たじろいでいるぞ? 

 システィちゃんとは、正反対と云うべきか。


「じゃあ良いわ。後は、貴方ね? 頭良いらしいから、お手伝い、出来るのよね?」


 俺を改めて見るレベッカさん。


 何と云うか、逆らえない眼光だ。

 成程。ブレフが苦手意識を持っているのも、ちょっと分かってきた気がするぞ。


 この人、日本の会社にいたら、アホなオッサン上司とかと平気で衝突するタイプの人なんじゃなかろうかとか、余計なことを考えてしまった。


「ブレフたちから聞いているわよ? アルトくん。貴方、魔術が使えるのよね?」


「ええ、まあ。ほんの少しですけど」


「それでも良いわ。じゃあ、貴方には、魔力持ちの子を見て貰おうかしらね」


「えっ」


「大丈夫よ。任せるのは取り敢えず、ひとりだけだから。それなら、対応出来るでしょ?」


「まあ、それなら」


「決まりね。じゃあ、皆、入ってちょうだい。早速、働いて貰うから」


 出会ってすぐなのに、完全にペースを握られてしまった。


※※※


「それじゃあ、貴方たちは、こっちね?」


 母さんから引き離され、『りんごぐみ』と書かれた部屋へと通される。


 名称が果物だったり動物だったりするのは、日本の幼稚園と変わらないのね。

 なお、俺の幼稚園・年長の時のクラス名は『つきぐみ』だった。動物でも果物でもないな。


「にーた、にーた。ふぃーたち、ここで、何をする?」


 俺に引っ付いている妹様が、小首を傾げた。

 マイエンジェルには、お手伝いがよく分かっていないようだ。


(ん~~……。母さんが云ったように、この娘に、友だちが出来てくれると俺も嬉しいんだが……)


 ちょっと考えて云ってみる。


「ここは、子供たちがいる場所だね。今日は、ここで遊ぶんだよ」


「んゅ? にーたとふぃーが遊ぶなら、必要なのは、積み木やボールだよ? 子供たち、かんけーない」


 ナチュラルに、そう考えてしまうのか。

 新しい友だちが欲しいとか、微塵も頭の中にないようだ。


「むん……。私に、お友だち出来るかな……?」


 何故かタルタルを放置して俺たちに付いてきたぽわ子ちゃんが、ぽわっとした表情のまま、顔を赤くしている。

 こちらは、新たな出会いを求めているようだ。


「大丈夫だよ。こういうのは、勢いだ」


「むん? るが付いて無くても、大丈夫……? るーるるるー……。るーるるるー……」


 何故そこまで『る』が気になるのか。俺にはやっぱり、計ることが出来ない子だ。

 でもまあ、答えは決まっている。


「大丈夫だよ」


 がんばれ、ぽわ子ちゃん。


 扉を開けると、『りんごぐみ』担当と思われる保育士のおばさんがやって来た。なんとなく、優しそうな人だな。


 お手伝いの側だと説明すると、頭を撫でられてしまった。

 こちらも子供だから、考えてみれば当たり前の反応なのかもしれない。


 この『りんごぐみ』は、臨時で預けられた子供たちの組らしく、既に仲良くなって、わいわいと遊んでいる子もいれば、輪に入れないで様子見している子たちもいる。


 皆で仲良くお絵かきしましょう、とかそう云う集団行動ではなくて、ある程度は自主性に任せているみたい。


 保育士のおばさんは、そんな『はぐれもの』たちに声を掛けたり、一緒に遊んでみてはと勧めたりしているようだ。


「にーた、にーた! ここ、積み木ある! ふぃー、積み木で遊びたい!」

「ん? ああ、そうだな。そうするか」


 フィーにお手伝いさせる訳にもいかないからな。

 基本、俺の傍で遊んで貰っていて、俺はその間に、保育士さんと同じように立ち回ればいいのかな?


 でも俺の担当は、魔力持ちの子って云われた気がするんだが――。


「ん……?」


 その時、奇妙な視線を感じた。


 感覚としては、魔力に触れた時のそれに近い。


 俺はそちらを振り返る。


 そこには、ピンク色の肌着を着て、ベビー用帽子をかぶった子供がいた。

 まだ、とてもちいさい。

 一歳か、二歳か。


 その子は、別の保育士さんに抱かれたまま、大きな瞳で、ジッとこちらを見つめていた。


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