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妹のいる生活  作者: むい
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第百九十一話 古式


 クピクピとニパ。


 このふたりの肝を冷やすことに決めた。


 戦いはするが、別に勝てるとは云っていない。


 そもそも水色ママンの云う通り、妖精と人間とじゃ、基礎出力が違うのだ。

 別に伏線を張って負けを誤魔化すつもりじゃないが、ヒヤッとさせることが目的なので。


(それと……)


 水色ちゃんには、事前に俺の企みを知っておいて貰わないとな。


「マイムちゃん、ちょっと良いかな?」

「は、はいです」


 まだ涙目の聖霊幼女は、俺が呼ぶと、律儀に小走りでやって来た。


「えっとね……」


 俺は、ヒソヒソと耳打ちをする。


「ふ、ふえぇっ! そ、そんなことが、出来るのですか!?」

「うん。出来るよ。なので、黙って見逃して欲しい」

「う、うぅ……」


 マイムちゃんは、涙目で俺を見上げている。


「そこの子供!」


 クピクピが、俺をビシッと指さす。


「私が勝つのは確定しているけれど、一方的に蹂躙するのは、あまりにも哀れ。そこで、少しだけ私の実力を教えてあげます」


「ほーん。情報をくれるってことか」


「ええ、そうよ。尤も、それで貴方は、いきなり戦意喪失してしまうかもしれないけれど」


 フフッ、とか笑っている。


 まあ、率先して手の内を明かしてくれるなら、素直に受け取るとするよ。

 情報は、ものによっては黄金に勝る価値があるからな。


 俺? 

 もちろん、自分の手の内を明かすようなマネはしないよ。


(普通なら、こんな話は疑って掛かるべきだとは思うけど、虚報を流して、引っかけて来るタイプには見えないしなァ……)


 彼女は、どうにも直情径行型っぽい。それすらも演技だったら、最初から役者が違う。

 素直に諦めることにするよ。


「じゃあ、見せてあげるわ。表に出なさい」


 顎をしゃくって、外出を促してくる。


「フィー、外に行くぞ?」

「むむー? もうちょっと! ふぃー、こねるので忙しい! 今、いいところなの!」


 職人気質な、妙な拘りを見せる妹様。

 今、抱きしめたり頭を撫でたら、ひょっとしたら、怒られるかもしれない。


「アルちゃん。フィーちゃんには、私が付いていてあげるから、見てきて良いわよ?」

「うん。ありがとう。そうさせて貰うよ」


 心情的にはマイエンジェルに付いていてあげたいが、慢心して勝てる程、こちらは強くないのでね。


「あ、私も、お兄さんのお供をしますです……!」


 とてとてと水色ちゃんが付いてくる。俺は彼女を伴って、外に出た。


※※※


「何して遊ぶの? 何して遊ぶの?」

「ゲーム? ゲーム?」


 コロボックルたちがはしゃいでいるし、湖からは、水精も顔を出している。

 そろいもそろって、お祭り好きのようだ。


 クピクピもマントや服を引っ張られているが、気にしてないのか、やせ我慢をしているのか、特に反応をしていない。


「アルト、とか云ったかしら?」


「うん」


「ただの人間が、エイベル様に教えを頂くなんて、あってはならないことなの。まず、それを理解しているか、それを確認したいのよ」


 そんなことを云われてもな。


 何がどう、あってはならないのか。

 そもそも、そこがわからない。


 俺がそう伝えると、クピクピは、やれやれと首を振った。


「良い? 文字を教わりたいなら、ただ文字を書ける人間に師事すれば、それで事足りるでしょう? 世の真理に到達できるような、偉い学者様に教わるとしたら、それは大いなる浪費にしかなりません。魔術だって同じこと。エイベル様は、既に失われた太古の術式を知り、それを使いこなす伝説の賢者。魔力も足りなければ、強くもない人間なんかが教えを請うなんて許されないことなの。それに人間は、知識や力を得ると、それを自儘に使い、迷惑や被害をもたらすわ。二重三重の理由で、人間は、あの御方に教わるべきではない」


「何でそんなに早口なの?」

「ば、バカにしているの……ッ!」


 いや、別にそういう訳じゃ。


 怒らせるのが目的じゃないから、話を逸らすか。


「えっとさ。今の理屈が正しいとして、人間がエイベルに教わる資格がないとしても、アンタが弟子になる理由には、ならないんじゃないの?」


「あるわよ! 頭の悪い子ね! 文字と学者の話を、今したばかりじゃない!」


「つまり、ピクピクには、エイベルに教えを乞うだけの能力があるって云いたいの?」


「誰がピクピクよ! クピクピ! この格調高い名前をからかうなんて、絶対に許さないんだからッ!」


 リアクションが大袈裟な子だなァ……。

 ネットとかやるのに、向かない性格な気がするぞ。

 いや、この世界に、ネットはないけれども。


「無知な貴方は知らないでしょうけど、この私は、古式魔術を使えるのです!」

「教えたのは、この私よ」


 クピクピとニパニパが同時にドヤ顔をする。


 成程。

 古式魔術の使い手とは珍しい。

 精霊語を使える環境ならではと云う所か。


 ――古式魔術。


 それは、魔術のプロトタイプだ。


 学問や技術の発展と同じく、魔術も磨かれ、進歩していく。


『古式』に分類される魔術は、つまるところ、その前段階。

 だが、古式の魔術は、現代魔術の下位互換と云う訳でもない。


 進歩や進化は、必ずしも威力や効果の向上を意味しない。


 より使いやすく。

 より安定を。


 そう云う思想の元に発展していくものもある。


 多くの古式魔術に共通する特徴。

 それは、『燃費が悪い』ことだろう。


 高威力。

 しかし、魔力の大量消費。

 これでは、あまりに使い勝手が悪い。


 それは魔術の大元が、精霊たちであったことに起因する。


 いみじくもクピクピが指摘したように、妖精族と人間族では、基礎魔力量が違う。

 そして更に云えば、妖精族よりも、精霊族のほうが、魔力量が多いのだ。


 人間は道具を作る時、当然ながら、人間が運用することを前提に考える。

 重量や耐久性も、もちろん人間準拠だ。


 ならば、魔術も同じであろう。


 魔力を『変換』し、技術体系にすることを考え出した精霊たちは、自分たちの基準で、魔術を行使した。


 精霊族よりも魔力量が劣る多くの種族は、それを扱いやすくするために、簡略化や燃費の向上を行い、進歩させていく。

 それが、現代魔術なのである。


 尤も、『現代』と呼ぶことは、現実に即していないのかもしれない。


 魔導技術の頂点は神聖歴ではなく魔導歴であって、今を生きる人間たちの技術は、魔導歴の住人たちに、遠く及ばないのだから。


 ともあれ、『古式』に分類される魔術は、燃費が激しく、安定性にも欠けると云うことだ。


 エイベル大先生曰く、古式魔術は、いかに効率良く使いこなすかが重要な課題、らしいからな。


 なお、そのエイベル本人や愛する妹様は、魔力量がブッ飛んでいるうえに魔力の感知や制御にも長けているので、何のペナルティもなく、古式魔術を乱射できる模様。


 ……俺? 

 三発も撃てば、ガス欠よ。


(で、この対戦者だ)


 一体、どの程度の古式魔術を使いこなし、何回発動できるのか?

 それが分からなければ、戦術を練ることが出来ない。


「古式魔術を使えるって話だけど、どの程度のものを使えるんだ? 当然、その辺も教えてくれるんだろう?」


「……いや、まず私が古式魔術を使えることに、驚きなさいよ。何なの、貴方」


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