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妹のいる生活  作者: むい
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第二百三十話 街へ行こう!(その十一)


「何だ、この怪しい奴はッ!? どこから入り込んだんだ!?」


 男たちは、戸惑いながら武器を向ける。


 警戒する気持ちは分かるが、今の俺は、偉大なる神。

 軍服ちゃんを守り、邪悪を排除せねばならない。


「降伏セヨ……! 抵抗ハ無駄デアル……!」


 俺に読心術は使えないけど、彼らの困惑はひしひしと伝わってくる。

 あまりにも胡散臭すぎて、正体が分からないのだろう。


 地球世界なら子供のイタズラ一択で、他を疑う余地はない。


 だが、ここはモンスターやら精霊やらがいる世界。

 単なる不審者かイタズラか、或いは怪物なのか、判断に困るようだ。


 と云っても、最終的な彼らの結論は変わらないはずだ。

 俺を排除し、軍服ちゃんを拷問に掛けねばならないのだから。


「だ、大丈夫なのか……? 随分、数が多いようだが……」


 目隠しの外れたフレイが、不安気に俺を見上げている。

 助けに来た相手を心細くさせても仕方がないから、表面上は、力強く頷いておく。


「我ハ、邪ヲ打チ倒ス者……。敗北ハ決シテ有リ得ナイ……!」


「ふざけやがって、この野郎ッ!」


 男のひとりが戸惑いを攻撃性へと変換させ、ナイフで突いてきた。

 結構、速いし、躊躇もない。

 単に、こっちが不気味すぎて、あれこれ考えられなかっただけかもしれないが。


「不敬デアルゾ……!」


「ぎゃあああッ!」


 目からビーム! 相手は死ぬ! 

 いや、手加減したんで、吹っ飛んだだけだが。


「な、何だこいつはあああああ! モンスターかッ!?」


 神の奇跡を目の当たりにして、男たちは、『子供のイタズラ』と云う線を斬り捨てたようだ。


 まあ、今のビームを魔術と思う奴はいないだろう。


 タネを明かすと、普通に魔術です。

 メジェド様のおめめのあたりから、光と雷の複合魔術を真っ直ぐ発射しただけだ。それでも、当たれば気絶するだろう。


「ブレスだ……ッ! ブレスを吐いたぞ……ッ!?」


「矢張りモンスターだ……ッ!」


 ううむ……。

 こちらへの認識が、完全に魔獣のそれになってしまったようだ。


 一方、腕の中のプチメジェド様は、俺のビームを見て、興奮しきり。


「ふおぉ……っ! 目からなんか出た……! 格好良い! メジェド様、格好良い……っ!」


 そうかい。絶対に食いつくとは思ったよ。

 だが、暴れるのはやめてくれ。


 俺がプチメジェド様に気を取られていると、男のひとりが部屋の入り口まで走り出し、大声を上げた。


「来てくれーーーーっ! バケモノだ! バケモノが出たぞォーーーーっ!」


 増援を呼ばれてしまった。


 建物内の男たちは全部で九人。

 正面と裏口をふたりずつで固めていたらしいので、この部屋には五人。

 そのうちふたりを倒したから、室内には三人。

 応援に来るのは、残りの四人のはずだ。


「相手はチビ野郎だ! ブレスにさえ気を付ければ、どうとでもなるはずだ!」


 未知の相手を敵に回した場合は、逃亡を最優先に考えておくこと。出来れば戦うなと、うちの先生は云っていた。


 彼らにとって、俺は出会った事のないモンスターなのだろうから、もうちょっと慎重に立ち回った方が良いのでは、と余計なことを考えてしまう。

 尤も、俺も地球にいた頃は、RPGなんかで初見の敵に無策で挑んでゲームオーバーになったことがあるから、あまり大きなことは云えないが。


(フィーのおかげで、こっちは向こうが魔術を使えないことを分かっているのは助かるな)


 情報大事。

 とっても大事。


 彼らはせっかく増援を呼んだのに、三人で向かってくる気になったらしい。正面と左右に分かれ、ジリジリと距離を詰めてくる。


「降伏セヨ……。我ハ神……!」


「ふざけるな! 気色の悪い、バケモノがァッ!」


「愚カナリ……!」


「ぐあああッ!」


 カッと目を見開き、正面の敵にビーム! 

 同時に跳躍し、左右の攻撃を躱す。

 軍服ちゃんは風の魔術で部屋の隅へと移動させ、不意の投擲などに備え、魔壁で覆う。


「わわっ!? あ、ありがとう、感謝する」


 無言で頷いておく。

 何故か、プチメジェド様も、厳かに頷いている。


 数瞬の間に、立ち位置が随分と変わった。

 俺としては、ひとり倒し、軍服ちゃんを比較的安全な位置へと移動できたのが大きな収穫か。


「バカな、一撃で……!? クソッ……! このバケモノ、強ェぞ!」


「正面だ! 正面には立つな! ブレスが来る!」


 目からのビームは、ブレスじゃないと思うが。


「どうした、何があった!?」


 その時、わらわらと増援が現れる。


 あれ? 

 三人しかいないぞ? 


 見張りは四人だったはずだが? 

 まさか、外へ逃れたのか? それは、ちとマズいな。


 俺は小声で、ぷるぷると感動にうち震えているプチメジェド様に問いかける。


(フィー、二カ所の入り口にいた連中が、ひとり足りない。どこにるか分かるか?)


(みゅ? そこの入り口の陰にいる。隠れてる……!)


 成程。

 逃げたのではなく、潜んでいるのか。


 向こうの認識だと、俺が人数を把握しているのを知るはずがないから、様子を窺うのは正しい選択だろう。

 残念ながら、このプチメジェド様の(まなこ)からは、逃れられなかったようだが。


「何だ、このバケモノは!?」

「メンノさんが仕入れてきたって云う、未知のモンスターが暴走でもしたのか!?」

「いや、違う! 明らかに別物だ!」


 む……? 

 ちょっと気になる情報が出たぞ?


 件の従魔士は、既存の範疇ではない魔獣を従えているのか?


 しかし男たちは、それ以上こちらの欲しかった情報を語らず、俺を見て言葉を漏らす。


「気を付けろ、正面に立つと、ブレスを吐く。あっという間に、ふたりやられた!」

「気色の悪い外見しやがって……!」

「見たことがないぞ、こんな怪物!」

「何こいつ、かっけぇ……!」


 ひとりだけ、妹様やぽわ子ちゃんと同じ美的感覚の奴がいたか……。


「ブレスに警戒して、一斉に掛かれ! 囲むぞッ!」


 軍服ちゃんには、目もくれず、俺を仕留めることを優先するらしい。

 こちらとしても、その判断は、ありがたい。


 さっき三人で掛かってきた時とは大分違うようだ。

 正面に立つ男は俊敏そうな上に、かすかに重心が後ろにズレている。アレは戦うと見せかけた囮だろう。

 俺がビームを放つことを想定し、躱すことだけに専念するつもりのようだ。

 そして次弾が発射される前に、残りのメンバーで攻撃する算段なのだろう。

 数に任せて単純に襲いかかるのではなく、ちゃんと集団戦法として機能している。さっきの醜態はなんだったのか。


(俺の格好を見て焦っていたが、増援が来て冷静さを取り戻したとかか……)


 どうであれ、一人残らず捕まえると云う決定に変わりはないが。


「降伏セヨ……! 我ノ眼ハ、全テヲ見通ス……。取リ囲ム事ハ、無駄デアルゾ……!」


「喋りやがった……!? 知性があるのか!」


「耳を貸すな! やるぞッ!」


 正面以外の全ての男が、一斉に飛びかかってくる。

 一対多としては、当然にして有効な戦法と云えるだろう。


 ――だが、それは、対象が魔術師でない場合の話だ。


「不敬者メ……ッ!」


 俺を中心として、竜巻状に突風を巻き起こす。相手が魔術師でないなら、それで充分。


「ぐあ……ッ!」

「うお……ッ!」


 突然の風に男たちは吹き飛ばされ、壁に叩き付けられる。


 正面の男は掛かってこなかったが、風に耐えることに必死で身動きが取れなかったようなので、眼からのビームで昏倒させる。


「ぎええっ!」


 ひとり倒した。

 しかし、壁にぶつかった男たちは、まだ意識があるようだ。


「か、風を巻き起こすのか……! 何なんだ、こいつは!?」

「自然現象を操るなんて、まさか、精霊か邪精か……!?」

「バカ云うな、こんな間の抜けた顔の精霊がいるもんか!」

「かっけぇえ……! つええ……っ!」


 俺のやったことを、魔術とは考えなかったらしい。

 詠唱もなしに風が吹いたから、『そういうこと』が出来る存在だと誤認されたようだ。

 まあ、中身が魔術師とバレるよりは、誤解していて貰う方が安全だから、歓迎するが。


 この辺でハッタリを効かせておこう。フィーに頼ったインチキだが。


「ソコノ男……。隠レテモ無駄デアル……。出テ来ルガ良イ……!」


 俺の言葉に合わせるように、腕の中の妹様が、ビシッとドア陰を指さした。


 男たちの顔色が変わる。

 何で分かったと云いたげだ。まあ、分からなかったんだけどね。


「ほう。やるな。戦いながら、この俺に気付いていたのか」


 現れたのは、二メートル近い戦士風の男だった。

 潜んでいると云うから、てっきり小柄で隠密向きな人物を想像していたのだが。


「我ハ神……。全テヲ見通スト、云ッタハズダ……」


 そこの男、とか自信満々に云ってしまったからな。

 女性だったら、ブラフだとバレていたな。危ないところだった。


「が、ガッシュ……!」


 軍服ちゃんが、驚愕の声をあげた。

 戦士風の男は、ニヤリと笑う。

 男たちも、この戦士が姿を現したことで、落ち着きを取り戻したようだった。


「ただの退屈な任務かと思ったら、おかしな奴がいるじゃあないか……。少しは楽しませてくれると良いんだがな……?」


 男は剣を引き抜く。


 何だろう。有名な人なのかな?


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