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妹のいる生活  作者: むい
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第百九十六話 贈り物


 結果から云うと、ふきもどしは予想以上の大好評だった。


 サイズ違いなのに大喜びで遊び出すコロボックルたち。

 ボクも私もと、取り合いになってしまう。


 そしてそれを見た妹様が、


「めー! にーたが作ってくれたのは、ふぃーのもの!」


 などと激怒して、奪い合いに参加する始末。


 流石に、ここまでウケるとは、思いもよらなかったぞ。


 だってこれ、一発だけのネタアイテムだからね。

 商会に持ち込んでも、飽きが早いとか、すぐにダメになるだとか、酷評を貰うのは、目に見えている。


「ボクにも作ってー? 作ってー?」

「賄賂いる? 賄賂あげれば、作る?」


 わらわらと抱きついてくるコロボックルたち。

 母さんが二、三人のコロボックルを捕獲し、抱き上げながら、俺に云う。


「あらあら。アルちゃん、大人気ね? これは、もっと作ってあげないと、収まりがつかないんじゃないかしら?」


 気軽に云ってくれるなァ……。

 手作業だから、面倒なんだがな。


 だがまあ、確かにアレ一個だけでは、騒動の元になるだろう。

 ひとり一個は無理でも、複数個は作って、順番待ちを緩和させねばならない。


 なので、作成している間に、もうひとつのアイテムで暇つぶしをして貰うとしようか。


「フィー、ちょっと良いか?」

「待って、にーた! いま、ふぃー、これ取り戻すので、忙しい!」


 ふきもどしに向かって突進する妹様。

 それを持ったコロボックルは、別のコロボックルに投げてパス。


 フィーは、「むむーっ!?」とか叫びながら、そちらへ駆けて行く。

 すると、そのコロボックルが、今度はまた別のコロボックルにパスをして……と、繰り返しになっている。


 フィーの奴、遊ばれてないか? 

 小学校だったら、微妙にイジメ判定喰らいそうな状況だが……。


(まあ、泣いてないし、まだ良いか……)


 しかたないので、この騒動を見て「ふええ、ふええ」と困っている水色ちゃんを呼ぶ。


「マイムちゃん、ちょっと良いかな?」

「ふえ? お兄さん、私にご用です?」


 とてとてと小走りでやって来る水色ちゃん。

 俺は、もうひとつのアイテムを彼女に見せる。


「こいつを試してみたいんだけど、手伝ってくれるかな?」

「は、はいです……。どうすれば良いのですか?」


 俺が持っている、長方形の紙を見て、小首を傾げる幼女聖霊。

 俺は彼女に、そこから伸びる紐を持たせる。


「この紐を持って、走ってくれれば、それで良いよ」

「ふえ? 走るです? 私、かけっこ遅いですよ……?」


 不安そうな顔をしているマイムちゃん。

 これは、余程、足の速さに自信がないんだろうな。


「大丈夫大丈夫。誰かと競うわけでもないから。……さ、やってみて?」

「は、はいです」


 てやー、とか云いながら、勇ましく駆け出す水色ちゃん。

 うん。本当に遅いね。

 でも、微笑ましい。


「ふえぇっ!? 浮かびました!? 浮かびましたよぉっ……!?」


 空に浮かんだ紙を見て、水色ちゃんが驚いている。


 もう分かったと思うが、俺が作ったのは、凧だ。

 丈夫な紙と軽くて加工しやすい木材なら行けると踏んだが、どうやら上手く行ったみたい。


「何これ? 何これ?」

「飛んでる? 飛んでる?」


 凧の下に、わらわらと集まってくるコロボックルたち。


 隙を突いて、ふきもどしを取り戻したフィーが勝ちどきを上げているが、誰も気にしてはいないようだ。


「面白そう! 面白そう!」

「マイム様、やらせて? やらせて?」


 おおはしゃぎのコロボックルたちと、それに取り囲まれて大弱りの水色ちゃん。


 ちと騒がしいが、今のうちに、追加生産をしますかね……。

 俺はナイフを手に、再び木材の加工を始めた。


※※※


「ちょっと! ここは尊ぶべき聖湖の前であり、神聖不可侵たる神殿の前なのよ!? あなたたち、はしゃぐのはやめなさいッ! やめなさいったら!」


 クピクピが激怒して怒鳴りつけるが。


「きゃははははは! きゃはははははっ!」

「楽しい! これ楽しいっ!」


 そこはさながら、幼稚園の敷地みたいな騒ぎになってしまった。

 原因は……まあ、俺のせいなんだが。


 あの後、追加でふきもどしと凧を作ったら、何故か水精が、丈夫な蔓を持ってきた。

 これで何かを作ってくれと云うことらしい。


 なので、やってみた。


 木から木に飛び移っていけるターザンと、我が家でも大好評のブランコを設置したのだ。


 結果は、このバカ騒ぎだ。

 クピクピが怒るのも理解出来る。


 なお、祀られるべき聖湖の主は、あっちの方で、妹様に五目並べの復讐戦を挑んでいる。

「ふえぇ、ふえぇ」と聞こえてくるから、まあ、結果はアレなんだろうが。


「賑やかを通り越して、えらく騒がしいな」

「誰のせいよッ!? この、聖域の破壊者めッ!」


 そんな大袈裟な。

『これ』をプレゼントしたら、機嫌直してくれないかな?


「ほい。クピクピの分」

「な、何よ、この変なのは?」


 ついでで作ったジョークグッズを、彼女に手渡す。

 厚紙によく似た素材があったので、ちょちょいと作成したのだ。


「それ? ハリセン。ツッコミ役の、必需品」

「なんなのよーっ!」


 用途を説明すると、スパーンと頭をはたかれた。

 やっぱ、似合うじゃないか。


「お兄さん」


 とてとてと水色ちゃんがやって来る。

 負けじと駆けてきたフィーが聖霊幼女を追い抜いて、俺にタックル。

 マイムちゃんが俺の前に立つ頃には、膝の上に座り込み、しっかりと抱きついて、甘えん坊モードになっている。


「ふへへ……! ふぃー、少し、にーたから離れすぎた! 寂しい思い、させちゃった?」


「甘えたいのは、そっちだろ~~……?」


「きゃーっ! 知らない! ふぃー、そんなの知らない! でも、にーた、もっとなでなでして?」


 ぐりぐりと頭をこすりつけてくる甘えん坊将軍。


 そして水色ちゃんは、俺に丁寧に腰を折った。


「お兄さん、ありがとうございますです……!」


「うん? どうして俺が、お礼を云われるの?」


「はい! お兄さんは、皆を笑顔にしてくれました……! キシュクードの代表として、お礼を云いたかったのです」


 律儀なことだねェ……。

 こっちは、ふきもどしとか、しょうもないものを作っただけなのに。


「いいえ、それだけでは、ないのです」

「と、云うと?」

「そ、その……」


 もじもじと顔を赤らめる水色ちゃん。


「お兄さんとフィーちゃんは、私のお友達になってくれました。そ、それがとても嬉しいのです……」


 成程、そういう話か。

 確かにこの娘の環境なら、友人は貴重であるに違いない。


 コロボックルたちは無邪気で気安いが、それでも『様付け』と云う遠慮が見て取れる。

 クピクピのように明確に距離を置いているものもいる。


 我がクレーンプット一家は単純に気安いだけなのだが、それがこの娘には、結果として心地よかったらしい。


「……お兄さんたちは、すぐにでも帰ってしまうのですよね?」


 一転して、水色ちゃんの表情は暗い。


 確かに、ここにはエイベルの庭園に必要な水を手に入れに来ただけなので、既に目的は済んだとも云える。

 もともと日帰りの計画で、晩ご飯も当然、離れに戻って食べる予定なのだ。

 長逗留することは出来ない。


「それで、ですね。私の初めてのお友達になって下さったおふたりには、プレゼントを差し上げたいと思うのです。受け取って頂けますか?」


「高価なものじゃ、なければね」


 俺がそう云うのと同時に、フィーが元気よく手を挙げた。


「はいはーい! ふぃー、あの透明の粘土が欲しいッ! 頑張ってこねる!」


 俺の粘水だと、時間制限があるからね。

 保存が出来ない。


 マイシスターが欲しがるのは、ある意味で当然だが、あれって、聖湖の湖水だぞ? 

 凄まじい価値があるのでは?


「はい。あれで良ければ、フィーちゃんに差し上げるのです」

「ほんとー? マイムちゃん、ありがとー!」


 水色ちゃんの手を取って、ブンブンと力強く振るう妹様。

「ふえぇ、ふえぇ」と振り回されるままの、マイムちゃん。

 ふたりの仲が、案外良好でよかったと思う。


「では、お兄さんには、これを」


 そうしてマイムちゃんが差し出したのは、ピンポン球くらいの大きさの、透明の球体だった。


 それを見たエイベルが、ピクリと反応した。


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