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妹のいる生活  作者: むい
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第二百二十九話 街へ行こう!(その十)


 軍服ちゃんを見つめる男たちの視線の質が変わった。


 たぶん、『処分』は確定なのだろう。

 あとは、どれだけ情報を得られるかどうかだと考えているのだと思う。


「キミが見た人物とは誰だったのか、さあ、答えてくれるかい?」


 既に、男は笑顔を作っていない。

 それでも、声色だけは、かろうじて優しい。


「……ある重大な事件を起こした犯罪者だ……」


「ほう! それは、俺たち冒険者としても見過ごせないな! 誰だい!?」


「私は重大だと云ったはずだ。冒険者ランクも登録ナンバーも口に出来ない胡散臭い連中に話すことはない……!」


 軍服ちゃんが云い切った瞬間、無言で蹴りが飛んだ。もちろん、これも防ぐ。


「……ぐ……ッ!」


「ダメだよぉ、ちゃんと答えてくれないと。我々も、ギルドの依頼で動いていると云っただろう? そして、キミはその容疑者だ。『犯罪者を見た』だけでダンマリを決め込まれても、非を誤魔化す為の嘘にしか思えない。さ。誰なんだ? 云っておくれ?」


 客観的に見ても、彼らの言動はおかしい。

『犯罪者を見た』だけで黙るのが誤魔化しだと云うのはその通りだと思う。ならば、そこに犯罪者の名前が加わっても、信憑性は増えないはずだ。

 彼らからは、何が何でも『誰か』の名前を聞き出そうという執念めいた意志を感じる。


「…………」


 しかし、軍服ちゃんは答えない。

 どうやら焦らすつもりのようだ。


「オラッ! さっさと云うんだよッ!」


 二発、三発と、蹴りが入る。

 完全に手加減を忘れているようだ。


 これ、魔壁でガードしていなかったら、骨折や内臓破裂クラスの大怪我しているんじゃないかと思う。焦っているのか、単純に思慮が足りないのか、いずれにせよ、まともな行いではない。


「う、うぅ……」


 軍服ちゃんが呻き声をもらす。きちんと怯えが感じられる声色だった。

 理由は知らないが、本当に凄い演技力だ。


「ほら、このままだと、もっと痛い目に遭うよ? 素直に話してくれれば、キミを解放できるんだ」


「ほ、本当に名前を云えば……私を帰してくれるのか……?」


「ああ……。約束しよう……」


 優しい声で、男は頷いた。

 軍服ちゃんは唇を噛み、それから、絞り出すように、名前を告げた。


「……メンノ、だ……」

「ほほう! メンノ! あの従魔士メンノだと?」


 小馬鹿にするような口調とは裏腹に、彼らの表情は硬い。


「いきなりそんな突拍子もない話をされてもねぇ。だぁ~れも信じないと思うよぉ? それとも、あるのかい? 何か、決定的な証拠でも」


「証拠ではなく、重要な材料がある」


「お訊きしましょうか? それは何だい?」


 軍服ちゃんは一旦、黙り、それから、重々しく口を開いた。


「私の能力――いや、体質だ」

「体質? 意味が分からないねぇ。どういう事かなぁ?」


 確かに奇妙な返答だ。証拠を求められて、体質を語るとは。

 だが、嘘だとしたら、あまりにも不自然でお粗末だ。男たちもそれを分かっているのだろう。今度は蹴らず、言葉の続きを待っている。


「私は、生まれつき、魔術を感知することが出来る体質なのだ」


「魔力感知だと!? あり得ねェぜ! 手前ェ! 自分が口にしていることが、どれだけレアな才能か、分かって云っているのか!?」


「魔力感知ではない。魔術感知だ」


「何? 魔術? つまり、何か? 魔力は感知できないが、魔術は感知できるとでも?」


「その通りだ。正確には、発動した瞬間を感じ取れると云うもので、既に使われている魔術には、効果がないのだがな」


 それはまた、えらく変わった能力だな。

 しかし、これで分かったことがある。


 屋台で妹様にロッコルの果汁を与えていたときに微小な風術を使ったが、あの後、魔術を使ったのかと訊かれたのは、発動を感じ取っていたと云う訳か。


 そうやって、俺は実際に軍服ちゃんの異能を目の当たりにしているが、こいつらは違う。あまりにもレアすぎる能力と相まって、信じかねているようだ。


「お前! 口から出任せを云っているんじゃないだろうな!?」


「私の能力は、一応、稀少なのでね。知っている者は多くない。だが、我が父、そして伯爵様がご存じだ」


 つまり、お偉いさんにお墨付きを貰っていると。

 そう云う方面で、信頼があるのだと云いたいのだな。


「……にわかには信じがたいが、ひとまず置こう。それで、お前はその才で、どうやってメンノさ――メンノ、を発見したんだ?」


「認証符だ」


「何、認証符だと?」


「どうやったのかは知らないが、メンノの顔は変わっていた。髪色もだ。だが、デネン子爵邸に出入りするための魔術式認証符は、以前、我が家に来た時のものと、変わりなかった。なまじ顔が変わったから、同じ認証符でないと、本人であると証明できなかったのだろうな。私は、その符が使われる瞬間を見たのだ。そして顔の変わっていた認証符持ちの男は、私を見て、ギョッとした。それで確信を持ったのだ。あれはメンノに間違いない、と」


「ほほぉ~~、成程ねぇ~~……」


 男は、ガシガシと頭を掻いている。

 真偽は兎も角、軍服ちゃんの言葉は、ある程度の筋が通っており、大きな矛盾がない。

 だから、取り敢えず事実と考えるしかないのだろう。


 そしておそらく、次の質問こそが、最も重要だ。


「……それで、キミはそれを誰かに、話したのかなぁ?」


 メンノの情報を知っている者が他にもいるのか。

 それによって、彼らと、その背後にいる人物の行動が変わる。大事な部分だろう。


「知って、どうする? ここで話しても仕方がないことではないか」


「それを決めるのは俺たちだ! お前は、さっさと話せば良いんだよッ!」


 またまた蹴りを防ぐ。

 ダメージは通っていないだろうが、逆に吐血もしない。

 そんな軍服ちゃんに、疑念を抱かねば良いのだが。


「うぐ……っ!」


 疑られないのは、ひとえにあの演技力故か。

 本当に痛そうに振る舞っているものな。


「……も、もしも気になるのなら、お前たちも私と一緒に冒険者ギルド来れば良い。私の言葉の真偽も、お前たちの身元も、それでハッキリするだろう……?」


「るせぇッ!」


 軍服ちゃんの正論は、暴力で報われた。

 喋らせるための威嚇なのだろうが、これでは冒険者ではありませんと自白しているようなものではないか。


「お前は、ただ質問に答えれば良いんだッ!」


「私から持ち帰った答えを、誰に報告するつもりだ? お前たちの飼い主の、デネン子爵か?」


「――――!?」


 ハッキリと云い切られて、男たちの顔色が変わった。

 しかし、これはブラフだろう。

 明確に彼らとの関係性が分かっていれば、そもそも捕まる理由がない。

 軍服ちゃんの並外れた演技力にモノを云わせた、いちかばちかの賭けだと思う。


 果たして、その効果は抜群だった。


「手前ェ……! どこでそれを……ッ!」


「私がメンノを見かけたのは、偶然だとでも思ったのか? お前たちがボロを出したから、あの従魔士に辿り着いたんだ!」


 これも嘘だろう。

 そもそも軍服ちゃんは目隠しをされていて、彼らの顔を見ていない。

 しかし堂々と云いきられ、男たちは動揺した。


「クソ……ッ! どこまで知っていやがる!?」


「拷問だ! 拷問に掛けるんだッ! もう、ぬるいことは止めだ! 徹底的に情報を搾り取れッ!」


 保身も掛かっているから、彼らも必死だ。


 静観もここまでだな。


(これ以上は、彼女が危ない)


 デネン子爵家と繋がりがあることを白状(ゲロ)ってくれた訳だし。捕まえてしまっても良いだろう。


「フィー、行くぞ? しっかりと掴まっていろよ?」

「ふぃーがにーた離す、ありえない! ふぃー、にーた好きッ!」


 風の魔術を喉に展開。簡易的変声機を作り出す。


 一方、あちらさんは、


「このガキがッ!」


 手加減するつもりがなくなったのか、短剣を軍服ちゃんに振り下ろす。

 言葉通り、尋問から拷問に切り替わったのだろう。刺そうとしたのは、腹か、脚か。


 今度は風壁で防ぐようなことはしない。そのまま、男を吹き飛ばす。


「ぐあッ!」


「な、何だ……!? 何が起きた……ッ!?」


 お仲間が突然、壁に叩き付けられ、彼らは仰天する。

 俺はプチメジェド様を抱えたまま、ふわりと軍服ちゃんの傍へと降り立った。


「……いるのは分かっていたけど、来てくれてホッとしたよ」


 小さな声で、彼女は云う。

 返事の代わりに、風の刃で縛めを断ち切った。


「何だ、手前ェは……ッ!?」


 俺たちの格好、怪しさ全開だもんな、そりゃ、驚くわな。


 俺は努めて冷静に振る舞い、口を開いた。


「我ガ名ハ、メジェド……。悪シキ者ヲ打チ倒ス、神デアル……!」


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