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妹のいる生活  作者: むい
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第百八十六話 水色ハウス


「~~~~っ!」


 エイベルに弟子入りしたい、と云うのは、彼女の密やかな望みであったらしい。


 コロボックルたちに秘密を勝手に暴露されたクピクピは、顔を真っ赤にして唸ってしまった。


「……弟子?」


 一方、エルフの高祖様。「何で自分を?」とでも云いたげに、小首を傾げる。


「エイベル様が偉いからー? 偉いからー?」

「おこぼれ? おこぼれー?」


 そんな俗な理由では無い気がするが。

 と云うか、キミら仲間のこと、もっと信頼してやれよ……。


「う、うぅぅぅ~~っ!」


「ふえぇっ、クピクピさぁ~~ん!」


 ミニマムな魔術師は、涙目で走り去ってしまった。


「ちょっ……! 良いのか、あれ?」


「大丈夫! 大丈夫?」

「お腹減ったら、戻ってくる。来る? 来ない?」


 なんて適当な……。


 そう云えば、妖精種は脳天気な者が多いと聞いたことがある。

 後先考えない奴も多いのだと。

 ゴブリンなんかの『取り敢えず襲う』とかも、考えてみれば、この系譜なのかもしれない。


「ふえぇ、連れ戻しに追いかけたいのですが、今はお客様を案内せねばなりません……」


 ひとりだけ責任感を抱く水色ちゃん。

 しかし、俺たちをもてなすことを優先したようだ。


 そうして、湖の傍までやってくる。

 コロボックルたちもゾロゾロ付いてくるのは、何でなんだ?


「ふへへ……! 捕まえたっ! ふぃー、コロボックル、生け捕った!」


「きゃー、捕まった! 捕まった!」

「案外、パワフル? パワフル?」


 マイエンジェルに抱きしめられたコロボックルたちが、大喜びしている。妹様と、波長が合うのかな? 

 まあ、楽しいなら何よりだ。


(しかし、凄いな、これは……)


 聖湖に触れてみて、驚いた。

 とても深いのに、湖底まで光が届き、目視できる澄んだ水。


 いや、これは、水ではない。

 水によく似ているけれども、魔力そのものだ。


 強力すぎる魔力と云うのは、母さんや村娘ちゃんのお母さんの例を出すまでもなく有害だったりするのだが、聖湖の湖水は、どこまでも穏やかだ。

 本当に綺麗な水として成立している。

 だから安全なのだろう。まさに奇跡だな。


「おかえりなさい、マイム様。それから、エイベル様、ようこそいらっしゃいました」


 唐突に声が聞こえて、俺はビクついてしまった。


 声は、湖の中から聞こえてきた。


 そこに、水で出来た女の子がいる。

 氷雪の園のレァーダ園長は氷で出来た女性だったが、こっちは水だ。


 これが水精なのだろう。

 凄く生き生きしているように見えるのは、聖湖で暮らしているからか? 

 これ程の環境ならば、確かに水精にとっては、天国のような場所に違いない。


「ふふふ。はじめまして。ちいさなお客さん?」


 ビビッた俺が面白かったのか、水精はからかうように、こちらにウィンクした。


 ……まさか、わざと驚かせてくれたんじゃなかろうな?


「では、通れるようにしますね?」


 水精は、笑いながら魔術を使う。


 すると、まるで氷のように透明で、けれどもしっかりと認識できる道が出来た。

 ここを通って、水色ハウスへ向かえと云うことらしい。


「透明な橋を渡るなんて、貴重な経験ねー。つるつる滑るのかと思ったら、しっかりしているのねぇ」


 水の魔術で作られた足場からも、しっかりと湖底が見える。

 金魚のような赤とオレンジの中間色の魚が泳いでいる姿が見えて、コロボックルを抱えたままのフィーが、はしゃいでいた。


「ここが私のおうちです。どうぞ、お入り下さいですぅ」


 カラフルで可愛い扉を開いて、水色ちゃんが俺たちを通す。


 内部も外見にそぐわず、ファンシーで可愛らしい。

 ソファひとつとってみても、ふわふわでプリティだ。


「可愛い! ふぃー、こう云う、おうち好きッ!」


 ふかふかソファーに遠慮会釈無くダイブする妹様。

 顔面から飛び込んだが、コロボックルは無事なのだろうか?


「えっと、お茶をお出ししないといけませんね。用意しますです」

「あ、私も手伝うわー」

「ふえぇっ!」


 水色ちゃんを抱えて、母さんがキッチンと思しき場所へと歩いていく。

 エイベルは、逆に今入って来たばかりの出口へと向かう。


「……私は水を汲ませて貰う。構わない?」

「はい、もちろんです! エイベル様の、なさりたいように」

「……ん。感謝」


 えーと、俺はどうしよう? 

 ゲームとかなら、ここで選択肢が出るシーンだぞ?


 1、母さんと一緒に、水色ちゃんを手伝う。

 2、エイベルと水を汲む。

 3、フィーとソファーでいちゃいちゃする。


 さして迷わず、俺は二番を選んだ。


 エイベルがどうやって水を汲むのか、興味があったのだ。

 断じて、フィーや母さんを軽んじた訳ではないぞ。


「……別に、特別なことは何もしない。見ても仕方がない」


 勝手について来る俺を見て、エイベルが呟く。


 そっけなく無表情で云う割りには、何故か嬉しそうな気配が出ているように思えるのは、俺の気のせいだろうか? 

 好感度が上がったら、耳とか触らせてくれないかな?


 マイティーチャーは綺麗な小箱を取り出し、蓋を開けて水につけた。


「おおっ」


 まるで排水溝に流れていくシンクの水のように。

 聖湖の湖水が、渦を巻きながら、小箱に吸い込まれていく。


「これ、魚とか吸い込んじゃったりしないの?」

「……その辺は、水精のがんばりに期待」

「えぇー……」


 箱はちいさいのに、吸い込むペースが速い。

 一体、何リットル入るんだろうね?


 焚き火とかもそうだけど、こういう『特に何もない』のに見ていて面白いのは、どういう理屈なんだろうか?


「そう云えば、エイベル」

「……ん?」


「さっきの魔術師――クピクピって云ったっけ? あの子、弟子入り志願と云っていたけど?」

「……寝耳に水」


 つまり、さっき初めて聞いた訳ね。


「……私はあまり、他人にものを教えることに向いていない。アルのように、こちらの意図を察してくれる教え子じゃないかぎり、教師としての力は発揮できないと思う」


 知識も技術も経験も豊富だから、意思の疎通が出来ると最良の教師なんだけどね。

 まあ、他人にお勧め出来るかと云われると、ちょっと躊躇うのも事実。


「……私には、アルがいる。アル以外に弟子を取るつもりはないし、必要も無い」


 小生の妹様も、貴方様の指導を受けている気がするんですが、それは。


 すると、ガタン、と云う音がした。

 そこに、杖を落としたクピクピがいた。


「エイベル様……」


 クピクピは沈んだ表情でエルフ様を見て、


「くっ……! 貴方!」


 俺をビシッと指さした。


「貴方、名前は!?」

「アルト。アルト・クレーンプットだけど……」


「そう、アルトと云うのね……。貴方は、エイベル様に、教えをいただいているのかしら?」

「うん、一応」


「一応、ですって!? エイベル様の指導を受けたい魔術師は、星の数程いるというのに、何です、その態度は!?」


 そんなことを云われてもな。

 エイベルには、ちゃんと感謝しているつもりなんだが。


 クピクピは、怒りに燃える瞳で呟いた。


「……なさい」

「えっ?」


「この私と、勝負なさいッ! エイベル様の、弟子の座を賭けて!」


 ええ~~っ?


 何で倒置法なんだよ。


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