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妹のいる生活  作者: むい
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第百八十四話 コロボックルの魔術師


(おおおっ、あれは……っ!)


 現れた少女を見て、俺は歓喜の声をあげそうになった。


 ちいさなちいさな、その存在は、まぎれもなくコロボックル! 

 頭身がちょっとデフォルメ入っていて、可愛いぞ。


「あら? あらあらら……! 凄く可愛い小人さんがいるわ!」


 母さんが瞳をキラキラと輝かせた。


 同時に、俺はそのコロボックルの服装に気付いた。


(魔術師だ……!)


 エイベルのような、ツバの広いとんがり帽子に、マント姿。

 手には植物の茎のような杖を持っている。

 妙なコスプレでもない限り、コロボックルの魔術師なのだろう。


「アルちゃん、アルちゃん! あの子、なんて云っているの?」


 マイマザーはワクワクとした瞳で問い、それで俺は、彼女の言葉の内容に思い至る。


「どこへ、さらう」


 コロボックルの少女は、そう云ったのだ。


「あー……。母さん、何か、俺たちがマイムちゃんをさらおうとしてると思っているみたいだぞ?」

「ええーっ? お母さん、優しくだっこしているだけなのにぃ……」


 ぎゅーっと水色ちゃんを抱きしめる。

 マイムちゃんは、もうずっと、「ふええ、ふええ」云っている。


「くぅっ……! マイム様を離しなさいと、云っているのよ!」

「あらあら、何か怒っているみたい? だっこが羨ましいのかしら?」


 人さらいと誤解されていると云ったのに、どうしてそう、太平楽な結論へ辿り着けるのか。


「大丈夫よー? 貴方も、だっこしてあげるわよー?」

「な、何を云っているのか、わかりません! きちんと、まともな言語を話しなさい!」


 この娘も精霊語じゃないと通じないクチか。


「ちょっと良いかな」

「……ッ!? な、何ですか、ちゃんと喋れるじゃないですか!」


 ちいさな魔術師は俺の方を見――。


「え、エイベル様ッ!?」


 我が家の先生様に気付いたようだ。


「……ん」


 エイベルは相も変わらず俺の袖をつまんだままで、かすかに頷く。


 コロボックルの少女は、その場に跪いた。


「ご、ご挨拶が遅れて申し訳ありません……! よ、ようこそ聖域・キシュクードへおいで下さいました! 今年も、お会いすることが出来て光栄です……!」


 エルフの先生を見上げる瞳はキラキラと輝いていて、「ああ、ショルシーナ商会長と同じ気配だ」悟るのに、充分だった。


「エイベルの知り合い――だよね?」

「……ん。クピクピ」

「は? クピクピ?」


 飲み物を飲む効果音じゃないよな? 

 と、すると、この娘の名前か? 

 エイベルの説明は、いつも雑で、分かり難い。


「そ、そこの子供ッ……! エイベル様を呼び捨てなどと……ッ!」


 コロボックルの魔術師は、怒りに燃える瞳で植物の杖をこちらに向けた。


「ふえぇっ! ダメですぅ……! この方たちは、良い人ですぅ!」


 母さんに捕食されながらも、マイムちゃんが必死に叫ぶ。


「ま、マイム様!? しかし……」

「……警告」


 コロボックルの言葉を、エイベルが遮った。


「……ただちに杖を降ろすこと。降ろさない場合、敵対行動と看做し、排除する」

「そ、そんな……! この私が、エイベル様に敵対などと……!」


「……なら、無用な争いは避けて。マイムの様子を見れば、貴方の勘違いだと分かるはず」

「くっ……。申し訳、ありませんでした……」


 コロボックルは深々と頭を下げるが、どうにも納得していない様に見えた。

 何故だか、俺のことを睨んでいませんかね?


 そしてようやく、女の子は挨拶をしてくれる気になったようだ。

 水色ちゃんは、母さんに捕まったままだけれども。


「……先程は大変、失礼致しました。このキシュクード島でマイム様にお仕えする魔術師、コロボックルのクピクピと申します」


 うん。

 やはりクピクピが名前だったか。


 母さんが俺やエイベルに囁いてくる。


「コロボックルって云うのは、どういう存在なの?」

「妖精族の一種だよ。確か、樹と地の二重属性だったかな?」


 精霊と云うのは、魔力で構成された存在で、『肉』で出来ている人間や動物とは、在り方が異なる。


 妖精種は、その中間。


 豊富な魔力を含んだ肉体で構成される生き物で、分類的には、精霊の下位的存在とされている。

 傾向としては、フェアリーやコロボックルのように、小型の種族が多いことだろうか? 

 逆に、とっても大きいものも、いるようだけれども。


 また、精霊に『邪精』と云う歪んだ存在がいたように、妖精種にもあまり良くない存在がいる。

 有名なものは、ゴブリンやコボルトだろう。

 まあゴブリンやらコボルトは成り立ちは兎も角、世間一般的には妖精とは呼んで貰えず、『魔物』の一言で片付けられてしまうのだが。


「つまり妖精種である私は、ゲスで欲深い人間族なんかとは、比べものにならないくらい、清浄な存在ってことよ」


 ビシッと俺を指さすクピクピさん。

 まあ、人間がダメなところは否定出来ないんだけどね。我が家への偏見だけは、抱かないで欲しいかな?


「クピクピさん、他の皆は、どこに行ったです?」

「は……。それが……」


 コロボックルの魔術師は、苦虫を噛み潰したかのような表情で、絞り出すように答える。


「湖へ、戻ってしまいました」

「お腹が空いているんですね。仕方ないですね」


 そうか、お腹が減っていたなら、仕方がないね。

 ……凄い世界だなァ。


 ちらりとお師匠様を見ても、特に気にした様子もない。


「それで、マイム様、この人間たちは、何者ですか? 貴方様やエイベル様に対して、あまりに気安いようですが?」

「よくぞ訊いてくれました!」


 母さんに半分めり込みながら、水色ちゃんは笑顔で答える。


「この方たちは、私のお友達になってくれたのです!」

「友達!? そんな、マイム様に対して、友達などと……!」


「ふぇっ? 私に、お友達が出来たら、いけませんかぁ……?」

「ああっ、ち、違います! この者たちは、下賤な人間! 御身とは、釣り合いが取れません!」


「そんなこと、ありません! お兄さんもフィーちゃんも、とっても良い人です!」


 気弱で温厚っぽい水色ちゃんが、怒ってしまった。

 クピクピは大慌てで頭を下げるが、また俺を睨んだ。なんでやねん。


「お優しいマイム様を誑かして……!」


 何か、凄い独り言を聞いた気がするが。


「クピクピさん、皆さんを、湖まで案内してあげて欲しいです。きっと気に入ってくれますです」

「は! お任せ下さい! それではエイベル様……と、その他の皆様、どうぞ、こちらへ」


 良いね、この扱いの差。不満を隠そうともしないその態度。

 まあ、それでもニコニコ出来る母さんと、一切を流しているエイベルは流石と云えよう。


「すぴすぴ……」


 そして全く起きる気のない気配の妹様。


 俺たちは、島の中央部へと向かった。


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