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妹のいる生活  作者: むい
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第二百十七話 セロ再訪・二日目


「たまご! ふぃー、たまご好き!」


 祖父母の家に一泊して翌朝。

 朝食に目玉焼きが出たので、フィーが大喜びしている。


 西の離れだと、あまり卵でないからね。

 ドロテアさんが、娘や孫のために用意してくれたらしい。


「アルちゃん、お母さん! お母さんも作ったのよー!」


 マイマザーが、必死にそんなアピールをしている。

 料理大好きの母さんは、久々に作れて、嬉しそうだった。


 そして、俺にも嬉しいことがあった。


「ドロテアさん、あれって……」


 俺は台所を指さす。


「ええ。最近、王都を中心に売り出されている、新しい調理器具ね。少し前から、このセロでも流通するようになったわ。凄く便利なのよ」


 シャール・エッセン作、ピーラーがあったのだ。

 お買い上げ、ありがとうございます。


「ブレフやシスティがうちに来る時、飯の手伝いをして貰う時がある。ふたりとも、まだまだガキんちょだ。刃物は危ない。だから今までは、食材の水洗いなんかが中心だったんだが、これなら、あいつらでも安全に使えるからな」


 シャーク爺さんが、そんなことを云う。

 ドロテアさんの利便性を考えてではなく、あのふたりの為に買ったのか。


「ふふふ。ブレフはお料理に興味がないみたいだけど、システィは筋がいいわ。あの子、きっと将来は、お料理上手になるはずよ」


 成程。良いお嫁さんになりそうなタイプなのかな?


「むはは。まあ、俺を倒せなければ、システィはやらんがな!」


 むはは、とか云っているのに、顔が笑ってないぞ、おっさん。


 一方、我が敬愛する母上様は、ドロテアさんの言葉を聞いて、によによと含み笑い。

 ピーラーの作者を知るが故の反応だろう。何か今にも暴露しそうな顔をしているけど、余計なことを云わなくて良いからね?


「そうだわ!」


 ドロテアさんが、ぱんと掌を打ち鳴らす。


「アルちゃん、システィのことで、貴方にお願いがあるのよ」

「え? 俺にですか?」

「ええ。貴方は去年会ったきりだけど、あの子が引っ込み思案なのは知っているでしょう?」

「ああ、はい。そんな感じでしたね」

「あの子、今年の声楽隊のエントリー、断っちゃったのよ」


 ドロテアさんが、よく分からないことを云う。

 代わって、母さんが声をあげた。


「えぇ~~っ、それは勿体ないわー!」

「貴方は選考外だったものね」


 祖母はクスクスと笑い、母はムスッとしたが、俺には状況がよく掴めない。

 するとムキムキマンが、俺に説明してくれた。


「セロの代表は、やり手だと云っただろう? それは代々のことでね。この街は、声楽隊が有名なのさ」


 有名どころの声楽隊と云うのは、ただ人前で歌うだけではない。祭事や国事の開幕式などに採用されることもある。


 この国は、声楽隊にあまり力を入れていなかったらしい。

 そこに目を付けた何代か前のセロの統治者は、国中から優れた歌い手を集め、この街を声楽のメッカに変えてしまったのだという。

 今ではセロの声楽隊は、あちらこちらに招かれ、その歌声を披露しているのだとか。


 なお、幼き日のリュシカ・クレーンプット嬢は自信満々に入隊試験に臨み、その夢を儚く散らせたのだそうだ。


(確かに、母さんの鼻歌って、あまり上手くないからな。幸せそうでは、あるけれども)


 そのリュシカ・クレーンプットの愛娘は、勢いよく手を挙げた。


「はい、はーい! ふぃー、歌う! ふぃー、歌、得意!」


 フィーはイスから飛び降り、自慢の喉を披露し始めた。


「にゃっにゃにゃ~~! にゃにゃにゃにゃ~~~~ん! にゃにゃ~~~~!」


 うん。可愛い。

 別に上手くないけど。


 気分が高揚しているのか、ダンスまでしている。


 機嫌良さげに、おしりをふりふり。

 ジャンプまでして、おしりをふりふり。


「もー。フィーちゃん。ご飯の時は、ダンスはダメよ?」


 母さんがフィーを抱えて、着席させている。

 ドロテアさんが、「貴方も昔はそうだったでしょ」と呟いている。


 仕方ないので、祖父に話題を振った。


「それで、今の話とシスティちゃんと、どう関係あるの?」


「ん? ああ。システィの奴はな、歌が上手いんだよ。それで、今年の声楽隊幼年部の募集にチャレンジしてみたらどうかって話をしていたんだが……」


「出なかったと」


 祖父母が残念そうに頷いている。この様子だと、余程上手なんだろうな。


「まあ、あの子は人前に出るのが苦手だから、歌を無理強いするのはやめるとしても、もう少し、自分に自信を持って貰いたいのよね」


 と、ドロテアさん。


「だからアルちゃん。貴方なの!」

「ん? 俺?」

「そう。なんとかあの子に、自信を付けてあげて欲しいの」

「なんですと」


 いきなり難問がカッ飛んできたなァ……。


 システィちゃん、良い娘だと思うけど、俺もそこまで、彼女と親しい訳じゃないからね。


「別に急がなくても良いのよ。何年か掛けてでも良いから、あの子をフォローしてあげて欲しいの」

「でも俺、セロに住んでいる訳じゃないよ?」

「なら、ここに住むと良いわ」

「えぇっ!?」

「冗談よ。ここに帰ってきた時だけでいいわ。ああ、でも、我が家に住んで欲しいと云うのは、本当よ?」


 ウィンクされてしまった。

 まあ、ドロテアさんの言葉は兎も角、あの子を気に掛けてあげるってことは、心に留めておくべきなのだろう。


 俺は笑顔で朝食を頬張っている妹様を見る。


 物怖じせず、何にでも興味を示し、いつでも元気いっぱいと云うのは、恵まれた資質なんだなと思う。

 その辺の気質は、母さんから引き継いだだけかもしれないけれども。


 おっと、目があった。


「きゅきゅーーーーんっ! にーたが、ふぃーを見てくれた! ふぃー、嬉しい! ふぃー、幸せ!」


「あっ、もう、フィーちゃん! だから踊るのはダメだって、云っているでしょう!?」


 その後、フィーはしっかりとおかわりまでして、朝食を堪能したようだ。

 ドロテアさんのご飯は、たしかに美味しかった。


「じゃあリュシカ。洗い物はお願いね」

「えー」

「えーじゃないの! 私は洗濯物があるから、ちゃっちゃとやる」

「私、作るのは好きだけど、片付けるのは好きじゃないのにー……」


 指を咥えて、そんなことを云っている。俺も何か手伝った方が良いのかな? 

 洗濯物なら、キシュクード島で習得した新魔術が使えるのだが。


 しかし、それが出来ないことを悟る。

 マイエンジェルが、こちらへ走ってくる姿が見えたからだ。


「にーた、にーた! ふぃーと遊んで?」

「食べたばっかで動くと、お腹痛くなるぞ?」

「じゃあ、ふぃー。にーたと、お休みする!」


 ぴょこんと俺に飛びついてくるマイシスター。

 顔を見ると、「ふへへ!」とか云って笑っている。


 フィーをだっこしたまま、ソファでいちゃいちゃ。

 手伝わなくても何も云われないのは、子供の特権であろう。


「ふぃー、にーたと、しりとりする!」


 ほっぺたを擦り付けながら、そんなことを云う。

 でもまあ、それなら、ぽんぽんが痛くなることもあるまいよ。


「じゃあ、やるか」

「うん……っ! ふへへっ! じゃあ、じゃあ、しりとりの――」


「おう、アルト」


 しかしそこで、シャーク爺さんが話しかけてきた。


「リュシカに聞いたぞ。お前、武器の扱いを習い始めたんだってな? なら、俺が腕前を見てやる。庭に出ろ」


 目を輝かせながら、祖父は云う。


 本当かー? 

 本当に俺の技量が見たいのかー? 

 ただ寂しいだけじゃないのかー?


 このオッサン、昨夜はひとり寂しく背中を丸めていたからな。


 俺と妹様と母さん。そして、ドロテアさんで入浴し、ミスターシャークはハブられた。


 驚いたのは、我が祖母のナイスバディよ。


 二十代に見えるのは、顔だけではなかった。

 肉体の瑞々しさも、二十代だった。


 シワもたるみもない綺麗な肌と、娘と同じスタイルの良さ。

 何でこれで子供がひとりだけなんだろうねと、余計なことを考えてしまったくらいだ。


 あと、夜、寝る時も、オッサンだけ隔離されていた。

 俺やフィーが潰れたらどうするの、とか云われていたな確か。母さんも力強く頷いていたから、どちらも潰された経験があるのだろう。


 そしてマイエンジェルは、しりとりに割り込んで来た祖父にお冠。


「ふぃーとにーたの時間、邪魔する、許さないのー! 邪魔するなら、ふぃーが、やっつけるの! えいやーってするの!」


「はっはっは。そんなちいさな、お前が、俺をやっつけるのか! 気概は立派だ! もう少し大きくなったら、俺が護身術を教えてやろう!」


 いやいや、我が祖父よ。

 フィーの言葉を子供ゆえの冗談だと思っているんだろうが、この娘、対象の持つ魔力の大小と、対魂防御があるかどうかを基準に強さを計っているようだから、やり合えば、普通に負けると思うぞ?


 そんなこんなで騒いでいたら、祖母がハトコ様たちの来訪を告げた。


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